風雲の如く   作:楠乃

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アマツキツネ その参

 

 

 

 さて仕切り直して、

 ……机はもう元に戻せないが……まぁ、雰囲気は頑張れば戻す事が出来る。筈。

 

「で、依頼通りに射命丸の心を折ってやったぞ」

「……ああ。見事に折ってくれたわい」

「……」

「「……」」

 

 未だに茫然自失の状態の射命丸さん。既に半刻は過ぎようとしている。

 ちゃんと椅子に座らせているにも関わらず、その瞳には何も写ってないようにしか見えない。

 つーか、真っ暗すぎて怖い。怖すぎる。

 

「……どうするよ? ここまで木端微塵に粉砕するとは思わなかったんだが……」

「ああ……ワシもここまで影響が出るとは思わなかった」

 

「「……」」

 

 

 

 気まずい沈黙。

 

「……そ、そうじゃ! お主の『衝撃』で何とか呼び戻せれぬか!?」

「あ、ああ! なるほど!!」

 

 コイツの衝撃を無くしてやれば良い訳だ!

 早速とばかりに立ち上がり、射命丸の頭に右手を置く。

 

 ……なんか、絵的にはあまりよろしくない状態じゃないか? これ。

 傍から見てこの状態はどう見ても俺がこんな風にしたようにしか……いや、したのは俺なのか……。

 

 そ、そんな事は置いといて!!

 ショック!!

 

「ほい。どうだ?」

「……あ、あややや?」

 

 言葉を出したっていう点では大成功。

 ……自分の名前を連呼するのはどうかと思うが……。

 

「さて、気分はどうだい?」

「……あ、え?」

「お主は勝負に負けた後、ずっと呆然としていたのじゃ」

「……ああ、負けたのね。私は……」

 

 はてさて、お説教ターイム。

 そんな柄じゃない……とは思うものの、一言言ってやらねば。

 

「天魔がお前に言いたい事は、力をあまり見せ付けない事。だ」

「いや、まぁ……確かにそうなのじゃが……もうちょっと優しい言い方は出来ぬのか?」

「これが性分なんで」

「嘘を付け。前の詩菜の時はまだしも優しかったぞ?」

「いやいや、アレはだな。ああいう性格を演じていたと言うか何と言うか」

「なんじゃ、お主も裏表があったりするのか」

「ひどくね? っていうか妖怪に裏表があるのか? 人間の負の部分が具現化した存在なのに」

「妖怪に拠るじゃろ。どんな精神から生まれたからとかにも拠るんじゃなかろうか」

「ほお。んじゃあどんな奴から生まれたか解ったり覚えてるのか?」

「いや、全く解らぬ」

「じゃあ、意味ねぇじゃねぇか」

「そうじゃな」

「完結しやがったよコイツ」

「……あの、どういう話か解らないのですが……?」

「そういえば、お主は仕事はどうしたのじゃ?」

「ん、もう帰るよ。詩菜で。つーかわざわざ志鳴徒に変化させんなっつの」

「……あ~、すまぬ」

「はぁ……てか、そんなに可愛いか?」

「それは無論!!」

「ああ、やだやだ男ってのは。もう一回潰してやろうか?」

「それは困る!!」

「……あぁ、やだやだ。男ってのは。ホント」

「いや、貴方もそうでしょうが……」

「残念ながらそれは俺には通用しないのである」

「確かにそうかも知れぬが……教えても良いのか?」

「別にどうでもいいさ。そもそもさぁ? どうしてあんな姿で生まれたのかが皆目検討がつかねぇよチクショウ」

「良いではないか。可愛いし」

「お前そればっかじゃねぇか」

「何を言う。女天狗達の目標とも言われておるんじゃぞ」

「絶対二度と詩菜の姿で来ない」

「おいおい、ワシ等を生殺しにする気か?」

「一生妄想してろ」

「も、妄想って……」

「え? 何? 本当に詩菜ってこの里で有名なのか?」

「はい……? ええ、まぁ。知らない者は居ないかと」

「……絶望した。天狗の将来に絶望したよ!」

「ま、まぁ……良いではないか?」

「良くねぇよ……なぁ、お前もそういったクチ?」

「詩菜ですか? いえ、そういう体型でもないので」

「……だよね。なんだろうこの安心感」

「まぁ、お主の二倍はありそうじゃよな。身長は」

「うるせぇ、また鼓膜を破ったり潰したりするぞ」

「ようやく音が聞こえて来た所じゃぞ!? しかも潰すのか!?」

「やる時にはやる。それが俺、志鳴徒」

「鬼か!?」

「『鬼殺し』ですんで」

「くそぅ!?」

「……えっと、もしかして……貴方が……?」

「『志鳴徒』にして『鬼殺し』『中立妖怪』の二つ名がある『詩菜』で御座います」

「ああ、え? ……え、はい!?」

「まぁ、普通はそんな感じだよね」

「お主のように、どちらも本体、というような妖怪なぞ滅多に居らんわい」

「ですよねー。でもまぁ、擬態したり変化するのは居るでしょ」

「まぁ、そういうのはおるが……口調が詩菜になっておるぞい」

「………………またかい。んならいっその事」

 

 

 

 変化、詩菜。

 

 

 

「……ほい。っとまぁこういう事って訳で」

「……」

 

 再び茫然自失状態になっている射命丸さん。

 ……あれかな?

 憧れていたアイドルが、自堕落な生活をしていた事を、目撃したようなファンの落ち込み方みたいな。

 

 ……駄目だ、自分でアイドルって言ってて悲しくなってきた……何処のぶりっ子だよ私は。

 

「さて。んで、どうするの?」

「どうするとは、どういう事じゃ?」

「だから、射命丸の事」

 

 どうせ、ちゃんと力を抑えて集団に馴染む様な事をしていても、一度睨まれたら簡単にその状況が変わる訳でも無いだろうし。

 出る杭は打たれる、それも無慈悲に。って奴だね。

 

「……何じゃ、意外と心配しておるではないか」

「よし、鼓膜の次は鼻腔だ。射命丸、捕まえろ!」

「ええええ!?」

「やめろ!? これ以上何かを破裂させるでない!?」

「んまぁ、そんなどうでもいい事は置いといて」

「……どうでもいいの?」

 

 どうでもいいんだよ。細けぇ事は気にすんな!! って兄ちゃんが言ってた!!

 でも大概の場合、そう言う風にしたら怒られるんだよね!! さすが理不尽兄ちゃん!!

 

「誰よ……」

「……そうじゃな……ふむ」

「じゃあ文はどうしたい?」

「いや、いつの間に貴女は私を名前で呼ぶようになったのよ」

「ノリで」

「……」

 

 違う言い方をすれば、なんとなく。

 

 というか『射命丸』って呼びにくいよね。

 幾月みたいな。いや、あんな寒いギャグ出す奴だったら呼ぼうとすらしないと思うけど。むしろ斬るけど。

 

「……私は……」

「私は?」

「私は……貴方に勝つ程の速さが欲しい」

「……そっか」

 

 ……あ~、頑張れ? いや、なんかこの言い方は良くないな……。

 貶してる感がプンプンする。なんか、こう……目標を持つ事は良い事だ? 違うな……。

 

 

 

「では詩菜、お主が射命丸を導けば良いではないか」

 

 

 

「「……は?」」

 

 今なんつったコイツ?

 

「じゃから、お主の仕事にこやつを連れて行けば良いではないか。それならば射命丸の修行にも繋がるではないのか?」

「……天狗の奴等からも眼を逸らせれる、って訳?」

「……ああ。そうじゃ」

 

 ホンットやだやだ。組織ってのは。

 

「そうだねぇ……」

 

 聖、星が何も言わなければ、あの寺でも受け入れてくれるかな?

 他からはちょいと意見が来るかも知れないけど……。

 まぁ、ナズーリン曰く『来るもの拒まず』なら大丈夫だと思うし。

 ……後は、文が妖力隠せるか隠せないか。かな?

 

 ……まぁ、私としちゃあ別について来るのは良いんだけどね?

 弟子にしたって結局の所、私は教える物なんぞ一つも無いんだけどさ? それはそれで良いのかな?

 適当でいっか。彩目の時もそうだったし………………妹紅の時も、ね。

 

「別に私は良いよ? 仕事って言ってもそんな大した物でもないし」

「……ほぅ?」

「あ、条件として妖力を隠せる程度の技術はあるよね?」

「いや、そうそうそんな技術を持っている奴は居らぬぞ」

「うぇ!? マジで!?」

 

 また変な部分をアピールしちまったって訳かい。

 ……隠遁術を知らない輩が多すぎじゃない?

 

 妖怪でそれを知らないってのは、致命的じゃないかと思うんだけど……?

 潜んで化けて驚かすのが妖怪じゃない……。

 

「となると弟子になるのかね? ……いや、それは無いかな」

「なんでじゃ?」

 

 性格的に。

 いやまぁ、そこまで文の事を知ってる訳でも無いけど。

 

 

 

「んま、弟子とか連れ添い云々はどうでもいいとして、文がどうしたいのか。だけどね」

「……解りました。ついて行きましょう」

「「お?」」

「……何ですか、その反応は」

「いや、だって……ねぇ?」

「ワシも場の繋ぎにとしか考えてなかったのじゃが……」

「「……」」

「……ん?」

 

 ……いや、それは……無いわぁ。

 場の繋ぎとして、あんな考えを提供するってのは、それは無いわぁ……。

 

 天魔を見詰め、その彼から視線を逸らした所で文と眼が合う。

 同時に頷き合い、文が座っている天魔の後ろへ。私は前に立って息を吸い込む。

 

「ぬぉ? お主等は何をする気じゃ?」

「天魔様。その発言は無いです」

「そうそう、女の子の心情を理解しなよ?」

「いや、お主は違うじゃろ?」

「あやー、頼む」

「了解です」

「ぬがっ!?」

 

 文が能力か何かを使い、天魔の二の腕に風が渦巻き始める。

 私は掌に超小型台風を造り出す。

 破壊力も実証済み。一本の木からリコーダーが何本も造れます。作った所で使ったりはしないけど。

 

「天魔様、迂闊に腕を動かそうとすると筋肉まで削り取られますよ」

「おい!? ワシは天狗の長じゃぞ!?」

「無駄だよ? この部屋から外に衝撃音は出ないから、幾ら騒いでも無駄ー♪」

「ワシ怪我人!?」

「「知るか」」

「鬼!!」

「どんどん竜巻を近付けてくよー?」

「ヒイィイィィィ!?」

 

 

 

 ………………。

 ……ふぅ…………よし。

 

 

「飽きた」

「じゃあ、やめますか」

「そーだねー」

「……な、何なのじゃ一体……?」

 

 そもそも私はそんなドSじゃないし。

 気分が乗れば別だけどねー?

 

 

 

「んじゃあ、文、私について来るのね?」

「ええ……貴女の速度に追い付けるまで」

「おっけ、妖力を隠せたり出来る?」

「……」

「まぁ、別に隠さなくても良いっちゃあ良いかも」

「良いの?」

「寺の奥底にずっと潜んでる覚悟があるなら」

「寺!?」

 

 あれ? 言ってなかったっけ?

 

 ……言ってなかったか。逢ってからずっと喧嘩してたし。

 まぁ、説明すればオールオッケー。多分。

 

「そうだよ? ちょっとした寺に住んでるんだけど」

 

 通称『妖怪寺』

 責任者は、外法に手を出し既に八尾比丘尼の如き長寿の『聖 白蓮』

 その聖が信仰する神、毘沙門天。の使い。そして妖怪『寅丸 星』

 それの見張り役兼手伝いの『ナズーリン』無論? 鼠妖怪。

 見越し入道とその娘? 『雲山』と『雲居 一輪』

 更には見事な船を持った舟妖怪『村紗 水蜜』

 

 あの寺は、彼女達に惹かれた妖怪やら人間やらヒトがわんさかと集まるのである。まる。

 

「……妖怪だらけじゃない」

「だから『妖怪寺』なのさ……まぁ、いつ人間にばれるか分からないけど」

 

 

 

 ばれたら私はどうするかな……。

 

 ……多分、見捨てるかな。

 可能な限り、聖達を助けるとは思うけど、自分も巻き込まれそうになったら、反旗を翻すように逃げるかもね。

 

 ああ、嫌だ嫌だ。こんな自分が嫌になる。

 ……そんな事言って、妹紅の時は大失敗したんだよねぇ……。

 

 

 

「詩菜さん?」

「……そういう呼び方なんだね。や、良いけどさ」

 

 いかんいかん、顔に出てたか。

 ポーカーフェイスが崩れてたみたい。シャキっとせねば。

 

 

 

「ふぅ……ま、詳細は移動しながら話そうか」

「ええ!? 今から行くの!?」

「え、駄目?」

「準備とかあるのよ!!」

「ああ、なるほどね」

 

 一定期間何処かに泊まって行く事はあるけど、定住なんてしようとも思わないからなぁ。

 そういうのは思慮が足りてなかったね。

 

「んじゃ、準備はさっさとした方が良いよ。あ、私の家の場所、解る?」

「……家があるのね。意外だわ」

「まぁ……普段から使わないけどね」

 

 そろそろ掃除でもするかな。最後に来たのっていつだろ?

 ……妹紅の時以来? いや、彩目と依頼でバッタリ出会った時かな? となると……二五〇年ぐらい?

 そういえば慧音さんどうしてるんだろ? 彩目もだけど。

 まだ二人で活動してるのかな?

 

 まぁ、何にせよ丁度良い機会だし、綺麗にしてやろう。

 

 閑話休題。

 

「んじゃ、そういう事だから、準備できたら私の家に来てねー」

「……分かったわ」

「場所が分からなかったら、そこに転がってる天魔に訊いてねー?」

「……途中からワシ、消えてなかったかの?」

「「気のせいでしょ」です」

「……いつの間にそんな仲良しになったのじゃお主等は」

 

 さぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という事で、自宅に久々に帰ってきてみたは良いけども……」

 

 ひどい。何がひどいって埃がひどい。

 うーわ、埃でサッカーボールが出来るよ? これ。

 完全に密室状態にした筈なのに、蜘蛛の巣が……うわ、一気に鳥肌立った。抹殺してやる。

 

 まぁ、とりあえず竜巻で大まかに掃除。

 玄関を開きっ放しにして、外へと衝撃で掃き出してやる。

 ……後は、水拭きぐらいかな?

 倉庫代わりのスキマから雑巾を取り出し、近くの水場へ向かう。

 

 水場というか川というか小川というか。何というか、そういう感じの場所。

 そういう場所で、雑巾が吸った水を絞る。

 

 絞る。

 ……絞る?

 ……絞れない。

 ……絞れない……だと……!?

 

 なんとまぁ、詩菜の腕力では雑巾を絞れない。

 こんな所で詩菜の姿のデメリットが出るとは……。

 

「……なんてこったい」

 

 しょうがないので、

 

 

 

 変化、志鳴徒。

 

 

 

 こちらに変化して、再度雑巾を絞る。

 おお……よく水が出る。筋肉や体格の差って奴かね。

 

 ……なんだ? この敗北感……。

 

 

 

 何とか立ち直り、自宅の大掃除を開始するべく、絞った雑巾で床を拭く。

 ……詩菜ではちょうどだったこの家も、志鳴徒だと少し手狭に感じる。

 というか、さっきから頭をガンガン壁にぶつけてる。

 衝撃は能力で消しているんだが……ええい!! もう、めんどくさい!!

 

 

 

 変化、詩菜。

 

 

 

 こうすると腕力がなくなるから、更に労力が増すんだけどね。

 まぁ、こちらの方がスムーズに行くんだし、別にいっかな? 良いよね? 誰に訊いてるの私? どうでもいいけど。

 

 ……こうなると、壁まで拭きたくなるなぁ。掃除をするととことんしたくなる(わたくし)でございます。

 でも、この身長じゃあ届かないんだよねぇ……いちいち変化するのもめんどくさいなぁ。

 というか、天井ぐらいまで拭こうと思ったら浮かないと駄目だし。

 ……そもそも飛べないってのは妖怪にとって致命的なんだよね。

 

 しかし……どうしたら飛べるのさ? 説明を誰かから聴いても全然ピンと来ないんだよね。

 なんていうか、前世の考え方が飛べないようにしてるのかね?

 空に受けるのはヘリウムガスが入った風船とか、気流を掴んでいる飛行機とかだけだッ!! みたいな?

 ……上空、気流……衝撃と気流……積乱雲……ラ○ュタ、うん?

 のぁ~、駄目だ! 衝撃と空を飛べる様なイメージが繋がる案が一つたりとも思い浮かべれない。

 イメージ出来ないとそういった風、衝撃を再現出来ない。

 ……う~ん、参った。

 

 まぁ、衝撃で吹き飛ぶジャンプとかダッシュとかで代用してるし、別に困っちゃあいないんだけどね。

 別にわざわざ飛んで移動するよりも、スキマとかがあるし。

 

 ……ああ、こうやってどんどん自堕落な生活になるのかな……。

 

 

 

 まぁ、気を取り直して。

 

「……よし!」

 

 これで良いかな!

 家具……と呼べるような物も無いけど、全部吹き終わったし。

 

 ……もう夜も更けたし、飯にしますか。んで寝よ。

 

 今日は……川魚の塩振りでも頂こうかしらね~。

 

 

 


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