連続投稿。その二。
圧縮した空間を吹き飛ばす『ベクターキャノン』という技。まぁ、『ANUBIS』というゲームに出てくる技なのだけど。
それでも渾身の力を込めた私のスペルカード、《圧縮『ベクターキャノン』》は弾幕を打ち消していくも、半透明の紫を素通りし、彼女にダメージを与える事は敵わなかった。
圧縮砲はスキマの中を対象に当たる事なく突き進み、そのまま虚空を直進し消えていってしまった。
……というのが、紫から聴いたその後の顛末。
私はその時、弾幕を一気に受けてしまってラストスペルを放つ前に気を失っていた。
『行け!!』っと叫んだのは覚えているけど、どんな風な弾幕になったのか見ていない。
まぁ、逆にスペルカードを作っておくと、気絶しても発動したのなら術式が終わるまでは止まらないというのが分かった。こういうのは良い方に物事を考えよう。うん。
……せっかくスペルカード創ったのに、その出来た弾幕を見ずに気絶するとか、私はいったい何をしているのだと、思わなくもないけど。
閑話休題。
「……あ~あ、負けたか」
『スペルカード方式』による決闘とは、戦闘能力の差が激しい強者と弱者とも対決が出来るようになっている。
それにより、弱者がもし強者に勝つ事が出来たなら、勝った者は敗者に向かって命令を一つ下せるようになるのだ。
私は、『八雲 紫』という上司に威勢良く喧嘩を売って勝負を仕掛け、『彼』を護ろうとした。
本気で相手を殺すような勝負を挑むのなら兎も角、『弾幕ごっこ』という幻想郷のルールで戦ったのが運の尽きだった。
だから、私はもう『彼』を護る事が出来ない。
紫が彼に何をしようと、私は何も言えなくなったのだ。
「……」
「……勘違いしているみたいだけれども、私は『彼』に何かをする気は更々無いわよ?」
「は?」
「いや、だから私は別に貴女に関係する人間については、悪巧みをしようと考えていないわ」
「え……?」
「……だから、もっと分かりやすく言うと、私は貴女が好きな『彼』を幻想郷に招き入れるつもりなんて一切無いわ」
「つまり…………私は痛いほどの勘違いをまたしていると……?」
「そうね。そうなるわ」
……。
……。
……。
……。
……。
ゥワアァーーーッッ!!?
なに!? 何でまた私は恥ずかしい勘違いを起こしちゃったの!?
やだよ!! ドジッ娘なんていやだよ!? あんなのがリアルに居たらどれだけ周りが苛々すると思ってるのさ!!
こんなドジッ娘属性及び痛い勘違いをする質なんて、いや~ッ!?
「……」
「……まぁ、随分と酷い勘違い少女って訳ね」
「まだ虐めてくるし!? 帰る!! もう帰って寝るぅぅ!!」
「フフ、待ちなさい。最後に一つだけ、貴女に訊きたい事があるの」
スキマを開けて『彼』の家に逃げようとする私に、紫は襟首を引っ掴みながら声を掛けた。
「……何さ。服が伸びるんですけど」
「貴女、幻想郷に帰るのでしょう? このままだと、この世界に残ってあの子の世話をずっと焼きそうな気がするのだけど?」
「……」
……確かに、ちょっと過保護すぎる所もあるかも知れないけどさ。
あと服に関してはノータッチですかそーですか。
「それはないよ」
「……本当に?」
「うん、期限は夏休みまで。って決めたからね。それに約束したじゃん」
「……そうね」
そう呟いて、紫は掴んでいた襟首の部分を離してくれた。
また彼女が話を始める前に、さっさと『彼』の部屋に退散である。
……話は終わったんだ。
私は初の弾幕勝負で、紫に負けてすごすごと引き返す。それだけだ。
▼▼▼▼▼▼
「……ただいま、っと」
家に戻ってきた。
『彼』の部屋にスキマを開き、転がり落ちるようにベッドへと着地する。
見渡しても『彼』の姿はないので、恐らくは下の居間で水でも飲んでいるのだろう。
……ああ、今になって弾幕の怪我が痛んできた。
くさびのような弾幕が全身に打ち込まれた所為で痛いったらありゃしないの。
非殺傷だったみたいだし、痣程度で……済んでないじゃないか。防御した両手が破裂したみたいな傷跡で来てるじゃないの!? 一応治ってるけど!
「……お前、大丈夫なのか? その怪我は」
「ん? あれ、居たの? いやこれは治ってるよ?」
「いや……ああ、そう……」
いつの間にか部屋に戻っていた『彼』に驚きつつ、傷自体は治っているから大丈夫と返すと、何とも微妙な顔をされた。ふむ……。
まぁ、服には所々血が滲んでいるけど、一応全部出血は止まってるみたいだから布団を汚す事もない……筈。
それにしても疲れた……『スペルカード』による対決は頭を使う。
「……というか、お前は木材を探しに行ったんじゃないのか?」
「そうだった……けどいいや、めんどくさい」
「……さいで」
これまたベッドの上で大の字に倒れる私を見て、『彼』は深々と溜息を吐きながら椅子に座った。
身体の向きを机へと向け……ず、私の方へ向けて、膝に肘を付けて両手を組み、こちらを見ている。
……着物の裾から見える素肌を見ている、というか、傷を見てるのかしら? もう全部回復して痕だけが残っているだけな筈だけど。
……そういや、さっき告白めいた事を紫に言っちゃったな。
『彼』からまだチラチラとこちらを見るような視線を感じつつ、目蓋を閉じて色々と考えてみる。
………………うん。まぁ、有りじゃない?
自分の一番の好みの異性の人って、異性の自分だって言うしね。
……まぁ、仮に『彼』が女性になったとして、私みたいな式みたいな女性になるとは思えないけど。
そういう意味でも、私のこの姿は謎なんだよなぁ……。
とか、色々と考えている内にどうやら寝ていたらしい。もう辺りは真っ暗で、時計は二時半を指している。
いつの間にか私は布団を被せられており、『彼』は畳の上でそのまま寝ている。
……また能力解除してたか、と後悔しつつ、『彼』のこちらを気遣う配慮に色々とニヤニヤしてしまう。
ああ、もう、かわいいなコイツめ。
▼▼▼▼▼▼
紫との対決を終えて、また平和な日々が戻る。
……でも、現世に戻ってみればそれはたかが数分の出来事で、なんだかなぁと思ってみたり。
実際には何日も戦っていたような気がする。
というか、そう言われた方が納得する。
まぁ、アドレナリンやら興奮物質とか、そこら辺が異常分泌でもされているんだろうなぁ、とか、大辞泉を読みつつ考える。
妖怪に人間と同じ脳があり、かつ似たような物質が発生するとしたら、の話だけどね。
そんな事をつらつらと考えたり『彼』と話し合ったりしていると夜になり、飯も風呂も済ませた『彼』が部屋に戻ってくる。
「『お前、最近部屋に籠もりっ放しだけど、どうしたの?』って遂に言われた」
「やったね」
「オイ」
「……まぁ、そんな私を警戒しなくても何もしないよ?」
「人の本を読み漁っといてよく言うよ……」
だって面白いんだもん!!
一五〇〇年も我慢したんですよ!?
「ま、まぁ、私に構わずいつも通りに過ごしたら? 私が居なくなった時に大変だよ?」
「自分で言うかそれ……」
「むぅ」
「『むぅ』、って……」
まぁ、そんな感じでのらりくらりと言葉を交わしながら本を読む。
時間がありすぎて暇だったせいか、空想科学読本も辞書系も全て読み終わり、ハリポタに挑戦中。
あ、
「そうそう、返すの忘れてたや。ホイ」
「……!! これ俺の扇子!!」
「ちょいとお借りしてました」
「何してくれてんの!?」
「返したじゃないの」
「そういう問題じゃねぇからな!? うわっ、破けてるじゃん!?」
「えっ、マジで? それは本当にごめん!」
「……俺の……扇子……」
見れば絵柄の《龍》の顎の下が破けている。
……これでもし《龍》自体が破けていたり、描かれている《風神》の文字が破けていたら、それこそ『私』は殴り掛かって来るからだろう。おお恐。
いや……反省しろよ、私。
「……ホント、ごめん。こっちの扇子あげるからさ……」
取り出したのは、桜が描かれた桃色の扇子。
幻想郷から飛び出してから、私が自分の感性で店に並んでいた物を買った奴。
……お金は他人から巻き上げた奴だけどね!!
「……」
しかし私が新たな扇子を渡しても、一向に反応しない『彼』。
眼の前で振ってみる……更に細くなった眼で睨んできた。
「……き、気に喰わなかった? ご、ごめんよ?」
「いや……他の物品で補うのはどうなのかなぁ。って」
「……うん、本当に御免なさい」
いや、本当にすみませんでした……。
……はい、もう迂闊に他人の物を勝手に使う事は致しません……。
………………多分。
「……まぁ、気に入ったっちゃあ、気に入った」
「あ、やっぱり?」
「反省しろ!!」
「びゃあああ!? 扇子でいきなり眼を突付く!? 女の子の眼をさ!?」
「イラッと来たからやった。反省も後悔もしてない」
「何コイツ、すげぇ腹立つ。痛ぅ……」
「人の扇子を勝手に借りた挙句に壊す奴が何を言うか」
「……」
反論も出来ぬ……ッ!!
▼▼▼▼▼▼
そんな事をしている間にも時間はどんどん過ぎていき、紫との弾幕ごっこも、いつの間にやら一週間ほど前の出来事となった。
結局あの神社からも連絡はないし、紫からの連絡もない。
まぁ、どちらも直接向かえば済む事なんだけどね……。
それにしても暑い。この家は地獄か?
風を起こしても全然涼しくならない。湿度もウンザリする程高いからだろうね。七十八%って何の数字かな? 良く分かんないや。
「……暑い」
「この家だからな」
「……言い訳としてどうなのよ、それ……」
「だって仕方ないだろ、『こういう家』なんだから」
「……」
あれ? 私の眼がおかしいのかな? デジタル時計の右下に『35.8℃』って表示が見える……。
……幻覚かな? もしそうなら『衝撃』で吹き飛ばせれる筈なんだけどなぁ!!
「落ち着け。錯乱しても暑くなるだけだぞ」
「……そうね。ぐったりしていた方がまだ涼しいような気がするよ……」
私は例の如く、ベッドを踏んで窓に腰掛けて涼しい風が入るように力を使い、
『彼』は、いつも通り夏休みの宿題をさっさと終わらせる為に頑張っている。
……頑張るねぇ……。
そんな感じで眺めていたのに気付いたのか、彼は呆れた顔で喋り始めた。
「お前はやらなかったのか?」
「ん? 何が?」
「今の俺みたいに、夏休みの初めに宿題を全て片付けようとするのを。お前の場合の『前世』だと、夏休みギリギリまで宿題を伸ばしていたのか?」
「いんや、普通に地道にやってたよ? 君みたいにさっさと終わらせるとかか、夏休み終了に合わせて終わらせるとか」
「あ~……なるほど」
「なるほど、って?」
「……そういう所も似てるんだなって」
「まぁ、そんなもんじゃない?」
「……そんな言葉で終わらすのはどうかと思うが……まぁ、そんなもんか」
「そうそう。世界はそんなもんだって」
「いや、そんな大層な話じゃないだろ」
「そう?」
「うん」
「あっそ」
「……淡白だなぁおい」
「それが私クオリティ」
「知るか」
「なんだ、つまらないの……」
「……何で俺は溜息を吐かれないといけないのだ」
「さぁ?」
「……はぁ」
「あれ? 今度は私が吐かれてるし」
「自分の行動を見直すんだな」
「……むぅ」
「……」
そんな下らない話も、いつの間にか沈黙になる。
まぁ、片方は勉強中だしもう片方も読書中だから、致し方無いと言えば致し方無い。
宿題を終わらせる為の『カリカリカリ……』というペンの音と、本のページを捲る『カサ……カサ……』という音が重なる。
まぁ、窓を全開にしているから近くを通る自動車や信号の音もふつーに聴こえるんだけどね。
こんな市の中心部で静寂なんて感じれる訳がないから、まぁ仕方無い。
逆に子供は五月蝿い場所で勉強をさせると、集中力が養われるという話もあったり。
まー、どうでもいい話ですな。
こんなのも『彼』と話す雑談の一つでもある。
さて、遂に本棚を一つ読みきってしまった。
『バカとテストと召喚獣』から『六番目の小夜子』まで、良く分からない好みの本棚。
『デュラララ!!』は兎も角として、『超人学園』や『NHKにようこそ!』とかは知ってる人なんて殆ど居ないんじゃ……?
……ま、退屈はまぎらわす事が出来たから良しとしましょう。
実に懐かしい作品達だ。集めた記憶もうっすらとだけある。
懐かしすぎて涙が出るね! 嘘だけど。
「んん~~~ッ、んっ!!」
思い切り背伸びをするとバキボキと骨が鳴る。いやはや見事に鳴る。
「あ~……読み終わっちゃったな~……本」
「……幾ら時間が有り余ってるからって、一週間で読みきるか? 普通……?」
「ようかいにふかのうはないのだーッ!」
「喋んな」
「いつになく冷たい態度!?」
しかしまぁ、暇潰しとして始めた読書も遂に終わってしまった。
また新たな暇潰しでも探さないとなぁ。
「さてさて、どーしたものか……」
「……うし! 終わった……!」
嘆息して窓の外に眼を向けていると、いきなり『彼』が課題の宿題を閉じて背伸びをし始めた。
コイツ……夏休みが始まって、たった二週間で全ての宿題を終わらせやがった……。
……一週間で本棚一つを読みきる私が言えた事ではないかも知れないけど。
「……呆れた。本当によくやるよ」
「これで自由だ!!」
「そして休み明けテストで痛い目に遭う訳ですね分かります」
「……人が解放感に浸っている時に、どうしてそう嫌味な事を言うかねぇ、このお嬢さんは」
「事実でしょ? 見直しとか復習なんてしないでしょ?」
「……うん……まぁ……」
ほれ見ろ。
だから休み明けテストで赤点取るんだよ。もう一度やらないからさ。
……まぁ、なんでそんな事を言えるのかって訊かれたら『私もそうだったから』っていう事なんだけどね……。
「さぁて、ゲームでもしますかねと」
「勉強するような課題が無いから、思いっきり遊べるって訳?」
「そういう事♪」
うーむ、現代人らしい健康的じゃない活動の仕方ですなぁ……。
ふむ……。
「ねぇねぇ! 出掛けない?」
「何処に?」
「海!!」
「……」
こうして、
海に行くというプチ旅行は決まったのである。まる」
「いや、決まってないだろ!? 俺は一つも何も了承してないぞ!!」
「誘拐してでも連れていくから安心して♪」
「安心出来る材料が一ミリも入ってないんだが!? つーか人の話を聴け!!」
「めんどくさい」
「オイィィィッ!?」
海に行くのが、決定した。
かっこ、わらい、かっことじ。ぴーすぴーす。