風雲の如く   作:楠乃

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出遭い 再会 遭遇

 

 

 

 社へと続く階段を、早苗と共に登っていく。

 動揺? 舌? 意味が分からないなぁ。

 嘘吐きっていうのは、自分を騙せる人の事だよね。それ以外は単に嘘を吐いただけで普通の人だよ。

 ……と、思う事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 山に到着して長い階段を登る前に、私は髪を切ってポニーテールを止め、ショートカットにした。

 肩でバッサリと切って、そのまま放置したような雑な髪型。

 分かりやすく言うとすれば、どこぞの境界の直死の魔眼の人みたいな髪型である。

 というか、元から結構似ているんだよね。顔が。

 ……まぁ、私の方が悪人面だし、似てると思ってからは自分から似てるように工夫しているんだけど。

 

 

 

「……何故切ったんですか?」

「神奈子や諏訪子には、あの髪型を見せた事がないのさ。最後に逢ってから髪型を変えたからね」

 

 彩目なら結構な頻度であの二柱に逢っていたらしいけどね。私は全く逢おうとしなかった。

 《神風》の説明をめんどくさがった、っていうのもあるけど、実際には『見たくなかった』っていうのが、私の中にはあった。

 神の力が、衰えていく様を。

 次第に、圧迫されるような神々しい迫力が消え失せていくのを。

 ……紫と逢って、未来の話をしたときから、彼女達はこうなるのだろうと考えてから、逢うのが怖くなった。

 

 

 

「……」

 

 正直に言って、今この階段を登って逢いに行くのも、それほど気が進まない。

 早苗の言う通りならば、既にあの二柱は一般人に話し掛ける事すら出来ない程、力を失っているそうだからだ。

 人々を救い、神を信じる信仰のある人に救いを差し伸べてきた力は、今の彼女等にはない。

 

 それは、それを、どうしようもないと解っていても、歯痒くて仕方がない。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 そんな事を考えつつ、早苗の靴を見ながら階段を登っていった。

 ふと意識に割りこむように聴こえてきた早苗の溜め息に気が付き、顔をあげると既にそこは境内の中だった。

 後ろを振り返れば、そこには目も眩むような長い階段が続いている。

 

 ……あの頃は、結界が張られていて、私みたいな雑魚妖怪は瞬時に追い出されたりしたものだけど、今ではそんな退魔力を感じすらしない。

 

 振り返っていた視線を戻せば、荘厳そうな神社がある。

 

 県内でもそれなりに知名度がある神社。

 昔から続く、由緒ある力のある神々の住む場。

 ……それでも、昔のような圧迫されるような迫力は、ない。

 

 荘厳そうな神社がある。本当に……それだけ。

 

「……見掛けだけは、立派なんだけどね」

「ええ……お二人にはもう、力がほぼ残されていませんから」

「……」

 

 そう呟き、早苗が本殿へと歩き始める。

 私もそれに倣い、鳥居をくぐって立派な神社へと近付く。

 

 近付いていくと、弱々しい神力に気が付いた。

 私の持つ神力とは比べ物にならない程の、微少な量の神力。

 

 

 

 ……幾ら私が学校で畏怖を集められたからって……その量はおかしいよ……!?

 私みたいな、マイナーな神様じゃなくて……アンタ達は歴とした神様でしょ……?

 何で……何でそれだけしか無いのよ……?

 

 

 

 幣殿を通って扉を開き、本殿の中へと入ると、

 

「や、久し振りだね」

「アンタは変わらないねえ。詩菜」

「……神奈子と諏訪子は、変わりすぎだよ」

 

 霞みになって、今にも消えそうな友人が、私を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 久々に逢った私達に水を差す訳にはいかないとばかりに、早苗は何処かに行ってしまった。

 嬉しいような、嬉しくないような。

 

「……礼儀正しいのか正しくないのか……あの娘って、諏訪子のアレでしょ?」

「あ、やっぱり分かっちゃう?」

「いやはや、随分とまぁ………………似てない」

「酷くない!? 真っ正面からそんな酷い事を言う!? 普通は面影があるとかそういう話じゃないの!?」

「アッハッハッハ!」

「神奈子も笑わないでよ!?」

 

 こういう風に、談笑したり笑い合ったりするのも、いつ以来やら。

 

「いやあ、久し振りに笑った笑った。あ~、片腹痛い」

「笑いすぎだよ!?」

「ふう……さて、私達が話すだけじゃなく、アンタの話も聴かせてくれよ。詩菜」

「そうだよ。ホラ!」

「はは、じゃあそうだなぁ……」

「あ、神風の話は?」

「……う、はい。します。睨まないで神奈子様」

「はっはっは、私は睨んでなんかいないよ?」

「うっそだぁ……」

 

 

 

 ……こういう行動も、ヒトによっては『現実逃避』とバッサリ斬ってしまうヒトも居るかも知れない。

 けど、私にはどうする事も出来ない。

 神力を渡せば良い、とか簡単な話ではない。どうせそれは『現実逃避』と一緒で意味がない。単なる先送りだ。

 ……そんな簡単じゃ、ない。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやで『神風』の説明もあっさり終わり、

 だんだんと夜が近付いてきた。

 

 彼女達と話していると、どうしても過去の出来事を色々と思い出してしまう。

 あの闇も今頃は何をしているやら。

 ……まぁ、あんな能力の持ち主だ。死んでたりはしてないだろうね。力を失って、というのはあるかもしれないけど、真っ暗というものに恐怖を覚えている人間は中々に多いだろう。

 

 けどまぁ、なんやかんやでビクビクしていた私や文も、今日に至るまで結局一度も遭わなかったのだから、実はそれほど恐がらなくても良かったんじゃないかな? ……と、今更ながらに後悔してみる。

 ま、反省したとしても既に千年も経過してるし、いきなり唐突に襲ってはこないだろう。

 決してフラグではない。多分、その筈だ。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

「それでだね。詩菜を早苗に呼んで貰ったのは昔の話をする為だけじゃない」

「ちょいと相談があるんだよ」

「……?」

 

 昔話も一区切り着いた所で、神奈子と諏訪子が相談をしたい。と言ってきた。

 ……この二柱が相談って、なんだろう?

 

 

 

 ……まぁ……予想は付くけど……。

 

「……信仰についての相談?」

「うん」

「確か詩菜は《幻想郷》の管理人をする妖怪の式神、という事を彩目から聴いたような気がするのだが、合っているかい?」

 

 ……なんか、猛烈にイヤな予感が……。

 

「……まぁ、そうだけど……」

「私達が頼みたいのはさ、『守矢神社を幻想郷に移せないか』という事さ」

 

 ……守矢神社を、幻想郷に……ねぇ……?

 ……そういうのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら♪ 面白そうではありませんか。わたくし共は喜んで協力しますわよ?」

 

 紫に頼むべきでしょ。

 

 

 

 瞬時に能力・妖力を展開する。

 立ち上がるよりも早く、誰よりも早く左手を地面に叩きつける。

 その際の衝撃を司って操り、高速で社からお暇する。

 

 つーか、逃げる。

 ああ、逃げるとも。断固として逃げるね。

 

「藍! 止めなさい!!」

「チッ!! まぁ、居るとは思っていたけどさ!」

 

 屋根に飛び上がり、更に瓦を蹴って階段まで跳ぼうと思っていたけれども、その前に私の周りを全て狐火が取り囲んだ。

 

「あの時とは違う。逃がさないぞ、詩菜」

「……やれやれ」

 

 狐火の向こう、神社の屋根の一番高い所にスキマが開いて藍が表れる。

 どうやら……四面楚歌、って奴かしら?

 後ろへ跳んで違う社の屋根で跳躍しようと思い、振り返れば近距離でスキマが開き、中からご主人が現れる。

 この近さだと、衝撃を起こす為の一つの工程ですらも止められてしまいそうだ。

 

「フフフ、さて捕まえましたわよ? 詩菜ちゃん♪」

「……その呼ばれ方も随分と懐かしいね。紫」

「そうかしら。たった数百年よ?」

「それをたったと言っていいものかね? まぁ、大きな境界の結界を張ってからだからねぇ……」

 

 隙はどうやら……完全にない。

 紫は扇子を持って口に当てているし、洋傘は開かなくても後ろのスキマから持ち手が見えている。彼女なら私が跳ぶ直前に抜き放つ事が出来る。

 後ろの藍は依然として私を監視している。狐火は未だに服を焼く直前の位置で留まっているし、何かしらの術式も私に取り付けたらしく、私の物でない妖力を私の服から感じる。

 

 はぁ……捕まっちゃったか。

 あ~あ、これで自由の旅も終わりかぁ。

 

 まぁ、『彼』について詳しく調べられたし、それほど悔いもないかな?

 とは言え、まだまだ『彼』から離れる訳にはいかないんだけどなぁ……。

 

 

 

「詩菜。貴女が残した伝言、まさか忘れているなんて事はないわよね?」

「ハハハ、まさかぁ」

 

 『今の幻想郷は人間と妖怪が平等な世界じゃない。人間が妖怪に飼われてるだけ。共存共栄ですらない、つまらない世界だ』

 

 私が彼女に伝わるよう、様々な所に残したメッセージを要約すると、概ねそのようなものだ。

 どうやら見込み違いや私が間違えたという事もなく、残していった伝言はちゃんと紫に伝わったみたい。良かった良かった。

 

「……今、かの地は面白いかい?」

「さぁ? それは貴女が決める事よ?」

「ふぅん? ま……それもそうだね」

 

 自信ありげに言葉を濁す紫。どうやら本当に面白くなっているようだ。

 さてさて、どんな風に変わったのかね……楽しみだな♪

 

 

 

「捕まったのだから、幻想郷に来て貰うわよ?」

「分かってる。でも……もう少し待って欲しい。『ある事』を見ておきたい。それが終わったら、そっちに向かうよ……信じれないなら、何か契約しても良い」

「……必ず、こちらへ来るのね?」

「それは約束する。神に誓って」

「ふふっ……神は貴女でしょう?」

「ふむ、それもそっか」

「良いでしょう。約束よ?」

「うん。約束」

 

『藍。囲い火はもう結構よ』

『……了解しました』

 

 脳内で紫の声が響いたので振り向くと、藍が如何にも渋々と言った感じの表情で術式を解除した。

 ……いやぁ……相変わらず嫌われているねぇ。

 

 

 

 

 

 

「えっと……つまり、どういう事?」

「何が起きたんだい?」

 

 あ、神奈子と諏訪子を放置してたや。

 姿は霞み過ぎて視えなくとも、どうやら近くには居るようで言葉は近くから感じる。

 

 ……ふむ、場の中ではある程度自由に行動は出来ているんだね。

 それはほんの少しだけど、安心出来る。

 

「幻想郷は全てを受け入れますわ。妖怪も神も人間も」

「……向こうに行けば、信仰を獲られるかい?」

「ええ♪」

 

 そっか、ついにこの守矢神社も幻想郷に来るのか。

 ……そうするしか、ないもんね。

 

 

 

 

 

 

 ………………ん?

 

「そういえば早苗は? 早苗も来るの?」

「……それは……」

「ま……あの子に訊かないとね。私達が決めちゃいけない事だよ」

「ああ……そうだ。早苗に決めてもらう。それで、もし来る事になっても、幻想郷は全てを受け入れてくれるんだろう?」

「勿論♪」

 

 

 

 ふぅん……。

 ……あの娘は、どうするのかしら。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 結局その日は、早苗やその家族に説明するからまた後日来て欲しい。と二柱に言われて解散する事になった。

 行けるという事が分かって、神奈子と諏訪子は幻想郷に向かうのは既に決めているようだし、色々と話しあう事があるんだろう。

 

 神社の鳥居を潜り、陽も完璧に沈んだ街中。

 その暗闇の中、階段をゆっくり降りていく八雲一家と私。

 

 藍は相変わらず無表情で紫の後ろを歩き、紫は優雅に洋傘を差して、私の横を歩いている。

 何となくだけども、藍からは未だに強い視線を感じるし、紫はこれまた心の中を理解出来なくするような表情を浮かべている。

 

「このまま私達は幻想郷に戻るつもりだけれど、貴女はどうするのかしら? 『とある事』を見る為に、まだこちらに残るのかしら?」

「……そう、だね」

 

 守矢神社がいつ幻想郷に行くのか。

 

 まだあの二柱が、すぐに行くとは決まってないだろうけど……、

 せめて『彼』の夏休みが終わるまでは、待って欲しいな。

 

「……もう少し、待って欲しい」

「あら、そう……貴女がそこまで執着する事柄って、何なのかしら?」

「……ちょいとね」

 

 『彼』を巻き込まない為にも、彼の説明をする気はない。

 ……とは言え、彼女達に隠し通せるとは、到底思ってはいない。

 

 

 

「んじゃ、お疲れ様」

「ええ、また遭いましょう」

 

 そう言って、私達は別れた。

 紫達に背中を向けていたけど、スキマが開いて閉じる気配がしたから、本当に《幻想郷》に帰っていったのだろう。

 ……まぁ、やっぱりスキマから、私がそれほど『執着する事柄』を覗き見する。って可能性もあるだろうけど。

 紫に既に見付かったから普通にスキマを開けるし、気配を感じたらすぐさま開く所存であります。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「ただいま、っと」

「……窓からかよ」

「おんや、『傷物語』じゃありませぬか。読み終わったら貸してーな」

「人の話を聞けよ。というかその口調は……まぁ、良いけどさ」

 

 窓から『彼』の家に入り、ベッドに寝転がりながら本を読んでいる『彼』を踏み潰さないように室内に入る。

 

 

 

 傷、吸血鬼……物語シリーズね。

 それを見ると、どうも彩目を思い出すなぁ。

 あの娘も今何をしているかしらね。

 

「で、早苗の信仰している神様とやらはどうだった?」

「……」

 

 ……『彼』って、下の名前であの子の名前を呼んでたっけ?

 まぁ……いいか。

 

「……どうした?」

「いんや……まぁ久々に友人と逢えたよ。昔話に華を咲かす事が出来たね」

「真っ赤な華ってか?」

「頭パァーン! ってちゃうわ!!」

「ノリツッコミ乙」

「自分から振っておいてそれ!?」

 

 と、まぁ、そんないつも通りの漫才をしつつ、床に座る。

 ……いかんな。私が完璧にツッコミ役になっちゃってる。

 

「ま、色々な事があったよ。守矢神社で」

「ほー」

「……聴く気なしか? 興味もないってか? えぇ、オイ」

「だから何なんだよその口調……まぁ、多少興味はあるが、部外者の俺がそこまで聴いて良いのか? 俺をそちら側に引き込みたくないんじゃないのか?」

「引き込みたくないけど、多分キミにも重大な話になるかもよ?」

「?」

 

 

 

 まず初めに、

 

「早苗の事、どう想ってる?」

「どう思ってる……って、何? 好きかどうかってか?」

 

 そういうのには敏感なのか……恋話大好きか?

 ……まぁ、こんな自分に惚れる奴はいない。って完全に思っちゃってるのかしらね。

 

「まぁ、嫌いじゃあないな。幼稚園からの仲だし」

「らしいねぇ」

「なんだ、知ってたのか? ……あ、前世の記憶って奴か?」

「いや、私の前世に彼女は居ないよ。守矢神社なんて転生してから初めて知ったもん」

「……え? いや、お前は俺と同一人物とかいう話じゃなかったのか?」

「私もそうだと思っていたんだけどねぇ……変な部分で違いがあるんだよねぇ」

 

 例えば、『私』の氏名。

 例えば、両親の苗字。

 例えば、学校とかの交友関係。

 

 逆に、ある一部分だけ完全に一致している。というのもある。

 例えば、兄の名前。

 例えば、引っ越し先の地名など。

 例えば、私が好む本のジャンル。

 

 

 

「ま、それは別にどうでもいいんだけどね」

「どうでもいいのかよ」

「どーでもいー♪」

「……さいで」

 

 そうそう、どうでもいいのさ~。

 

 

 

「……で、早苗についての話題に戻すけどさ」

「戻すのか」

「早苗、もうすぐ引っ越すかもってさ」

「……なんだって?」

「『こっち側』に守矢神社ごと引っ越すかもってよ」

「……」

 

 さぁ……そんな事を聴いた『彼』は、

 君は、どうする?

 私でない、『私』は、

 一体何を思い、どう行動する?

 

「……行ったらもう逢えないのか?」

「行ったら、ね」

「……そっか。そりゃ残念だ」

「残念?」

「まぁ、な」

 

 うん、まぁ、その部分については、そりゃそうだよね。としか言えない。

 

 そう思ってしばらく待ってみたが……どうやら『彼』はそれ以外の答えを言おうとしなかった。

 存外信頼されていないようで、私はオヨヨヨと泣く真似をしてやろうかとも考えたけれども、まぁまぁ出逢って数日程度しか経っていないので当たり前かとも思った。今思った。つまり思う。

 

 まぁ、どうでもいいけど。

 

「まぁ、夏休みの終わりがリミットだよ。色々とね」

「……夏休みの終わり、ねぇ……」

 

 ま、あと一月か。

 さてさて、どうなるかねぇ……。

 

 

 

 

 

 

「……おい。自然に人の布団に入ってくるな。それにまだ七時で妖怪はそろそろ起きる時間じゃないのか?」

「ホコリまみれになりながら寝たくないもの。それに私は比較的人間らしい生活を送る事を玉条と出来たらイイなぁ」

「規則的な人間になりたいのかなりたくないのかどっちなんだ……ハァ……」

 

 おっやすみなっさ~い♪

 

 

 







 2013/12/05:午後4時8分 
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