風雲の如く   作:楠乃

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 GWは怒涛の連続投稿予定(未定な予定






砂糖と変化と妹と弟子

 

 

 

 例え詩菜が髪の毛を腰まで伸ばした所で、志鳴徒の髪型には何も変化が起きないのは何かおかしい気もする。

 

 とか何とか考えつつも、今日もまた人里の端にある喫茶店に来ている。志鳴徒が。

 むしろ、志鳴徒で、というべきなのかも知れんが。

 

 

 

 

 

 あれだけ威勢よく、──と言うと何か表現がおかしい気もするが──許さない、と言い切ってしまったからか、今日は妹紅の姿が見えない。

 ま、俺も正直この姿で遭ってしまえば、詩菜で出来たある程度の冷静な態度も出来なくなってしまうような予感はあるし、正直に言えば、見えていない、と言うだけでもそれなりに安心出来てしまう。

 

 ……安心しちゃうってのが、問題なんだよなぁ……。

 

 何にせよ、例の弟子だった不老不死の彼女は、喫茶店から随分と遠い位置に居る。

 例によって、外の世界をよく知る緑の巫女も、今はまだ山に居るようなので安心。

 

 ハァ……。

 

「なぁ、親父。どうしてこう、人里に下りるだけでこうも警戒しなくちゃならないんだろうか?」

「俺が知るかよ……久々に顔見せたと思ったら暗い顔してんな兄ちゃん」

「久々……久々か。丁度一年前ぐらいか?」

「そうだな。妹さんはやけに活動してたみたいだが」

「まぁ、な」

 

 どっちも本体だし、どっちも仮の姿でもある。と答えたらこの親父はどんな顔を見せるのだろうか。久々に逢ったのならそれはそれで驚かせてやりたくもなってくる。

 ま、嘘言ってんじゃねぇ、で終わるか、もしくは、すげぇ変化の巧さだな、のどちらかかねぇ。

 

 それにしても、うまい。二重の意味で。

 

「……相変わらず砂糖を入れてんな」

「甘党なんで」

「お前ら兄妹は何か糖分を摂らないと生きていけない妖怪なのか?」

「失礼な。ちゃんと鎌鼬の妖怪だ。多分」

「……」

「コーヒー、もう一杯」

「……あいよ」

 

 鎌鼬という種族意識はあっても、鎌鼬という妖怪を見ても同族意識は起きないのが、多分この異常スペックな身体能力の要因だろうとは思う。

 だからと言って、どうこう言えないしな。そもそも妖怪の血を与えたのが俺であって私であって『私』でもあって『彼』でもあるんだから。

 意味が分からん。理解不能だ。

 

 ふむ、やっぱり地力で創り直したとは言え、似ていても違うんだな。詩菜と志鳴徒。

 目の前の親父が騙されてる事に気付いてみると、やはりこちらとしても驚いてしまう。

 

「……親父さんはさ?」

「なんだ」

 

 

 

「良くそこまで上手く変化出来るよな」

「────」

 

 ビシッ、と幻聴がしたかのような程に、急に止まる親父さん。

 

 

 

 それから数秒経ってから、何事もなかったかのように調理が再開し始める辺り、バレたのも一応は経験済み、と言う奴なのかな。

 

 

 

「……よく気付いたな」

「いんや、今になって気付いたよ」

「すまんが……ここだけの話にしてくれ。噂になったりすると困る」

「対外的な意味で? それとも……?」

「色々ある」

「ま、そりゃそうか」

 

 家族にすら人間として変化して接する、って言うのはどうも妖怪としての原則から外れてしまっているように思うけどな。

 ん……いや、そもそも娘が居るって話なんだし、妖怪だと家族に隠しきるのは土台無理な話か。半妖として産まれてくるのは決定しているようなものだしな。

 

 ていうか、店と家を一体型にして住んでいるにしては奥さん以外を見た事ないと思ったら、そういう事か。人間に変化する訓練の真っ最中って事か。

 嫁や娘のお惚気話をする割には、見た事がない理由がコレか。なるほどねぇ……。

 

 

 

「……」

「そんな睨まれても、誰かに話すつもりは毛頭ないさ」

「……そうかい。妹さんにも内緒にしといてくれ」

「あぁ……いやぁ、そいつは難しいかなぁ……」

 

 隠すも何も、もうバレてるんですがねそれは。

 

 気付いてない振りをしてあげるのもいいけどねぇ、そいつは……とニヤニヤ悪戯でも考えてやろうかと思った所で、ふと思い付く。

 

 コレをダシにして何か取引でもしてやろうかね?

 

 あ、悪役感すごい俺。凄い嫌味な顔になってる気がする。

 

「……難しいってどういう事だい?」

「んー、何て言えば良いかね。隠し事が面倒な関係、とでも言うべきか、出来ない訳じゃないが、とでも言えば、良いのか」

「……お前、何か言いたい事でもあるのか?」

「ふふん、なんだろうねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 ……まぁ、

 

 

 

 そんな駆け引きは有事の時にでも取っておく事にしよう。

 

 

 

「────ってな、冗談冗談。ホントに誰にも言うつもりはないよ」

「……本当か?」

「親父さんも気付かないもんだな。俺等の周りから音が漏れてないの、分からない?」

「む……」

 

 そう言って周囲を見渡し始める親父。

 秘密に気付かれて反応を出来る限り消すのは良いけど、逆に周りを見なさすぎなのは良くないと思うがね。

 

「ま、良いんじゃない? そういうの。隠して生活するとか、俺は応援するよ」

「……へぇ? 妖怪の賢者の身内が、そういうのを言うのか」

「あくまで契約してるのは詩菜だしな」

 

 俺の中ではそう決めてるんだけど……まぁ、あの紫さんは俺も範疇に入れてるだろうねぇ……。

 

 

 

 そもそも、

 

「俺のスタンスは基本的に妖怪の味方だ。例外の方が多いけどな」

「……何一つ安心できねぇ味方だな、おい」

 

 そうは言いつつも、深々と溜息を吐きながらコーヒーを注ぐ店主は、何処か不安要素が取り除かれたような顔をしている。微妙に顔に合わない感情の波だ。顔、と言うか、外見と言うか。

 

 頼んだコーヒーは何も注文せずとも、砂糖がドバドバと入れられていく。

 いつもと違う点といえば、詩菜がいつも入れてる量と大体似通った量の砂糖を、俺じゃなくて店長が、入れている所か。

 

「砂糖は自分で入れてたと思うが?」

「秘密を守る事への『先払い』だ」

「へぇ、そんじゃまぁ、ありがたく頂くとしよう」

「契約成立、でよろしいかい?」

「良いさ。『親父の秘密を知らない連中に秘密をバラさない』、で良いかい?」

「ふん。ほらよ、ご注文のコーヒーだ」

「では、いただきます」

 

 うん、美味い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、そうそう。

 

「親父との契約を結ぶ前に、もう妹にはバレてしまっているからな?」

「………………おう、兄ちゃんよぉ……?」

「いや、俺がそうした訳じゃないし、むしろ事故だし……いや、ちゃんと妹にも約束させるから、な?」

 

 むしろ約束したし、むしろ自爆だったし。

 

 

 




 





 あ、それと短編として稗田家の話書きました。『名前のない幻想郷縁起』という題名です。
 私の作者ページからでも良いのでお暇な時に是非どうぞ(ダイマ




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