風雲の如く   作:楠乃

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旅、そして遭遇。

 

 

 

 十年過ごした山を出て、色々とお世話になった村から最後の略dごほんごほん……別れの挨拶をして、歩き始める。

 

 

 

「また貴様か! いい加減にしろ!!」

「これが最後ですから!」

「そう言って何回繰り返したと思ってるんだ!!」

「……じゅ、十年?」

「返せ!!」

「え、今から吐けと言うんですか!?」

「誰がそんな事を言った!?」

「それではこれで!! 今までありがとうございます!!」

「おい!?」

「でわでわ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、さてさてさて……。

 歩き始めたが現在地が分からない。

 見渡す限り、山森川山森木々の連続。

 鎌鼬状態になって上空から見渡しても、村は見えるものの街は全くないし、ビルなんてありゃしない。海はたまに見えたりするけど……。

 ていうか、そもそもここは日本で合ってるのかな? 

 ……そんな根本的な事を何故調べようとしなかった私……。

 ま、いっか。

 飛んだり歩いたりしてれば、その内に分かるだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそんな呑気な事を考えながら旅をしていたら、あっという間に数週間が経った。具体的には四週間。というか一ヶ月。

 食糧が無くなれば近くの里から強奪、もしくはそこらの動物、妖怪に逢えば大抵が無視、襲われたならば吹っ飛ばす。そんな旅をしていた。

 ……まぁ、別に食料がなくても生きていけるんだけどね。お腹が空くだけで、大した事じゃあないし。

 

 

 

 閑話休題。

 

 そして、それはちょうどお昼頃だった。

 元々私が生まれた山(?)とは違う、遠く離れた険しい山の中腹。

 そんな人里離れて誰も来ないような鬱蒼とした森林の中で、

 

 私は、囲まれている。

 

「……ハハハ……」

 

 しかもよりにもよって、魑魅魍魎に私は囲まれている訳である。

 こうなるともう笑うしかないね……。

 

 戦うにしても、如何せん敵が多い。しかも見た事の無い、見た目からして強そうな奴らばかり。

 数の暴力という言葉があったけど、まさに現状がそうなのだろう。

 いや、そんな冷静な判断をしている場合ではない。いや必要だけど、必要なんだけど、している場合じゃない。なんてトンチの効いた脳内会話。

 

 ……笑い事じゃないね……うん……。

 さてさて、話し合う……は無理かな……? 

 人間なら、多少話が出来るから隙を作ったりは出来る。けど会話が通じない相手なら……? 

 

 ……というか話し合うってそもそも話が通じるの? 

 ふむ……物は試し、挑戦してみよう。

 

 そういえば、こうして意識して喋るのも久し振りだ。喧嘩を吹っ掛けれられなきゃ、喋らないしね。

 ……人間だった時、喋るのが苦手だった私はいったい何処へ……。

 ……まぁ、何年か前から薄々気付いていた事だけどさ……。

 

「……あの~、話し合いません……か?」

「……何じゃ?」

 

 ……正直に言って、妖怪に言葉が通じるとは思ってなかった。

 妖怪で人間の言葉が通じるって事は、かなり精神的に完成している妖怪だという事。

 話に応じてくれたのは、一番でかい人型の妖怪。つまり、私に声を掛けたのはこの魑魅魍魎共の大将といった感じなのだろう。

 よくよく見ると背中に大きい羽根が生えている。山伏姿だし、妖怪としては最もポピュラーな天狗かな? 

 

 ……どうでもいいや。そんな事より、とりあえず生き延びる道を見つけないと。

 

「なんで、私を殺そうとするんですか?」

「……別に? 暇つぶしじゃが?」

 

 ……ええ~、もっと他にやる事ないの……? 

 一瞬呆れ顔を浮かべそうになる。けど、そんな事をしたら舐められてると感じられて、私が一瞬でお陀仏になるかもしれない。それは困る。色々と。

 

「……妖怪なら、人を襲ったらどうなんですか?」

 

 元は『人間』だけどね私。

 

「……人間は弱くてな……」

「……つまりもっと戦いたい、と?」

「……まぁ、そうじゃ」

 

 ふぅん……。

 要するに、戦闘を楽しみたいと。何時の時代にもバトルジャンキーは居ると。

 居ねぇよ普通。居てたまるか。

 

 まぁ、そういうのを求めているとして、それこそ何で私を襲うのよ? 

 

「なら、もう少し強い人……いや、妖怪を探せば良いじゃないですか?」

「……探したぞ?」

「見付けたんですか? ならその人と 「お主じゃ」 ……はい?」

 

 今、何て言ったこいつ? 

 爺言葉は分かりにくくて叶わないっす。

 

「木を片手で折り、小妖怪を山の向こうへと吹っ飛ばす」

 

 聞き間違いじゃなかったチクショウ!! 

 ……ま、まぁ……この能力はストレス解消としては最高だよね! 

 

「……はぁ……何時の間に見張っていたんですか」

「ちょいとな。その力、鬼かと思ったがそうでもなさそうじゃな」

「……種族は鎌鼬です」

「鎌鼬か……面白い」

 

 怖いよ! いつの間に見てたの!? ストーカー!? 

 鼻息荒いような気がするんですけど!! 目線がなんかエロく感じるんだけど!? 

 ……なんだか……泣きたくなってきた。

 

「よし……決めたぞ」

 

 

 

 勝手に何か決められても。

 とりあえず後退りしながら曖昧に返事をしておく。

 まぁ、後ろにも妖怪達が居るから、意味は無いんだけど……兎に角離れたい。

 そう考える私は間違ってない筈だ。うん。

 

「……はぁ、何をですか?」

「お主、儂の所に来んか?」

「は?」

「つまりじゃな? お主、儂の妻にならんか?」

 

 妻? 夫妻? ……結婚? 

 私と? ……幼女の私と? って事は……。

 

 

 

「ロリコンだあぁぁぁーーー!!!?」

 

 瞬時に膝を曲げて上に跳躍。兎に角逃げるべし! 

 木々を蹴って、遠くに逃走!! やばいやばい!! あの人マジやばい!! 

 転生して女になって妖怪に犯されるって何そのバッドエンディング!? 

 そんな趣味は私にはない!! 

 

 

 

「まぁ、待てい」

「ッツ!?」

 

 流石は天狗、もう追い付かれた。左手を捕まれ、逃げるに逃げられない。

 私は左手を掴まれて、それにぶら下がる姿勢。掴んでいるのは先程まで話していた天狗の大将。大きく翼をはためかせて飛んでいる。ちょっと羨ましい。

 ぶら下がっている私を見て、飛ぶ事が出来ないのを理解したのか、そのまま地上に下ろされる。変な所で優しい奴である。でもそんな配慮をしてくれるなら告白は止めて欲しいなぁ!? 

 

 

 

「……そこまで嫌か? それなりに儂もててるんだが……」

「知らないよっ!?」

 

 どうやらそこまでに嫌な顔をしていたらしい。大将もへこんだような顔になっている。ざまぁみろ。

 というかその発言……女でも侍らせてるんですか、このエロ親父!? 

 

「……わかったわかった、ならこれで妥協しよう」

「そもそも諦めてよ!?」

 

 心からの叫び、しかし無視される。

 が、そんな事を考えている頭も、次の言葉で一瞬止まってしまった。

 

 

 

「お主が儂を倒せたら、見逃してやろう」

 

「……倒す?」

「つまり一対一の決闘じゃ」

 

 そう言って、手を離す。

 

「強い者を探して、やっと見つけたんじゃ。実力を知らんでどうする?」

「……」

 

 なんなんだこの天狗。

 やけにかっこいい笑みを魅せやがって。くそ。

 

 ……しかし、この状況をよくよく考えてみなくとも、私は戦うしかないのである。

 周りには魑魅魍魎が居ない。恐らく私達にまだ追い付いていないのだろう。

 

 だが、全速力で逃げたのにも関わらず、この天狗の大将には簡単に捕まったのだから。再び逃げても結果は変わらない。

 結局捕まるだけだろう。さっきみたいに。

 

 ……だからといって、ここで戦わずに妻となるのも嫌だ。

 男と女の経験値で言ったらまだ男の方が上なんだよ!! というか、どちらにしてもこんな爺言葉を使う相手と結婚は嫌だ!! まだ私若いし!! 

 

「……わかった。っていうか『戦う』ってしかないじゃん、私の選択肢」

「まぁ、そうじゃな!」

 

 本当に腹が立ってきた。何なんだこの天狗は。

 いいからそのニヤケ顔をやめろ、腹立つ。イケメンなのが余計に。

 

「では、儂は名は『天魔』……お主の名は?」

 

 え? 名前? 私の? 

 私の名前は色々と弄られて、トラウマだから嫌いなんだよね。

 なら、いっそのこと違う名前で過ごそうか。ちょうどいいし、変えよ……えーと、名前……名前……。

 

 ……簡単には思いつかないね。

 いいや。めんどくさい。

 

「名前はない。生まれたばかりだから」

「ほう。では儂の妻となった暁には、儂が名前をつけてやろう」

「ごめん被るわッ!!」

「はっはっは! いざ、勝負!!」

 

 そう宣言すると同時に、大きく翼を広げる。

 私はすぐさま後ろの木に向かって跳躍、更に跳ね返ってスピードを上げていく。

 天狗……いや、天魔は翼を広げるとかなりの大きさになる。さながらどこかの鷲や鷹のような。

 

 ……いや、あれでも随分小さく見えるね。元々天魔自身が大男みたいな体格だしさ。

 それに比べて小柄な私は狭い木々の間も、通り抜けられる。これは良い点を見付けれた。

 広い所だったらすぐに負けてしまうだろうね。あっちの方が通常は早いんだし。

 

 その間にも私は『衝撃』を操り、速度をどんどん加速していく。

 先ほど逃げた時よりも、数倍速い速度に。まだ私自身すら見た事の無い速度に。

 天魔もそれに合わせて移動しようとしているが、何分身体の大きさでうまく動けていない。木々が彼を邪魔してくれる。

 

 その隙を狙う!! 

 

「喰らいなぁ!!」

「グッ!?」

 

 加速分のエネルギー + 私の体重 + 『衝撃全反射』のとび蹴りだ!! 

 そのキックを腹に喰らい、ガードも出来ずに思い切り吹っ飛んだ天魔は、大木に当たって漸く止まった。

 無論、その木は折れた。あの巨体を受け止めただけでも凄いものだと私は思う。

 ……そもそも、あれだけしかダメージを与えれてないというのが結構ショックだ。

 本人も、まだまだピンピンしてるし。

 

「ハハハ、流石じゃな……」

「……諦めてくれた?」

「何を。まだまだじゃよ!」

「……はぁ、そりゃそうよね……」

 

 そう言って懐からよくある天狗の必需品、羽団扇を取り出した。

 その羽団扇を単純に私の方に思い切り振った。風でも扇ぐかのように。

 

「ふん!!」

「……? ……ッ!?」

 

 始めは何も起きていなかったと思った。そもそも何も見えなかった。

 そして、何も起きなかったから次の攻撃の為に、衝撃を弄ろうとして動いた瞬間に気付いた。

 

 自分の能力が、何かの衝撃を封じている。無意識の能力発動。

 そして、その能力が働いている部分、右手の二の腕辺りががざっくりと斬られている。少なくとも戦闘中にもう右手は使えない。

 ……指先が既に痺れかかっているし。服なんて肩から既に切れて落ちている。

 

「……随分とグロイ事をするね……」

「切り裂くは鎌鼬の専門、と言うわけでもなかろう?」

 

 そのドヤ顔がむかつく……! 

 兎にも角にも、行動しなけりゃまずい。あの羽団扇は危険だ。

 

「ほれほれ!」

「うわっ! っと!!」

 

 羽団扇をこっちに向けて楽しそうに振る天魔。

 真空刃(?)か何か解らないけど、とりあえず避けないと真っ二つになる。

 この見えない刃によって周りの木がどんどん伐採されて行く。それはつまり私の足も無くなってしまうという事。衝撃を方向の精度がまだ甘い今、真横の衝撃を操るのに適しているのは樹だけだから。

 邪魔者の木も無くなって、天魔にとっては良い事尽くめになっていく。

 それを阻止する為に、私も風を操るしか、ない! 

 

「喰らえ!!」

「ほう」

 

 起こしたのは小型の竜巻。

 大きさとしてはちょうど大人一人が入るほど。中は風で巻き上げられた砂や草、土くれ等で何も見えない。

 入り込めば身体中を石や風圧・気圧等で切り裂かれて出血死する、私の今のお気に入り。

 作るには結構な集中力が必要だけど……まぁ、それも仕方無い。私が弱いのが原因なのだから。

 

 そんな私のお気に入りも真空刃が衝突すると分解される。

 真空刃も消えるから、防御としてはいいんだけど……。

 

「流石は鎌鼬、かの?」

「なんで疑問符!!」

 

 ……追い込まれている。

 団扇を振るだけで風が起こせる天魔に比べて、私はわざわざ『能力』を使って竜巻を起こしているのだ。

 消費が激しいのは当然こちらの方。精神が持たなくなるにつれ、肉体疲労も重なってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……くっ!!」

「なんじゃ、もう終わりか」

 

 精神はまだいける。けど能力酷使の影響で肉体が持たなかった。

 私は遂に地面へと膝を着き、倒れかけていた。

 息をするたびに切り裂かれた右腕が痛む。心臓が張り裂けそうだ。身体もやけに熱くて動かせれ無い。

 

「ハハハ……体が、動かないや……」

「そうなのか? まぁ、儂の屋敷でゆっくりと休め」

「……嫁は、嫌だって言ってるじゃん……」

「負けたのはお主じゃろうに。諦めよ」

 

 ……負けた? 

 これで終わっていたらそうかもしれない……。

 けど! まだ終わってない……!! 

 

 近付いてきた天魔が手を伸ばす。その身体は隙だらけだ。

 強者がもっとも油断するのは敵を蹂躙し尽くした後とは良く聞くけれども、確かにそう通りなのかもしれない。私を手篭めにしたいのならば、気絶した後にすれば良かったのにね。

 ……自分で考えて、物凄くげんなりした。吐き気がした。というかちょっと戻しそう。

 

 思いっきり、息を吸い込む。空気を吐き出そうとする肺が、心臓が痛い。

 辺りの空気を吸い込む。天狗に風が操れて、私が風を操れない訳がない。

 

 これでやめてしまったら、終わってしまう。それは嫌だ。そんなのは嫌だ。

 だから吸い込んだ空気を、吐き出す。

 

 

 

 私がこの世界に入ってきた時、私の身体は『風』の状態だった。

 そしてその時、私は私自身に起きた現象が全く分からず錯乱していた。

 まぁ、今となってはそれも仕方ない事かな、なんて思うけれども、その時を様子を事細かに思い出してみると『あれ?』と思うような現象が幾つかあった。

 その時に起きた現象の1つとして『大声で雲を吹き飛ばした』という事があった。

 

 あの能力を自覚して発動するなら、果たしてその威力はどれだけのものになるのだろうか? 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

「がぁっ!!?」

 

 私を中心にして、地面に(さざなみ)が出来る。

 木々は揺れ、天魔の耳を押さえうずくまってしまう。それほどに大音量。

 天狗はもともと空を翔る妖怪だ。三半規管とかはかなり繊細な筈。人間に喩えたらの話だけど。

 空気に伝わる衝撃音を今出来る限界まで強化したのだ。これで倒れなかったら私の負けだ。

 私は当然の如く能力で耳をガード。これぐらいならまだ使えた。

 けど、それも限界。

 

 そしてこれが、最後の〆だ。

 

 耳を押さえて未だにうずくまる天魔に、私はふらふらになりながらも近付く。

 その事に彼は気付きもしない。余程耳が大変な事になっているのか。

 そして、その頭に血だらけの右手を置く。

 漸くその感触で、私が超至近距離まで近付いていた事に気付いたのか、表情はかなり驚いた顔だ。ふふん♪ 

 

 何かの行動をされる前に、能力発動。

 

「……私の勝ち、だね……『ショックを受けろ』!!」

「……カハッ……」

 

 天魔、撃沈。

 彼の心に、今の私が出来る最大限の負荷・衝撃を与えた。

 身体を蹴っても反応なし。完璧に気絶している。

 

 そうして私も顔を上げ、いつの間にか周りに集まった妖怪、魑魅魍魎に確認する。

 ……多分、私の咆哮で漸く位置を把握して来れたんだろうね。息を切らしてるし。

 

 ……ま、そんな事は……どうでもいいや。

 

「……私の勝ちで……いい……よね?」

「……ああ、アンタの勝利だ」

「ッ、そう……よかっ……た……」

 

 そして私も気絶。

 右手の大量出血及び精神の消耗・肉体全身の切り傷と疲労だ。

 せめて此処から逃げたかったけど……それも持たなかった。

 視界が暗転。もうどうにでもなっちゃえ。アハハハハ。

 

 

 




 
 2021年6月22日 文章整形

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