風雲の如く   作:楠乃

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東方緋想天 その16

 

 

 

 萃香の能力によってか、それとも宴会を行うと何故か分かる幻想郷の住人特有の勘でもあるのか、いつのまにか不思議な程に集まる人々。

 こうやって縁側から見た感じ……異変に関わった奴等は大体が来ているのかね?

 

 そんな事を考えながら、スキマから外界の安い酒を取り出して自分のコップに注ぐ。

 わたしゃやっぱり鬼の酒はキツ過ぎて駄目だ。まぁ、根本的に酒に強い方でもないし。

 

 妖怪という存在が酒に強い性質なのか、それとも私が妖怪という種であるにも関わらず酒に弱いだけなのか……あ〜。

 くそ、思考がイマイチまとまらん。

 

「お、そりゃあ前に呑ませてもらった外界の酒じゃん」

「んー、魔理沙か。呑む?」

「いや、私は既に自前の酒があるからな」

 

 ニッと清々しい笑みを浮かべながら酒瓶を見せつける。その顔も残念ながら酒気で赤い。

 ……なんて言うか、こう言うのを見ているとアルコールは本当に毒なのだろうかと思えてくる。

 いやまぁ、二日酔いの時には『やっぱり酒は毒だ』なんて思う訳だけども。

 

「で、どうだい? 巫女との関係は」

「魔女までそんな事を訊いてくるかねぇ……見ての通り」

 

 横目でチラリと霊夢の方を見て、それからコップを(あお)る。

 霊夢の方は賽銭箱の辺りで天人と萃香の相手をしている。

 萃香は……まぁ、いつもの事だけどべろんべろんになっているのに対して、天人の方は顔すら赤くなってない。

 あの天人は酒を呑んでも顔には出ないタイプなのかね? ……まぁ、そこまで知らない、っていうか、名前すら知らないんだけどね!

 

 ………………ふむ。

 

「そういえばさ、私あの異変を起こした天人の事を何も知らないんだけどさ?」

「は? 神社を壊したのにか?」

「いやまぁ、その件は置いといてさ? 私は紫から彼女がどんな事をしたのか、って事ぐらいしか聴いてないもの」

 

 それも、神社に組み込まれた要石を中心に天人の利益になるような術式が組み込まれている、ぐらいにしか聴いてないしね。

 あとは自分の知ってる事とかを組み合わせて情報を整理して、私はそれを得意げに誰かに話しているだけだし。

 

「……まぁ、それならアイツの方へ行って話しかけた方が良いんじゃないか?」

「いや、だって自分の計画が完成した途端に壊したの、私だよ? 嫌じゃない?」

 

 紫の命令でもあるけど、直接的に神社を壊したのは私である。

 そんなのと話すのって嫌じゃないかね?

 

「ああもう、そういうのを流す場ってのがこの宴会だろ? なんでそんな所だけ常識的なんだよ。そんな小さい事を気にしてどうすんだ?」

「いや、そこは理解してるけど、だって……」

「おっと……こっちから行かなくても向こうから来てくれそうだぜ?」

「え?」

 

 そう言われて視線を戻せば、青い髪をした女の子がまっすぐこちらへと向かってくる。

 例の、天人だ。

 

 

 

「貴女が私の神社をぶっ壊したっていう妖怪?」

「……いきなり喧嘩腰だねぇ。まぁ、合ってるけど」

 

 全身にオーラを滾らせ、片手には赤いような黄色いような、取り敢えず凄い力を持ってそうな剣を携えて、彼女は私に面と向かってそんな事を言ってきた。

 

 ……もう、明らかに戦う気満々じゃないですか、ヤダー。

 というかそんな剣先を突き付けないで下さい。危ないじゃないですかまったくもう。

 

「色々と話は聴いているわよ。巫女とか悪魔とかに」

「……レミリアも何話してるんだか……」

 

 少し頭をズラして天人の後ろを見てみれば、咲夜の傘の下でレミリアと霊夢が話している。

 そして彼女達を見る私の視線に気付いたのか、ニヤニヤとした笑みと共にワイングラスを優雅にかざしてきた。

 あん? 優雅に乾杯ってか? チクショウ。

 こちとらそんな余裕はねーっての。

 

 

 

「ねぇ? 私と戦ってみてくれない?」

「……何で?」

 

 そんな風にレミリアを睨んでいると唐突にそんな事を天人から言われた。

 

 戦えって……そんな気分じゃないし、これ以上神社を壊すような真似もしたくない。

 特段私に利益が出る訳でもないし、むしろ私の戦い方が周囲に見られてしまって、返って不利益が出ちゃうじゃないの。

 うん、不利益なのか?

 まぁ、そんな訳でというか、そんなこんなで、お断りである。

 

「どうせ私と戦ってもつまらないよ? 弱いし」

「そう? 天人様でも鎌鼬の貴女には勝てないって言われたけど」

「……誰から?」

「そこの隣の魔女と悪魔が」

「……はぁ……」

「いでで!? また頬をつねりやがって!?」

 

 何だろう、頭を抱えてしまう。

 どうしてこう、一人になりたい時って言うか、静かに呑みたい時に周りは呑ませてくれないかなぁ……?

 

 溜息を吐きながら魔理沙の頬をつねるために開いていたスキマから腕を戻し、コップにもう一度酒を注ぐ。

 もう呑まんとやってられんわい。ちくしょう。ういっく。

 

「はぁ……そんな危ない事なんてやってられないよ」

「逃げるの?」

「うん、逃げる逃げる。そんな危ない弾幕なんてやりたくないなぁ」

 

 もう面倒だから嫌です、とか何とか。

 ここは一人そっとしておいて欲しいなぁ……なんてね?

 

「ふぅん……貴女って、狐仮虎威(こかこい)なの? それとも有名無実? ま、何にしても張り子の虎なのね?」

「どっちにしても虎って訳だ。いや、片方は『虎の威を借る狐』の四字熟語だから狐かな? まぁ、結局は鼬なんだけどねぇ」

「……!」

 

 最近無駄に四字熟語を勉強したからか、そういう難しい言葉は何となく分かるけどね。とは言えそういう言葉を使いたがる人はせっかちとか言う話もあるけど、まぁ、気にしない。

 

 どちらにせよ、彼女の言いたい事は、『貴女は中身がすっからかんな卑怯者って訳?』っていう挑発だ。

 ……ま、否定しないけどね!

 

「大体さっきも言ったような気がするけどさ、あ、いや、言ってないかもしれないけど、まぁ、そういうのは横に置いといてさ? キミと私が戦って何の利益が出るのって話なんだよ。いやまぁ、楽しければそれで良いじゃないって言う意見には賛成なんだけどさぁ、もうちょっと他に何かないと、今の私は釣れないかなぁ、って事」

「……な、何なのよ貴女……?」

 

 

 

「私?

 ふふん、『理解不能の神様、竜巻の鎌鼬』、詩菜と言う。よろしくね」

 

 

 

 そう言えば、二つ名を並べてヒトに自己紹介するのは初めてなような気がする。

 まー、昔からある呼び名なんて結構な数あるんだけどね。『中立妖怪』とか、『鬼ごろし』とか、『逃げの大将』とか。あと最近付いたのは『理解不能』だっけ? これはたった今二つ名に組み込んじゃったけどね。

 

 

 

 さて……、

 何やかんやで、わりと火が付いてきちゃったなぁ……。

 

 魔理沙にコップを渡し、少し天人に近づいてみるとする。

 

 

 

「そういえば、君は何て言うの? ちゃんと紹介を聴いた事がなくてさ」

「ッ……わ、私は『比那名居(ひななゐ) 天子(てんし)』よ……って、貴女何をっ、ッ!?」

「いやさぁ、比那名居さん? そういや誰かから天人の使う『緋想の剣』はとても強いらしいって聴いててさ。興味あったんだよね」

 

 彼女が自己紹介している間に私がした事と言えば、天人が私に向き合った時から突き付けられていた剣を右手で握った事ぐらいである。

 

 ま、どうやらその剣は噂通りらしいね。

 必ず弱点を突くという『緋想の剣』、私が今体感した感覚で説明すると、斬った対象の気質を対象から分離させる、って感じかな?

 話で聞いていたのは『相手の気質と正反対の気質、つまり弱点となるような気質を斬って調べて纏う』みたいな話だったんだけど……まぁ、私相手には気質なんていらないって事なのかね?

 

 一切の防御をする間さえなく、気質が揺らめく刃を握った右手はあっさりと分解され、手首から先はなくなり、断面が見えないほどの蒸気が傷跡から出ている。

 

 

 

 まぁ、分かりやすく言ってしまえば、

 『緋想の剣で斬られると強制的に鎌鼬になって死にますよ』って所かな。

 

「おーぅ、なんて素晴らしい剣だ事。胴体なんて斬られた日にゃ即死するねこりゃ」

「ッ、あ……!?」

 

 そしてまぁ、眼の前の天人さんには勿論衝撃増幅の術に掛かっておられますので、しばらくは驚天動地の中でしばらくゆっくりして下さいな。

 驚きで頭の一色で染められてるだろうから、ゆっくり出来ないだろうけどな!!

 

 

 

「……あ〜、なぁ、詩菜?」

「何さ魔理沙」

「その、人の名で韻を踏むのは良いが……今のお前を客観的に見た私の意見を言っていいか?」

「どうぞ?」

 

 近距離の隣で呑んでいた筈の魔理沙が、若干3メートルほど離れた所から話しかけて来た。

 まぁ……彼女の声で一歩踏みとどまれたのだから、まぁ、その先の意見とやらは聴かなくても大丈夫だとは思うけど、一応戒めとして聴いておこう。

 

「右手が蒸発して間違いなくヤバイ奴が、間違いなくヤバイ悪人の笑顔を浮かべているぜ」

「だろうね。いかんいかん。狂気に走るところだったよ」

「ああ……止まれてたのか?」

 

 今も蒸発している右手を観察しつつ、魔理沙の感想を聞いてみると、やっぱり近しい人の辛そうな声、意見っていうのは身に沁みちゃうなぁ、とか考えてみたり。やっぱり行動を抑えきれてないなぁ。

 ま、何はともあれ狂気は何とか自力で抑える。いつまでも紫の術式を使ってばかりじゃ駄目だしね。コレぐらいの躁鬱の波なら何とか出来ると思うし。

 

 う〜ん、強制的に鎌鼬状態にされたからなぁ……。

 どうやら存在そのものを斬られたようで、右手の回復は難しいかもなぁ。

 ま、私から触れて握ったからこんな蒸発したのであって、もしスッパリと斬られていたら血飛沫が宴会場の全てに飛び散っていたんでなかろうか。いや、それも蒸発するのか。

 

 となると、私の場合は本気で斬られると、存在そのものを抉り取られる訳だ。緋想の剣、恐ろしいな。私に対して絶対勝てる剣じゃん。まぁ、斬れれば、だろうけど。

 怖いね。やっぱり戦いは回避した方が無難だ。

 

「んー、まぁ、包帯で抑えとけば良いか。で、止まれたかだって?」

「……右手欠損を包帯で良いかって……お前なぁ」

「狂気なんて止めるものじゃないよ。止めるべきは行動さ。思考の暴走を無理に抑えちゃうと反動が来て大変だよ? ……ってあの妹ちゃんに今度教えようかと考えてるんだけど、どう思う?」

「へ? いや、私に相談されてもな……あそこの姉に相談しろよ。それかメイド長か」

「めんどくさいからいいや」

「……あー、そうかい」

 

 

 

 さてさて、まぁ、そんな事を言いつつ神力充填。

 あらま不思議、即座に右手が生えてくる。

 

 ……ああ、馬鹿馬鹿しい。

 

「ッ、お前それ……!」

「魔理沙、そこに居ると多分危ないよ? もう少し後ろに下がると良い。いや、寧ろ私達が前に出るか」

 

 神力封印、能力解除。結界発動。

 

「前言撤回。戦いたいなら何時でも良いよ? 比那名居天子さん?」

 

 

 







 感想欄にて『丸くなった?』と言われた直後にこの有様だよ!
 だ、大丈夫、この話書いたのも既に二、三年前だし。
 要はそれだけエタッてるという事ですがね!



 それはさておき、コレは次話投稿まで一体何人が気付けるのか、非常に楽しみです。
 こんな事を書くから気付く人が出るんだろうけど!
 気付けた人は感想とかコメントとか送ってね!(乞食

追記 2015/11/16 8:10
 『コレ』は最新話の事じゃないゾ☆


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