風雲の如く   作:楠乃

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神様なんですってよ奥様。

 

 

 

 眼が覚める。

 …『眼が覚める』って何かおかしくない?

 ちゃんと状況を言葉にするんなら『目蓋が開く』なんじゃないかな?と、昔から考えている自分。

 

 まぁ、どうでもいい事か…。

 ていうかまたもや知らない天…井か?

 

 ……いや、知ってる…かな?

 

 見た事があるけど…何処だろ、此処?

 天魔の家じゃないし、天狗の里近くの私の家でもないし……戦っていた神奈子とかの気配もしない。というか何も気配は感じない。

 …とりあえず動いてみるか。明らかに何かがおかしい。

 

 

 

 かかっていた布団から出て、ベッドから身体を起こす。障子を通して日光が入ってくる。部屋の中央にある炬燵を避けて、襖を開き階段を降りる。急な階段を降りて、ガラス戸を開いて台所に直行。レバーを上げてコップに水道水を注ぐ。その不味い水を飲んでみたけど、やはり飲めたもんじゃないのでそのまま台所に流し、足元に置いてあったペットボトルの清涼飲料水を再度コップに注いで、口直しに飲み干す。重たいペットボトルを足元に戻してコップを机に置いて居間を出る。ガラス戸を開いて階段の前にある廊下を通り、洗面所にて顔を洗う。いつも通りに微妙に湿った嫌な感じのタオルで顔を拭き、そこでようやく鏡で自分の顔を見る。

 可愛らしい女の子の顔。20年付き合ってきた顔だ。そして今でも不意討ちだと『何この可愛いの』とか思ってしまう、忌々しいっちゃあ忌々しい顔立ち。

 

 ……なんだ…転生先で死んだから戻ってきたのかなと思ったけど、夢か…。

 この姿だったらこの鏡台に背丈が届く筈がないし…転生前のパジャマが着物の筈がないし……夢か。残念。

 

 …ここが夢の中という事は分かった。

 私の生前の、とても懐かしい家だ。

 転生してから殆ど思い出すこともあんまり無かったけど、『俺』の家だ。

 

 

 

 ……って事は、私は生きているのか?夢を見るって事は。

 

 そう思った所で視界が暗くなる。

 …ああ……夢から目覚めるのか。懐かしの家から出ていくのか…。

 今度こそ、『眼が覚める』……目覚めるのか、な……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 今度こそ『知らない天井』だ。

 付近に神力の気配……というか、枕元に神奈子が、

 明らかに私の頭の濡れた布を変えようとしている神奈子が、居た。

 

 いきなり瞼を開いた私に驚いて動きが止まり、止まった所を私と眼があって更に硬直。

 目に見えて動揺しているのが分かる。

 ……まぁ、動揺しているのはお互いなんだけど。

 

「……」

「……」

「……えっと、おはよう…ございます……?」

「…え?あ、ああ!…おはよ…う……?」

「「……」」

 

 

 

 気まずっ!?

 なんだこの気まずさ!?

 誰か!誰かこの雰囲気ぶち壊して!!

 

 

 

「…何止まっちゃってんだか……何処の新婚夫婦だよ」

 

 そんなぶち壊し方は止めて欲しいなぁ!?

 どうしてそんな爆弾みたいなのを落としちゃうかなぁ!?

 

「うえっ!?諏訪子!いつからそこに!?」

「さっきから。朝御飯出来たから呼ぼうと来てみたらこれだもん……ま、詩菜も起きたみたいだし?キミも一緒に食べなよ?」

「……え!?私も!?」

「朝食は一日の基本ってね。それに大人数で食べた方が美味しいよ?」

「は、はぁ…」

「ほら!立って立って!神奈子も!!」

「うわわっ分かった分かった!分かったから押すな!」

 

 

 

 ……どういうこっちゃ?

 どういう事、って言うか……どういう事になってんの?

 え?…じゃああの二柱がいるって事は…ここは守矢の神社?

 …妖怪連れ込んで、信仰に影響無いの?

 

 いや、私が妖怪とバレなきゃ良いのか?

 ……なんでそんなわざわざ危ない橋を渡ろうとしてるのさ?

 

 …解らない。

 理解出来ないけど…大人数で食べる食事というのは……まぁ、悪くないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いただきます」」

「……いただきます」

 

 眼前に広がる食卓。まぁ、実に良くある風景だ。

 ……けどさ、そんな家庭に妖怪が混ざって良いの?

 

 食べるけどさ。

 ……食べるけどさ。お腹空いたし…。

 

 ……あ、美味しい。

 生で食べる、野外での一人きりでの食事よりかは、格段に美味しいね。

 料理とは素晴らしいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

 あ~…久し振りにこんなに食べた気がするなぁ……。

 …まぁ、こんなゆったりしている場合じゃないと思うし……なんでこうなったか訊きましょうかね。

 

「あの…なんで私を助けたんですか?」

「うん?」

「…ですから、何故こんな妖怪を神様は助けたのですか?本来ならばあそこで八坂様は」

「神奈子でいいよ」

「…では、神奈子様は私を殺すべきだったのでは?」

「……あ~…」

 

 神奈子『様』は微妙に違和感があるなぁ…洩矢様?諏訪子様?は無いんだけど……。

 ……あれか?神様らしく無いっていう印象がついちゃってるからか?

 あのフレンドリーすぎる対応の所為か?というか、アレしか無いと思うけど。

 

 …閑話休題。

 

「……いや、まぁ、色々あ」

「神奈子がアンタの事を気に入ったんだよ」

「って、諏訪子!?」

「だって本当の事じゃん」

「…………ハイ?」

 

 オイちょっと待てぇ!!

 元男だからと言ってそれもどうかと思うぞ!?

 …いや、でもあんな事を天魔に言っちゃったし……え?何!?約束は守れとかって奴!?

 そんなハイリスクな物事だったの!?あの約束は!?

 というか、一番の原因は誰なんだよ私を転生させてしかも幼女なんかにした奴!!ふざけんな!!

 

 …ええ~…転生してまさかの同性愛?いやでも……あれ?結局どっちにしても同性愛……か?パラドックス?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「…動き、止まっちゃった……なんか湯気出てない?」

「諏訪子があんな事を言うから……」

「いやぁ…こんなに衝撃受けるとは思わなくてさ……耳からも蒸気出てない?ねぇ?」

「んじゃ私は見回りに行ってくるから!あとよろしくっ!!」

「あ!こら!神奈子逃げるな!!…逃げちゃったし…………って!なんかもう沸騰してない!?」

「ふぇ?」 ピーッ!!

「ふぇじゃないから!?なんか出てるなんか出てる!!頭冷やして!!」

「いやいや、私は冷静だよ。ここはとりあえず神奈子の様子を見といて、結果次第で洩矢様に報告して許可が出てから行動に移して…」

「駄目だコイツ!?ていうか私と神奈子で扱いの差が普通に言葉に出てるし!?私も諏訪子でいいから!!全然冷静になれてないじゃん!?」

「……え?」

「なんか凄い驚かれた顔になられた!?驚くのはこっちだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 落ち着こう私。もっとCOOLに行こう、COOLに……ふぅ。

 ……あれ?二回目?

 

「とりあえず私はここに住め……いえ、住んでもよろしいんですか?」

「…さっきの口調が素なら、素の方で良いよ」

「あ、良いの?」

「変わり身早っ!?」

 

 堅苦しい言葉は時に人生に於いては必要不可欠だとは思うけども、実際私はそんな飾りだけみたいな言葉は嫌いだ。

 …まぁ、飾りかどうかは本人によるだろうけどね。

 

 後はまぁ、雰囲気?

 

「んまぁ、そんな事はどうでもいいのさ。要は神奈子が気に入ったからここに居て欲しい、と?」

 

 …どう足掻いてもやっぱあっちの方に頭が流れていくんだけど……。

 ……うん。気にしない方が精神的に良いな。気にしない気にしない。

 

「どうでもいい、って……ま、神奈子が、ねぇ…」

「まぁ、良いよ?暇だし?…何か面白い物があれば」

「面白い物?」

「例えば行事とかに使われる、神力がこもった道具類とか、神力による術式とか」

 

 研究してみたいんだよね。そういうのに触れる体質、というか妖怪にせっかくなれたんだし?

 根っからの研究者タイプ、なんちって。

 

「……そういうのは下手に妖怪が触ると術式が壊れるからなぁ」

「あ、そっか」

「まぁ、術式位なら教える事も出来るけど……その、神じゃないと…ねぇ?」

「神力が無いとダメ、って事かぁ……」

 

 当たり前か。

 妖力と根本が違うと何も出来ないだろうし……まぁ、一応は習ってみようかね。あの二柱が許してくれたら、だけど。

 そのアレンジで妖力での応用の幅が広がれれば万々歳。

 

「そりゃあ……んん?」

「?…どうかした?」

 

 

 

 何?なんでそんな私を注視してるの?さっきの食事が頬っぺたに付いてるとか?

 なんだ……それは、早く言ってよ…んん?何処?いくら触っても何処にも無いけど?

 

「……詩菜」

「ねぇ、何処にあるの?」

「え?…うーん、詩菜が通った集落沿いだと思うけど…」

「…え?顔じゃないの?」

「『カオ』?って何処?聞いた事がないけど……」

「え?」

「え?」

「……ごめん、何の話を今してるの?」

「…神力の話でしょ?」

「私の顔は?」

「え?……いや、普通じゃない?」

「…普通なの?」

「……じゃあ、可愛らしい」

「じゃあ、って……あれ?容姿の話?」

「あれ?違うの?」

「いや、さっきから私の顔見てたから」

「ん。いや見てたのは確かだけど、私が見てたのは詩菜の神力の方」

「ああ、私の神力……はい?」

 

 私の『神力』?

 妖怪なのに?生まれて20そこらの若造に?

 

「物凄くちっちゃいけど……あるみたいだね…」

「……妖怪だよ?私は?」

「信仰されれば何でも神になるよ?……私もその例を初めて見るけど」

「ええー……?」

 

 いくら何でもそれは暴論過ぎない?

 ま、まぁ…どうやら私に神力があるのは本当のようで、意識すればあっさりと見つかった。

 ……本当にちょびっとだけあった。

 

「…さっきも言ったけど、恐らく詩菜が今まで助けた人々の信仰じゃないかな」

「え?妖怪なのに信仰が力になるの?」

「そりゃなるよ。妖怪も生きてるんだし」

 

 生きていると言ってもいいのか?妖怪は?

 吸血鬼とかは生きてもないし、死んでもないんじゃなかったっけ?

 ……まぁ、今は生まれてすらないだろうけどね。吸血鬼という言葉すらも。

 

「ま、教えるにしたってこっちにも準備ってのがあるからね~。暫くはここの地理でも頭に詰め込めば?」

「…は~い……あれ?なし崩し的に習うのが決まってる…?」

 

 そう呟いてみても、洩矢諏訪子は既に部屋を出ていってしまっている。というか、いつの間に……。

 

 

 

 こんな感じに(?)私は此処に住むことになったのだ。

 ……というか天魔の所に住み始めた時もそうだったけど、新しい土地に来ると初めて知る事が多くてビックリだね。

 …展開もな!

 寧ろ展開がな!!

 

 

 

 


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