あけましておめでとうございます(殴
今回試験的に特殊タグを使用してます。良ければ今後も使うかも。かも?
「そういえばさ、萃香は今も分身してるけど」
「うん?」
「その時の意識って、どうなってるの?」
「意識って?」
「あ〜……例えば、本体の萃香がここに居て、分身体の萃香が一斉に継目を作ってたりしてるけど、それは全部本体が命令している訳じゃないでしょ? ある程度の意識や判断能力が必要だと思うんだけど、それは全員に付与してるの? それとも元からある意識を分けてたりするの?」
「ん〜、多分それは分身の方法にもよると思うけど……とりあえず私は私だし、どれもがそれぞれに意思を持つけど、萃香じゃないなんてことはないよ」
「……つまり?」
「わっかんないかぁ……
────良いかい? 詩菜が言う、分身が出来る存在っていうのは、それこそ『分身が出来て当然』なんだよ。自分が複数いることに疑問を持たないし、その自分がどういう存在なのかなんて、まず考えない。むしろ、分身が出来ない方がおかしい。後天性の何かがない限り」
「……うーん、その理屈は分かるんだけど……」
「あー……分かりやすく言うなら、そうだねぇ……右手があるのに左手があるのは何故か、なんて考えたことはある?」
「それは……ないねぇ……」
「だろう? ……詩菜は確かに、性質としては分身が出来てもおかしくないだろうさ。変化や性別、意識の転換まで出来るんだから、理論としては出来ても良いかもしれない。けど──」
「──分身した自分の事を考えてしまう時点で、才能がない、と?」
「才能、というよりも、根本的に向いていない、かな……自分を信じられない奴が複数居た所で、自分を信じられないなら、分身した所で意味ないでしょ。信じられない自分を仲間だと思えないんだから」
「あー……まぁ……」
「自己の確立が出来てないのに、分身なんてするもんじゃないよ。
────特に、お前みたいな、中途半端な奴は」
「……まぁ、ね」
「はぁ……そう言った所で、詩菜はやっちゃうんだろうけどさ。ほら、次の木材持ってきな」
「……あいあい」
▼▼▼▼▼▼
そんなこんなで、三日も経たずに家がリフォームされた。
……いや、まぁ、天狗や山の妖怪の力はほとんど借りていないのに、これだけ早く建て直せるのはおかしいと思う。
思うけれども、なんでか全行程があっという間に終わっていくんだよねぇ……何なんだろうね、このあり得ない建築スピード……。
まぁ、いい。
念願、と言うのはおかしいけれど、ようやく2階建てだ。
詩菜と志鳴徒の部屋も揃い、彩目と文の部屋も出来た。
……二階で寝るのは志鳴徒と私だけの筈なんだけど、なんで三部屋分もあるのかは、意図的に無視して考えないようにしよう。鬼め……。
まず玄関は南を向いている。
玄関の左隣にはすぐに濡れ縁があり、以前の大広間から横に二倍も広い居間に繋がっている。
元は客間──というよりもほぼ文の別宅みたいな部屋──があった場所も、その面積を全て宴会場として使わせてもらうことにした。
間にある襖を開けば、12畳と12畳の宴会場がくっつく、馬鹿みたいに広い部屋の完成だ。
……いや、流石にここまで広くしなくても良かったかもしれない。とは思う。
ちゃぶ台や座布団すらなかったら、マジで何もない部屋だもんなぁ……。
その隣の部屋、方角的には西方には物置が一つ。
まぁ、掃除して布団を敷けば、客を一人泊めれるぐらいには広い部屋がある。
……今度天子が泊まりに来たら、こっちの部屋を勧めてみるか。
一応、大きな荷物とかは基本的にスキマに保存だし、倉庫に突っ込む大荷物は今の所ないしね。
更にその隣、角部屋は彩目の部屋だ。
一階では一番玄関から遠い位置にある。
まぁ、8畳という広さで、あまり荷物がないのは娘としても女性としてもどうなのか、と思わなくもない。
……それこそ、雌雄の肉体を持ってる私が言うことではないだろうけどさ。
北東には、トイレ、浴室、洗面所、キッチンなど水場が固まっている。
前の家に比べれば、それぞれ少しずつ広くなっている。下手すれば彩目と共に風呂も入れるのではないだろうか。いや、多分そんな機会はないだろうけど。
……あれ……良く良く考えなくても鬼門の方向なのでは……?
鬼の仕業か……?
更にその隣、北方に位置する7.5畳という微妙な大きさの部屋は文の部屋だ。
私や彩目が荷物の移動を完了して、ようやく新居に慣れてきた所で、本当にようやく来た住人の一人は、いつの間にか改築し終わっている家で寛いでいる私達に向かって、
「何これ!!?」
と、久しく見ていなかった心からの大絶叫を披露してくれた。どうでもいいけど。
まぁ、良く良く考えてみたら改築するなんて話は一切通してなかったし、それに文の部屋を用意するなんて話も一度もしていなかった。
彩目も自分で提案しておいて、てっきり話は私の方から通しておいたのだと思っていたらしい。
「そういうの……普通、っていうか……どんな場合でも本人に話しておくのが普通……っていうか……常識でしょう……?」
と、心底呆れ返った状態の文が、茫然自失になりつつもそう言ってきた。
玄関から入ってこずに、わざわざ私達が寛いでいた居間に庭から来て大絶叫をし、それから濡れ縁に膝と両手を付き、髪の毛で顔を隠してしまっている程に俯いている訳だが……まぁ、そんな様子を見て、キョトンとした顔で彩目がこちらを向く。
それに合わせて、私もつい、首を傾げてしまう。
「だめ、だったか?」
「……違うわよ彩目。そうじゃなくて……常識で考えてよ。勝手に部屋って、作る……?」
「じゃあ、嫌、だった?」
「ッ……だから……」
相も変わらず顔を上げずに、フルフルと頭を揺らして拒否の意を示す天狗。
私達親子としては、もはや文は家族同然な訳で、そこまで何か拒否をされるとは、思ってもなかったのだから。
困惑した状態のまま、彩目を何度も視線を合わしつつも、動こうとしない文をずっと見ている内に、ふと気付いてスキマを少しだけ開く。
文に感知されないよう、風を通さないように結界を張りつつも、私達からは決して見えない位置にある文の顔を、スキマ越しに覗き見して────ようやく真意を汲み取る。
気付いてみれば、耳も赤い。ニヤニヤしながら彩目に耳を指して教えてやれば、安心したかのように溜息を吐いた。
それはそれを見ないと、そうと捉えれないだろうという辺りが、親に似て悪戯好きだと思う。
「まぁ……好きなように使ってよ。弟子なんて家族みたいなもんでしょ」
「そうだな。遠慮せず使っていけ。今更すぎて家族じゃないなんて言えんしな」
「……ッッ!」
その私達の言葉でようやく顔を上げて、睨みつけてくる文だけど……まぁ、幾ら本気で恨めしそうにねめつけられても、当然のように私達はニヤつきながら受け止めるだけである。
当の本人も見透かされたと分かったのか、怒りか何かで赤らめていた顔が更に濃くなっていく。
「ッ……良いわよ。好きに使ってやるわよ! アンタ達後悔しないでよね!?」
「やりすぎは流石に注意するからなー?」
そう言い吐き捨てて、用意された部屋へと逃げていく文。
当然私達は可愛らしいものを見る目で彼女を目で追っていく訳で、それも感付いているのか部屋に入った途端に、勢い良く引き戸が閉められた。
おいおい、鬼が作った妖怪の家とはいえ、本気で攻撃されたら跡形もなくなるんだぞ、と思わなくもない……けど……。
「……いやぁ〜、ういやつ」
「分かる」
「聴こえてんだからね!!?」
デジャブ。
▼▼▼▼▼▼
勇儀は私達の家の改築が終わった途端に、すぐに地下へと帰っていった。
結局、私の家で過ごした数日間の間、酒は一滴も呑まなかったし、何かを壊すということもなかった。
まぁ、誰かが家にやってくることもなかったし、騒動という騒動も、何かも起きなかった。
……多分、天狗が何か規制してたりしてたんだろうけれどさ。
そういう訳で、間欠泉の騒動も私が寝ている間に八雲と霊夢が締結させたらしく、萃香も勇儀もあっさり、地底へと帰っていった。
地底と地上との関係も、少し見直されるらしいとの話らしいけれど……これからどうなるのかは、私は詳しく知らない。知ろうとも、あんまり思わない。
勇儀とかの妖怪が地上に出てきやすくなるのだろうかね。
まぁ、地上に鬼が居た時代しか知らない私にとっては、別に何かを感じたりはしないかな。
勇儀との縁はある程度戻ったし……ん、何か別の鬼との約束もあったような気もするけど……何はともあれ、万事解決、と。
そんな訳で、いつの間にかそろそろ冬も終わりかという時期。
まだまだ雪は残っているし、春の兆しはまだまだ感じられないという所の季節に、また私はのんびりと徒歩で紅魔館へと向かっていた。
未だに雪は積もっているし、空は曇り空、雪は降ってなくとも気温は上がらないままで、相も変わらず霜が素足へと突き刺さっていく。高下駄という訳でもない普通に二本歯の下駄ならそりゃそうだという所。
まぁ、流石にミスティアとあった時のようなテンションではないから、流石にブーツ履いてこれば良かったと後悔している真っ最中なんだけどね。
……ミスティアで思い出したけれど、そういえば彼女とセッションしてから一ヶ月程度しか経ってないんだった。
なんか、人里での『中立妖怪』への依頼から、地底での騒動だとか、家の改築とかで、やけに長い時が経っているような気がする……。
ふと、あの時のフレーズが頭に思い浮かぶ。
どうしようもなく、自分は一人だという、悲しい歌詞。
感情を赴くままに吐き出しているような、激しい旋律。
……歌っているのはミスティアだったし、歌詞の内容も女性のものだったと思うけれど……まぁ、練習として歌う分には別に良かろう。
「あ、あー……いや、別に声を真似る必要はないのか……────〜〜♪」
つい咄嗟にミスティアの声を真似ようとして、そのつもりではなかった事を思い出す。
誰に聴かせる訳でもなし、まずは詩菜の声で歌い出す。
続く歌詞を問題なく思い出しつつ、喉の振動・衝撃を少し弄って、志鳴徒の声を再現する。
「〜〜♪ うん、出るな」「あ、あ……よし……「〜〜♪」」
まぁ、特訓という意味なら、詩菜の変化のまま、喉・声帯だけを志鳴徒に変化させる、というのが一番の練習になりそうな気もしなくもない。
とは言え、別に気分で始めたことだ。霜が刺さる痛みを誤魔化すための行動でもある訳だし、効率なんて気にしなーい気にしなーい。
そのまま、詩菜の姿のまま、詩菜の声、志鳴徒の声を出し続け、一人二役のデュエットという、中々訳の分からない状態を続けていく。
ぼんやりと霧の向こうに紅魔館が見えてきた。
まぁ、湖そのものはそこまで大きくもないし、元より半周に一時間も掛からない程度の大きさだ。私の能力を使って、
「……あ、あ、あー。うん。これも出るな……〜〜♪」
再度少し喉の調子を弄れば、問題なく『私』の声が出る。
まぁ、私の、というか、詩菜の声が少し低くなったかな、ぐらいの違いしか無いんだけどさ。
「あー、」「あー、」「あー……よし────〜〜〜〜♪」」」
問題なく空気の通り方、振動を能力で変えて、一人三役を達成する。
言うなれば女性二部・男性一部合唱という所かしら。まぁ、トリオと言えば良いんだろうけどさ。
ふむ、そう考えると、カルテットも試したくなる。
私で後は男性声となると、『彼』ぐらいしか無いのだけれど……それは志鳴徒の声とほぼ変わらないからなぁ……。
そうなると、真似の対象が私以外となるのだけど……それはそれで今後の練習とならなくなるんだよねぇ……うーん。
「「「〜〜〜〜♪」」」
まぁ、そんな事を考えながら歌っている間に、紅魔館の門が見えてきた。
私がのんきに歌って歩いてくるのを見て、目を丸くする美鈴が見える。
……そりゃあ、私の人格や肉体の事について、紅魔館では唯一知っている存在なのだし、そしてその事実を隠している事も黙認している人物でもあるのだから、私が堂々と『詩菜』『志鳴徒』『私』の声を使って歌っている訳なのだから、まぁ、驚くというか、呆れてもおかしくないというか。
「………………何してるんですか、詩菜、さん?」
「ん、ちょいと調整、おっと、間違えた」「あ、あ、うん。ちょっとした実験かな」
間違えて志鳴徒の声で話しかけるというミスをしてしまったけれど、問題なく元に戻す。
うーん、変化の延長線というか、発展形というか、それのせいか若干互いの影響を受けつつあるなぁ……ま、全然許容範囲なんだけど。
「……また魔術以外にも習得するつもりですか?」
「やだなぁ、元々持ってる技術だよ。一応」
「一応って、そりゃあそうでしょうけど……今まで一度も見たことのない技術なんですけど……」
「そりゃついさっきから練習し始めたし」
「……ついさっきから練習し始めた、ってレベルじゃないと思うのですが……」
「そう?」
元より変化する為の資質があるからこそのレベルだとは思うんだけどね。
……もしくは、気を使う程度の能力で、私の中の『何か』を見たのか────まぁ、今日はどちらかというとそれを聴きに来たようなもんなんだけどね。
「それで、本日はどのような用件でしょうか? ────パチュリー様から、何やら暴れていたという話は聞いていますが」
「暴れていたって酷い言い草だね……────確かにパチュリーにお礼とか挨拶する予定もあったんだけど、美鈴にも話があってね」
「私に、も?」
「そう。────気について、ちょいと話を聴きたくてさ?」
つい二週間ぐらい前に『指数えごっこ』を解き明かした人が居たので、解いてる人は私に声をかけるべき。
むしろ、積極的に声を掛けるべき。そうすると私のやる気が出る。超重要()