風雲の如く   作:楠乃

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東方緋想天 その15

 

 

 

「詩菜はさ? ある意味嫌われてるのが宿命なんじゃない?」

「……相変わらず鬼の言葉は胸の内をえぐってくるねぇ」

 

 霊夢への萃香の説得は、実に私へのダメージが大きかった。

 ……いや、まぁ、単純にその……私が誉められ慣れてない、だけなんだけど……。

 

「ま、まぁ! 前から嫌われてるんだし? その内何とか、出来ると……良いなぁ」

「やれやれ。確かに勇儀の時はその方法で上手くいったのかもしれないけどさ、そんな感じだと取り返しの付かない事になるかもしれないよ? あ、この部分の木材採って来て」

「ん、その木材は天狗に探させてからね。まぁ……取り返しの付かない事も、実際に起きてるからね……同じ過ちは、繰り返したくない」

「そこで『繰り返さない』と決め付けないのが詩菜らしいねぇ」

「私らしいって……」

 

 ……まぁ、妹紅の過ちとかを思うとね。いや、彼女とは現在修復中の状態に近いとは思うけど。

 

 スキマ経由で天魔に神社の大棟(おおむね)に合うような巨大で頑丈な樹木を探してこいと伝え、次々と天狗の手によって運ばれる丸太を設計図を見ながら加工していく。

 山の森林を管理してるのも天狗だし、私が行くとどうせ無秩序に伐採しちゃうだろうしね。木々の選抜は現在の山に一番詳しい天狗に一任している。

 

 ……とまぁ、妖怪の山の住人総出で、現在博麗神社を再建中。

 いや、『再』再建中だったっけ。兎も角妖怪が神社を建てているのである。

 

 妖怪が神聖な神社を建てれば余計に『妖怪神社』の噂が広がりそうな気もするけど……まぁ、家主の許可も出てる事だし良いのだろう。

 家主は霊夢って事になっているけど……本当は祀られている神様なのでは、と思わなくもないけど。

 

 

 

「いやぁ、懐かしいねぇ。総出で建築をするなんて久し振りだよ。前にやったのって詩菜の家だっけ?」

「そんな昔じゃないでしょ。家なんて結構建ててたじゃん。ほい梁行(はりゆき)。数合ってる?」

「いやまぁ、建ててたけどさ〜? えーと……二本多い」

「あれ、間違えてたか……まぁ、そこは違う所に加工して使うとして、次は桁行(けたゆき)か」

「数を間違えたりしないでよ? 無駄な工程が増えるだけなんだからさ」

「あー、失敗したらごめんね? ごめんよ」

「いや、先に謝られてもね……」

 

 そんな事を萃香と話していると、繋げっぱなしだったスキマの向こうから天魔の声がする。

 

大梁(おおばり)用の樹木を見つけたぞ。どうすれば良いのじゃ? ……そちらにはもう置くスペースが無いように見えるが」

「……あれ?」

 

 確かに振り返って見てみれば、建設予定地以外の場所は加工場と運ばれてきた木材と加工済みの木材だけで目一杯だ。

 博麗神社は住居スペースが大半だというのに……いや、加工して現場に届けられるのが速すぎなだけか。本当なら届くのと取り掛かるのが同時の筈なんだし。

 

「詩菜も加工は止めて良いからさ。建設を手伝ってよ」

「いや、私そんな怪力は持ってないからね? 加工した木材だって運べないからね?」

「……え?」

「え?」

「嘘でしょ?」

「いやいや、そんな無駄な嘘はつかないから」

 

 そう萃香に返すと、余った梁行を投げられた……って、ちょ!?

 

「危なっ!? 何すんのさ!?」

「投げられた柱を力も入ってない振り払いで返せるのに、それでも怪力じゃないって言うのかい?」

「それは能力使って反射してるから!! 自力じゃ持てないって言ってるの!!」

「ああ……えー?」

「まだ信じないかこの鬼は!?」

 

 根本的に鎌鼬は力技でどうこうする妖怪じゃないし! むしろ技タイプだし!!

 精々私が出せる力は成人男性ぐらいしか無いっての。いやまぁ、それでも容姿に比べたらありえないとは思うけどさ。

 

 神社用のでっかい梁材なんて、持てたとしても上まで運ぶなんて無理に決まってる。大体飛べないし。

 

「スキマは? 紫が命令して壊させたなら、建て直すのにも使っていいでしょ? 連絡手段として使ってるし」

「……はいはい、やりますよ」

「忘れてたのね……」

 

 たまたま丸太を届けに来た文に酷い事を呟かれた。聴こえていると言うのに。

 しかしまぁ、文でも自分の胴体よりも二倍も大きい丸太を簡単に運んでいるのである。

 やはり妖怪っていうのは常識外なのだなぁ、と思ってみたり。今更だけど。

 

「ほら詩菜。さっき投げた奴を運んでよ」

「そういうのは投げた奴がやるべき事じゃないかなぁ……」

 

 まぁ、良いさ。スキマ経由で頭に角材ぶつけてやる。

 

「いだっ! なにさ!?」

「ごめんよ。わざとだ」

「嘘は付いてない所が余計に腹立つ!!」

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで作業は進み、萃香が言うところには『天人よりも素早く建てる』というのは達成出来そうである。

 

 まぁ……素早く出来すぎてちょっと遊んじゃっているけど。

 遊んでるって言うか、さっきの角材をぶつけたのが原因の競争、喧嘩みたいなのだけど……。

 

 

 

「刮目しな! 頑張ってデザインした欄間!」

「何を! こっちだって執金剛神(しゅうこんごうしん)!」

「鬼がそれを作って良いの!? じゃあ私だって鳳凰像!!」

「む、卑怯だぞ!! 竜巻で丸太から一気に加工するなんて!!」

「切断した時のおが屑集めて一つの作品に圧縮する萃香に言われたくないなぁ」

「鬼が卑怯だって!? 幾ら詩菜とは言えそれは許せない発言だよ!!」

「怒る所違わない!? つーか言ってないし!!」

「五月蝿い!! どうだ四天王像!!」

「だからそれを鬼が作って」

 

「あーんーたーらーはー……仕事しろッ!! 《神霊『夢想封印』》!!」

「「ぎゃあああ!?」」

 

 

 

 そんな事をやっていたりしている内に新生神社が完成した。

 ま、まぁ、壊れる前や天人が作った神社よりかは多少豪勢になったかもしれないけど。

 流石にひと月やそこらで出来る程の建造物じゃないから、それなりに工期は掛かった。それでも天人よりは早かった。天気の問題も、いつの間にか解決していた程だ。

 

「……やっぱり式年遷宮(しきねんせんぐう)を実施した方がいいかしら……」

 

 とか何とか、建立された神社を見て霊夢が呟いていたけども、恐らくは面倒になってやらない事になるのだろうな、とか思ってもみたり。

 まぁ、あの呟きが自然に出たものなのか、聴こえるように呟いたものかのか、どちらにせよ霊夢からの信用は地に落ちてしまったようである。

 要するに信用出来ないから、時期が来たら壊して建て直そう、って言ってるようなものだしね。

 

 何はともあれ、神社再々建完了である。

 文字通り、妖怪が建てた『妖怪神社』の完成だ。

 

 

 

 加工場を掃除し、参道も整え、前の神社と変わらないように見える。

 と言うのも、文がいつの間にか撮っていた、壊される前の神社の写真と見比べて、ほぼ同じに見えるというだけなんだけど。こういう時だけ抜け目ないんだからなぁ……いや、この判断も身内だからか?

 まぁ、そんな感じで元通りになった神社で、さぁ宴会を始めようという雰囲気の時に、私の元へと霊夢が来た。

 

「詩菜」

「なんでしょうか霊夢さん? ……いや、こんな態度はやめようか。何かな?」

「分かってるならどうして初めからしようとしないのかしらね、あんたは……」

 

 しかめっ面から呆れ顔へシフトした霊夢さん。

 まぁね、何となくとっちゃうんだよね。こういう態度。

 ホントやれやれだよ。我ながら。

 

「それは置いといて。何か私に用? わたしゃもう帰ろうかと思ってたんだけどね」

「……宴会には参加しないの?」

「へ? あれ? てっきり霊夢は許可しないものだと思ってたけど?」

 

 壊した奴が神社完成の宴に参加するってのも、おかしくない?

 弁償として壊した奴が建て直すなら分かるけど、だからと言って祝いの席にまで参加するのはおかしいと思うんだけど……。

 

「……ほんと、変な所で律儀ね。良いわよ、そんなめんどくさい事を考えなくても。宴会は今までの揉め事とか争い事をすべて流す場って、紫とかに教えてもらわなかったの?」

「いやまぁ、教えてもらったけどさぁ……そりゃあ異変の時じゃないの?」

「ああもう、こう言えばああ言う奴ね。良いから参加する!!」

「わう!?」

 

 そうして腕を引っ張られ、既に酒をかなりの量呑んでいる萃香の元へと連れられる。

 ていうか萃香さん。なんで隣にからっぽの酒瓶が二つもあるんですか? 早すぎませんか? まだ全員来てないのでは?

 

 縁側に座り、こちらへと引っ張られる私と引っ張る霊夢を見て、カラカラと笑う萃香。

 

「ほら、言った通りだろう? 詩菜は遠慮して帰ろうとしてるだろうね、って」

「ええ。まさか完璧にその通りだとは思わなかったわ」

「……えーと?」

 

 つまりは、鬼にすら見透かされる私の内面、という事で?

 なんだかなぁ……いつもは引っ掻き回してやるのは私なのに、見透かさられると面白くない。いや、誰でもそうかもしれないけど。

 

 

 

 ……まぁ、良い事にしよう。

 この宴会で霊夢とのいざこざが流れるのであれば、それに越した事はないのだし。

 

 そう考えて、萃香から渡されたお猪口に酒が注がれるのを見守る。ついでに注いでくれているのも萃香である。

 にしても顔は既に酒気で赤いというのに、酒を扱う時だけは萃香の腕が全くブレない。そんなにも酒は大事か酒呑童子よ。

 ってこれも前訊いた時は『当たり前でしょ?』って疑問顔で答えられたっけな。またどうでもいい事を思い出してしまった。

 

 

 

「さぁ、宴会の始まりさ! 皆も呼んで大宴会!」

 

 

 







 シルバーウィークはりすとらや冷猫のメドレー聴いて泣きながら執筆してる内に終わってました(´・ω・`)




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