そのため、訓練に全く身が入らなかった。
そんなロックオンにアイツが活を入れる。
時間軸はセカンドシーズン。
2017/3/2あとがき追加
ライルが加入したばかりの頃。
シルトは非常に怒っていた。
此処が重力の及ぶところなら、怪獣のような足音を荒上げ、ズシンズシンと歩いていただろう。
だが、無重力の宇宙に出ているトレミーではそれも出来ない。
「オイ! ロックオンはいるかっ!?」
食堂に付いたとたん、シルトは声を荒上げた。
そこには食事の時間ということもあり、数名が宇宙食を食べていた。
その中に、御目立てのロックオンがいる。
「おいおい。 なんだよ? こっちは食事中だぜ?」
ロックオンは怒っているシルトに全く心当たりがなく、呆れてため息をつく。
さっき、格納庫で別れた時は「いい加減、食事取ってきたら?」と心配され、長時間の訓練から解放されたロックオンはこうして食事にありつけていた。
しかし、今はどうだろう?
シルトは、さっきとは打って変わり、まるで別人のように、怒りに満ちた目をロックオンに向けている。
「テメェ・・・なんだ!? あの操縦の仕方は!」
シルトは勢いをつけたまま、無重力の体をロックオンに体当たりし、胸倉を掴みあげ、壁に押し付けた。
「シルト!?」
「シルト!」
アレルヤとフェルトは驚き声をあげ、怒りに満ちたシルトを止めようとする。
一方、刹那とティエリアは黙って様子を見ていた。
ティエリアはシルトが怒る理由にこころ辺りがある。刹那は理由もなくシルトが怒ることはないと知っているからだ。
またかよ。
どうせ、俺は兄さんのようにはなれない。
ロックオンは鬼コーチであるティエリアの罵声を聞きながら、散々、訓練を重ねていた。
何度やっても、兄のような訓練・本番ともに、90%以上の命中率を出したことはなかった。
せいぜい、やっても70%そこそこで、集中力が途切れると、更に下回る。
そんな状態の中、ついさっき、休憩に入ったばかりだ。
きっと、シルトも兄さんと俺を比べて、へたくそとか、言いに来たんだろう。
そんなことを思いながら、締め付けられる胸倉に苦しげな表情を浮かべる。
アレルヤとフェルトは二人を引き離そうと、フェルトはシルトの肩に触れ、アレルヤは二人の間に入ろうとする。
「ケルディムに八つ当たりしてんじゃねぇ!!」
「はぁ?」
「「え?」」
思っていたことと違う言葉を言われ、ロックオンは間抜けな声を出した。
止めに入った二人も、思わぬ言葉に目を白黒させる。
「お前は初代じゃない! 初代は初代! お前はお前だろう!」
何を言われているのか、理解が追いつけず、ロックオンはシルトを凝視したまま固まった。
「ケルディムはお前の機体だ! 自分らしい操縦しないで、何、イジケてやがんだ!」
ティエリアはそれを聞いて、彼が怒る理由に納得した。
「ケルディムを使いこなせねぇで、何が「俺は兄さんじゃない」だ! そんな、当たり前のこと言ってる暇があったら、さっさと、手足の様に使いこなせるまで、使い込んでみろ!」
シルトはロックオンの口真似をしながら、けんか腰でロックオンを慰めていた。
「シルト。ケンカ腰はよくないぞ」
刹那のごもっともなセリフに、周りは頷いた。
「わかってる。わかってるけど~~~・・・」
口を尖らせ、うぅ~と唸る。こんな風では相手に伝わらないことは解っている。
でも、今のロックオンは、まるで兄の背中を追いかけても届かない。そんな悪循環を抱え込んだまま新しい機体であるケルディムを扱っているのだ。
それでは、周りの期待に応えるどころか、ケルディムを扱え切れず、ロックオン自身の才能すら潰れてしまう。
それを分かっているのか、わかっていないのか。
解放されたロックオンは未だに目を白黒させていた。
その様子だとまだ、解って居ないようだ。
言いたいことを言い切ったシルトは、頭が冷め、ロックオンに呆れてため息をつく。
「刹那ぁ~~ お前ほど、ガンダムの事わかってるやつはいないよ~~・・・」
シルトは刹那に泣きつく。
それに納得しているティエリアは一言。
「刹那はガンダムバカだからな」
「ありがとう。最高の褒め言葉だ」
爽やかな表情で、前にも一度、聞いたようなセリフを言う。
「あははは・・・・」
アレルヤは呆れるしかない。
「(何なんだ・・・コイツら・・・)」
現実に戻ってきたロックオンは若干、彼らをひいた。
その後、
気合いを入れ直した
ついでとばかりに、ソレスタルビーイングに戻って来たばかりのアレルヤにも、アリオスに慣れておくようにとシルトは言った。
訓練を見ているティエリアよりも鬼畜な訓練メニューを提示するシルトに、二人は固まった。
シルトは伊達にガンダムの整備と、予備のガンダムマイスターをやっているわけではなかった。
訓練に対しても厳しいコーチだったのだ。
シルトは笑顔で、二人を見送った。
***
おまけ
「シルト。俺の分の訓練メニューはないのか?」
「刹那の? ないよ。ダブルオー、調整中だから」
「そうか」
こころなしか、刹那がしょんぼりと肩を落した。調整が終わるまでガンダムに
その様子に、シルトは頭をかく。
「僕の部屋なら、シュミレーションできるよ」
「
その一言に、キラリと目を輝かせ、回復した刹那は許可を貰うと、さっそくシルトの部屋に向かう。
「ほんと、好きだね」
「全くだ」
シルトとティエリアは微笑んだ。
今回出てきたシルトというオリキャラ。
私が書いている別作品に出てくるキャラです。
***
ある方から指摘があったので追記。
ロックオン・ストラトスは本編シリーズを通して二人います。
初代ニール・ディランディとその双子の弟、ライル。
二人は双子なので見た目はそっくり。なので、パッと見、見分けがつきません。
しかし、二人の先頭の得意分野が違います。
兄のニールは狙撃が得意で、弟のライルは射撃が得意です。
1期に登場した三世代ガンダムのデュナミスは狙撃がメインの機体で、2期に登場した四世代ガンダムのケルディムも同様です。
なので、死亡したニール(狙撃)を基準に製造したケルディム(狙撃)は、ライル(射撃)には使いずらいのです。なので、劇場版に登場した4.5世代ガンダムのサバーニャになるまで本当の意味で機体がライル専用機にはならないのです。
他のメンバーは入れ替えがない分、新しく製造した機体を専用機にするのは容易いのですが、ライルは仲間になって日が浅いため、ガンダムをライル専用機にするには試行錯誤が必要不可欠。
この話は、ライルの癖を知るために訓練をさせ、その試行錯誤をしながら整備士のイアンとシルトが調整を常にしている状態。なのでライルがニールに似せようと頑張る必要はないのです。むしろ頑張ったらダメです。なので、訓練内容から癖を見抜いたシルトがライルに怒ってるんですよね。
逆に刹那はブレていないので褒められると。ダブルオーガンダムが役不足になるのは刹那がイノベイターとして完全覚醒するまでですから。
(……補足が長くなった)