風雲の如く   作:楠乃

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 活動報告でのアンケートからのお題(一部)消化。
 まだ募集してるので物好きな方はどうぞ。

 あと一瞬違う話投稿しちゃった(テヘペロ






悪のっといこーる闇

 

 

 

 まぁ、問題は分離してしまった自分の粒子を探し出せるかどうか、ではなくて、

 

 小さくなった私に対して、間違いなく怒るであろう彩目にどう対応するか、何だよねぇ……。

 

 

 

 とか、考えつつも帰路に就いている私。

 幽香の庭は大分前に通り過ぎ、少し道を変えればすぐに人里へ着く辺りを、腕を組みながら歩いている。

 既に日は落ちて、妖怪の時間となりつつある。

 寧ろ夕焼けの時点で逢魔時か。どうでもいいけど。

 

 ……スキマを使って帰らないのは、ある意味、若返った私を詩菜だと気付かずに、どれだけ攻撃を仕掛けてくる輩がいるか、という実験をしている、という側面もまぁ、あるっちゃあるけどさ。

 

 

 

 自身を構成している粒子を圧縮したとはいえ、力の量は実際に少なくなっている訳で。

 その状態で、どこまで戦えるか、という実験も幽香の所でしたかったんだけどなぁ……あんにゃろうめ、笑顔で何も言わずに追い出してくれた。

 

 弱くなった私と戦いたくなかったのか、それとも本気を出せない私と戦う価値を見出だせなかったのか……はたまた、自分で致命傷を与えてしまうかもしれないから嫌だった、か。

 まぁ、そうならない為の確認、のつもりなんだけどね。

 

 

 

 何にせよ、どうなったか、というのを確かめたい所なんだけど……どうにも襲ってくる奴等が居ない。

 

 これも天子がやった神社倒壊以降、いつもの事になっちゃったんだけどね。

 そこら辺のまともな記憶力と頭脳がない凡妖怪でも襲ってきてくれないかなぁ。喜々として反撃してぬっ殺してあげるのに。

 

 うーん、思考が野蛮!

 こういう展開って大抵相手に負けちゃって、それから……いや、この展開は、駄目だ。駄目な奴思い出しちゃう……。

 

 

 

 気分を変えて、むしろ、アレなのかな?

 逆にこっちから挑発でもすべきなのかしら?

 幽香で思い出したけど、いつかの時みたいにこっちから妖力の波を能力で撃ち出して、近辺の妖怪に喧嘩でも売れば早いんじゃないかな。これ。

 あの時みたいに大乱戦になって……まぁ、それはそれで面白そうだし、限界まで力を引き出せそうな気もする。

 ……いや、そしたら多分、博麗の巫女が来るな。うん。抹殺されるな、私。

 

 どうにかならないかなぁ……ああ、紅魔館に行って、美鈴相手に組手でも……いや、そういや私あの子と気まずい感じで別れちゃってたや。駄目だな。でもどっかで逢わないとはいけないと思うしな……。

 それを言うなら牡丹だってそうだし……う〜ん、それなら予定変更して、人里のあの団子屋で色々と言伝を置いていくべきだったかな?

 あ、もう人里も既に門閉めてるか……入ろうとすれば自警団の方々が黙ってないだろうし……ん? 寧ろそれで彩目を誘き出すとか……ないな。うん。ない。

 

 

 

 どうにも、思考が危ない方向に飛んで行く。

 んー、いかんね。

 

 まぁ、普通に誰にも逢わずに帰って、彩目に怒られるのが一番安全かな……。

 

 

 

「あ、詩菜だ。髪伸びたねぇ」

 

 

 

 とか、考えてると大体誰かに逢っちゃうんだよなぁ……。

 

 闇に音を吸収でもさせていたのか、声を掛けられるまで全く気付かなかったけど、右隣を見てみれば数m先に真っ黒い物体がふよふよと浮いている。

 

「……やぁ、ルーミア」

「んー? あれ? 詩菜、縮んだ?」

「……」

 

 どうしてこう、毎回毎回アルシエルさんはタイミング最悪な時に来るんです……?

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「まぁ、ちょいと大怪我してね。今治療中な訳」

「へー、弱くなったんだ」

「……そういう結論にするの? いや、良いけどさ」

 

 そんな訳で、家へ帰る途中に話し相手を見付けたので、特に何も考えなしに喋る。

 私がまた歩き出しても、彼女も何も言わないけどついてくるし、別に良いんだろう。多分。

 

 まぁ、紅魔館が関わっているとか、発狂したとかはぼかした。

 気付いてそうだけど。

 

 

 

 ……とは言え、よく身長が縮んだって分かったな。

 ルーミアに逢った回数って……前の時を含めても数回しか無いと思うんだけど。

 

 でもやっぱり『縮んだ=弱くなった』はおかしいと思うんだけどなぁ……小さくなってもうんざりするほど強い奴居るじゃん。萃香とか、萃香とか。

 

「ん? それで今から帰る所なんでしょう?」

「そうだけど?」

「何処に行ってたの? 永遠亭?」

「幽香の所……って、知ってる?」

「知ってるよー。チルノたちとたまに行くし」

「……へぇ」

 

 ……なんだろう。幽香があの子供たち相手にちゃんと相手している図が一つも想像できないなぁ……あの幽香が、ねぇ……?

 寧ろ子供嫌いそうな気が……いや、まぁ、偏見だとは思うけど。

 

「幽香の家に行くと美味しいお菓子とか貰えるんだ。リグルとかネリアとか、行くって話になると大喜びするし、幽香も笑って相手してくれるし」

「………………へぇ」

「何その複雑な顔」

「……いや、こう、何て言うか……」

 

 姉が持っている、人に言えない趣味を垣間見てしまったような……そんな気分。

 

 そうか……子供好きなのか幽香……私と相容れないな……。

 

 

 

 ん?

 

「ルーミアはさ、幽香の事、どう思ってるの?」

「ん、気の良いお姉さん。美味しいお菓子と紅茶をくれるヒト」

「……うん、言い方が悪かったかもしれない」

 

 質問相手を、変えようか。

 

 

 

「アルシエルは、幽香の事、どう思ってるの?」

 

 

 

 

 

 

「フン、あれほどの力量の者と、戦いたくない訳がなかろう」

 

 

 

 ────ミヂッ

 

 と、右手首から、捻れるような音が鳴った──

 

 

 

 

 

 

「────って言えば満足?」

 

 ──ような、気がした。

 

 咄嗟に左手で右腕を触ってみても、濡れたような感覚も、鉄の匂いも感じない。

 少し幼くなった、健康体の腕のままだ。

 それに、少しだけ安心した。いや、安心しちゃある意味駄目なんだけど……。

 

 ……いや、スゲェ今、心臓が止まったかと思った……。

 驚いてはない、と思うけど……何て言うか、あ、死んだ、って思う手前の状態、みたいな……なんだこの説明。

 

「……アルシエルさん、力、元に戻ってません?」

「別に何の変化もないけど……このリボン触ったら分かるよ?」

「触ったら私の指が溶けるじゃん」

「……え?」

「え、何その疑問顔」

「いや、だってこの前触ったじゃん」

「あれはあれ、今回は今回」

「えぇー……」

 

 呆れたような、不満そうな顔をしながら、隣を飛ぶ宵闇の妖怪。

 

 いやぁ、さっき感じた雰囲気と衝撃は、間違いなくあの時のアルシエルそのものだった気がするんだけど……今の彼女を見ても、アレと関係性を見付けるのは無理だなぁ……。

 

「まー、面白そうだな、とは思ってるよ」

「幽香?」

「うん、色んな意味でね」

「そうかい」

 

 両者の実力を身をもって体験した者としては……今後是非ともぶつかって欲しくないマッチング、としか言えないなぁ……。

 いや、下手すりゃ幻想郷の半分ぐらい焦土と化すんじゃないかな……本気で戦ったらっていう、私の勝手な予想だけど。

 

 幽香も幽香で、ルーミアに対して何か行動してないってことは、何か起こす気もないって事じゃないかな? その場を見てないからなんとも言えないけど、あの幽香なら、行動を起こしてないって事はそれなりに意味があると思うんだよね。

 ……私の知ってる幽香なら、バトルジャンキーの血を出して真っ先に攻撃するか、予防線と小手調べを重ねて、一定ラインを越えたら敵対とみなして攻撃するとか、だからだけど。

 

 ま、今度逢った時にちょいと訊くとしよう。

 ……流石に訊いただけでぶん殴ってきたりしないよね?

 

 

 

 そう結論付けた所で、

 

「私からしてみれば詩菜も結構面白いと思うよ?」

「……え?」

 

 ちょっと鳥肌が立った。

 

「そ、それはどういう意味で?」

「だって、私に出遭ってから生き残ってるレアな存在だし、幽香も知り合いみたいだし、娘まで居るし、この間の騒ぎの時だって巫女の怒りを買って、それでも生き残ってるし、そもそも幻想郷の管理者の式神っていう話まであるし」

「……あー、うん、そう言われると、私も大概だね……」

 

 絶対ルーミアの『私』って、『アルシエル』って意味だろ……。

 

 とか内心でツッコみつつ、腕組みをして考えてみると、中々に波乱万丈な生き様である。

 ま、まぁ、人の旅の運を司る神様だしね! それぐらいの旅路を経てないとね!

 

「多分そういう縁を持って生まれたんだよ私」

「えー、なにそれ?」

「何て言うかな……こう、何もしてないのに人が周囲から集まってくる、みたいな」

「……詩菜が?」

「そのきょとんとした顔、地味に傷つくからやめてくれない?」

 

 いや、自分でも何言ってんだコイツ、とは思ったけどさ。

 

 うわぁ、なんか自爆した……。

 なんだろう、久々に自爆した気が……久々でもねぇな。うわ、なんか色々と嫌な記憶を思い出してきた……つら……つらたん……。

 

 

 

 ま、まぁ、鬱になりそうな記憶はさっさと考えないようにするに限る。

 忘れられないから今の私なんだし、忘れたくないのも私だし。

 

 あーあ……。

 

「……とか考えている内に、家までついてしまった……」

 

 家の明かりが見える……彩目が人里に居るという可能性は、なくなったか……。

 いや、文だけの可能性……も、ないか……アイツ、どっちも居ないなら帰るし……。

 

「ん? 帰ろうとしてたんじゃないの?」

「いやさぁ、ルーミアなら分かると思うんだけどさぁ、彩目が縮んだ私を見て何て言うかなぁ、と考えるとさぁ……」

「……先生も大変だね」

「あ、私の心配じゃないんだ……」

 

 そこで納得するのが詩菜だよね……と半眼で見てくるルーミア。

 

 いや、怒るっていうか……さ?

 どういう問い掛けられ方をするかも予想できちゃうし、それに対する答えもこう答えちゃうだろうな、っていう客観的な自分の予想までできちゃうもんだから、その後の言い合いというか、娘の怒りがこう、来るだろうなぁ、っていう……あ、何かお腹まで痛くなりそう。い、胃腸が……。

 

 とは言え、可能性に掛けるなら呆れられて終了、というルートもあり得るとは思う。

 ……まぁ、それはそれで……何と言うか………………悲しい、けど──

 

「悲しい、けど──どうしたもんかなぁ……って、おっと、口に出てた」

「弱体化の影響?」

「……どうだろうね」

 

 そこでようやく、つい口に出しながら考え事をしていた事に気付く。

 隣に知り合いが居るからか、どうも思考が漏れてしまっている。こんな癖は人間時代から一回も起きなかったというのに。

 

 ……どうしたもんかなぁ……。

 

「そこまで予想できるのに、回避しようとは思わないの?」

「家族だし、真剣な嘘は言いたくないじゃん」

「……詩菜ってホント、訳分かんないよね」

「そう?」

「あ、こういう時は本当に分かんないんだ」

「だって、彩目は……ああ、いや、何でもない」

 

 他人に言う話でもなかった。

 ……死闘を交わした相手を他人と定義するのはなんだか違う気がしなくもないけど、ルーミア、もといアルシエルに、彩目との出遭いから今に至るまでの話を聴かせるのは、何か違う気がする。

 

 じゃあ一体誰なら良いんだ、とかを考えても良いけど、まぁ、それも今はどうでもいい。

 

「ん?」

「……嘘と傷から始まった関係でも、今は絆と血って言えるならそれで良いじゃない、ってね」

「なんか……詩菜、今日、アレだね」

「何さ。メンヘラとでも言う?」

「いや、弱くなったからか、不注意だなぁ、って」

 

「────へ?」

 

 そこでようやく視線を地面から上げて、右横のルーミアを見れば彼女は彼女で、道の先の我が家、では無く、右斜め奥の林を見ている。

 もうすぐで声が聞こえそうな位置に家があるのに、何処を見ているんだろうと視線の先を見てみれば、

 

 

 

 

 

 

 彩目が、凄い恥ずかしそうな顔でこちらを睨んでいた。

 

 

 

「……分かったから、釈明を聴こうか」

 

 

 

「詩菜?」

「……」

 

 誰か私のために穴を掘って下さい。ていうか、埋めて下さい。

 

 うあ、何だこの恥ずかしさ……違う意味で死にたい……。

 

「し〜な〜? 顔隠してうずくまっても意味ないよ〜?」

「うう、悪女め……」

「宵闇だもん」

 

 ルーミア、意味違う。

 とか、今の私にツッコむ元気なんてなかった。

 

 

 

 


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