風雲の如く   作:楠乃

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翌朝。騒動の予感

 

 徹夜したらそれだけ集中力も減るんだが、依頼はこなさねばなるまい。

 

 まだ寝ている彩目を置いて、藤原氏の隠れ家に向かう。

 だるい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい師匠」

「おーう。今日はどうするよ?」

「いやだから……それは、師匠が決めるべき事だろ……」

「いやぁ、そうなんだがな……欠点のない奴をどう鍛えろと?」

 

 才能あって、努力家で、恵まれてはないかも知れないが、金持ちで。

 非常に羨まゴホンゴホン。

 

「俺からすりゃあ、大したもんだよ。既に」

「……そうか?」

「だから言っただろ? 俺は能力がなかったらただの単なるヒトだって?」

「……」

 

 ま、妖怪じゃなくて人間に生まれたとしても、退治屋になってどっかでくたばるだろうし。

 

「そんな強い訳でもないし」

「……じゃあ師匠が勝てない奴って、一体どんなのなんだ?」

「(妖怪の)賢者とか、(天狗の)長とか、花妖怪とか、(酒呑童子の)鬼とか……」

「……後半は分かるが前半が分からん」

 

 あ、花妖怪分かるんだ。

 ……都でも有名って。どんだけ人を虐めてるんだよ……。

 

 まぁ、どうせ、花を荒らしたから激怒したんだろうなぁ……自業自得というかなんというか。

 

「まぁ、能力者が一番厄介者だな」

「能力ねぇ……『衝撃を操る程度の能力』か」

 

 風を『衝撃』と認識して操り、打撃を『衝撃を与える』と認識して操作し、

 心にかかる負荷を『衝撃』と思い司る。

 

「そこらは自分の想像力でなんとかしてるしな……他の能力者は知らないが」

「ふーん」

「ま、適当だって。人生」

「……いや、流石にそれはどうかと思うが……」

 

 

 

 ……そういえば。

 

「珍しく親父殿が見えないな? その口調って事は出掛けたのか?」

「ん? 昨日『中立妖怪』が出たとかでなんか忙しいみたいだぞ」

「……」

 

 oh……なんてこったい……。

 まさかの弊害がこんな所に。

 

 でも、まぁ、藤原氏が俺の娘云々を忘れていれば、問題ない筈。

 ……妹紅が『こういう事には滅法記憶力が強い』とか言ってたけど、大丈夫! うん!!

 

「……ま、やりますか」

「おー♪」

「……普通、そこは嫌な顔じゃないか?」

「それこそ師匠。どうでもいい」

「……さいで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、やる事と言っても精々格闘か、俺の知ってる妖怪退治やらの知識ぐらいしか出来ないんだが。

 

「妖怪に一番効果的なのが、祓う事が出来るもの。つまり神器とか、神の伝承があって畏れられてる神々しい物。とかだな」

「お札とか霊力はどうなんだ?」

「お札はむしろ霊力によって発動してるような感じかな? その霊力自体は神からの授かり物……人間の生体力(エネルギー)かな?」

「? なんでそんな曖昧なんだ?」

「あ~、説明しにくいが……威力は無いんだけども、妖怪に既に怖れられているからあると信じてしまうするとその分怪我をしてしまう?」

「……信じてるから、怪我をする?」

「要約どうも。ま、俺が考えているだけなんだが……順番が逆なんだよ。あるから喰らうんじゃなくて、喰らうって思ってるからあるんだ」

「???」

「信じるから救われる。妖怪にとっては、信じてしまうから祟ってしまう、かな?」

「……分からないな」

「ま、俺の考え方だ。実際は違うかも知れないし、寧ろその可能性の方が高いな」

「なんだ。てっきりそこまで研究したかと思った」

「そもそも霊力を操る才能がないんだっての」

 

 講義の一時休憩。

 

 だが、実際はどうなんだろうか?

 簡単に言うと、人々からの願い事のエネルギーが神力。人々からの恐怖のエネルギーが妖力。

 魔力やらがこの世界にはあるかも知れないが、恐らくそれは生物が初めから持っている純粋なエネルギー……になるのかな?

 て事は、霊力は……魔力と似たような物なのか?

 なら何故、神力とは馴染み妖力とは反発するのか?

 イメージでは魔力はプラスにもマイナスにもなるのに……いやまぁ、実際に見た事はないけど。

 

 

 

 ……そういえば、妹紅に霊力はあるのだろうか?

 人間誰しもが持つが、扱えるか、自覚出来るか、見えるか、察する事が出来るか等、出来る事が変わっている。

 まぁ、此処等も才能なんだけどな。

 

「妹紅」

「ん、なんだ?」

 

 神力で目を覆い、妹紅の能力チェック。

 

「……な、何なんだよ? いきなり見詰め出して?」

「んん~……霊力あるかないかの確認。自分で何か思い当たる事ってあるか?」

「……いや、ない……と思う」

 

 だろうなぁ……。

 見た感じ普通の人よりは、ない。

 全身から漏れ出てる量も少ないし。

 

「……ついでに、俺の眼は何色に見える?」

 

 神力で覆うと、普通の一般人にも金色に見えたりする。集中させるとな。

 更に神力と妖力の術が打ち消し合って、赤い目がチラッと覗けたりするんだが……。

 まぁ、日頃から神力や能力で妖力を圧縮して妖怪とかバレないようにしてるから、気のせいとかで押し通す事は出来るだろ。多分。

 

 

 

「……ん~、金色?」

「神力は見えるんだな。そういう才能はあるってか。よいしょ」

 

 振り替えって術をかけ直す。妖力がちょびっと出るが致し方無し。

 神力で術を使っても良いんだが、如何せん燃費が悪すぎる。

 

「……ん? ……」

 

 アヤシマレタヨチクショウ。キヅキハシナカッタヨ、ヤッタヨ。

 

 センス有りすぎだろ妹紅……一発で気付かれるとか……ないわぁ……。

 

「……ふぅ」

「お、黒目に戻った」

「そりゃあな」

 

 戻らなかったら迫害されるぜ?

 いやまぁ、妖怪だから迫害されているというのはあってるのかも知れないが。

 

「そういえば、なんで師匠は神力なんて使えるんだ? 神様なのかよ?」

 

 ……実際は優しい妖怪の噂が地方の弱小神様に引っ張り上げられて祭り上げられただけなんで。

 一部、守矢の神々が関わっているとの噂がある。

 あの二柱ならやりかねないな、うん。

 

 

 

 ま、妹紅には嘘をつかせてもらおうか。

 いつもの事である。まる。

 

「いんや。知り合いの神様に譲り受けた」

「……どういう状況!?」

 

 間違ってはないかも知れないんだぜ、これ……。

 

「まぁ、例えばこの扇子とかな? 物に宿ったのを譲り受ければ、貰う事になるんだぜ」

「ふぅん……」

 

 この扇子、紫から頂きました~♪

 神様の話なのに、妖怪から貰った物を取り出して説明するとは。

 

「……凄いな。むちゃくちゃ綺麗だ」

「あ、そっち? ……まぁ、アイツはセンスが良いからな」

「……ん? 何か文法がおかしくないか?」

「ん?」

 

 ……ああ、扇子とセンスね。

 期せずしてダジャレを言っちまった。

 

「そういう事で……え~と、何の話をしてたんだっけ?」

「扇子の話だろ。な? もう一回見せてくれないか?」

「違う、その前の話だ。ついでにこれは友人から貰った物だから駄目だ」

「忘れた、師匠の娘の話じゃないか? 扇子を見せるだけで良いから! な?」

「いつの話だそれは。ていうかそんなに良いか? これ?」

 

 まさかそんな魅了出来るアイテムだったのか? これは?

 袖から出すと一気に目を輝かしやがって…。

 

「……んじゃ、今度そいつから一本譲って貰うよ。それをお前にやろう」

「良いのか!?」

「……アイツ次第かな……?」

 

 そもそも紫は扇子を何処から入手してるんだ?

 この時代にこんな細密な事が出来る職人が……居るのか。

 居ないと説明出来ないし、紫自身がこんなのを作れるとは思えないし……。

 

 

 

「……そういえば」

「ん~?」

「師匠の娘に逢うとかいう約束はどうなったんだ?」

「……君も案外、人の傷痕ほじくるねぇ……」

「い、いや! その、私もちょっと、見てみたくて……な?」

「『な?』じゃねぇよ……」

 

 この御都合主義め……。

 チクショウ、こうなったらどうせ藤原も思い出すんだろうなぁ……。

 あぁ、嫌だ嫌だ。

 

 

「……いっその事地震か何か起こして気絶させて、それからゆっくり記憶を弄くって……」

「考えが口に出てるぞ、というかそんな恐ろしい事をしようとするな!!」

「でも……ねぇ?」

「……そんなにヤバいのか?」

「…だって今現在、追われてる身だぜ?」

 

 流石に本人と特定出来る情報は言わないが。

 ……ん? これでもアウトか? いや特定は出来ないだろ。

 

「……それは……」

「お偉いさんの藤原氏だ。アイツが知れば地位も危うくなるし、バレれば俺も捕まっちまう」

「……」

 

 ……まぁ、藤原氏は妹紅という秘密を共有している間柄で、それなりに俺も二人を信頼してるし、教えてもいいかなとは思うが……。

 でも彩目の事もあるし、自身の『妖怪』の事もある。

 誰だって自分は可愛いさ。人間だって妖怪だって。

 

「……まぁ、居場所がバレたとしても、俺もアイツも逃げ切れるだろうけどな」

「……師匠は」

「ん?」

 

 

 

「師匠は……どうしたいんだ?」

 

「……」

「初日から娘の話を私に話したり、私とその娘が似ているなどと話すのは分かる。自慢話かとも思っていたが、じゃあ逢ってみようという話になれば頑なに拒否をする。理由を訊けばあっさり教え、それも犯罪者と来た」

「……」

「師匠……いや、志鳴徒。何を考えている?」

 

 ……参ったねぇ、どうも……。

 

「……」

「……だんまりか?」

「……仲良くなるには互いに秘密を共有するのが一番だ」

「は?」

「俺の勝手な主張だがな。互いに相手に自身の秘密を教える。だが隠すべき所は隠せ」

「……」

「初めは相手と自分を互いの秘密で縛る。その内に秘密を普通に話す事が出来る友人の出来上がり。とか考えてたよ。まぁ、上手く行く事はそんななかったがな」

「……それで?」

「結局はさ。喋りたがりの奴が、誰とも仲良くしたいだけなんだよ……俺は」

 

 言うなれば、淋しがり屋の喋りたがり屋なんだ。

 ああ、馬鹿らしい。

 

「ハハハ……そうだよな、おかしいよな色々と」

「……」

 

 気まずい沈黙。あぁ、嫌だ嫌だ。

 俺は壁に寄りかかり天井を凝視して、妹紅の視線を感じつつも、それを無視する。

 

 肉体が妖怪になって強くなっても、精神は人間の時から成長しないなぁ……妖怪は精神力が要だってのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ったぞー。って何をしておるのじゃ、お主らは?」

 

 藤原氏が帰ってきた。

 正直、俺としてはありがたい事で、早くこの雰囲気をぶち壊して欲しい。

 ……無理かな?

 

「……よぅ、藤原氏」

「……おかえり父上」

「何なんじゃ、この空気は……?」

 

 俺は気だるそうな顔を向け、気だるそうな声で挨拶を交わして、

 妹紅は未だに俺を睨みつつ、父親に顔を向けず挨拶を交わした。

 

 いつもならば、怒るであろう妹紅の態度。

 それでも怒らないのは、この険悪な雰囲気を感じ取っているからか。

 

 

 

「……師匠、行くよ」

「……は?」

 

 行くって……俺の家に? 彩目に逢いに?

 

「妹紅!?」

「父上、今日は帰らないから。ご飯はあるもので食べてください」

「そんな事を言われてもやった事もないんじゃぞ!?」

「師匠」

「無視か!?」

 

 手を取られて立ち上がり、引っ張られるような形で屋敷を飛び出す。

 太陽は沈んで、夕焼けも消えかけている。

 

 妹紅は身長・体格は俺よりも小さい。詩菜の時よりは大きいかも知れないが。

 そんな手が俺の手首を掴み、引っ張っていく。

 

 

 

「……妹紅が逢って、どうすんだ?」

「……わからない」

「オイ」

「ただ、自嘲してそれだけ。は卑怯だ」

「……」

「……どっちの方向だ?」

「このまま……まっすぐだ」

「……なんだ。廃墟しか見当たらないぞ?」

「隠れるにはうってつけだろ……こっちだ」

 

 なんか……複雑な気分だ。

 彩目も妹紅も、良い奴なんだよ。

 だけど……いや、この考え方も逃げてるのか。

 

 ハハハ……まぁ、道案内の為に妹紅の手を引っ張っている俺。

 嫌な顔をしているのに道案内自体を止めない辺り、自分も今のこの状況を悪くないと感じてるみたいだ。全く以てどうしようもない。

 

 

 

 さぁ、ご対面。

 ……どうしよっかな?

 

 

 

 


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