問題児たちと正義の味方が異世界から来るそうですよ?   作:ベアッガイ

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和装ロリはウサギの知り合いみたいですよ?

“サウザンドアイズ”に向かう通りは、石造で整備されており、脇を埋める街路樹は桃色の花を散らして、新芽と青葉が生え始めている。

 

「桜の木……ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているハズがないもの」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っててもおかしくない」

「……?今は秋だったと思うけど」

 

ん?と何やらはなしが噛み合わない三人。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

「へぇ、パラレルワールドってヤツか?」

「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論といえものなのですけれど……今からコレの説明を始めますと一日二日では終わらない話ですので、またの機会ということにしましょう」

 

適当に話を切り上げた黒ウサギが振り返る。

その先には、蒼い生地に互いに向かい合う二人の女神像がしるされた旗を掲げる商店があった。

あれが“サウザンドアイズ”の旗印だろうか。

とはいえ、日暮れだからだろうか店の看板を下げる女性店員がいた。

 

「まっ」

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

流石は超大型コミュニティというか、客のあしらい方 も一味違う。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

「文句があるなら他所へどうぞ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

「出禁!?これだけの事で出禁とは御客様舐め過ぎでございますよ!?」

「なるほど。箱庭の貴族であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

「……う」

 

言葉に詰まる黒ウサギ。

やはり“ノーネーム”というのはあまり評判は良くないのだろう。

 

「俺達はノーネームというコミュニティなんだが」

「そして何で貴方は躊躇いなく答えるのよ」

「ほほう。ノーネームですか。ではどこの“ノーネーム”様でしょうか。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

なるほど、“名”と“旗印”が無いというのはこういう所でも不利になるのか。

 

「あの………その……私達に、旗はありませ」

「いぃぃぃやほぉぉぉぉぉ!!久しぶりだな黒ウサギィィィ!」

「きゃあーーーーー…………!」

 

気がついたら黒ウサギが着物を着た白髪の少女に抱きつかれ、弾丸のようにすっ飛んでいった。

そのままクルクルと回転しながら街道の向こうの水路へと消えていった。

 

あまりの光景に私達は言葉も出ず、女性店員は痛そうに頭を抱えている。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「なんなら有料でも構わん」

「やりません」

「バカな会話をしてないでこの状況を説明してちょうだい」

 

黒ウサギをすっ飛ばした和服の少女は黒ウサギの胸に顔を埋めて頬ずりしていた。親父かよ。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに!フヒ、フホホフホホ!やっぱり黒ウサギは触り心地が良いのう!ほれ、ここが良いのか!ここが良いのか!?」

「し、白夜叉様!ちょっと離れて下さい!」

 

そう言って、白夜叉というらしい少女をこちらにぶん投げる黒ウサギ。なんでよ!

 

「はっ!」

「ぬおっ!」

「てい」

「ゴバァ!お、おぬしら、飛んできた初対面の美少女を受け止めずに流し、あまつさえ足で受け止めるとは何様だ!」

 

飛んできた少女をつい、受け止めずに逸らしてしまい、少女は十六夜が足で受け止めた。

受け止めたとは言えないか?

 

「十六夜様だぜ。こっちは正義の味方様だ。以後よらしく和装ロリ」

 

ここでようやく、呆気にとられていた飛鳥が正気に戻る。

 

「貴女はこの店の人?」

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様の白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割りに発育の良い胸をワンタッチ一揉みで引き受けぞ」

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

水路から濡れた髪やスカートなどを絞りながら黒ウサギが戻ってきた。

 

「うぅ……まさかまた私まで濡れるなんて」

「因果応報……かな」

「にゃー」

 

春日部耀の言葉に同意するように三毛猫が答える。

もしかして彼女は猫の言葉が分かるのだろうか。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来るという事は………ついに黒ウサギが私のペットに」

「なりません!どういう起承転結があってそういう事になるんですか!」

「ちっ、全くつれないのぉ黒ウサギは。まぁよい。話があるなら店内で聞こう」

「ですがオーナー。彼らは旗も持たない“ノーネーム”。規定では」

「“ノーネーム”だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても責任は私が取る。いいから入れてやれ」

「性悪さならウチの正義の味方の方が上だぜ、なぁ?」

「さぁ?心当たりが無いから分からないわね」

 

店員はやや不満そうにしていたが、今度は私達を阻もうとはしなかった。

 

暖簾をくぐり、店内に入ると、外観からは考えられないような、不自然な広さの中庭に出た。

正面玄関の方には、ショーウィンドウに展示された様々な珍品名品が並んでいる。

 

「生憎店は閉めてしまったのでな。悪いが私の私室で勘弁してくれ」

「それは構わないけれど、この店は刀剣類は売っているの?」

「うん?なんじゃ、おんし。そんなナリで刀に興味があるのか?まあ、一応、商品としては無くもないぞ」

「そう。あぁ、別に大した意味は無いわ。何と無くそう思っただけだから気にしないで」

 

そのまま和風の中庭を進み、縁側で止まる。

障子を開けて招かれたのは、個室というにはやや大きい、香のような物が焚かれた和室だった。

 

「さて、もう一度自己紹介をしておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えておる“サウザンドアイズ”の幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があっての。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の広い美少女だと思ってくれ」

「はいはい、いつもお世話になっております本当に」

 

投げやりな態度の黒ウサギ。

黒ウサギにしては、何と無く珍しいと思ったが、手を貸してもらうのと同じくらい、さっきみたいな事をされてきたんだろうな。

ホントに黒ウサギが昔の自分とかぶる。いやなシンパシーだ。

 

「その外門って何?」

「箱庭の階層を示すがいへきにある門の事ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持った方々が住んでいるのです」

 

どうやらこの箱庭は上層から下層の七つの階層に分かれており、それを区切る門には数字が与えられているらしい。

外壁から数えて七桁の外門、六桁の外門、と内側に行くほど数字が若くなり、同時に強大な力を持つ。

箱庭で四桁ともなれば、そうとうに強力な者達の住処なのだろう。

そして黒ウサギの見せてくれた箱庭の全体を描いた絵。これはどう見ても

 

「……超巨大タマネギ?」

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

「そうだな。どちらかと言えばバームクーヘンだ」

「気持ちは分かるけど、そんな身も蓋もない言い方はやめなさい貴方達」

 

問題児三人の身も蓋もない感想にガックリと肩を落とす黒ウサギ。哀れだ。

 

それとは対照的に、呵々と哄笑を上げながら頷いている。

 

「ふふ、言い得て妙じゃの。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たる。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側に辺り、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所となる。あそこはコミュニティに属していないものの、強力なギフトを持った者達が住んでおるぞーーーその水樹の持ち主のようにの」

 

白夜叉が笑って黒ウサギの抱える水樹の苗を見つめる。

白夜叉のいう強力なギフトを持った者達とはあの十六夜に喧嘩を売られた哀れな蛇神のことだろう。

 

 


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