問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ? 作:ベアッガイ
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」
「いえいえ、この水樹は十六夜さんとエミヤさんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」
「なんと!?クリアではなく直接的に倒してきたとな!?ではその童共は神格持ちか?」
「いえ、黒ウサギはそうは思えません。神格なら一目見れば分かりますから」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスが無ければありえん。種族の力で言うなら、蛇と人とではドングリの背比べだぞ」
「一応言うと、私は十六夜と居ただけで、あの蛇神を倒したのは実質十六夜一人の力よ」
神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高ランクに身体を変化させるギフトだ。
蛇に神格を与えれば、巨躯の蛇神に。
人に神格を与えれば、現人神や神童に。
鬼に神格を与えれば、地を揺るがす鬼神となる。
更に、神格を持つと他のギフトも強化されるという。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いなのでございますか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」
つまり白夜叉は、他者に神格を与えられるほど強力なギフトを持っているということか。
「へぇ、じゃぁお前はあの蛇より強いんだな?」
「ふふん、当然。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側にある四桁以下のコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の“主催者”なのだから」
あ、ヤバイ。
最強。
その言葉に問題児たちが目の色を変えている。
「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティということになるのかしら?」
「無論、そうなるの」
「そりゃ、景気のいい話だ。探す手間が省けた」
三人は闘争心を隠そうともしない。
「抜け目無い童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームを挑むとは」
「え、ちょ!?ちょっと御三人様!?」
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」
「ノリがいいわね。好きよ、そういうの」
「ふふ、そうかそうか。ーーーしかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」
「何だ?」
そう言って、着物の裾から一枚のカードを取り出す白夜叉。
カードには“サウザンドアイズ”の旗印ーーー向かい合う双女神の紋が入っている。
「おんしらが望むのは“挑戦”かーーーーもしくは、“決闘”か?」
刹那、私達の視界が変化する。
視界はすぐに意味を無くし、様々な情景が脳裏をめぐり、掠る。
黄金色の穂波が揺れるゾウゲンーーーではなく、草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔。
記憶にない場所が、足元から私達を飲み込む。
投げ出されたのは、白い雪原と凍る湖畔ーーーそして、水平に太陽が廻る大地だった。
「……なっ………!?」
余りの異常さに息を呑む十六夜達。
自らの心象風景を顕現させる、馴染み深いあの感覚と近いようで異なる、異様な感覚。
遠く薄明の空にある星は只一つ。緩やかに世界を水平に廻る、白い太陽のみ。
まるで星を一つ、世界を一つ創り出すかのような奇跡の顕現。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”ーーー太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」
唖然と立ち竦む三人に問いかける白夜叉。
「水平に廻る太陽と……そうか、白夜やと夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現しているってことだな?」
「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」
“白夜”。
確か特定の北欧の国で見られる、太陽が沈まない現象だったか。
「これだけの莫大な土地が、ただのゲーム盤……!?」
「如何にも。して、おんしらの返答は?“挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。ーーーだがしかし、“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」
「…………っ」
飛鳥や春日部耀は勿論、あの自信家の十六夜ですら即答出来ずに躊躇っている。
白夜叉がどれほど強力なギフトを持っているのかも定かではない。
とはいえ、今の十六夜達ではまず勝ち目が無いのは確かだろう。
しかし、そこはプライドの高い十六夜達。自分から売った喧嘩を取り下げるようなことは出来ないのだろう。
「参った。やられたよ、白夜叉。降参だ」
「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるということかの?」
「十六夜にしては、あっさり引き下がるじゃない。何を企んでいるの?」
「別に何も企んでねえよ。ただ、これだけのゲーム盤を用意出来るんだ。アンタには資格がある。ーーーいいぜ、今回は黙って試されてやるよ、魔王様」
試されてやる、とはまたすごい言い方だ。
でも、それがプライドの高い彼の最大限の譲歩なんだろう。
そう考えると、随分可愛らしいじゃないか。
白夜叉なんか、お腹を抱えて笑っている。
「く、くく………して、他の童達も同じかの?」
「………ええ。私も、試されてあげてもいいわ」
「右に同じ」
「……貴女達、もう少し素直というか、その尊大な態度を何とかしなさいよ………」
「そ、その通りです!白夜叉様も!お互いにもう少し相手を選んで下さい!“階層支配者”に喧嘩を売るような新人、新人に売られた喧嘩を買う“階層支配者”なんて、冗談にしても寒すぎです!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!」
「何?じゃぁ、元・魔王様ってことか?」
「さて、どうだったかの?」
ケラケラと笑う白夜叉に、肩を落とす私達。
やはり彼女も自由過ぎる……。
と、その時彼方にある高山から甲高い叫びが聞こえてきた。
獣とも、野鳥とも取れる、その叫びにいち早く反応するのは春日部耀だ。
「何、今の鳴き声。聞いたこと無い」
「ふむ……あやつか。おんしらを試すにはちょうど…って待ておんし!その弓で何をするつもりだ!?」
「安心しろ。すぐに終わらせる」
「終わらせるな!たわけが!」
「ちょ、ちょっと待って!せめてあれがどんな生き物か確かめてからにして」
「それでは遅い。先手必勝とは良く言うだろう?」
「だからやめろと言っておるだろうが!?あやつは敵ではない!」
そういうことはもっと早くに言って欲しい。
「お馬鹿様!エミヤさんだけはまともだと思っていたのに!」
「ほう、それはどういう意味だ、黒ウサギ?まるで俺達がまともじゃないみたいな言い方だな?」
「そうよ黒ウサギ。私はまともな常識人よ。十六夜達みたいな非常識な人達と一緒にしないでちょうだい」
「聞き捨てならないわよ、エミヤさん。私達の何処が非常識だと言うのかしら?」
「私もそう思う。むしろ、いきなり弓を向けるエミヤの方がおかしい」
「長年の習慣だから仕方ないでしょう?何かと狙われる生活をしてきたのだから、少しくらい過敏になってても仕方ないでしょう?」
「過敏と言うにも限度がある」
「全くだぜ。お前ホントに正義の味方だったのか?」
勿論、正義の味方だったわよ。
まぁ、全てを救う正義の味方にはなれなかったけれども。
こちらの騒ぎが聞こえたのか体長5mはあろうかという巨大な獣が翼を広げ空を滑空してやってきた。
鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣。
「グリフォン………嘘、本物!?」
「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”、“知恵”、“勇気”の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」
「幻想種と、こんな所で会う事になるなんて……」
グリフォン、幻想種の中でも良く知られている部類の生き物だ。
箱庭には幻想種がウヨウヨいるのだろうか?
「というか、おんしは私の試練を受けんのか?」
「別にどっちでも良いわ。勝ち負けだとか、力の優劣には興味は無いし、闘わないにこしたことは無いもの」
「あら、ダメよそんなの。私達三人がやるのだから、当然貴女もよ、エミヤさん」
「その通りだぜ。仲間はずれは寂しいだろ?」
「寂しくは無いのだけれど……まぁいいわ。私の力がどの程度、箱庭で通用するのかを試すいい機会だわ」
「よし、そういうわけだ。俺達四人が、試されてやるぜ」
まだそこに拘るか。
「さて、肝心の試練だがの。おんしら四人とこのグリフォンとで“力”、“知恵”、“勇気”のいずれかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞う事が出来たらクリア、としようかの」
白夜叉が双女神の紋の入ったカードを取り出す。
すると虚空から輝く羊皮紙があらわれる。その羊皮紙に、白夜叉は指を奔らせて、何かを記入する。
『ギフトゲーム名 “鷲獅子の手綱”
・プレイヤー一覧
逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
エミヤスフィール・フォン・アインツベルン
・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う
・クリア方法 “力”、“知恵”、“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“サウザンドアイズ”印』
「私がやる」
読み終わるや否や、ビシリ!と手を挙げる春日部耀。
どちらかと言うと、大人しい印象の彼女にしては熱意に溢れている。
「にゃー、にゃー」
「大丈夫、問題ない」
「一番良いのを頼む」
「やめなさい、他人に失敗フラグを立てるのは」
「ふむ。自信があるようだが、コレは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我ではすまんが」
「大丈夫だ、問題ない」
「貴女までフラグを立てるのはやめなさい!」
春日部耀の瞳はキラキラと輝き、まるで長年探していた宝物でも見つけたかのようだ。
そんな彼女の様子を見て、やや呆れたように苦笑いをする十六夜と飛鳥。
「OK。先手は譲ってやる。失敗するなよ」
「気を付けてね、春日部さん」
「何かあってもそれは自己責任よ」
「うん。頑張る」
こうして、彼女とグリフォンとのゲームが始まった。