問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ?   作:ベアッガイ

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水樹の苗を植えるみたいですよ?

ーーー“ノーネーム”・居住区画、水門前。

 

私達が廃墟の中を進んでいくと、徐々に外観が整っている空き家が並ぶ場所に出る。

しかし居住区を素通りし、十六夜の手に入れた水樹を貯水池に設置しにいく。

貯水池には先客がいた。

ジンとコミュニティの子供達が、清掃道具を手にして掃除をしていた。

 

「あ、皆さん!水路と貯水池の準備は整っています!」

「ご苦労様ですジン坊っちゃん。皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

ワラワラと掃除をしていた子供達が黒ウサギに群がる。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

「ねぇねぇ、新しい人達って誰!?」

「強いの!?カッコいいの!?」

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」

 

パチンと、黒ウサギが指を鳴らすと、一糸乱れぬ動きですぐさま一列になる子供達。

ざっと数は二十人前後。

中には動物の特徴ーーー耳や尻尾を持つ者もいた。

 

どうにも十六夜はともかく、残り二人は子供が苦手なのか、やや不安そうだ。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、エミヤスフィール・フォン・アインツベルンさんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えているのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加出来ない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

「駄目です。それでは組織が成り立ちません」

 

黒ウサギが今日一番真剣な表情で答える。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのです。これは箱庭の世界で生きて行く以上、避ける事の出来ない掟。子供の時から甘やかせばこの子達の将来のためになりません」

「そう……」

「それでも私には必要ないわ」

「エミヤさん」

「その子達がどうとかじゃなく、ただ単純に自分の世話は自分で出来るから必要ないだけよ。一通りの家事なら出来るし、その方が楽だもの」

「………分かりました。しかし、この子達はコミュニティの子供達の年長組です。見ての通り獣のギフトを持つ子もいるので、何かあればこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

耳鳴りがするほどの大声で返事をする子供達。

耳が痛い…。

 

「ハハ、元気がいいじゃねぇか」

「そ、そうね…」

「……………」

 

やはり笑っているのは十六夜だけで二人はなんとも言えない複雑な顔をしている。

 

「さて!自己紹介も終わりましたし、それでは水樹の苗を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜のギフトカードから出してくれますか?」

「あいよ」

 

長年、水が通っていない様子の水路だが、骨格はかなり立派だ。

けるども、所々ヒビ割れ、砂も溜まっていたりする。

掃除をしたといっても、流石に全ての砂利は取り除く事は難しかったのだろう。

 

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

「にゃー。にゃにゃー。にゃー?」

 

春日部耀が物珍しそうに貯水池を眺めながら言うと、彼女に抱かれた三毛猫が答えているようだ。

 

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ、三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

「さて、何処でしょう?知っていても十六夜さんには教えません」

「そもそも、龍なんて幻想種の最上位、人間が勝てるわけないでしょうが…」

「エミヤさんは、幻想種についてお詳しいのですか?」

「え?まぁ、それなりにはね。ただ、私が知ってるのは私の世界の幻想種についてだから、この箱庭世界とはまた少し違うのかもしれないけれど」

「いえ、エミヤさんの世界同様、この箱庭でも龍は最強種の一角であり、よほどの強力なギフトでもない限り、まず人間では生き残れないでしょう」

 

この世界でも龍はどうやらかなりの高位存在のようだ。

 

「水路も時々は整備していたのですが、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは無理でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけ開きます。此方は皆で川の水を汲んできた時に時々使っていたものなので問題ありません」

「あら、数kmも先の川から水を運ぶ方法があるの?」

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどね」

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになぁ」

「………。そう。大変なのね」

 

どこかがっかりした様子の飛鳥。

飛鳥。そんな貴女が期待するような画期的な方法なんかがあるハズないでしょうに。

そんな方法があれば水樹であんなに喜んだりしなかっただろうに。

 

「それでは苗の紐を解いて根を張ります。十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

「あいよ」

 

十六夜が水路に降りて水門を開く。

一方、黒ウサギが苗の紐を解くと、根を包んでいた布から大量の水が溢れてくる。

激流となったそれは、水路を埋め尽くし進んでいく。

そしてその先にはーー

 

「ちょ、少しは待てやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくねえぞオイ!!」

 

危うく、激流に呑まれかける十六夜。

慌てて石垣まで跳躍し、逃れる。惜しい。

 

「オイ待て、エミヤ。お前何、惜しかったか。みたいな顔してやがる」

「気のせいよ十六夜。むしろ私より黒ウサギの方が残念そうな顔をしているわ」

「私に飛び火した!?」

「覚悟しとけや黒ウサギ!」

「ひぃぃぃ!?お待ちを、お待ちくださぁぁぁぁぁ………」

 

ドボン。

それなりに大きな水柱を上げて黒ウサギが貯水池に沈んでいく。

 

一方、封を解かれた水樹の根は瞬く間に台座の柱を絡め取り、更に水を放出していく。

水門を勢いよく潜った激流は、一直線に屋敷への水路を満たしていく。

水樹からの水は、思った以上の量をもって、水路と貯水池を埋めていった。

 

「凄い!これなら生活以外にも水を使えるかも……!」

「なんだ。農作業でもするのか?」

「近いです。例えば水仙卵華などの水面に自生する花のギフトを繁殖させれば、ギフトゲームに参加せずともコミュニティの収入になります。これならゲームに参加出来ない皆にも出来るし……」

「ふぅん。で、水仙卵華って何だ、御チビ」

「御チビ……くっ」

 

御チビ、という謎の敬称に思わず笑いが零れてしまった。

かつては自身も身長のことで悩んだが、やはり大きく成長した身としては……いや、今はイリヤと同じぐらいに縮んでいたか…。

 

「す、水仙卵華は別名・アクアフランと呼ばれ、浄水効果のある亜麻色の花の事です。薬湯につかわれることもあり、観賞用にも取り引きされます。確か噴水広場にもあったハズですが…」

「噴水広場に…?」

「あぁ。あの卵っぽい蕾のこと?それなら一つくらい貰っておけば良かったかしら…」

「だ、駄目ですよ!水仙卵華は南区画や北区画でもゲームのチップとしても使われるものですから、採ってしまえば犯罪です!」

「おいおい、ガキのくせに細かい事を気にするなよ御チビ」

 

いや、犯罪になってしまうなら、細かい事ではないだろうと私も思うけれど。

それよりもジンは先ほどからの“御チビ”呼びもあって、カチンときているようだ。

 

「悪いが、俺は俺が認めないかぎりは“リーダー”なんて呼ばないぜ?さっき、エミヤが言ってたように、今の御チビはリーダーの器じゃないしな。この水樹だって気が向いたから貰ってきただけだ。コミュニティの為、なんてつもりはさらさらないからな」

 

ジンが言葉に詰まる。

蛇神を倒して水樹を手に入れてきた大戦力だと思っていた相手がこんな事を言い出したら、まぁそうなるだろう。

 

「黒ウサギにも言ったが、召喚された分の義理は返してやる。箱庭の世界は退屈せずにすみそうだしな。だがもしも、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらない事になっていたら……俺は躊躇いなくコミュニティを抜ける。いいな?」

「ついでに私も言っておくわ。私は貴方達のコミュニティの為に協力すること関しては特に異論はないわ。しばらく、ここの世話になる以上はね。けれど、さっきも言ったようにリーダーを辞めろとは言わないけど、今の貴方の元で戦うのは不安だわ。十六夜と同じように、大した実力の無い今の貴方をリーダーとは認めるつもりは無いわ」

 

真摯かつ、威圧的な十六夜と、言い含めるような私の言葉にジンは黙って見つめてくる。

改めて十六夜が私達の中で一番、扱いにくいと感じたのだろう。

そして十六夜の指す“つまらない事”というのはどういった状態なんだろう。

 

「僕らは“打倒魔王”を掲げたコミュニティです。何時までも黒ウサギに頼るつもりはありません。次のギフトゲームで……それを証明します」

「それを証明出来るようなゲームだと良いのだけれど」

「そうだなー。運に頼るゲームに勝ったとしても、それで実力を示したとか言われても困るもんなー」

 

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて皮肉る十六夜。

 

そんな十六夜を見て、決意を固める様子のジンだった。

 


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