風雲の如く   作:楠乃

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妖精達

 

 

 天狗の里がある山、の麓にある霧に包まれた湖。

 山の川から水が流れ込んでいて、霧で視界が悪い為『霧の湖』と呼ばれている湖にぶらりと寄ってみた。

 文字通り、鎌鼬状態となって上空からぶらりと。

 

 理由は無い。

 ないのだが、強いて言うならば、この前に出逢った……何だっけ…サルノ? 違うな……大ちゃんは覚えてるんだけど。

 …まぁ、いいか。兎も角、彼女等をたまたま思い出して、んじゃあ、会ってみるかな。と思い立っただけである。

 

 彼女等は、妖精にしては精神年齢が高い。あくまでも妖精にしては、である。

 能力も使い方によっては妖怪にも勝てるかも知れぬ。との天魔の(ありがたくもない)お話。

 トップに立つと、色々と力関係が大変なんだろうなぁ…と考えてみたり。

 自分の山を守るとか色々、さ。

 私が見た時のような瀕死の傷も、力を持つ彼女等のイタズラが過ぎた結果に起こってしまった事なのだろう。多分だけどね。

 一対一なら勝ててたかも知れないが複数だと、って事なのかな?

 

 

 

 まぁ、閑話休題。関係ない話でもないけど。

 ぶらりと湖にやってきた。

 

 いつも霧が立ち込めるこの湖は、如何せん見通しが悪い。

 私はいつもの如く『風』になって浮かんでいる訳だが、何分周りが良く解らない。

 晴れてりゃ少しは見えたりするんだけど、今日の天気は曇天だ。何も見えやしない。

 

 自由に空を飛べない。

 しかも私はカナヅチだ。泳げない。うん。

 よって、湖の上では私は実体化出来ない状況だ。

 此処に住む彼女等に会いに来たのに、なんてこったい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕方ない、っていうかどうしようもないので、湖の縁で実体化して歩いて探す事にした。

 

「よいしょっと」

 

 実体化。地に足を着けて、とりあえず時計回りに湖を回ろうと歩き出す。

 

 と、いきなり私に目掛けて数々の弾幕が放たれている。

 

「ッ!!?」

 

 いきなりの事で身体が硬直した私を、弾幕が無慈悲に襲う。

 左肩、右脇腹、右肘。

 三ヶ所を撃ち抜かれ、強烈な痛みが走る。

 衝撃はどうにか出来るけども、痛みはどうしようもない。

 

 咄嗟の事で、驚いた衝撃という最も根本的な事を防げなかった。

 う〜ん。無意識にその能力を維持出来るように特訓すべきかね?

 

 ……まぁ、何はともあれ。

 

「…何してくれちゃってんだコノヤロォ!!」

 

 キレた訳じゃあないよ?

 ただ単にムカついただけです!

 

 カラフルな色の弾幕を反復横跳びの要領で避けて、撃ち続けている妖精に近付いてチョップしてやる。

 衝撃は付加してないから威力はそれほど高くもないけど、それでも妖力 (プラス) だ。

 これなら妖精は死にはしないけど気絶する筈。消滅されたら話も聞けやしないしね。

 そもそも妖精は自然を元にしてるから、そうそう死ぬ事は無いんだけど。

 

 …まぁ、兎に角。

 

「ていっ」

「…!? …、……」

 

 頭部を叩いたにも関わらず、骨を感じないという有り得ない柔らかさに驚きつつ気絶を確認、更に周りを確認。

 声が上手く聞き取れないけども、多分自然の声って奴だろうね。知らないけど。

 

 見通しが相変わらず悪いんだけど……うん、多分、辺りには誰もいないのかな?

 撃ってきたのはこいつだけみたい。居たとしても、もしかしたら逃げたのかも知れないけど…。

 まぁ、どうでもいい。という事にしておこう。めんどくさいし。

 

 

 

「ほら、起きな」

 

 うりうり、と頬っぺたを指の腹で押しながら、先程倒した妖精を起こす。

 

 柔らかいな~……。

 …もちもちだな~…。

 ……このぷにぷに感から離れたくないな~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだかマッタリしてしまった。

 もう既に起きてて、キョトンとした眼で見られてるのに。あ〜恥ずかしい。

 満足したから本題に入ろう。

 

 ……あの感触って妖精特有で、妖精なら誰でも持ってるのかな…?

 まぁ、そんな事は後にして。

 

 

 

「妖精さん、此処等で一番強い妖精って誰かな?」

「…?」

 

 妖精は首を傾げている。

 難しかったかな? 言葉が。んじゃ、

 

「えっと…大ちゃん、は知ってる?」

 

 大きく頷く。ああ、もう可愛いなこんちくしょー。

 いちいち仕草が可愛い。お持ち帰りたいとはこういう気分か。

 ……いや、しないけどね?

 

「案内をしてくれないかな? 会いたいんだけど、この霧で良く解らないからさ?」

 

 そういうと大きく頷いて笑顔を振りまく。さっきまで弾幕撃ってきた事は忘れちゃったのかしら……?

 身振り手振りでこっちと説明してくれるようなので…まぁ、追っ掛けましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 やだ、この子可愛い!

 遂に鼻歌まで歌い出しちゃってる!!

 

 …私の影響か?

 

 

 

 というか、30分ぐらい経ったけど…なんか見覚えある所歩いてるんだけど……あの二人は何処?

 

「ねぇ? 妖精ちゃん? 二人は?」

「…?」

「……えっ?」

 

 そのハテナマークは…何よ?

 

「……忘れて楽しんでた訳じゃ、ないでしょうねぇ…?」

「……。…?」

 

 怒ってはいけない。妖精だもの、仕方無い……仕方無いけど、

 

「…ブッ飛ばしてやろうか……?」

「!? ……! …!!」

 

 言葉が微妙に伝わったのかそれともニュアンスだけ伝わったのか、怯えられ泣きそうになっている。

 

 ……。

 いや、この気持ちは封印すべきだ。うん。

 

「…ハァ、今度はちゃんと案内してよ?」

「…! …!!」

 

 ちゃんと案内する為か、それとも私から出来るだけ離れようとしてるのか。

 解らないけど、先程より明らかにスピードが早いのは確かだ。

 ……後者だったら傷付くわぁ…。

 …自業自得だけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 湖からちょいと離れた、森の近く。

 ……結局ここかよ。私が初めに来たとこじゃん……一周したのは何の意味があったのやら。

 

 ここで妖精が止まったって事は、案内は終わったのかな?

 

「ここにいるの?」

「…。 ……!」

「……言葉の壁、恐るべし」

 

 全くもって解りません。

 自然の力、恐ろしい……!

 

「…?」

「ん、いや。何でもないよ」

 

 こういうのは肉体言語というか動作で解るんだけどなぁ……まぁ、嘆いても仕方無いか。

 

 ていうか、普通にさっきの事を忘れてるの…?

 いや、私的に怯えられるのを止めてくれたのは嬉しいんだけどさ……。

 

「……妖精の気配、というか何かいるのは解るけど、特定の人物を捜すのはなぁ…そこまで覚えてる訳でもないし…」

「……?」

 

 彼女等と話した時間は10分にも満たないし、姿・声は覚えてても名前はあやふやだし、気配なんて覚えてる訳がない。

 

 虱潰(しらみつぶ)しに歩くしかないかな…。

 隣の妖精ちゃんによれば、この近辺にいるのは確実なようだし。

 

 ……彼女、というか妖精の言う事は色々と不安だけどね。

 

「…まぁ、適当にぶらつきますかね」

「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私、及び妖精ちゃんは二人に出逢う事が出来た。

 まぁ、以外にも、あっさりと。ものの数分で。

 …決して友好的な出会いでは無かったけど。

 

 目の前には私を狙い飛んでくる氷の礫。撃ち続けているのは、例の青い妖精。

 

「凍りなっ!!」

「御免被る、ねっ!」

 

 

 

 何故にこうなったんだろうか?

 出会い頭に妖怪と行動を共にする自分と同じ妖精を見て、何を思ったのか。

 しかもその妖精ちゃんは戦闘が始まると直ぐ様逃げた。おのれ薄情者め。

 

 

 

 青い妖精の(名前を未だに思い出せない)方は先程から私に狙いを定め、弾幕を打ち続けているけど、緑の妖精……つまり『大ちゃん』とやらは、少し離れた樹の影から此方を心配そうに見ている。

 戦闘には参加していないけど、止めようともしていない辺り、完璧に私を敵と見なしているのだろうか?

 

 このやろぅ、こっちはそっちを一度助けてやったんだぞー。

 ……覚えてないんだろうけど、さ。

 

 

 

 じゃあ私は何をしているのかと言うと、特に何もしていないのだ。

 弾幕を避ける位はしてるけどね。

 

 私が一番得意としていて、最も自慢出来るのが『瞬発力』だ。

 無駄に中学の時に頑張り、体力テスト等で瞬発力だけ満点を採ったのは、今でも私の自信の礎になっている。

 故に、衝撃を操る程度の能力。瞬発力に対する自信。妖怪スペックの有り得ない動きという恩恵。これ等によって弾幕は、私にとってはそれほど脅威という訳でもない。

 

 しかし、私は妖力の弾幕を撃つのが滅法苦手だ。

 弾の速度。弾の操縦。誘導性能。数。大きさ。質。

 何もかも、私がどんなに撃ってもこの青い妖精には見劣りしてしまう。

 だからといって、どちらかというと得意な能力の弾幕は『鎌鼬の刃』全てを切り裂く爪。

 余程妖力でガードするか装甲が分厚い奴でないと、致命傷を与えてしまう。

 ……とてもじゃないけど、この妖精に耐えられるとは思わない。

 

 しかし、このまま一方的な弾幕合戦を続けていても仕方がない。持久力も私の苦手分野だったりする。

 

 どうしたものかなぁ……。

 

 

 

 ……ん?

 弾幕が、止んでる?

 

 考えつつ避けていると、気が付けば青い妖精は顔を俯かせ両手を下げていた。

 その両手は握られ……怒っているのが分かる。

 

「……なんでよ」

「…何が?」

「なんでアンタは攻撃しないのよ」

 

 声の調子は普通、というか寧ろ無理矢理抑えたような声。

 抑えたのは怒りか憎しみか。

 解らないけど、私の行動が彼女に何かの火をつけたようだ。

 

「妖精だから、弱いから戦わないの? 妖怪と妖精だから、戦うなんて意味が無いっていうの?」

「……」

「妖怪が何よ。妖精が何よ。弱いのはみんな逃げ回れって言うの? そうやってアンタ達は私たちを見下ろして、私たちはアンタ達を見上げるしかないって言うの?」

 

 昔は良い意味でも、悪い意味でも弱肉強食の世界。

 

 彼女の言う通り、基本的に妖怪は妖精をなめている。

 イタズラしか能がない。能力があっても、それを活用出来る頭がない。等々。

 

「…ふざけないでよっ!!」

「っ……」

 

 私の行動もそう見えたのだろう。

 軽々と攻撃を避け、なめたように攻撃をせず、あまつさえ考え事をしながら避けている始末だ。

 

 ……本当に私は、嫌な奴になってしまっている。

 

「『パーフェクトフリーズ』!!」

「ッッ!?」

 

 視界が白く染まっていく。いや、視界にはいる全ての物が、凍っていく。

 危険を感じてすぐさま離れようとしても、既に足が地面と共に凍り動かせない。宣言と同時に凍りついてしまったようだ。

 衝撃を操って逃げ出す事も出来るけど、その場合足がもぎ取られ、地面に奇妙な両足のオブジェが出来るだろう。

 その時、両足を即座に回復出来る程の妖力も神力も、既に無い。

 

 

 

「ハァ、ハァ…! どうよ!!」

「……いやはや、お見事」

 

 『パーフェクトフリーズ』とか言う技は、既に時間が切れているのだろう。気温はだんだんと上昇しているのが蒸気で見てとれる。

 

 だが、一度凍ってしまった物はなかなか溶けない。

 樹木も、草木も、昆虫も……私自身も。

 

 足から凍らせ腰までを覆った分厚い氷は、私の機動力と体力を急激に奪って行く。

 掛け声から発動までの時間、効果範囲、追加効果のどれもがお見事。まさに『パーフェクト』の一言だ。

 

 彼女にも随分と負荷がかかったみたいだけど、まだまだ活動出来るだろう。

 私の状況は変わらない。

 

 ……いや、この感想そのものが、舐めている証拠だね…。

 

 

 

「ハァ…! 勝った…!! あたいの勝ちね…!」

 

 どう声を掛けるべきか……。

 

「……まぁ、おめでとう…?」

「…なによ? アンタは敗者なんだから、そこでじっとしてなさい!」

「あ~、殺すの?」

 

 私としては勝ち負け云々よりも、生きるか殺るか死ぬかが問題じゃないかと思うんだけど……?

 殺されるのなら……何が何でも逃げ出すけど。

 

「…うん、うん…そうね……アンタ!」

 

 何か勝手に納得された様子。ヒトの話を聞けよ。

 ……ヒトの話を聞かないのは私もかね。

 

「アンタ! あたいの手下になりなさい!!」

「……はい?」

 

 

 

 why? 何故に?

 

「部下でもいいわ! 負けたら敗者は勝者に服従するのよ! アンタはあたいの手下なの!!」

 

 ハ○ヒかアンタは。

 どうしたらそんな事を思い付くのよ…。

 

 

 

 まぁ……殺されないだけまし、なのかな?

 

「部下、ねぇ……」

「なによ、イヤなの?」

「いんや。面白そうだし、やっても良いけど……」

「……良いけど。なに?」

 

 八雲の式神を拒否して、こちらの『部下・手下』を受諾するのは何故か。

 とか後で八雲に文句をわーわー言われそうだなぁ。

 

 という訳で、

 CHAOSよりの平和主義者として、

 

「…ライバル、ってのはどう?」

「アンタ負けてるじゃない!」

「ほい」

 

 さっさとこうすりゃ良かったよ。

 

 両手の爪を伸ばし、足の氷を彫刻するように削り取っていく。

 同時に足元から竜巻を起こし、ガリガリヤスリをかける。

 十秒程で解凍完了!

 今度、彫刻でもやってみようかな?

 

 まぁ、十秒も時間が掛かってたら、その間にやられちゃうと思うけどねぇ……。

 勝ち誇って油断している今だから出来る……いや、まぁ、目の前で『ほい』ってのもアレだけど……。

 

 兎に角、足元や身体を覆っていた氷は全て削り取った。もう私に凍っている部分はない。

 

「ライバル、ね……」

「…ん、ダメかな?」

 

 ていうか、こんな停戦条約を結びに来た訳じゃないんだけど……まぁ、良いか。

 

「…いいわ! 今からあたいとアンタはライバルよ!!」

「ふふ、んじゃ改めて。名前を、教えてくれるかな? 私は『詩菜』」

「あたいは最強の『チルノ』よ!!」

 

 そう! やっと思い出した!! チルノだ!!

 いやー、結局自力で思い出せなかった……チクショウ……。

 

 

 

「……ね、ねぇチルノちゃん…? このヒトは……結局、誰なの?」

「あたいのライバルの詩菜よ!!」

「よろしくね、『大ちゃん』」

「あ、はい……って、なんで私の名前を…?」

 

 ……やっぱ覚えてないよねぇ…私はすぐにその場を離れたし。

 でも、覚えて欲しかったかな……。

 ……言ったら思い出してくれるかな?

 

「一度逢った事があるんだよ? 私はその時大ちゃんを助けたし」

「え?」

「あー!! アンタ、私が大ちゃん助けようとした時に来た妖怪!!」

「ご名答♪」

 

 覚えててくれたよ、嬉しいねぇ。

 

「わ、私を助けてくださったのが、貴女だったんですか!?」

「すぐ立ち去っちゃったからね~」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 ……うん、良かった良かった。

 

「流石はあたいのライバルね!!」

「……!!」

 

 いや、ライバルになる前の出来事でしょ……。

 

 

 

 ……ん?

 

 

 

 何か聞き覚えのある『声』が聞こえたかなと思ったら、

 真横に、

 

「…♪」

 

 なんか、妖精ちゃんが、居た。

 

「アンタ何処行ってたの!?」

「? ……。」

「詩菜を探してたって」

「え!?」

「…! ……!!」

「えと、勝手に何処かに行くな。と…」

「…ええ?」

「……、…。」

「心配した、ってさ。好かれてるね~♪ ヒューヒュー!」

「……なんでよ!?」

「お、おめでとうございます?」

「違う! 色々と違うよ大ちゃん!?」

 

 チルノとッ! 大ちゃんをッ! 探してただけなのにッ!!

 なんでこうなったッッ!?

 

 

 


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