「…うはぁ~……バッタリ……」
自分で効果音を発しながら地面に倒れ込む。
草原に倒れ込む。わしゃわしゃと草が鬱陶しい。
顔に張り付いたりして煩わしいけども、払ったりする元気は無い。というか動きたくない。
精神的に今日は疲れた…。
動きたくない…けど、せめて現在地だけでも調べなくて、宿を確保せねば……。
顔だけを動かし、辺りを見回す。
……が、草が高すぎて見渡せないので身体を起こして、座りながら辺りを見渡す。
幽香の家から…どれだけ移動した?
向日葵、山、集落、海岸、集落、草原、樹海、砂浜、現在地の特に何もなさそうな平原。
……ん、んー? ここって……天狗の里の近くかな? 近くの見た事がある山があるし……。
なんていう幸運。そしてなんていう御都合主義。
オッケー、ならここから叫べばあのエロ親爺は飛んで来てくれるかな。
活用出来る物はちゃんと活用する、それが私!!
ハイ、息を吸って~!
天魔と戦った時の最後の技なんて目じゃない程吸って~!!
「天魔!!」
私を中心に声が衝撃となって草木を揺らす。
因みに残り少ない妖力も乗せて飛ばしたから、まぁ、覚えてくれてるだろうし、来てくれるでしょ?
…来てくれる、よね…?
……う、うん。天魔を信じよう……。
まぁ……ぶっちゃけ、妖力も今のですっからかんだし、今の私に出来る事なんて殆ど無い。
出来る事があるとしたら、今の大声で襲いに来た妖怪から逃げるぐらいと、その為に動かない身体に鞭打って動く事ぐらいだ。
五分後。
正直に言って、結構諦めかけてた。
「なんじゃ!? いきなりワシの事を大声で呼びよって!! 大事な会合だったんじゃぞ!?」
「…ふふふ…でも、来てくれたよね…」
「? ……そりゃお主、声に妖力を乗せてワシの名を呼ぶという事は、それだけ危ない事になっておったんじゃろ?」
「まぁね……天魔」
「なんじゃ?」
「私を家まで運んで頂戴……」
「…何があったんじゃ……?」
「八雲っていう大妖怪に追われたんだよ……あ~、ゴメン…寝る……」
「そりゃまたとんでもない奴に目を付けられとるな……何があった?」
「あと、で……任せた……」
意識及び五感がフェードアゥウトォ~ォ……。
眠ってしまった詩菜を抱え、天狗の里の近くにある詩菜の家に向かう。
寝顔は何処までも無防備じゃ。無警戒にも程がある。
全く、いきなり叫んだと思って心配してみればこのザマ。
……一体何がしたいのやら……。
家に到着した。
だが、何かで封じたのか戸は開かない。
……起こすのは可哀想じゃが、致し方無い。
「オイ…詩菜」
「……んぅ、着いた?」
「…いや、戸が開かんのじゃが?」
「……ああ、りょーかい。解錠するからちょい降ろして……お姫様抱っこはもう結構だから、降ろして」
言われて素直に降ろす。多少まだふらついているようなので、肩を支えながら。
……『オヒメサマダッコ』とは何なんじゃ?
単に両腕に抱える事を指す言葉なのかの?
…全くもってこいつはワケわからん。
「ホイ、開けたよ…って何笑ってんの?」
「いやいや、何でもないわい」
「? ……まぁ、どうでもいいか…ただいま~」
玄関を上がり、ワシにとっては狭い家にお邪魔させて頂く。
…埃が酷い。
「……詩菜よ、掃除せねばいかんのでは?」
「……そうだね…出来る?」
「フム…まぁ、ワシの団扇で十分じゃろ」
懐から出した葉団扇を一閃。
強烈な疾風が部屋の淀んだ空気を入れ換え、積もった埃共を転がし野外へ追い出してやる。
「…お見事」
「ふん、これくらい出来て当然!」
「そしておやすみ」
「切り替え早すぎじゃろお主!? ってもう寝とる!?」
「五月蝿いぞ天魔~…お土産は無いけどお話なら明日にでもするから…今は妖力の回復及び精神的に休ま~……zzz」
「話の途中なのに落ちよった!?」
「…zzz…zzz」
…まったく……面白い奴じゃ。
目……じゃないや、瞼を開く。
…うむ、天狗の里にある我が家だ。
時計は無いけど、切り抜かれた窓から見える外の明るさ及び太陽の位置で……恐らく朝、かな? あれは東の方向だった筈だし…。
幽香との戦いで、無理矢理に治した左手を天井に伸ばし、グーパーと動かしてみる。
……そういえば、幽香と戦ってから身体洗ってない。服や身体のあちこちに血がこびり着いてる……洗わないとな……。
まぁ、後でも出来るし、今は身体がちゃんと普通に動くかどうか。
…無理矢理再生した左腕。
幽香の家でも動かしたり試したりしてみたけど……。
「……うし、大丈夫かな」
「お、起きたか」
「……天魔」
「うむ?」
「…いや、なんでもない。お早う」
「うむ」
…壁寄りかかってずっと見てたのかこのエロ親爺……。
身体を起こし自身の調子を確かめる。
身体的機能。筋肉痛等も無し、異常無し。左腕も異常なし。
妖力。全快時の三割程の量。
神力。皆無。無い。
……まぁ、それなりにそれなりの状態、かな?
「お主、大丈夫か?」
「ん。まぁまぁ…かな」
「……そういえば『八雲』に遭ったと言っておったな?」
「ああ。うん、協力しろだってさ」
まだ決着ついてないのがなぁ……。
「協力とは…例の人間と妖怪の……?」
「うん。まぁ…ね」
「…お主が勧誘されるという事は、噂は本当なのか……?」
「噂…って、私が人間も妖怪も助けている事?」
「……その様子じゃと、本当なのじゃな…」
「なんで知ってんの!?」
「風の噂じゃ。それに天狗をあまり舐めるでない」
「……ハァ……どいつもこいつも噂、大好きなんだね」
「…まぁ、ワシは悪いとは言っておらんが…そんな事をしておるから、目を付けられるのじゃろう?」
「そうなんだろうだけどさぁ…」
天狗達の間でも色々と話が飛び交っているんだろうなぁ……情報収集だけは得意だからな、天狗っていう種族は。
……舐めてるつもりはなかったけど、ここまで話が拡がっているとは。
「……まぁ、お主が嫌なら、この話はこれで終いにするかの」
「流石てんちゃん」
「誰がてんちゃんじゃ。そうじゃなぁ…お土産、旅のお話でも訊かせてくれ」
「ん、じゃ何処から話そうか 「「「師匠!!」」」 …コイツらも居たんだっけか」
戸を蹴破るようにして、私の家に入ってきた不埒者の三人組。いつぞやのぶっ飛ばした天狗で…私の弟子を自称する三妖怪だ。
「師匠!「『八雲』という奴は一体ご無事「なんで旅に何なんですか!?」いきなりですか!?」出たのですか!?」「「それだ!!」」
「一気に喋るな!! ていうか何が『それだ!!』なのよ!?」
だからコイツら嫌なんだけど……せめてリーダー的な奴を決めてくれ…。
まぁ、簡単に紹介しようか。
顔が四角くゴツいのが『弥野(やの)』細長いのが『縞(しま)』丸っこくて一番のチビが『作久(きゅう)』だ。
因みにABC順にちゃんと説明したからね?
って誰に説明してんだ私……。
ハッ!? まさか電波!?
「オイ、そんなに入ろうとしてもこれ以上は入れぬぞ?」
「ハッ!? 天魔様!? いつの間に!? これは失礼しました!!」
「「申し訳ございません!!」」
「……気付かれぬと言うものも何やら胸に来るものがあるな」
「…御愁傷様?」
気付かれ無かった天魔は…まぁ、そこら辺に置いといて。
確かにこれ以上、私の家に誰も入らない。
…というか、扉にぎゅうぎゅう詰めで……壊す気か?
私、天魔、あと入れて一人か二人が恐らく限度。
作久と縞なら入れると思うけど、縞と弥野だと無理だろうなぁ…。
「……いっその事、三人でリー…じゃないや、長みたいなのを決めれば良いのに…」
「いえ!! 我々三人は全員が一番弟子!!」
「誰がなんと言おうと!! それは変わらず!!」
「我等は!! 切磋琢磨しあい!!」
「「「師匠について行きま 『ウルセェェ!!!』 「耳がァァ!!」」」」
あ、衝撃使って叫んだは良いけど天魔の耳を守るの、忘れてた。
まぁ、どうでもいいか♪
「ん。最初からこうすれば良かったんじゃない?」
「自分の家に運べ、と言ったのは誰じゃ」
「ハイハイ。私が悪ぅ御座いました」
河岸を変えて、場所は天魔の家。
つまりは『天狗の長』の自宅。
ここなら私と天魔は人目とか(妖怪だけど)を気にせず話せる。
いやはや、旅に出て久し振りに戻ったなぁ。懐かしや懐かしや。
……が、天狗の社会での落ちこぼれ三人にとっては、緊張する場面のようでガッチガチに固まってしまっている。
「「「……」」」
「…天魔、コイツらが居る理由ってあるの?」
「ない」
「ん、了解。弥野・縞・作久、空中へ持久走しに行きな、太陽が頂点にいくまで」
「「「へイ!!」」」
……我先に飛び出していったな…。
よっぽどこの空間が辛かったのかね…?
「……なんやかんや言いおって、普通に面倒を見ておるようじゃな…」
「放っておくのも悪いかなって、ね……ふぅ、やっと落ち着けた」
「…流れでここまで移動したが、身体の方は大丈夫なのか?」
「ん。まぁ、大体は」
「……相変わらずの回復力じゃな」
? ……そうかな?
イマイチそこら辺が分からないんだけど……まぁ、いっか。
「…さて、旅の話を訊こうではないか」
「……身体の心配した後にそれ?」
「大丈夫なのじゃろ?」
「…まぁ、良いけどさ…」
「まずは…そうだね。知り合った神様の事を」
「……始めからとんでもない話が聞こえたんじゃが…」
「彼処の神社の二柱は好い人、というか好い神様でさー?」
「……妖怪と神様が仲良く暮らす。という物も凄い情景じゃな…」
「そういえば私も神様に昇格したんだよね~」
「ハァッ!?」
「人間助けてたらこうなったwwワロス」
「……」
「まぁ、今は使っちゃったから、皆無なんだけどね」
「…人間だった妖怪で神様のお主が妖怪と人間を助ける。か……」
「まぁ…なんか凄い噂になっちゃったから、暫くはのんびりしようと思ってるけどね」
「噂も七十五日。暫くすれば消えるわい」
「……だと良いんだけどねぇ」
「…そういえば、その神力は何に使ったんじゃ?」
「ん、回復に使ったよ。片手丸々一本」
「…なんかもう…お主の話は、どれもこれもが信じ難い話ばかりなんじゃが……?」
「いやいや、事実しか話してないから。お陰でこの通り左腕は生えております故に」
「いや、無い状態を見ておらぬし…」
「んな事言ったら永久に証明出来ないよ」
「…では、そのお主の左腕を千切ったのは誰なんじゃ?」
「んあ~……聞いても怒らないで、ね?」
「ワシが怒るとは…どういう状況なんじゃ…?」
「…う~、あー……」
「……まさか、ワシの配下の天狗がやったとかじゃ……なかろうな?」
「う……スミマセン! 自分で千切りましたぁ!!」
「なんじゃそりゃあぁ!?」
「ひやぁあ!すいません!!」
「お主は阿呆か!? なんで自力で自然治癒出来ぬ程の傷を自分につけとるんじゃ!?」
「…ハイ……心底後悔は微妙にしておりません」
「後悔をしろっ!!」
「いだぁ!? ちょ! 刀でチクチク刺すなッ!?」
「……はぁ、全く…何がやりたいのやら」
「イテッ! だから刺すのをッッ! やめろッ!! 溜め息つきながら楽し気に刺すなッ!?」
「フゥ……それで? わざわざ千切る程の何かがお主に起きたのか?」
「……ん~…ゴメン、その辺りは色々あるから言えない」
自分の血肉を人間に食べさせてみました。なんて言ったらコイツは何しでかすかわからん……。
……いや、これは向こうの台詞か…?
「……まぁ、お主がそこまで言うなら強制はせんよ。ちゃんと治っとるようじゃし」
「神力妖力殆ど注ぎ込んだからね。治らなかったら詐欺だよ」
誰がどう詐欺なのかは分からないし、知らないけどね。
「神力か……今は無いんじゃろ?」
「うん、妖力みたいには回復しないからね」
「……どういう事じゃ?」
「えーっとだね…神力はまぁ、人から貰い受けるような感じで溜まっていくんだよ」
詳細は違うけど、イメージとしては合ってる…筈。
「…何やら複雑じゃな。その内に妖力よりも神力の方が増すのか?」
「わたしゃまだまだ新米の未熟神様さ…それに妖怪は妖怪だよ」
妖怪は妖怪。
人間との共存の望む八雲は、それをどう変えてみせるのかね。
「……そういえば、なんで天魔は八雲の事を知ってたの?」
「…どうやら実力のある妖怪に色々と接触しておるようじゃ。ワシの所にも来たんじゃよ」
「へぇ。それで? 天魔は賛成? それとも反対?」
「……お主は人間だった時の性格と今を比べて、お主は変わっておるか?」
「? 多分変わってないと思うよ? …当時を知る人が居ないけどね」
「…フム。なら人間にも妖怪と仲良くしようとする奴は居るかも知れんな……」
「なにそれ……結局、その時に出した結論は?」
「『嫁と相談するから時間を来れ』」
「…まさか私の名前を出してないよね?」
「それは無論」
「うん、良し。なら喰らえぇ!!」
「ふぎゃあ!!?」
「テメェ誰がお前の嫁じゃあぁ!!」
「ケブッ!? 肉弾戦はお主卑怯じゃろ!?」
「問・答・無・用!!」
「のわぁー!!?」
今日も天狗の里は平和である。まる。