風雲の如く   作:楠乃

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 鬱、というか意味不明(厨二病的な意味で)。
 グロ注意、かつ、胸糞な回。
 (創作者としてNGとは思うけども)むしろ読み飛ばし推奨。







⑨話? そんなモノは無い。

 

 

 

 やぁや、皆さん。どーも。

 突然だが、語り部交代の時間だ。

 これまでは詩菜が語り部、もしくは物語に関わっていた人物が語り部だったが、ここではオレが解説させていただく。

 ……理由?というかお前は誰だって?

 

 ……あ~……一番目はまぁ、後で分かるとだけ言っておこう。

 二番目は……まぁ、第三者視点でもよかったんだが、都合によりオレになった。とだけ言っておく。

 

 

 

 さてさて、今回の話を始めるとしよう。

 たまにオレの考えが混ざったり、偏見が雑ざったりしておかしな部分が出てくるかもしれない。

 ま、そういった部分は温かい目で見ててくれや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっかけなんてものは、特に無かった。

 神奈子が起きて、神社の巫女さんが起きて、諏訪子と詩菜が大体同じ位の時間に起きる。

 いつも通りであれば朝食をいただき、朝から神奈子は参拝客の相手を、諏訪子は表には出ないが神奈子のサポート、巫女さんは当然の如く神奈子・諏訪子の手伝い、詩菜は町に出て人助けか、または神社でごろごろしていた。

 何気無い日常こそが一番の幸せとも言うが……まぁ、これが彼女等の呑気な日常っていう訳だ。

 

 

 

 さて、本編を続ける前に一つ話をしよう。

 

 『詩菜』は壊れている。

 いや、わざわざ『自分から』壊れている。

 

 ……何をいきなり厨二台詞を、とかって思っているかも知れんが……。

 オレだって我慢してるんだぜ……? 色々と、な。

 

 彼女は……今は妖怪だが、人間なら誰しもが背徳的な想い、声に出して言えば即座にドン引きされるような気持ちというものがあるとオレは思う。

 ……まぁ、それこそオレが思っているだけかもしれないが。

 その隠した想いを封じている感情が理性であると、オレは考えている。

 

 で、詩菜はその理性がたまに物凄く弱まる事がある。いや、弱める事がある。

 それが彼女にとっての『狂う』だ。

 『全てを破壊しよう!』とかそんな大層な事は考えてはいない。『全て消え去ればいいんだ』なんて事は全くない。あり得ない。

 幾ら狂うと言っても、理性が完璧に消えたわけではないのだ。それを狂うとは言わないかも知れないが、彼女にとっては狂うなのだろう。

 『こうすればアイツがこんな理由でこう怒る』なんてちゃんと考えているのだ。

 

 ただ、その結論に『だから、何?』がつくだけ。

 

 ヒトを殺した。捕まった。死刑確定。

 で? だから? それで?

 私が死ぬだけじゃん。それ? そんなの前と変わらないじゃん。めんどくさい。

 とか、そんな結論になっちゃう訳だ。

 

 

 

 さて、そんなきっかけも特に無し。

 今日が満月とか新月とか『FULL』とかそういった事は全然関係無い、普通に何の変哲もない日。

 

 昼過ぎ。

 詩菜が神社の裏の縁側に座り、左手をジッと見詰めていた。

 その様子は傍から見て、異常だと思える程に、聞き攻める表情だった。

 そこをたまたま神奈子が通り掛かった。

 

「……詩菜? どうしたんだい?」

「……」

「? ……お~い?」

 

 聴こえて無かったのかと思い、もう少し近付きもう少し声量を強める。

 詩菜にはその声が当然聴こえていた。聴こえていなければおかしい距離なのだ。声量も。

 だが、反応する事に何の意義を感じなかったので、単に反応していないだけである。

 左手を見詰めたまま、返事も反応も返さない詩菜を疑問に思った神奈子は、近付いて肩を叩く。

 当然それにも無視……と思いきや、いきなり立ち上がり縁側から神社の裏山を目指して歩きだした。

 裏山に登ろうとしている詩菜に声がかかる。

 

「詩菜! 何処に行くんだい!?」

 

 朝の朝食の時は、普通だった。多少気分が優れないのか、会話はあまりしなかったが、それでも受け答えはちゃんとしていた。

 昼までの間にこちらを露骨に無視するほど気分が悪い訳でもないだろうし、実際詩菜の行動は気分が悪そうには見えない。

 

 一体何があった? と考えている神奈子は詩菜に声を掛け、彼女は振り返る。

 振り返ってそのまましばらく……といっても数秒間考え、気持ちの良い、清々しい笑顔でこう答えた。

 

「ちょっと壊れに行ってくるよ」

 

 バシュッ!!

 

 音の出どころは、詩菜の左手首。

 自分で自分の左手を指先で素早く撫でる。簡単にその状況を説明するならまさしくリストカット。

 いくら人間型とはいえ、強度は人間以上の強靭な皮膚。妖怪の肉体だ。

 しかして、その刃物は衝撃と合わさった鎌鼬の爪。その鋭さの前には強度なんて無いに等しい。

 

 高く上がった綺麗な真っ赤な噴水。辺りに巻き散る真っ赤な液体。当然の如く真下に居る詩菜や近くに居た神奈子にもかかる。

 詩菜の笑顔に血が降りかかり、神奈子は詩菜がした事に驚き、服がどんどん朱に染まっていくのにも反応が出来ない。

 

「行って来まーす♪ アハハッ!」

 

 神奈子はそれを呆然と見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森を山を駆け抜ける妖怪『鎌鼬』

 両手を左右に思いっきり伸ばし、身体に触れる木の幹や、指の先にあった草花が全て真っ二つに切り裂かれていく。

 

 詩菜が走っていると、目の前に人が十人手を繋いでも囲みきれない程の大木が現れる。

 それを見て、両手を身体の前で合わせ、

 

「ドリルぅー!! キャハ!」

 

 木の幹を詩菜は、易々と貫通した。

 自分の爪と両手で出来た穴を通る。速度はそのままで、身体を入れて無理矢理通り抜ける。

 ……痛い……実に痛い。

 

 神社から一直線に出来た道、不自然に斬られた木や草花。

 眼を真っ赤に染め、紺色の着物も所々が紅くなり、左手から血液が垂れながら、高速のスピードで山林を駆け抜ける。

 

 既に諏訪子・神奈子。彼女等のテリトリーからは随分と離れてしまっている。

 そんな時に、不幸にも出逢ってしまった一人の大柄の妖怪退治屋。

 

「ッッ! 貴様何者だ!?」

「ん? んん? ふふっ」

 

 人間を見掛け、急に速度を落としてゆっくりと歩き始め、その退治屋へと向かう。

 その退治屋は、それなりに腕の立つ出来る退治屋だったんじゃないかね?

 接近している詩菜を見極め、一瞬で相手との力量差を実感したのか、額に汗をかき始めている。

 背負っていた槍を構えて詩菜の方向に向けてはいるのだが、その切先は安定せずプルプルと震えている。

 そして退治屋なんていないとばかりに無頓着に進む詩菜。

 

「止まれ! 止まらねばk」

「五月蝿いよ?」

 

 それを言うと同時に、高速で接近して退治屋を足払いで転がし、いともあっさりと槍を奪った。

 地面に伏した退治屋は即座に立ち上がろうとするが、既に自分の腹の上には妖怪が乗っている。

 それが重すぎて動けない。見掛けは完全に小柄の少女の筈なのに。

 

 全身に血がついている妖怪はその状態で退治屋の顔を覗き、妖艶に笑った。

 淫獣に襲われてオレは死ぬのか……とかって考えたかどうかは解らんし知らないが、退治屋が抵抗するのを止めて、両手と両足を動かせる範囲で大の字に広げた。諦感って奴かね?

 その手を、詩菜は躊躇いもなく槍で刺した。

 

「ぐあっァツツッ!!」

 

 地面に縫い付けられた左手から槍を抜き取ろうと右手を伸ばす。

 が、先に槍を途中で切り裂き、もう一本即席の槍で右前腕の中心を、詩菜が地面に縫い付けるのが圧倒的に速かった。

 

「ッッッッ!!!」

「フフフアハハハハッッ!! ……ねぇ、痛い?」

「ッああ……!? 酷い事をしてくれるな妖怪ッ……!」

「酷い? 酷いってこういう事?」

「■■■■■!!!」

 

 痛みに耐性が出来ていたのか、詩菜からの質問に怒りを返す。

 が、それも詩菜の更の追撃で消え失せてしまう。

 更に切られて短くなった槍を両手に持ち、退治屋の腹の上を百八十度回転、両足首をまた地面に縫い付ける。

 足首に木が突き刺さって貫通し、もはや千切れそうにも見える程だ。

 そしてその痛みに、最早ちゃんとした言語すら出てこない退治屋。おお怖い。

 

「ねぇ答えてよ? これが酷い事?」

「■■■……」

 

 返事をする気力も無いのか、口から出ているのは呻き声か、それとも抑えられた断末魔か。

 少なくとも、退治屋に詩菜の声は届いていない。それほど意識も朦朧としてきているようだ。

 

「そんなに痛いの? 返事も出来ない程痛いの……ごめんね~……『抜いてあげる』」

「■■ッがあァガ!!?」

 

 何かが肉体に刺さった時、抜いた時の方が出血が激しくなるという事を……まぁ、皆さん御存知の事だと思う。

 そして出血が激しいという事は、それなりに激痛が走るという事でもある。

 ……その痛みで言語が戻ってくるのも凄いと思うけどな。

 

 詩菜は退治屋の両手から槍……じゃあもうないな。その『杭』を抜いた。

 両手が自由になるが、既に痛みで動かす余裕もある訳もない。

 動かそうとすれば唯でさえ痛い状態なのに、更に激痛が襲う事は目に見えているし、反抗しようとすれば詩菜が一体何をするかさえも予想がつかない。

 

「追い剥ぎは妖怪からしかした事ないからな~、っと♪」

「……ッッ!」

 

 服を指先でどんどん切り裂いていく詩菜。

 持ち物を切り裂かないように、慎重に。先程の行動とは一転して、優しく。

 そして袂に入れてあった財布らしき物を詩菜は抜き取り、それを返してもらおうと手を伸ばそうとする退治屋。

 しかし痛みに勝てず、腕を伸ばすも肝心の指が動かせない状況。

 

「……まだ生きようとしてるの?足も手も使えないのに?」

「……うるッ……さいわぁ!」

「スゲー、人間スゲー。まぁそうだよね、ヒトって皆欲望に忠実だもんね。例えばさ……」

 

 

 

 いきなりだが解説をいれよう。

 現代じゃあ幼女が好きってのは……色々と言われそうな気もするが、一部しかいない。

 だが、昔は違うってのもまぁ、誰しもが知ってる事だと思う。

 ……あ~、またオレだけか?

 まぁ、そんな事はどうでもいいんだ。どうでもいいのである。要はそういう話だと思って聴いてくれれば良いだけなんだ。

 簡単に言えば『昔は全員ロリコンだった』って事だ。無茶苦茶簡単に言えば。だが。

 今とは逆の考え方が浸透していたって訳さ。逆に熟女好きが迫害されていたのかね?知らないが。

 

 ……まぁ、閑話休題。

 話が逸れすぎだな。

 

 詰まる所、この退治屋は妖怪を退治する単なる人って事だ。

 妖怪はいきなり帯を緩め、自身の肉体を顕にする。

 馬乗りで身体は退治屋の顔に見せながら、右手を退治屋の下半身の服を切り裂き、それを掴……めなかった。

 が、それに驚愕を表す事なく更に手を伸ばす。

 

「ユリユリ~? 男言葉を話す女の子~? しかも興奮中ー♪ 男の娘~?」

「うう五月蝿いわっ! 痛ぅ……!」

「それともアレなのかな? 逆に命の危機だからこそ、こんな反応しちゃうのかな? 自分の種を残そうとしてさー」

 

 べちゃべちゃと彼女を触る妖怪、見事に壊れて見える。

 

 ああ、ちなみにそんな細かい所まで描写は無理だからな?

 ……訊いてねぇよって?

 いやー……ホント何してんだろ、オレ……。

 

 

 

「ほーら、出てくる出てくる!! 凄い凄い! こんなに出るんだ♪」

「やっ、止めっ痛ッッ!!」

「興奮するからだよー? 私が馬乗りになった時も変な事考えてたクセにー! アハハッ」

 

 液で濡れた右手で自分の腹を破る。その勢いで退治屋の左腕、二の腕の真ん中を両断する。

 

 その腕の傷口から血は全くと言っていいほどに出ず、退治屋を苦しめる痛みもない。

 その答えは単純明快『鎌鼬の鎌で切り裂いた』から。

 斬られたにも関わらず、他人に指摘されるまで気付かず、その傷口はとても深いのに痛みも出血もない。

 これが、妖怪『鎌鼬』。

 その事を退治屋は疑問に思うが、それを思い出す余裕はない。

 破った妖怪の腹からはどんどん血が出ている。

 こちらは鎌で斬ったのではなく、握力で引きちぎったのだから。

 どちらかと言うと、神奈子の目の前で行った先程のリストカットも指で抉った。と表記した方が正しかったな。

 

「今度は痛くないでしょ? 痛い訳が無いもんね! アアハッ♪」

「……もう……良い……」

「ハハハ♪ ハハ! ハ? 何か言った?」

「……喰らうのなら……ツッ! ……殺すのなら、……さっさと殺ってくれ……」

「私はヒトなんて食べないよ? それに殺して欲しいの?」

 

 首を横に、90°よりも異常に傾け、顔を退治屋から三センチも無い位に近付ける。

 眼はいつも以上に緋色に耀いている。妖怪の眼だ。

 

「……死にたくは……ない……が、このままッッ!! ……いたぶられるのは、……嫌、だ」

「……」

「それに、職業……柄……どうせ妖怪に殺されるの、だと……わかってい、た……」

「……つまんないの。もっと愉しく生きなよ? 欲望は貴方達の専売特許に近いんだよ? ハハ」

「……」

 

 妖怪退治なんて職業は死ぬ覚悟が出来てないとやれないって奴かね?

 ……言っておくが、専売特許なんてこの時代に無い。という事をここに示しておく。意味は無いと思うが。

 

「ん~、殺す事を相手が望んでいるのなら殺したくないなぁ」

「……ッ、殺せ」

「イヤだ♪」

「なら、何処かに行ってくれ……どうせこの傷だ。……もうすぐッ痛! ……死ぬわ……」

 

 実際に、『彼女』の妖怪退治屋の傷は酷い。

 仮に傷が無事に治り、生き残る事が出来たとしても、既に左手が無く、利き手と両足に杭が貫通して穴があいてしまっている人物。

 その所為で働けない女などを、誰が養うと言うのだ。

 

「死にたい癖にまだまだ濡れてくよ? フフフ」

「さわ……るなっ、ァガァッ!?」

「ほーら動くからぁ♪ で~もなぁ~? 殺したく無くなっちゃったなぁ~? こんなオモシロソウなヒト?」

 

 言いながら服を切り裂く。巻いていたであろうさらしらしき物も空に飛んでいる。

 

「ちょっ!ヤメッ「イーヤ♪」「アハハッ!」「ハッハハハッ」「ハハッ♪」「ヒャハハハッ!」「アハハハ!!」「フフフハハハ」「ハハハハッッ!」「綺麗で見事な身体だねー」「アハッ♪」

 

 狂っているかどうかは個人の感想で。

 ついでにオレから見れば狂うには入っていない。

 訊いてないって何回言わせんだって? そりゃ失礼。

 

 

 

 閑話休題。

 

 ここでちょいと現場を説明するとしよう。

 理由は特に無い。強いて言うならば状況確認って奴だ。悪く言うなら字数稼ぎというものもある……メタい?んなもん知るか。

 

 町や村から遠く離れた山の中。

 辺りの樹林や草花は全て不揃いな長さに切り裂かれている。

 その光景の中心部に着崩れした着物の女の子と、服が切り裂かれほぼ全裸の女がいる。

 女の上に幼女が馬乗りに乗っており、見事におかしな雰囲気を醸し出している。

 何も知らない人物が見たら……まぁ、ソイツが男か女で変わるとは思うが、少なくとも異常な光景だと思うだろう。

 女の方は今すぐ死んでもおかしくない程の大量出血と、杭を刺された両手両足の痛みで意識が朦朧としている。

 現代人とかもやしっこだと、もう死んでいてもおかしくはない。いや、むしろ死なない方が凄いと言えるな。うん。

 

「アハハッ♪」

「もう……頼む……ころ、てくれ……」

「だめだよー?これからオモチロクするのに?ホラ♪」

 

 そういって妖怪は自分の左手の指を斬り落とす。

 小指、薬指、中指、人指し指、親指の順に。

 

「契約だよ。『喰え』」

「モガッもぅえ■■■■■!!?」

「ちゃんと噛んでいただくんだよー?」

 

 骨は意外な程柔らかく、寧ろ爪の方が不愉快な感触を与える。肉は余分な贅肉等は無く全て筋肉質で出来ており、ブチブチと繊維が切れていくような音が口の中、というよりも頭に響いてそれがまた美味しい。

 ─────────ゴクン。

 

 

 

 退治屋は目の前に居る恐怖から、自分の身体の痛みから、意識が朦朧とする中でそれらから逃れようとして、美味しい妖怪の肉体を食べてしまった。

 それがどんな意味を持つかなどと考えれる筈もなく、喰ってしまった。

 

 飲んだのを確認して、退治屋の口から吐き出さないように封じていた右手を外す。

 

「ハイ、良く出来ましたー♪ じゃあ次はコレだね!」

「!!?」

 

 そして最後に、退治屋の顔の上で左手を斬り飛ばす。

 斬られ過ぎて血に染まり、どこにも肌が見えない物体が、鮮血を辺りに飛び散らせながら草むらに吹き飛ぶ。

 当然、左手首からは血が止まっていない。

 

「妖怪ジュース♪♪」

「ッ……ッ! ……キ、サマっ! 私を……妖怪に。す……気か……!!」

「大正解だよ、名も知らない退治屋さん! キャハハハッ♪ ホラホラ! どんどん呑まないと溺れ死んじゃうぞッ!!」

「ゴホッゲホッ!」

 

 妖怪を喰らえば妖怪になる。

 人魚の肉を食べれば不老になるのと同じように。八百比丘尼の如く。

 

「実ー験ー終ー了ー♪」

「キ……サマァ!!」

「およ? もう動ける程に回復したの?」

 

 首と腹筋で身体を浮かす。そんな姿勢で詩菜を持ち上げようとする退治屋。

 先程までは動く事すら出来なかった身体、詩菜を空に浮かす事も出来なかったのにな。

 両足首に刺さった杭は筋肉によりどんどん外側押し出され、左腕は元の左腕とくっつければ再生するだろう。

 

 詩菜は妖怪としては20年位のヒヨッコではあるが、

 

 産まれて3分も経っていない半妖怪に負ける程、ヒヨッコではない。

 

「またあそぼうねー♪」

「キサマは……! 私がッ……絶対にっ! 退治、してやる……ッッ!!」

「女言葉使えばそれなりに可愛いのになー。あ! ねぇねぇ? 『貴女の名前は何?』♪」

「ァ……!? 『彩目』……!!」

「ん、アヤメね♪ 契約も順調だね! って事で!! お土産ぷらすっ♪」

 

 馬乗り状態から立ち上がり、退治屋の切り取られ吹っ飛んだ左手を回収した。優しいもんだ。

 退治屋の左手を傷口に押し当て、微妙にくっついたのを見届けてから自分の左手を肩の先で切り取り、彩目の口に突っ込む。これで完全に、詩菜の左肩から先が無くなった。

 そして身長差がかなりある筈の彩目の身体を頭を掴んで持ち上げる。

 

「ちゃんと私の左腕食べてねー? いっくよー♪ ……ドーン!!」

「■■■……!! ……」

 

 身体を上にぶん投げ、落ちてきた所を『衝撃強化』した残りの右手の掌で思いっきり吹っ飛ばす。

 ……内臓やら骨がぐちゃぐちゃになったんじゃないか?あれは。

 ……でも復活出来るんだよな……凄いもんだ……。

 

 まぁ、そんな事よりも重要な事は掌で攻撃したっていう事で、吹っ飛ばしたって事だ。

 律儀に左腕を口に含んだまま、物凄い速度で空を飛ぶ妖怪退治屋。

 ……いや、既に妖怪退治屋なのに妖怪。って言った方が正しいか。

 

 人間を助けたりするのに妖怪、詩菜とは正反対な妖怪はあの勢いだと相当離れた場所に着地する事になるだろうな。

 また遭えるのはいつの日やら。オレにはどうでもいい事だが。

 

 

 

「あー、愉しかった! ねぇ? 諏訪子♪」

「……キミは本当にあの詩菜なの?」

 

 この近辺でたまたま斬られていない、そんなご都合主義で残った一本の木の蔭から、諏訪子が現れる。

 呆然としていた神奈子に話を聞き、急いで追い掛けて到着したのが彩目の腕を拾った時。

 人間なのか妖怪なのか解らないが、腕をくっつける事自体は……まぁ、善行に入るだろ?

 しかし、自分の腕を相手に喰わせる。というのは諏訪子から見れば、狂っている様にしか見えない。

 

 それは、妖怪にしてみれば自分の仲間を増やすという事と同義。

 妖怪を産む、という事。

 人間を守る存在としては……神様という存在からは見逃せない。

 

「キミは……やっぱり妖怪なの……?」

「知らない♪ どうでもいいじゃんそんなの? 私は私よ。それだけ♪」

「……」

「あの娘以外には何もしてないよ? それと、そうそう。これは言わないとね……諏訪子」

「……なに?」

 

 会話で判断したのか、それとも決断したのか、諏訪子はこちらに向けて臨戦体勢をとった。

 それは詩菜を倒すという意志の表れでもある。

 それを見て詩菜は退治屋に魅せた妖艶な笑顔ではなく、悲しそうに笑い、

 

「ゴメン」

 

 ─────────気絶した。

 

 

 

「……へ?」

 

 諏訪子がそーっと近付くも、起きる気配は無い。

 

「……ゴメンって、言われてもなぁ……」

 

 左手は二の腕から先は綺麗に断絶しており、腹は破かれ、着ている和服は乱れ、特に上半身は真っ赤に染まっている。

 人間で無い妖怪だとしても、瀕死だと一目で解る状態だ。

 しかし、諏訪子は迷っていた。ここで詩菜を助けるか否かを。

 

「……詩菜」

「……」

 

 先程見たのがこの子の本性ならば、ここで人間に害する者として放置すれば危機は去る。

 それともちょっとおかしくなっただけで、だからさっきは意識が元の状態に戻ったから、私に謝ったのかも知れない。

 

 守矢の神社に来る前の、人間も妖怪も助けていた時が一番詩菜にとって楽だった。楽だった時期なのか?

 私たち神様が居たから、人間を襲えずに妖怪として暴走したのか?

 けれど、この子は私を襲おうとはしなかった。

 けどあの人間を襲っていたのは妖怪だから?

 じゃあなぜ妖怪を討つ神に敵対しようとしなかった?

 知り合いだから? 勝てないから? 勝てないなら何故あの場面で謝る必要があった?

 謝らずに逃げれば、もしかすると生きて逃げ延びる事が出来たかも知れないのに。

 

 ……分からない。コイツはいつも分からない。

 けど、ここでこの子を見捨てたら、倒したら、神奈子は……悲しむだろう。

 敵だから、妖怪だから、とは言う事は出来るけど……それでも多少は一緒に過ごした間柄だから。

 

 

 

「っ……『ゴメン』の意味は後でじっくり訊かせてもらうよっ!!」

 

 詩菜を担いで、森に出来た不揃いに切り揃えられた樹木の道を、諏訪子は戻っていった。友人を助けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詩菜はなんとか一命をとりとめた。まぁ、主人公が死んだら終わりだよな。

 血だらけになりながらも詩菜を担いで来た諏訪子を見て、神奈子がどれだけ驚いたかは……まぁ、今語るべき事じゃあ無いな。語らなくても想像はつくだろ?

 ……オレだけじゃないだろ?これは?

 

 腹の傷は簡単に塞がった。が、左腕はある意味どうしようも無い。

 別の腕をくっつけるか、元の腕を返して繋げるか、いっその事傷口を外気にいつも晒して、地道に再生するのを待つか。

 

「……こればかりは流石に本人に決めて貰わないとね……」

「……三日も寝てるんだけどね」

「……いつになったら起きるのかね……」

 

 この様に神奈子と諏訪子が暗い状態なので、神社の営業は滞りかけている。

 巫女さんとかが詩菜の御世話をちゃんとしており『神奈子様も諏訪子様も、営業をちゃんとやってください』等と言っているのだが、やはり心配なのだろう。

 

 

 

 まぁ、そんなどうでもいい事は置いておいて、

 ───主人公のお目覚めだ。

 

「……働きなよ神様……」

「「詩菜!?」」

 

 二人に対して働けと、随分とまぁ、のんびりとした言葉を放つ。

 その言葉に反応して二人が同時に動いた。正反対に。

 

 一人は詩菜に駆け寄り、調子はどうだ、大丈夫なのかと詰問する。

 一人は妖怪から離れ、いつでも行動出来るように、臨戦態勢へと。

 

「いきなり叫ばないでよ……」

「アンタ! 大丈夫なのかい!?」

「神奈子! 離れて!!」

「っなんで!?」

「まだ暴走してるかどうかわかんないんだよ!?」

「あ~……大丈夫だよ諏訪子」

「……大丈夫だって私が確信出来る証拠があるの?」

「諏訪子ッ!!」

「私が証拠を挙げても『私が言った』って事になって、結局安心出来ないでしょ? ……まぁ、なんでああしたかは説明は出来ると思うけど……それで良い?」

「……内容によるね」

「だろうね。んじゃあとりあえず……起こしてくれない?」

 

 

 

 左腕を失い、身体バランスが保てない。そもそも妖力も殆ど無くて全身に力が入らない。

 それでも右手を伸ばし、神奈子の助けを得る事でなんとか身体を起こす。

 

 ───何故自分の左手首を切ったのか。

 ──────なんとなく。強いて言うなら綺麗な噴水に出来るかなぁ? と。

 

 ───何故木や草花を斬りまくったのか。

 ──────邪魔だから。それ以外に理由はない。

 

 ───何故人間を襲ったのか。

 ──────……あのさぁ、妖怪にそれを訊くの?

 

 ───何故腹が破られ左腕が無いのか。

 ──────腹は自分でやりました。理由は無い。左腕はあの人間……彩目っていうんだけど、彼女に食べさせた。

 

 ───何故人間に自分の腕を喰わせたのか。

 ──────話を聞いている間に殺したくなくなってきたから。あの傷だとどんな治療をしてもどうしようも無いから、妖怪化させて死なない様にした。

 

 ───何故あの娘を遠くに吹っ飛ばしたのか。

 ──────……しばらく放っておこうかと思ったから? 私が居ても、しばらくはどうしようも無いと思うし。

 

 ───何故……私に謝ったの?

 ──────……謝らないといけないと思ったから。私が勝手に行動したせいで神奈子が混乱して、神社の営業が止まった。あの人間にした事も、神様からしたら罰しないといけない事……今ここに私が居るという事は『神様』じゃなくて私を『助けるべきヒト』として扱ってくれたって事。

 

 

 

「だから、ありがとう。そして、ごめんなさい」

「……」

「……傷が治ったらここから出ていって」

「ッ諏訪子!?」

「……これからも旅は続けるつもりでしょ?」

「……うん」

「ここに寄るとか挨拶する位なら良い。ただもうここに住むな。それで帳消しにする」

「……わかった」

「詩菜ッ!!」

「神奈子もそんな泣きそうな顔しないの。また逢えるんだし、ね?」

「……左腕はどうするの?」

「ん~……神力妖力全て注ぎ込むよ」

「そんな強引な治し方したら物凄い痛みが走るよ!?」

「自業自得って奴さ……ごめん、もうちょっと寝させて」

「……ゆっくり眠りな。神奈子、行こう」

「……わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、怒涛の展開が続いているな。

 

 ……何、いきなり出てくんなって? そりゃ無理だってもんだ。

 語り部の詩菜が解説出来ないだろ? まだあの様子じゃあさ?

 まぁ、こういうのも、相も変わらずどうでもいいんだが。

 

 最後に守矢の神社を離れるシーンを語って、オレの仕事は終わり……だよな? 多分。うん。

 まぁ、そのあたりは後でプロデューサーにでも尋ねるとしよう。嘘だが。

 

 

 

 そうして、詩菜の傷もひと通り治った。

 当然、左腕は回復していない。それ以外はとりあえず出血は止まった位である。

 

「……さて、行くよ」

「……」

「詩菜も気を付けるんだよ?」

「分かってるよ。諏訪子も元気でね」

「……怨んでないの?」

 

 あんな事を見て、キミを信じれなくなった私を。

 

「なんでそんな事が言うの?あそこで持ち帰ってくれたじゃん、私をさ」

 

 大事だって思ってくれてる証拠じゃん。

 

「じゃ、行って来まーす!!」

「ハハッ、行ってらっしゃい! ほら諏訪子も!」

「……行ってらっしゃい……」

 

 

 

 こうして詩菜は神社を後にしたって訳だ。

 次の目的地も無く、前みたいに風来坊の如く。

 

 ここでオレの出番も終了。

 詩菜の出番に入れ替わり、である。

 

 まぁ、彼女の代弁みたいな感じで。コンゴトモヨロシク……ってか?

 

 

 

 




 


 書いたのは私だけども、痛い。痛いったらありゃしない。

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