風雲の如く   作:楠乃

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 三ヶ月と5日遅れだぞ馬鹿野郎()
 正月とかいう繁忙期なんて○びれば良い()









東方眚輦船 その3

 

 

 

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 詩菜さんの、初対面での印象はとにかく……最悪でした。

 

 私の家系……巫女、妖怪退治屋として、妖怪は悪で、必ず滅さなければならない。

 そう信じて生きていて、事実それまでそうやって対処してきたから……友人がいる、学校という私が守るべき場所、守りたいと思える場所に現れた以上、見逃す事はできませんでした。

 

 私の日常を脅かす、(妖怪)

 堂々と現れたそれに対して、私は果敢に挑み……そして言霊一つで敗北を喫しました。

 

 私が放ったお札は拳一つで消し飛ばされ、彼女の【勝てない】という言葉に衝撃を受けて、膝をついてしまったのです。

 

 今にして思えば、千五百年も生きた妖怪に対して、何も準備をせずに挑むというのは蛮勇と言わざるを得ませんし、その相手……詩菜さんの言う通り、慢心していたのでしょう。

 ……まぁ、幼馴染である彼に対して、ちょっかいを掛けていた、というのも私が目先の判断を誤ってしまった原因の一つでもあると思います。

 

 

 

 それから、私の住む守矢神社の神奈子様と諏訪子様が、詩菜さんと旧友であった事が分かり、私の認識の一部が変わっていきました。

 

 妖怪の身でありながら、信仰を受ける存在がある事。

 神様としての地位を確立しつつも、決して妖怪としての立場を捨てない者が居る事。

 

 幻想の者がその存在を亡くしてしまわないように、保護をしている里がある事。

 その幻想郷という地へ神社ごと移る事で、幻想の住人は存在を確立できるという事。

 神奈子様と諏訪子様は、その地でなければ、このままだと消滅してしまうであろう事。

 

 その幻想郷を管理している賢者と呼ばれている妖怪の、式神の一人が詩菜さんという事。

 その賢者に抗い、逃げ出してまで彼に逢いに来ていた事。

 

 

 

 詩菜さんが一体、どうしてそこまでして、彼に逢いたがっていたのかは知りません。

 けれども、人間と妖怪、あるいは神と人間、種族を超えた恋物語というのは、嘘ではなく実際にある事、幻想の話などでは決してないのだと、後に諏訪子様から聞きました。

 

 その話を聞けたのも、結局の所、八雲さんが怪しげな笑みを浮かべて、幻想郷へ移り住むまでの閑話として話してくれたから、諏訪子様からそういう事があると話を聞けた訳で……その話がなければたまたま詩菜さんが神奈子様、諏訪子様とお知り合いで、たまたま注目したのが私の幼馴染だった、という事で納得しきっていたかもしれません。

 

 詩菜さんが彼に対してどう想っていても、彼女が好みがそういう方向なんだという事で私の中で決着がつくのですが………………詩菜さんは、何か『そういう方向』じゃない気がし始めていました。

 そう感じ始めたのは外の世界、現代の街から幻想郷に移り住み、行く先々で詩菜さんの話を聞く機会が増えていった頃からでした。

 

 曰く、妖力が同じ年月生きている妖怪と比べても、六割程度もない。

 曰く、妖怪の山に元来居る風の神様、妖怪として恐怖、信仰を蒐めている。

 曰く、躁鬱の激しい気性。唐突に発狂したかと思えば、やたらアンニュイな日も多くある。

 曰く、幻想郷の賢者である八雲紫の式神の一人。道祖と由来不明の式神。

 

 曰く、古いあだ名が『鬼殺し』で、能力を生かし、力には力を返して征してきている。

 曰く、人間と妖怪の間に立つ妖怪の、『中立妖怪』。

 曰く、撹乱に陽動煽動、救援に撤退戦を率先して行う、逃げの裏方参謀役。

 曰く、気分が高揚し、妖怪に近付けば近付くほど瞳が紅くなり、人に近付けば黒くなる。

 

 

 

 妖怪のようでいて人に近く、ヒトでないように見えて妖怪にも近からず。

 外の世界での常識どころか、この幻想郷の地でもあまり通用しない────そんな詩菜さんの事を『理解不能』と呼ぶ風潮が、いつしか流れ始めていきました。

 

 自分自身のやり方や流儀はあくまでも変えず、それでいていつの間にか他人との足並みを揃えて行動し、気付けば相手を手助けしている。そしてあっという間に離れ始めていく。

 

 

 

 その、何処か────既視感のある、その性格。

 

 私がよく知っている、その捻くれ方。

 

 そして今、数年前のゲームの技を、当然のように使い切ってみせた。

 慣れたように、私の霊力を織り交ぜるというアレンジまでして。

 当たり前のように、そうするものだと分かっているように、私へあの宣言までして。

 

 

 

 そもそも、詩菜さんがどうして彼に逢いたがっていたのか。

 諏訪子様は、「よくある話だけど……まさか知り合いが『それ』になるとはね」と言いましたが……果たして本当に『それ』で収まる話なのでしょうか?

 

 何か、見落としという程でもない……聞き間違いのようなすれ違い……。

 愛や恋物語、とするには何かが違う……あの時の彼と、詩菜さんをよく知るようになってからは、そう感じます。

 

 

 

 だから、今の彼女の印象は……何処か見覚えのあるような、ないような、

 悪神ではあるけれど、でもそれはそのままのような────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 以前に、妖夢に使った《圧縮『ベクターキャノン』》からは、相当威力を落としたつもりなんだけどなぁ……。

 

 直径2mほどのレーザー砲(実際は圧縮した空間を一方向へハジケさせてるだけなんだけど)は一輪、雲山を巻き込み、雲を一閃した跡を残して消え去った。

 少なくとも、彼女達の姿は何処にも見えない。

 

「……やっぱ、威力強すぎかなぁ……」

 

 本格的に弾幕ごっこへは使用禁止を考えないといけないかもしれない。

 元より私のオリジナルとは言えない技だし、封印も仕方なしといえばそうなんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 そこまで考えた所で、やけに早苗が静かな事に気付く。

 

 

 

「早苗?」

「……詩菜さん……先程の技は……?」

「ああ、知ってるんだっけ? ベクターキャノン」

 

 そうそう、私が知っている事は『彼』も知っている事だし、知っているんだったら、それを早苗に教えてても知っててもおかしくないって話だった。

 

 んー……まぁ、『彼』の家で見た、という事にでもしておくか。

 私が居たからか、あの夏休み中にゲームした事はほぼなかったけどね。

 

「いやぁ、威力をかなり落として調整したつもりなんだけど、やっぱり貫通力がえげつないみたいだね」

「……」

 

 威力調整中だったものを打ち込まれて、よく妖夢は無事だった、という事なのかな。

 そういえば二刀とも出してたし、捌いたが捌ききれなかった、というのが事実だったり? もうだいぶ前の話だけど。

 

 

 まぁ、閑話休題。

 

 そんな感じではぐらかしてみても、この巫女は一向に動こうとしてくれない。

 うーん、ANUBISって、そんな彼女を呆然とさせるような何かかな?

 

 

 

「どうしたの?」

「……いえ」

 

 訊いてみても逆にはぐらかされる状態。

 私が知らなくて、早苗と『彼』の間で何か特別な何かでもあったのかな?

 

 そうなると何も知らずにブチかましちゃったのはちょっと不味かったかねぇ……?

 その割には、私の『撃てます。』に反応してたし……ロマンっていうのは分かってそうなもんだけど……まぁ、どうでもいいか。

 

 

 

 何はともあれ、早苗の再戦という形にはなるけど、私達を遮った一輪と雲山は倒した。

 後ろを振り返れば、少し離れた所に空飛ぶ船が何処かへと飛び去ろうとしている。

 

 一輪が欲しがっていた何とかの破片がどういうのかは知らないけれど、あの二人が船を守っているって事は、多分あの船に皆が乗っているんだろう。

 誰かさんの思惑が私の予想通りならば、精算するべき場所があそこにあるだろうし。

 

 

 

「早苗、何はともあれ、あの船に向かおう」

「へ、あ……はい」

「んもう、勝ったんだし、もうちょいシャッキリしなよ」

「いえ、直接的に倒したのは詩菜さんですし……」

「早苗が完全に避けて制御も完璧にしてくれなけりゃ、あの攻撃も成立しなかったのに?」

「……それとはまた別ですよ……」

 

 そう言いながら、早苗はゆっくりと方向を転換して船に向かい始めた。

 ……何でもないようにゆったりと宙を浮いて、何でもないように空を飛ぶんだから、幻想郷の少女はとんでもないよねぇ。

 

「私は、詩菜さんが来なければ負けてしまってましたから……あの時点で諦めてましたし」

「ふぅん……? その割には、私が煽った時は反骨してきたけど」

「あれは、まぁ……詩菜さんが悪いですよ」

「いやそりゃあ、人間的、善神的にはそうだろうけどさ」

 

 どうも早苗が落ち込んでたから発破をかけるつもりではあったんだけど、まぁ、若干狂気側に寄ってたから、堕ちても良いかな、とは思ってた。

 

 気分が割と最悪な方だったからねぇ……まぁ、たったそれだけの理由で悪意を振り撒いた訳だし、何だったら彼女に退治されてもおかしくないんだけどさ。

 

 

 

「……そう言えば、いつの間にか雰囲気が戻ってますね?」

「ん、まぁ、ね」

 

 妖怪を倒すのが人間であるなら、私の妖怪(悪魔)側を倒して、人間側を強めるのが巫女の仕事なもんだろう。多分。

 ……まぁ、早苗に当てられて気分が戻ったなんて、恥ずかしくて言えないけど。

 

 

 

 それに、よくよく考えてみれば、永遠亭の時に一応は釘を差したのだから、早々にあの賢者が約束を反故にする事はないんじゃないか、という事にも気が付けた。

 あのお姉ちゃんが、過去に巫女と結託して私をブチ切れさせ、それを真剣に謝りに来た事があるにも関わらず、あれとまるで同じ事柄で私を怒らせる理由もない、と思う。

 

 私の直感について詳しく知っていて、かつ、ソレに直接影響を及ぼせる能力の持ち主────という可能性に気付いたからと言って、犯人扱いしてしまうのは流石に短慮すぎた。

 

 まさしく、そう思い込んでいるだけ、のような気がしてきた。

 これは多分、人間寄りの思考になった(早苗のお陰で、だからから)

 

「……まぁ、船に乗れば目的地も乗員にも会えるでしょ」

「? そういえば、さっきの大入道は知り合いなんですか?」

「ん、まぁね……ちょっとした繋がり」

 

 本当にちょっとした、で言い切ってしまって良いのかは、分からないけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 意外にも船の速度が早く、早苗単体の飛行能力だけでは船に追い付けないという事が分かり、私の操る風でのブーストによって、ようやく船に追い付いた。

 

 まぁ、相も変わらず妖精達は私達に対して弾幕を放ってきたけれど、私の技術の伝授、もとい洗脳が効果をまだ発揮しているのか、早苗が難なく避け切って妖精達を撃ち落としていった。

 

 ……私、今は完全に追い風しか、吹かせてないんだけどなぁ……。

 あっきらかに飛翔の精度が上がっているというか、むしろ一輪の弾幕を避けてた時よりも巧くやっている気がする……。

 

 

 

 そんな事を思いつつ、早苗の首に腕を回し、必死に振り落とされないように力を込めつつも、ターンやループなどの早苗のドッグファイトに合わせて、風の向きを細かく微調整していく。

 

 一秒の内に何度方向転換をしてるんだ、とか、そんな急制御を人間の生身で一体どうやってやってるんだ、とか、まぁ、色々と思わんでもないけど……何はともあれ、今は私の操る風で強く背を押すだけだ。

 

 

 

 そうして船から追い返そうとしてきた妖精達を一通り撃破(一回休みに)し、安全を確保して船にようやく降り立った。

 ようやく早苗から降りて、しばらくぶりに地に足をつけた。なんか茶緑色をしている甲板に素足で降りるのはアレだけど……。

 

 

 

 さてさて、船内には……。

 

「あの家屋っぽいのから、船内に入れるのかな?」

 

「……詩菜さん」

「ん?」

 

 特に何も考えず船内へ向かおうとして、早苗の落ち着いた声で止まって振り返る。

 見上げれば、何やら申し訳無さそうな顔をした少女。

 

「……やっぱり、私、これ以上進むのは止めときます」

「あらま……なんでまた?」

 

 いや、まぁ、大体は察し付くんだけどさ。

 

「私は……やっぱり負けましたから。妖怪退治にも宝船探索にも、異変解決としても、これ以上深入りはしないでおこうかと」

「ふぅん……? まぁ、負けてないと言えば負けてないと思うけど?」

「あれは、確かに私の本音ですけど……でも、今回は私一人ではありませんでしたから」

 

 私の誘い(洗脳)を跳ね返したあの渾身の叫びを指摘しても、恥ずかしそうに照れ笑うだけで、どうやら意思を変えるつもりはないらしい……察した通りの理由だ。

 

 それならそれで……まぁ、私も別に進む必要がある訳ではない。

 船を止める理由が私にはないし、何だったら彼女達を助けようと手助けしても良いくらいだ。

 とは言え、私の直感に対する直感による、誰かの思惑というのを感じないでもない。

 

 それに、船が私が見たビジョンの場所へと進んでいるとして、その場所はまだ何処にも見当たらす、まだまだ道中なのだろうという事。

 先程から素足の裏から感じる振動の奥底で、船内で戦っている気配が、『二つ』ある事。

 

 

 

 ………………ふむ?

 

 

 

 

 

 

「────それなら、ここでしばらく待とうか」

「……はい?」

「何だったら船が到着するまでの間、もう少し風祝に風雲の使い方を伝授してあげよう」

「……え?」

「なに、気にするな。人形遣い風に言えば相互扶助というものだ」

「え? 人形遣いってアリスさんみたいな? いやいや、そうじゃなくて……」

「私の妖力はヘッポコだが、術式に関する事なら一通りは教えられる。これも幻想郷の魔女からのお墨付き付きだ」

「ええ……?」

「とりあえずは、そうだな……私が一応得意とする結界術についての講義から始めようか」

「えー……────ええぇ!?」

 

 床に座りながら、私渾身の仮設神域展開結界術を展開したら、これまた予想通り驚いてくれた。

 

 妖精が内側で復活しないよう、それと、外部からの攻撃に対しての防御も兼ねた結界。

 

 信仰、人身御供、区域を区切る鳥居、神職や神官も必要としない。

 必要なのは本体の私と、結界を維持し続けるための神力のみ。

 

 

 

 そうして出来上がるのは、神社での祭神の目前に御座すかのような、濃密な異空間。

 

 

 

「中から異変解決のエキスパート達が出てくるまで、しばらく講義でもしてあげようじゃないか」

 

 

 

 




 


諏訪子様「よくある話だけど……まさか知り合いが『それ』になるとはね」
神奈子様←どの口でそんな事を言っているんだという目

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