Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第八章です。
よろしくお願いします。


第八章

────「お前買いすぎじゃないのか?」

 

「いいの。私は満足。」

 

羽矢に買い物に付き合わされた挙げ句に、支払いは全部俺に任せたせいで財布にはもう何も入っていない。

帰路についてはいるがもう十一時も過ぎているし、早いとこ羽矢を家に返して俺は寝たい。

 

「公園突っ切った方がお前の家に近道だよな?」

 

「うん。」

 

言って俺たちは公園に向かった──。

 

 

 

 

 

 

──公園を突っ切っているが、誰一人として人がいなかった。

こんな時間だし、いないのも当たり前か。

 

ただ公園に入った瞬間からずっと気分が悪い。

何か怨念めいたものがある感じ。

心霊スポットとかそんな風な入ってはいけないような。

羽矢もそれは同じみたいでさっきから少し早足になっている。

 

「大丈夫か?」

 

「うん。平気…。」

 

と言いながら出口の一点をただ見つめている。

大丈夫と言ったものの顔はかなりつらそうだった。

俺はなんとか平気だが、羽矢が心配だ。

 

「早いとこ、ここから出なくちゃな…。」

 

ここにずっといちゃだめな気がする。

早く公園から出なくては。

 

 

────「おい、ここで何してる。」

 

ふと聞こえたのは男の声だった。

後ろを振り向くとそこには細身の男がゆらりと立っていた。

 

「お前らよくここに入れたなあ。スワスチカってやつは開いてんのに。」

 

見た感じ同年代の男はチャラい言葉で、まるで俺たちを馬鹿にしたように言ってきた。

 

「……。」

 

スワスチカ?

聞いたこともない言葉だ。

何故か引っ掛かるが……。

まあそんなことは後回しだ。

 

まずはこの男。

見た目じゃ普通の好青年みたいだが、直感で俺の脳がこいつは危険と告げている。

ルサルカや櫻井螢を見た時と同じ感じだ。

ならば恐らくこいつは…。

 

「お前、何者だ?」

 

「フッ。」

 

男は鼻で笑った。

 

「今から殺そうと思ってるやつに俺は自己紹介なんてする趣味はない。」

 

「……。」

 

なるほどな。

この男は最初から殺すつもりで話し掛けている。

つまりこいつは人を殺す手段を持っているわけだ。

 

ということは

 

「聖遺物を……。」

 

男は俺の言葉に反応した。

 

「ほう。その言葉を言うってことはお前は黒円卓か何かか?」

 

「黒円卓?」

 

また知らない言葉が出てきた。

でも聞いたことあるような気がする。

いつかは分からないが。

 

またこの既知か。

 

「知らないのか?

じゃあなんでお前は聖遺物のことを知っている。」

 

男はさらに聞いてきた。

 

「……知り合いから聞いた。」

 

「知り合いねえ。まあいい。

死ぬやつのことを知ってもどうにもならない。

早く俺の聖遺物に魂をくれよ。」

 

どうやら戦わなくてはいけないらしい。

正直こういうの巻き込まれたくなかったんだけどな。

聖遺物持った時からある程度は覚悟してたが…。

でも、その前に

 

「羽矢。早く逃げろ。」

 

「え…。祐君はどうするの?」

 

「俺はこいつを少しでも足止めする。」

 

羽矢を巻き込むわけにはいかない。

逃がさなければ。

そのためにも勝ち負け関係なく時間を稼ぐ必要がある。

 

「そんな…。だめだよ。」

 

羽矢は心配そうな顔で見つめている。

 

心配を掛けさせるなんて、俺は駄目だな。

情けない。

 

「いいから。俺も後でちゃんと逃げるから。」

 

「………。うん……分かった。無事で。」

 

羽矢は悲しそうな顔をしながら公園の外へと駆け出した。

 

「いいねえ。傑作だ。」

 

男はニヤニヤと笑っていた。

 

「あの女、なかなか可愛かったなあ。

俺が抱いてやってもいいぞ。」

 

「………ふざけるなよ。」

 

どうやらこいつは狂ってる。

こんなやつと話してもどうやら無駄だ。

 

「何を怒ってんだ?お前の代わりに俺がしゃぶり回してやるって言ってんだ。」

 

これで俺は逃げられなくなった。

羽矢をこの変態野郎に渡すわけにはいかない。

 

「来いよ。最初から殺すつもりで話し掛けたんだろ?」

 

「ハハ!いい度胸だな。

じゃあまずはお前を殺してあの女をその後貰う。」

 

まずは様子を見なければ。

相手がどんな手を使って攻撃するか分からないままで突っ込めば、即やられる可能性がある。

 

「………。」

 

「………。」

 

しばらく沈黙が流れた。

お互いに手の内を探り合う。

武道の試合なんかでよく見る間だ。

 

が、─────

 

「ハハハッ!」

 

「ッ!」

 

気付いた時には手の届く距離まで詰められていた。

 

違う。

こいつは様子見なんてしていない。

何も考えていない。

 

俺は男の荒い突きをギリギリ腕で受け流し、後ろに身を引いた。

 

「よく避けたな?」

 

受け流しただけで腕が衝撃でビリビリとしている。

まともに受ければ致命傷になりかねない。

 

「くそおッ!」

 

俺は思いっ切り男の胸へと突きを繰り出したが、びくともしない。

 

「そんなものか。」

 

男が再び荒い突きを繰り出す。

それを上へと受け流しそのまま溝へ二撃目。

 

だがそれでもびくともしなかった。

したのは鈍い音だけ。

 

この男の体の硬さ。

考えるとすればやはり段階の違い。

 

ルサルカが言っていたのを思い出す。

聖遺物を扱う上で必要なのがエイヴィヒカイト。

そのエイヴィヒカイトには位階というものが存在し、その段階を踏むことで聖遺物の力を十分に引き出せるようになるらしい。

その上で身体も強化されていくというが……。

 

俺の位階はまだ最初の段階だ。

恐らくこいつに至っては二つぐらい上な気がする。

活動のままじゃ勝てない。

なら俺は次の位階へと昇格する必要がある。

 

でも、果たしてできるのか?

ルサルカとの特訓の時にもできなかったのに。

このままじゃ……

 

「止まってるぞッ!」

 

「くッ!」

 

蹴りを入れられたが今度は避けれた。

 

まだ俺を舐めきってるうちに。

こいつがまだ何も使ってこないうちになんとかしなくては…。

今は相手の攻撃を避けれているが、いつまでも避けれるとは限らない。

 

「ほら!どうしたどうした!」

 

「ぐッ!この…。」

 

だんだん受け流せずにかすってきている。

もう限界か……。

 

「おらぁ!」

 

男の拳が顔面に向かってきている。

避けきれない。

 

俺は目を瞑ってしまった。

これを受ければ恐らく頭は粉々になる。

 

もう…ダメだ。

終わった。

こんなところで死ぬなんて。

 

 

 

─────もう諦めるのか?

 

 

もう何も抵抗する術を持っていない。

無理だ。

 

 

 

─────抵抗する術はある。貴様の覚悟が定まっていないだけだ。

 

 

覚悟なんて言われても……どうすればいい。

 

 

 

─────自分の弱さを認めればいい。抗うな。

 

 

自分の弱さを?俺は強くなりたいんだ。弱さなんかいらない。

 

 

 

─────弱さを認めてこそだ。まずは目を開けろ。少年。

 

俺はゆっくりと目を開けた。

 

するとそこには辺り一面の野原で、坂道が続いている風景が広がっていた。

すぐ横には何にも書いてない立て札が立ててある。

 

そして目の前には

 

「少年。目を背けるな。」

 

厳つい大男が立っている。

勇ましく、歴戦を勝ち抜いてきた猛者。

 

「あなたは……。」

 

「ふん。今更聞かずとも分かっているはずだ。

さあ、弱さを認めろ。その上で強者となるがいい。」

 

「その上で?」

 

「そう。自らの弱点を見れば、そこを補うことができる。

己を見ることは武にとって大切なことの一つだ。」

 

「自分を見つめるか……。

でも、俺の弱さって力量のことか?」

 

「それはお前の本当の弱味ではない。

が、今の状況ではそれも弱味ではあるがな。」

 

「本当じゃないってどういうことだ?」

 

「それは自分で考えることだ。

……もう時間はないぞ?

弱さを見ろ。受け入れろ。

自ずと答えは開けてくる。」

 

大男の目を追うと、立て札には文字が浮かび上がっていた。

 

「これは…。」

 

「唱えよ。刮目し、敵を過ぎろ。友を過ぎろ。

 

我が聖遺物()で───全てを貫けえい!!」

 

 

 

 

 

────「な、何ッ!」

 

男は驚いていた。

つい先ほどまで追い詰めていたのに。

俺が拳を片手で受け止めているから。

 

「こ…こいつ………ッ!」

 

何かを感じたのか男は数歩飛び退いた。

 

「お前は…一体……。」

 

「今さらか。愚問だな。」

「今さらか。愚問だな。」

 

俺が喋ると同時に別の声が聞こえる。

 

「さあ。」

 

立て札に書かれていたこと。

これを唱えることが俺の覚悟の証だ!

 

「刮目しろ!」

「刮目せよ。」

 

 

 

家康に過ぎたるものが二つあり

 

 

形成──

 

 

唐の頭に本多平八

 

 

 

触れれば断つ 蜻蛉の羽(と ん ぼ き り)

 

 

 

 

「これでいいんだろう。忠勝さん。」─────


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