風雲の如く   作:楠乃

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一家団欒、一家じゃないけど

 

 

 

 とりあえず、今日は文の元へと帰る事にする。

 こちとら相棒連れて旅の身だし、幽々子の所へ何度も行くとするのなら何処かに留まる必要があるかもね。

 

「うぃー、ただいま~っと」

「おかえりなさい。案外早かったですね? 何日もかかるかと思ってましたが」

「また出掛けたりするかもね」

「あやややや、大変ですねぇ」

 

 幽々子の屋敷からお暇して、しばらく桜並木を歩く内に文の元へ到着。

 

 ……桜の下で物憂げに空を眺める姿はなんかグッときたが、それは自重。

 

 

 

「……何か来たりした?」

「いえ? 誰もここを通りませんでしたよ?」

「そっか……なら、まぁ、大丈夫か?」

「……アルシエルですか?」

「まぁな」

 

 襲って来るかも知れない可能性はまだある。というか無いって断言なんか誰にも出来ない。

 

 まぁ、闇を使って探査しているならもうとっくに見付かっていてもおかしくない筈なんだけどなぁ。もうすぐ夜の時間だし。

 ……いつまでもここにいても仕方が無い。

 

「さっさとスキマに入って眠るに限る」

「その時は志鳴徒にならないで下さいよ」

「……ハイハイ」

 

 そもそも襲ったりしないから。

 つーか襲われたりしない為に変化させても、文が寝ている間に変化すればアウトじゃない?

 

「気分の問題です」

 

 ……さいで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。というか翌日。

 私達が寝床兼生活の場と化しているスキマの中では、他の能力や闇に探知される事もなく、まっこと平和な朝。

 

 

 

「詩菜ちゃーん、ご飯はまだなの~?」

 

 ……紫が居なければ、もっと平和だとおもうんだなぁ。

 

「……あのさぁ? なんでいるの?」

「久々に貴女の手料理が食べたくなったのよ♪」

 

 ……この寂しんガールめ……。

 昨日の泣いていた彼女は何処へ行ったのやら……。

 

 

「大体……そんな見事な手料理って訳でもないでしょうに……」

 

 今日の朝御飯の献立。

 ・ご飯

 ・大根の味噌汁

 ・漬け物

 ・肉と野菜の炒め物

 ・魚の塩焼き

 ・妖怪の肉を焼いた物

 ・キャベツの千切り

 

「……やけに手抜きに近い物がありますよね……特に後半」

「長期保存が可能なスキマならでは漬け物をどうぞ!」

「逃げましたね」

「逃げたわね」

「……めんどくさくなったんだよ」

 

 三人分というのは、二人分よりも中々に多くなる。

 私以外はあまり食べない方とはいえ、それでも多い物は多い。

 ああ、いっその事もう少し遅く来てくれれば、『料理してたんだけど間に合わなかったね、残念♪』と、言ってやりたかったのになぁ……。

 

「何か言ったかしら?」

 

 いえ、何も。

 というか、地味に心を読むのは止めて欲しい。ホント。

 心臓に悪い。いやもしかしたらその事すらも読んでいるのかもしれないけどさ。

 

 

 

「さーてと、いただきます」

「いただきまーす♪」

「では、いただきます」

 

 私は食事中は会話がないとつまらなく感じる方である。

 まぁ……だからといって重たい話をわざわざしようとは思わないが。

 

 と、いう訳で団欒開始。

 

「……そういえば、紫は逢わなかった間に何してたの?」

「私? 私はほとんどが協力者探しね」

「ほぅ……あー……妖怪寺の話しは聞いた?」

「ええ、残念だけど」

「そういえば、あの寺はだんだんと寂れてきているそうですよ」

「……なんで知ってるの?」

「風の噂で」

「なーるほど」

「……どういう事なのかしら?」

「私の能力は『風を操る程度の能力』です」

「……ああ。なるほど風の噂、ね」

「そういう事です」

「私は『衝撃』、文は『風』……はてさて、その違いは一体なにか? どう思います紫さん?」

「ふむ……貴女の能力はどちらかと言うと精神、物理、疾風、音波、それぞれの一部分を操れるといった感じかしらね? 文字通り『衝撃』にまつわる物を扱うのね。文、彼女はそれこそ『風』を操る能力。風ならば関係するものを全て操れる。といった所かしら」

「しかし詩菜さんが鎌鼬になった時の姿は操れないんですよねぇ……見た目も中身も風なのに」

「それは私の頭がパーって事か?」

「いえいえ」

「ならなんで目を逸らしてご飯を食べるのよ……」

「フフフ……詩菜ちゃんの方こそ、何か面白そうなヒトは居たかしら?」

「ん~……月の民、半獣、半妖、土の民、雪女、闇の民? ……後は、死を誘う少女?」

「あら、意外と逢っているのね? ……最後のは違うけど」

「始めの3つは、私は逢った事がないと思うんですが?」

「ああ、そりゃあ文と逢う前の話だし」

「なるほど……」

「月の方は連絡の取りようがないけど、半獣半妖は簡単に連絡が取れるよ? 多分」

「……半妖って、彩目ちゃんの事じゃないわよね?」

「大当たり~♪ そんな紫に、ハイ!もぎたての林檎!!」

「わぁい♪ じゃないわよ!!」

「良いよそのノリツッコミ!!」

「流石は大賢者……!!」

「ちょっと!? なんでそんな目で見るのよ!?」

「まぁそれは兎も角として」

「え!? 流すんですか!?」

「貴女本当に弄る気だったの!?」

「う~ん、そんな所かな? 私達が逢った強いヒトは。あ、半人半霊も居たね」

「それも知ってるわよ……あら、意外と美味しいじゃないの。この林檎」

「それは良かった」

「……もぎたて、っていつの間に取ったんですか?」

「朝御飯の準備中に。食材を探してる最中にテキトーにポイッ! っと、ね?」

「いや、ワケわかりません」

「むぅ……」

「むぐむぐ……そういえば、貴女はなんで詩菜ちゃんについて行っているのかしら?」

「……それは……まぁ、天魔様に訊いて下さい」

「天狗社会ではぶられていた状態に近かったから」

「ちょっとぉ!?」

「あらあら……珍しいわね? 天狗達がそんな事をするなんて」

「……私が初めから大天狗達を抜かす程の実力を持っていて、それを危惧して天狗達が色々と……」

「そこへちょうど通りがかったわたくし志鳴徒が天魔と協力してちょちょいっと」

「……やっぱりあれは初めから仕組まれていたんですか……」

「ん? いや、競争自体は本気のガチの真面目ちゃんだよ?」

「(……真面目、ちゃん……?)」

「……二回目のあのスピードも、ですか……?」

「あ〜……あれは卑怯な手段だった。真っ当に競走をしたとは言えない、ね」

「……何をしたのよ?」

「自身を背後から空間圧縮でぶっ飛ばしたのさ♪」

「馬鹿じゃないの!?」

「うん、背中は焼き爛れて大変だったよ~? 崖にぶち当たって石やら岩石やらも刺さったしね~。いや、ホント痛かった。ワラワラ」

「……じゃあ、また競走をしたらどうなりますかね」

「場所によるね。何もない平原だったら私が負ける。もし森とか障害物が多かったら私の勝ちだろうね」

「へぇ、文はそれほど早いのね」

「詩菜さんは足場があれば最速なんですがね……」

「これで妖力を集めた弾とか弾幕が撃てれば……!」

「……寧ろ私達からしたら、撃てない方が……ねぇ?」

「そうなんですよね……」

「くっ! ……どうせ私は空も飛べない弾幕も撃てない単なる妖怪ですよーだ……」

「あ、拗ねた」

「拗ねましたね」

「どうしましょう?」

「放っておけば良いのでは?」

「そうね。そうしましょう」

「うおい!? そこは慰めるのが普通じゃない!?」

「「普通じゃない貴女に言われても」」

「久々にワロタ」

「妖怪。プラス、神様、能力を更に開花させて空間圧縮、私の式神、鬼に肉弾戦で勝てる貴女の何処が普通なの?」

「自分の式神だっていう事が普通じゃないって断言するんだ……いや、まぁ、確かにそれだけ見たら普通じゃないけどさ?」

「風を操る天狗の私よりも風を自由に操るんですよ?」

「それは単なる修練と鍛錬と時間の問題では……?」

「妖怪なのに神様と仲が良いのもおかしいわよね」

「そういえば昨日の話にもありましたよね? 八百万の神の話で、八雲さんが『特に』と念押しした所ですね」

「ああ……あれは守矢の神々の事ね」

「んー、私が旅をしていた頃にたまたま通り掛かったの馴れ初めかな? まだ紫にも幽香にも逢った事がない時だね」

「へぇ、そんなに前からの付き合いだったのね」

「……幽香さん、って……?」

「あー……巷では、こんな感じで囁かれてるね。『奇妙な花を育てている花妖怪の事』」

「……ああ、あ~……?」

「日本であの花は『太陽の畑』にしかないのだから、仕方無いのでしょうね」

「……? ……??」

「いやー、良かったねぇ文? 少しでも悪口を言ってたら私とこの大妖怪様は容赦なく叩きのめしたりしてたかもよ?」

「……以後、気を付けます。『花妖怪』ですね」

「よろしい♪」

「そもそも、貴女も既に大妖怪の仲間入りをしてるんじゃ無いのかしら?」

「それって年齢だけの話じゃないの? 妖力だけで言ったら、そこの鴉天狗にも負けるかも知れないんだよ?」

「そこのってなんですか、そこのって」

「基準は別に才能だけじゃないわよ? そもそも基準とかなんて、いちいち測定してないわよ」

「……そりゃあ、まぁ……そっか」

「こういうのは本人が自認して決めるか、大妖怪が認める形なのよ。後は人々や妖怪から大妖怪として認められるか」

「……そうなの?」

「ここで私に訊いてどうするんですか……」

「って事は何? 大妖怪の紫から、大妖怪と認めましたよ。って感じ?」

「そうねぇ……妖力の量はなしにしても、体術と能力の強さはかなりの物でしょうから、よろしい。認めましょう」

「わーい、大妖怪になったぞー」

「見事な棒読みですねぇ……」

「おおぅ、早速妖力の回復。思い込み(ブラシーボ)効果か」

「……思い込んだら回復するんですか?」

「百歳を超えたら、妖怪として認められた。って感じとか、しない?」

「ああ……それはあるかも知れませんねぇ……」

「そんなもんだって」

「……百歳の時はとんでもない事を仕出かしたわよね……」

「反省も後悔もしておりませぬ」

「……ハァ……」

「二百歳は特に何もなかったよ。前と同じく妖力神力が極端に回復及び増加したぐらいだし」

「そのわりには、その日の料理は凄い豪華でしたよね……」

「……たまにはいいじゃん。折角の記念日だよ!?」

「妖怪で自分の明確な誕生日と年齢をきちっと覚えているのは、貴女以外にはそうそう居ないわよ」

「……人間の心から産まれた妖怪なのに、こういう所は受け継がないんだもんなぁ……」

「本当に、人間らしいわよね。貴女は……」

「ん……紫と契約してからあんまりそれを言われても、嬉しくなくなったなぁ」

「それが普通なのよ? ……でもまぁ、貴女はそれがぴったりなのかしらね」

「……えーと、話がよく呑み込めないのですが……?」

「文は知らなくても大丈夫。私と式神についての事だし」

「……(違うわよね?)」

「は、はぁ……?」

「……(嘘も方便だよん)」

「別に、隠すような事じゃないわよね?」

「まぁね♪」

「……」

「ほら、私、空気の読める大人の女だし」

「貴女ほど簡単に空気をぶち壊すヒトも居ませんって」

「そもそも貴女は少女よね」

「なん……だと……!?」

「なんでそんなに驚愕の表情になるんですか……?」

「無駄よ。この娘、案外自分の事を自分でもわかってないもの」

「自分の性格なんてのは、結果的に外から観察した者の主観になるから、自身の言う性格ってのはあてにならないと思うんだよねぇ~」

「あら。意外と難しく考えてるじゃない」

「例えばある出来事があったとして、それを伝える為にはまず伝えるヒトの主観に変換されて、伝えられたヒトは更にそれを自分の考えに置き換える。結果的に完全な真実を伝えるのは不可能である!」

「ふむ……それが貴女の持論かしら」

「まぁね。昔からの想い、かな」

「……完全な真実を伝えるのは不可能……ね」

「そしてヒトの考えはあくまで『ヒトの所有物』で、他人が完璧完全無欠に理解出来るなんてあり得ないとも思う」

「……それで?」

「こうやって説明しても無駄なんだろうなぁ……ハハ……って落ち込んでる自分」

「何がやりたいのよ……」

「いつもの事ですよ……」

「え? ……いつも?」

「大体は考え始めたら鬱の方向性に傾きますね」

「……そもそも、何の話をしてたっけ?」

「……さぁ?」

「……」

「……」

「……会話、遂に途切れちゃったね…」

「……そうですね……」

「……」

「……食器、片付けよっか」

「……そうね。はい」

「……ハイ、お願いします」

「……洗うのは私なんだ……いや、別に良いけどさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食器を持ってスキマから出て、川へ洗いに行く。

 三人分の食器皿と調理用の器具も洗わないといけない。ああ、めんどくさいなぁ……。

 

「さて、丁度良いから私も帰るわ」

「……ほんとさ、何をしに来たのよ?」

「貴女の報告を聞きに、よ」

 

 ……ああ、確かに報告すべきだったね。

 んでも、あんまり私達に協力してくれそうな妖怪には逢ってないんだけど……。

 

「……それに、幽々子の事もあるわ」

「んー……」

「……お願いね」

「お願いは聞き取ったよ……まぁ、善処するよ」

「……」

 

 何も言わずにスキマが閉まっていく。

 もはや見ずにでもスキマが閉まっていくのが分かる。流石はスキマ妖怪の式神ってか。

 

 ……さてッ!

 

「そろそろ娘にでも遭おうかなっ!!」

「……む、娘……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……この後、文から娘についての質問だけで忙殺されたのは、言うまでもない。

 

 

 


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