風雲の如く   作:楠乃

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 方言とかはかなりデタラメですので、ご注意(?)を。





旅の一幕

 

 

 

 決意も新たにして、ちょっと叫んでみる。

 叫んでみよう。意味は特に無いけども。

 

「よし! いっちょ旅に出るか!!」

「……今までも旅をしていませんでしたかね?」

 

 最近、ツッコミキャラが増え過ぎじゃない? と考える今日この頃。

 ……いや、まぁ、良い事だと思おう。親身になったヒトが多くなったと考えるべし。飽きられるヒトが多くなるとは考えない。うん。

 

 

 

 現在地、自宅。

 大木の中にあるこの住居は、冬はとても暖かく過ごせる。

 炬燵に入ってゴロゴロしてる彩目を尻目に、私はいそいそと旅の準備をし始めよう。

 

 

 

 ついでに文に対するお言葉もプラスして。

 

「いやいや、こういう二人旅じゃなくて『一人旅』を」

「……と、言いますと……私にそろそろ天狗の里に戻れと……?」

「んー、理解力があるのは嬉しいけど……そこらは自分で決めな」

「……はい?」

 

 そもそも、文が『速さ』で私に追い越せる程の実力を持つ為に、付き添い助手弟子のような形で付き添っていたんだしね。

 普通に能力の応用なんかせずに、衝撃の反射と風の能力で勝負したら速さはほぼ同じくらいって、初めの試合で分かっていたようなものなのである。

 あの時は……まぁ、悪く言うと『なあなあ』で今の関係になってしまったけど、深く考えてみればあんまり意味はなかったのかもとも思う。

 

 ……そこら辺は本人が決めるべき所だろうけどね。

 閑話休題。

 

「いつまでも私についてきてんじゃねぇぞ、ってね。文が里に戻るか、一人で過ごすか、旅にでも出るか、そこでグータラしてる彩目についてくか、自由にしな」

「グータラ言うなー……」

「炬燵に入ってぬくぬくしているのが何を言うか」

「久々の炬燵なんだぞ……」

「へー、どれくらい?」

「……鬼で色々あった時より以前、かな」

「……それは、まぁ、久々……だね」

 

 ……そういえば、鬼の四天王達はどうなったのかね?

 『妖怪の山』に異変が起きたとしても、外部には情報が漏れないようなチームワークの良さだからなぁ……山は。逆に言えば堅苦しいとも言える。

 

 前に山の周囲を荒らしに荒らしたけど、一回注意に来ただけって事は……案外もう来ていて問題が起きてたり……。

 ……ありえるかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私は……」

「ん。あ、ごめん。なんだって?」

 

 いかんいかん。今は文の話だった。

 

「私は……天狗の元に行きます」

「……そっか。ま、頑張りなよ? 何かあれば手ぐらいは貸すからさ」

「はい!」

 

 ま、私に反対する理由もないし、満足いくように頑張れと応援するだけだよ。

 

 

 

 ん、そうだなぁ。

 

「餞別に『緋色玉』でも差し上げましょうかね」

「あ、そんな危険な物は結構ですので」

「……そうかい」

 

 ……結構グサッと来たよ、その言葉……。

 

 さてさて、

 

「……この彩目ちゃんをどうしてやろうか……」

「ZZZ」

「ハハ、ハ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり旅は良い……孤独になれる。

 

 等と無駄に考えつつ、空中をふわふわと浮きながら当てもなく旅を続けている鎌鼬。

 

 昔は何かしら荷物があって、なかなか鎌鼬になって空を浮く事は出来なかったけれど、今となっては便利なスキマという物がある。

 やっぱ空に居るのは快感だ。

 文とか天魔はいつもこういった眺めを見ているんだろう。実に羨ましい限りである。

 幽香や紫の弾幕合戦も、こういった風景で楽しんでるんだろうね。まぁ、弾幕に集中して背景なんてあまり見ないのだろうけど、それでも良いなぁ。

 深い色合いの空、澄み切った海に何処までも広がる地平線。その手前には自分を撃ち落とそうとする敵に輝く弾幕。

 ん〜、考えただけでも鳥肌。興奮という意味でね。

 

 

 

 見下ろす山脈。見上げる流れ星。

 うーん、未来じゃあ生身で同時に体験なんて、機械を頼ってもなかなか出来ないだろう。

 飛行機とプラネタリウムが合体したような物……ない、よね?

 まぁ、のんびり空を漂う優雅な生活。最高だね。

 

 とは言え、空ばかり見ていても面白く無い。

 これで一番何が面白いかって、下で繰り広げられる人間と妖怪の戦い、人々の本人たちにとっては何のおもしろみもない日常。そういうのが面白いのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お?

 人拐い?

 人身御供?

 いや~、何処の村でも妖怪は良く働いてるねぇ。

 

 ……ん?

 いや……違うのかな? アレは……?

 

 ちょっと降りてみるかな。

 妖力オフ、神力オン。

 こんな風に切り替えが出来るのも自分だけなのかな、とか考えながら徐々に高度を下げ、能力を使わなくても着地出来る所まで来た所で、詩菜に変化。

 

 

 

「……何をしてるの?」

「ひっ!! か、かかっ神様!?」

 

 ……詰問してるつもりもないんだけどなぁ。

 普通に訊いただけでこの反応、違う意味で驚いちゃうから面白く無い。全く。

 

 

 

 ……まぁ、いい。そんな事は置いといて本題に入ろう。

 

「空から眺めてたんだけど、何をしたの?」

 

 まるで、村全体が『ある子供が誘拐された事に感謝してる』ように見えたけど?

 

 まぁ……税を払えないから子供を『減らす』なんて事は珍しい事じゃないけど……それにしても、喜びすぎでしょ。

 村全体で歓喜の表情をみせるなんて。未だに小躍りしている奴が居るし。

 

「へ、へぇ! ここ、これには訳があっありまして……!」

「そっその……あああんまりかっ、神様に、お聞かせ出来るな内容ではッ……!」

「いいから『話せ』」

「ヘッ、ヘイッ!!」

 

 ついイラッと来て、神力も入れた言霊使っちゃった。

 いけないなぁ……ちゃんと自制しないとなぁ……ハハハ♪

 

 神様だからって完全に神聖だと考えるのは間違ってると彼等に説きたいのを我慢して、彼等の話を聴いてみる。

 

「その……この村にはおっとろしい子供がおったんです」

「そいつは、出逢って眼を合わせた瞬間に『夢』を視させたんでぇ……」

「……『夢』?」

「ええ……おらたちが農作業をしているのを、半刻も視せたりして……気付いたらずっと立っているだけでなんもしてなくて」

「酷い時にゃあ、一年以上前の大怪我を思い出させて、気付いたら所がぼんぼんと腫れてきてたんだぃ!!」

「……不気味なのがなぁ、夢のどれもこれもが全部『実際に遭った事』なんですぅ!」

「子供のおっ母が針で指を怪我したら、次の日にゃぁ別のおっ母がおんなじとこに包帯をまいてんだぁよ!」

「こえぇからしまいにゃあ『別の村の方が安全だ』つって危険を承知で村を飛び出した奴もいんだ!!」

「……ふぅん。成る程ね」

 

 

 

 人間の身に余る能力。幽々子と同じパターン……かな。

 現実に遭った事を白昼夢として見せる能力、ねぇ……。

 

 

 

「……で、襲われた村の為にその子は妖怪の人身御供となった。と? 厄介払いも出来て良かった良かった。と?」

「ああ……そうだ……」

「ふんふん。親は? 親も『それ』を願ってた訳?」

「……いや……」

「?」

「彼女の親は……『彼女が殺した』」

「殺したってのに……やつぁケロッとしてやがんだぁ……おらぁ、いまでもこぇえよ」

「……はい?」

 

 能力の暴走?

 それにしても、両親共にあっさり殺したって……。

 

「一昨日の事だ……彼らぁが死んだのはよぉ」

「しかも一昨日かい……」

「その死に方が、あんまりにも瓜二つなんでよ!」

「似ている? 何と?」

「あぁ……こやつが言いてぇのはな。だぃぶ前にこの村が妖怪に襲われたんだ」

「そいつはたまたま通りがかった女の武士がやっつけてくれたんでけどな?」

 

 ……彩目か?

 いや、女の武士なん探せば居るだろうし、決め付けるのは早計か。

 それよりも、今は彼等の話、っと。

 

「何処かに隠れてぇ、村に運ばれたその妖怪の死体を視たんだろうなァ……その子の親も『同じ死体』になって死んでたんだ。切り刻まれたような死体になってよ」

「一昨日の夜、一緒の部屋に寝てたソイツしか出来ない筈なんだ! なのに、ソイツには返り血とか一切ついてねぇんだ……」

「部屋の襖や天井まで血が跳ね返ってるんだぜェ?」

「あの家はまだ手付かずだ……見るかい?」

「いんや、興味ない」

「……そうかい」

 

 ……ふぅむ。

 そんな強い能力なのか……?

 

 じゃあ多分、さっき連れ去っていったあの猿妖怪は文字通り『ぐっちゃぐちゃになって』死んでるだろうね。

 んでその子は一人でふらふらと放浪の旅に出ると。

 

 

 

「……ま、暇だし観に行ってみるか」

「へ? 結局部屋を見るのかい?」

「いやいや、その子の様子。多分生きてるだろうしね」

「ッッ……!?」

「ああ、別に連れ戻そうとはしないよ? こんな悪環境で生活してもどうせ行き着く先は自殺だろうしね。どうせ、って言い方は言い過ぎか」

「「「「……」」」」

「いや、別に責めてる訳じゃないよ? 君達人生の手助けはここの土着神にでも任せるべきなんだしね」

 

 他人、いや他神? まぁ、地に根付いた神様の敷地を荒らしてまで助けようとは思わないさー。

 ……多分。

 

 

 

 彼等が完全に黙ってしまったので、土着神が出てくる前にこの村を出て彼女を探しに……あっと、そうだ。

 

「そうそう、その子の名前は?」

「……『神代(こうしろ) 牡丹(ぼたん)』だ」

「神代牡丹ね。神の文字がついているのに人々から見放された子供。ふふん♪ ブラックユーモアがキツいねぇ」

「……アンタの名前は?」

 

 おっと、名乗ってなかったか。

 コレは失礼。まぁ、名乗ってもこの態度じゃあ信仰はされなさそうだけど、一応ね。

 

「旅行安全、旅と風の神『詩菜』。人生と言う旅に良い事があると良いね」

「「「……」」」

 

 

 あと、会話を続ける度に敬語や畏怖が減っていくのは……私の喋り方のせいかな?

 ……まぁ、それしかないか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬱蒼と繁る森の中。

 巨大な猿が藪の中を走り抜けている。向かう先は自分の巣だ。

 彼にとって、今手元にある『生きた人間』は久々の御馳走である。しかもまだまだ若い人間の女。いつ他の妖怪が彼の餌を奪い取ろうとしても決しておかしくはない。

 

 それにしても、と彼は考える。

 コイツ、やけにおとなし過ぎる。普段の拐ってきた奴は大概叫ぶか泣き喚くか、可愛らしい拳で最期の無駄な足掻きをするか、とりあえず活きの良い反応をしていた。

 なのにコイツはおとなしく捕まっているだけで、何の反応も返そうとしない。

 いや、呼吸や心臓の鼓動は感じるから生きてはいるのだろう。

 

 つまらない。こういうのは脆弱な肉体で精一杯の反抗をしてきて、それを真っ正面から潰すのが面白いのに……。

 

 

 

「……オマエ、ナニヲカンガエテイル?」

 

 

 

 猿の巣は、何かの巣というよりも、単なる樹に囲まれた広場みたいなものだが、至る所に猿の縄張りを主張する印がある。

 とりあえず、その自分の巣に戻ってきた猿は、疑問をその子にぶつけてみた。

 何の事はない。単なる暇潰しと、喰う前の最期の言葉を聞いてみようと思っただけである。

 

「コタエロ。ナゼソンナニモオチツイテイラレルノダ?」

「……私は……」

 

 

 

 真っ正面から覗き込み、一番彼にとって畏怖を与えるような格好で詰問したにも関わらず、

 その子はちゃんと向かい合い、小さい声だがはっきりと言った。

 

「……あの村から追い出された……」

「ソレガドオシタ? ソンナノハリユウニナラヌ」

「……皆から……怖れられていた」

「オマエガカ? フン、ハナシタトオモッタラ、ツマランジョウダンダ」

 

 

 

 やはり、人間の話しなど聞いても無駄であった。

 俺の餌となる人間共は、逃げ回って結局は腹の足しになれば良いだけの存在なのだ。

 

 そう決めて、猿はその子に食指を伸ばそうとした。

 

「……能力の使い方も……多分、ようやく分かってきた……」

「……?」

「村の皆に謝りたいけど……もう遅い、よね」

「……ゴアッ……!?」

「……こんな力、使い道がないから」

 

 

 

 猿は胸元を抑え、そのまま崩れ倒れた。

 

 村では妖怪による死傷率も高かったが、病気の死亡率もそれなりに高かった。医療が発展していないのと、単純に環境が悪かった。

 彼女は、昔視た近所のお爺さんの『心臓発作』を猿に高速で『再生させ』殺したのだ。

 

 胸に掛かる強烈な圧迫感。急な息切れが起きているが身体は急激に冷たくなっていく。

 そのうち意識さえ朦朧として、失神してしまってそのまま死んでしまう。

 

「……私の能力は……『記録を再生する程度の能力』……そこにいるんでしょ? 神様」

 

 少女の見上げる枝の先。

 言い放つと同時に風が集まり、枝の上に詩菜が現れた。

 鎌鼬の姿になって終始眺めていたのだが、少女がどんぴしゃりに場所を言い当てた。

 

「随分とまぁ恐ろしい能力だ事。ていうか良く見付いたね? そこの猿だって気付いてなかったのに」

 

 彼女自身、見付からない自信はそれなりにあった。

 だが見付かってしまった。私を発見した事と能力は無関係ではないというのは間違いなさそうだ、と考える詩菜。

 

「……」

「む、喋らない気か……何処に行くの? そんな能力を使って」

「……私は……」

 

 私は、今から自由に生きるの。

 誰からも疎まれず、恐れられず、理解してくれる。そんな所を目指して……。

 

 

 

「……何それ。ある訳ないじゃん、そんなの」

「……」

「話を訊いた所によると、親にすら怖がられたって聞いてるよ? そんな大事な家族すら分かってくれないんだし、完璧に理解してくれる相手なんて存在する筈がない」

「………………さい……」

「何歳か知らないしキミのコトなんて何にも知らないけどさ? 能力もちゃんと制御出来る年齢みたいだし、その能力で色々視たんでしょ? 本当は理解してるんじゃないの? 『完全な相互理解は不可能』って」

「……うるさい……」

「逃げんな。現実を視ろ……ま、私が言えた事じゃないだろうけどさ」

 

 前世の夢を視るくらいだし、夢想家と言われても仕方あるまい。

 

 

 

「……ま、そんな能力は人の身に余る。ってのは賛成だね。いっその事『妖怪』とかが適役だろうよ」

「人外じゃないの……」

「ふん」

 

 言って、彼女は樹から飛び降りながら、

 

 神様である事を知らしめるための神力の出力を切り、

 

「人外なんて、人の数以上にいるさ。神様だってそうだし、『妖怪だって』……ね♪」

 

 妖怪である事を知らしめるための妖力の出力を、全開にした。

 これで完全に詩菜は『妖怪』になっている。

 

「……!?」

「ま、アンタにゃ関係無いのかね。今度あったら敵かそれとも仲間か」

「……」

「あ~、でもなぁ……紫のお願いからすれば関係でも創っておくべきなんだろうなぁ……こんな能力はそうそう無いだろうしなぁ……」

「……」

 

 ……神様なら、何を言われようと我慢しようと思ったけれど、

 妖怪なら、生きてないんだし、殺してみよう。

 

 そう彼女は決めて、能力を詩菜に行使した。

 彼女に『再生』するのは先程の猿にも行った『心臓が止まる記録』

 それを詩菜に、再生させる。

 

 

 

「……消えて」

「ッ!!」

 

 なまじ生命力がある妖怪は、頑強な筈の臓物が圧迫されるのを直に感じ、そこからソワソワと冷たい感覚が、血管を通っていくように走り抜け───────

 

「邪魔よ」

 

 パンッ!

 詩菜が言葉を発すると同時に、視界から『自分が心臓発作で死んでいく記録』がガラスの様に砕けていく。

 破片が落ちて消える向こうで、驚愕の表情を見せる彼女が居る。

 

「……えっ……?」

「『記録を再生する』ふむ……どうやら、強・弱があるみたいだね。多分私が感じたのは弱の方かな?」

「……」

「多分、他人の記録からは弱の記録しか再生出来ない。心臓発作で死んだと『思い込ませる』」

 

 こういう精神攻撃なら、私の能力で弾けるからね。いやはや助かったよ。

 

「……ッ!」

「その表情からして、大当たりかな? いくら無表情だろうが、意識の衝撃を掴める私にポーカーフェイスなんて無駄だよ」

 

 彼女が猿に使った能力は、猿に『自身が心臓発作を起こした』という記録を再生するというもの。

 つまり『自分が死んだと思い込ませる』記録。

 

 人間でも、目隠ししながら背中に『沸騰した油』と偽って『氷水』を流すと、思い込みにより『火傷』の跡が出来る。

 元より人間の精神から産まれた妖怪。効果も高い。

 

 詩菜は、初めから『夢で怪我をした部分が真っ赤に腫れる』という話を聞き、直ぐ様この話を思い付き、彼女の『思い込ませる能力』に対抗する事が出来た。

 

 

 

 が、

 

「……でも、それだとアンタの両親は説明が出来ないんだよねぇ……まぁ、だから強弱があるんだって分かれたんだけど」

「……」

 

 『思い込ませる』だけで、流石に大人をバラバラ死体には出来ないよねぇ。どんだけ思い込みが強いのよ、って言う話になっちゃうしね。

 と、目の前の彼女を見ながらまるで世間話をするかのようなお気楽さで、彼女は話し続ける。

 

「さて、種明かしといきましょうか。何故『貴女の両親は切り刻まれて死んだ』のか? 強の力。このしがない妖怪に魅せてみろ!」

 

 

 

 それを言うなら、貴女は何がしたいのよ……とも思いつつ、少女は力を籠めて『記録を再生する程度の能力』を発動した。

 

「……神様……」

「今は妖怪だけどね。何? 今更やらないとか言わないでよ?」

 

 能力受けるヒトに言われてもなぁ……。

 と彼女は思いつつ、能力を行使し始める。

 

「……切り刻まれた……じゃないよ?」

「……なんだって?」

 

「『砕かれた』……だよ? へへ……」

 

「ッッ!?」

 

 突如として詩菜の頭上に巨大な『金槌』が顕れた。

 長年使われているのか手垢や欠けた部分があり年季を感じさせる金槌が、今にも詩菜に振り下ろされそうな格好で浮いている。

 

「……成程ね。斬ったんじゃなく、砕いた……『石を金槌で砕いた記録を再生』か。卑怯だなー」

「……納得してる暇、あるの……? 砕かれるのは、貴女よ……?」

「どうかなぁ? 実はその具現化、結構力を使うんじゃない? 殺した話を聞いた時に『一昨日』ってのも引っ掛かったんだよねぇ……砕けた時点で能力を完全に理解出来たとすると、どうしてその時に旅立たなかったのかなってさ?」

 

「もしかして、疲労困憊してて立ち上がれなかったんじゃない? だから今も、そんなに疲れている」

「ッ……!」

「これも大当たり、かな?」

 

 事実、既に彼女の顔には汗が流れ落ち、息は荒く、顔色は悪い。

 対して詩菜は余裕の笑みを浮かべている。

 

「ま、『牡丹』の攻撃に耐えられたら私の勝ちって事で。良い?」

「……貴女の能力は……精神系の能力。受け止めれる筈がない……!」

「ふふん♪ 甘い甘い。来な! 年季の違いって奴を、魅せてやるよ♪」

「……砕かれなさい。妖怪……!」

 

 金槌が、ゆらりと動き出した。

 宙に浮いているとはいえ、その質量や硬度は本物である。

 

 巨大化した金槌は容赦なく、詩菜に振り下ろされた。

 

 

 

 しかし、そもそも詩菜の能力は『衝撃を操る程度の能力』である。

 精神の『衝撃』ならまだしも、単に破壊するだけの『衝撃』ならば、

 

 

 

 簡単に跳ね返す事が出来る。

 

「ホイ。止めれた」

 

 真上から襲ってきた金槌に、拳を何度も叩きこむ。

 鉄を砕くほどの衝撃は込めず、金槌自体の運動を止める位の衝撃を調整して、何度も叩く。

 

「……そんなッ……!?」

「んでもって……スーパー踵落とし!!」

 

 完全に静止した所で高速移動し、わざわざ前宙まで決めて巨大金槌を真上から粉々に蹴り砕いてみせる。

 具現化した金槌は、金属の欠片となり、また能力者の(ガソリン)切れにより、消失した。

 

「はい! 私の勝ち!! イェイ♪」

「……負け、た……? ぁ……」

「っとぉ! ……まぁ、気絶するよね」

 

 力の使い過ぎにより、気絶した少女を高速で移動して、地面に倒れ込むよりも早く抱き抱える。

 

 

 

 詩菜よりも小さな体は簡単に持ち上げる事が出来たが、詩菜にはそんな事よりも考えるべき事柄があった。

 

「……しっかし、どおしたものか……」

 

 紫とのお願い事を考えるならば、ここで何かしら繋がりを持っておくべきだ。

 というよりも、詩菜の信条から『ここで見捨てる』という選択肢はまず、ない。ある筈がない。

 

「……結局、また彩目やら妹紅やらみたいに、重荷を背負っちゃうんだよねぇ……」

 

 ま、めんどくさいけど、それでもいっか。

 と考えるのが、妖怪『詩菜』である。

 

 

 







2013-02-10 名前を間違えていたのを修正。神代(かみしろ) → 神代(こうしろ)

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