真面目にそういうごっこなのだけど、そういう曲が苦手or嫌いな人はすまん。
でも今は人が歌ってるのもありますから、知って聴きながら読んでくれると嬉しいです。
タイトルの4は、指数えごっこじゃなくて曲名です。
詰めていた息を吐いて、肩の力を抜く。
視線を一点に集中していたからか、ストレッチも相まって視界が一気に開けていく。
椅子に深く腰掛け、脱力して背凭れに首を預けて脱力すれば、身体が溶けていくように血が流れているのを感じる。
目を閉じて、全身の力を抜いて、……もう何だったら鎌鼬化すれば全身のコリも溶けるんじゃなかろうかと思わなくもない。
「……そこまで気を張らないとできないの?」
「……私の実力知ってるでしょうに。操作範囲外のものは基本的に触れないのよ」
「目の前のものすらのレベルなの……?」
何やら縫い物をしていたらしいアリスからそんなお小言を言われたけれど、苦手なものは苦手なのだから仕方がない。
地底のあの術式だって、魔術式そのものは昔から作っていたものだけれど、それを状況に合わせて運用できるかどうかと言われたら無理の一言なのだから。
そもそも根本的に、能力や術を身に着けてない人間が言う念力や超能力と同じレベルで、遠くにある自分の力が操作できないのを、何とか克服しようとしているのがこのフィギュア作りという鍛錬なんだから、疲れなきゃ鍛錬じゃないでしょうに。いちごたんめーん。
そんなことをグダグダと考えていると、彼女にしては珍しく物凄く躊躇いながら声をかけてきた。
「────ね、ねぇ?」
「ん〜?」
「一つ訊きたいことがあるのだけど……」
「何だい改まって……あ、私への依頼?」
「いえ、違うけど」
「違うんかい」
そうツッコんで閉じていた目蓋を開けば、まだ慌てているような感じのアリスが居る。
彼女にそこまでされながらも訊かれるような事あったかしら……? いや、あったわ。私の本質とか。むしろついさっきあった。
まぁ、でもさっきは「やめておく」なんて言い切ったし、多分それ関係ではないと思うんだけれどねぇ……?
そのまま胡乱げな視線を飛ばしていると、一つ息を吐いて決心したらしいアリスが質問を投げ掛けてくる。
「彩目、って、貴女とどういう関係なの?」
「いや、娘だけど」
「………………本当?」
なんでそんな絶望したような視線をされなきゃならんのか、私が訊きたい。
まぁ、確かに見た目はもう完全に違うし、彼女がどちらかと言うと霊力主体で戦うのもあるだろうし、日中はほぼ人里で暮らしているようなもんだしねぇ。
以前人里で私がガキどもに指数えごっこ教えた時には、半妖とは言わないまでも、
ああ、いや、そもそも異変の解決に彩目も何度か動いているんだったら、純正の人間ではないってことは分かっているのかな?
……そもそも人間にしたって身長がでかすぎる、ってのは、まぁ、あるだろうけどさ。
「似てなさすぎじゃない……本当に親子?」
「ああ、そういう意味? そういう意味なら、私は妖怪の親であって、その子の親ではないよ?」
「……っていうことは……」
「私が人間のあの子を妖怪にした親。その問題については、1300年前に解決済み」
「……」
そう言い切れば、何とも言えない感じでこちらを見てくる。
まぁ、今の幻想郷で言えば大罪に間違いない。人間という種が減るのも問題だし、倫理観的にも大問題だし。
むしろ、私としては解決した千三百年前に出来た因縁に振り回されてばっかりで、そっちをどうしたものか……という感じなんだけどねぇ……。
いや、先日のは私が単純に罪悪感で押し潰されているだけなのは分かってるけど、分かってたからってどうにでもなるもんじゃないだよこれ。
……まぁ、今はそんなことはいい。これは私の問題だ。
今はアリスと話していて、彩目についての話題なんだから。妹紅のことは置いとけ。
「それで? 誰かから何か聞いたの?」
「……ああ、いえ、聞いた訳じゃなくて、その、永遠亭に泊まっていたでしょう? その時にたまたますれ違って……どうして来ているのかと思ったのだけれど」
「なるほど」
じゃあ、結局人里で私との関係の話は広がってはいないのか。
別に隠しているつもりもないけど、確かに誰彼構わずに話している訳でもないしね。
「……それにしても、本当に親子? 能力も似通ってないじゃない」
「んー、彼女が能力を身に着けたのは確かに半妖として生活し始めた頃だったけど……まぁ、鎌鼬としての刃が能力の性質に掛かってるんじゃない?」
確かに、そう言われてみれば私の本質が、彩目にはそれほど影響されていないように見える。
本質を自覚する前と後で、その影響力が変わっている?
あるいは、私にすら隠し切るレベルの何かが、彩目の中にある?
入力した血が、発狂しているタイミングの為に属性が変わった?
……まぁ、今更何を考えても、当時のことはもう分からない。
今現在まで隠している何かがあるというのなら、それはもう気付いてもそっとしておくべき事だろう、多分。
彩目が気になるというのなら、アリスも人里で活動することがあるのだし、それなりに知り合っていると思うんだけどね。
「アリスも人里で人形劇をするぐらいだし、そういうとこまで話してそうなものだけど」
「……あの寺子屋の先生と同じ、半人半獣としか知らなかったのよ」
「あー、その部分までしか話してない、ってのはわかるけどさ……まぁ、人里であったらよろしくしてやって」
「……本当に親なのねぇ……」
「まだ言うか」
彩目ねぇ……あの子もいつになったら指数えごっこ解いてくれるのかしら……。
それでアリスが訊きたかったことは終わりらしく、また黙々と手芸をし始めた。
……どうやら人形の服を作っているらしい。器用なものだ。
▼▼▼▼▼▼ 本題
彩目のことでふと思い出し、ぶらりと垂れ下がった左手で、椅子の座面を指で叩く。
頭の計算でも久々にするとでもしよう。
アリスの邪魔をする気はないので、
はじめのフレーズを親指から数えて叩く。8。
その次のフレーズを薬指から数えてまた叩く。
そういえば初めてのボカロはこの曲だった。
まぁ、英語や数字も多いボカロの曲はテンションも高いし、遊びがいがある。
Aメロが終わった時点でアリスがこちらを見た。
アリスに構わずBメロに入り数える。
一切音を出したつもりはないし、指しか動かしてないんだけど……まぁ、人形からの情報とかもあるか。
「何してるの?」
「凝り固まった頭のトレーニング。
「はい?」
「以前彩目にも教えたんだけどさ、どうもあの娘は頭が固い。
「は、はぁ……?」
「縛られすぎ、というべきかな。
喋っている間にサビに入ってしまった。
というか、こう考えているだけでサビも終わりそうだ。
「法則だけ考えて、本質が見えてない感じ。
「……さっきからその数字は何?」
「ん。歌詞を数えてる。今は間奏部分」
「……ちなみに、タイトルは?」
「メルト」
「……外の世界の曲?」
「そう。知ってる人がいると少しまずい。いやまずくはないか。
「……そう」
また呆れた視線をこちらへ投げ掛けてくるアリス。
別に叩いているだけなのになぁ。
しかもその動かしてる指が見えているわけでもないだろうに。
「……音が出ないせいで余計気になるのよ」
「そうなの?
「その数も気になる」
「じゃあ歌う?
「歌う? 歌いながら数えてるの?」
「これ、『指数えごっこ』って名付けてるんだけどさ。
「へぇ。貴女が作ったの?」
「思い付いたのは1400年以上も前だけどね。
「……貴女、何歳だっけ?」
「1447歳。
歌いながら数えるぐらいは何万回もやってるけど、それを人に見せるのは初めてかな。
どうせだったら何か伴奏も欲しいんだけど、流石に伴奏しながらはキツイかな?
まぁ、どんな楽器でも引けた記憶がないから、能力で鳴らすしかないんだけど。
変声と同じ要領でやればうまくいくとは思うけど、ぶっつけ本番は少し怖い。
と、言うか、既にCメロまで入ってるのに、今更止められても困ると言うか。
「私の声だけあってもアレだし、何か楽器とかない?
「楽器? 弾けるの、貴女?」
「それっぽく演奏するだけ。
「はぁ……少し待ってなさい。ていうか500まで行ってる……」
「いや、やろうと思ったら全部私で歌ってみた、的なの出来るけどさ?
「全部私……?」
「流石に初耳、初聴の人相手にそれはしないさ。第一印象ってのがあるでしょ。
そう返すと、「まぁ……」と納得しようなしてないような顔をするアリス。
部屋の反対側から取ってきたのは……ギター、かな?
「これでどう?」
「んー……」
楽器にも詳しくない私は、このギターがどういう種類のものなのかは分からないけれど、弦を弾いて
────ギター、ドラム、ピアノ、電子音。
水が垂れる音、意図的なノイズとかはまだ再現が難しいけれど。
……なんだろう。初めてなんだけど、そんな気がしない。
バックコーラスは数えないこととする。
また、三点リーダはすべて『…』を一文字と数え、『……』と扱う。
途中でいきなり弾き語りになっちゃったけど、まぁ、やっぱり原曲がないと乗りに乗れない。
そんな感じで余韻に浸ってたら、アリスがキョトンとした顔で問い掛けてくる。
「………………え、終わり?」
「
「ええ……最初からやれば良いじゃない?」
「言っておくけど、これは私の鍛錬であって演奏会じゃないからね?」
そう言えば、「ああ、そうだった」と虚を突かれた感じの人形遣いさん。
とは言え、私も中途半端に途中から伴奏ありなのは、なんだか不完全燃焼だ。
弦を爪で弾き、到底楽器では鳴らせないような、アンプに接続した時の音を鳴らす。
続いて電子音、その後ろからゆっくりと近付くギターとドラム音、
そしてそれらが一気に花開いて、私の声とピアノの旋律。
「♪〜、♪♪〜、♪〜、♪♪♪〜、────────────
▼▼▼▼▼▼
もう一回歌い切って、私は非常に満足。
いやぁ、自力で完全に伴奏も出来るとは思わなかった。完全に覚えきっているっていうのもあるんだろうけど。一発目で自己満足できるものが出来上がるとは思わなかった。
そんな感じで聞いてくれていた人形遣いにようやく目を戻してみれば、ゆっくりと拍手をいただく。
「すごいわね……外の世界ではそんな曲が流行っているの?」
「流行っている、というのはちょっと違うかなぁ。一部の界隈への人気の火付け役にはなったかもだけど……ああ、ていうか、それ以上私に訊かないでよね。流石に式神が外の世界への煽動は不味すぎる」
「それもそうだけど……あと貴女がそんな甘酸っぱい曲歌うとは思わなかったわ」
「うるせぇやい」
私は比較的恋愛ソング好きだぞ。悲恋からヤンデレまで、テンションが高くなるならだいたいOKだ。多分。
発狂してる私には似合わないという意味だろ。知っとるわい。
「……それで……結局、その彩目? にも教えたごっこというのはどういうものなの?」
「おっと」
途中から完全に忘れて数えてなかったや。
いや、人間だった時にリコーダーすらまともに演奏できなかった私は、もう伴奏が自分自身で出来るってことに感動しちゃってねぇ。
「元々は私が歩きながら考えてた遊びなんだ。思っていることを数える、って感じなんだけど……まぁ、彩目への教え方が悪くて、答えから法則を導くような問題を出してね。今現在も解けてない」
「……1300年以上も?」
「あ、教えたのはつい数ヶ月前」
「ああ、なんだ」
「ちなみに勇儀に同じように出題したら10分も掛からずに解いちゃったよ」
「………………彩目」
アリスもなんだか遠い目をしてくれたけど、まぁ、計算式をそのまま伝えれば「何だ、そんなことか」と言われること間違いないな簡単な法則なんだけど。
「ん、ありがと。返すよ楽器」
「……いいわ。あげる」
「へ?」
「対価よ。演奏の対価」
「────ふふっ、なるほど。それじゃあ、ありがとう」
私の知ってる範囲で完全に解ける人は二人居るから、検算は任せた!
いや、数える遊びだけど、歌は流石に数え間違いがしょっちゅう起きるんだ(言い訳
追記 2020年2月2日 午後4時28分
やっぱ間違えてたので修正。