Dies irae ~Von der großen sehnsucht~ 作:tatuno
お待たせしました。
終章です。
──「──俺はもうすぐ俺でなくなる。
お前の概念上にある『
預言者としての力。
俺の持つ概念創造と島谷の概念破壊。
創造するところに破壊があり、破壊するところに創造がある。
つまり不完全なんだよ、俺も。
両方の力がなくては記憶の概念は成り立たない。
預言者としての力が本物でも、結局は神託を貰う元が完全でないと駄目なんだ。
例え生み続けても、周りを押し潰し、元あったものを破壊するだけ…。
文字通り、世界を無秩序へと導く怪物へと変貌を遂げる。
俺の存在理由は最初からなく、存在価値に関しては『
「──あいつにとって負の情念さえ消えてくれれば、俺という存在は必要がない。
バグみたいなものだし、残った俺もまた邪魔なもの。
普通だったら、俺は深淵の中へと消えるべきだ。
けれどメルクリウスはチャンスをくれた。
俺が唯一生き残る方法を提示した。
俺の魂とアカシックレコードとの繋がりを切り離す。
でもそれは俺にではなく、お前にくれたものだ。
そして、お前にしかできないこと。
理由は気まぐれか何かだろうが、割とあいつはお前のことを気に入ってるらしい。
だから、俺の処遇はお前が決めてくれ。
どんな結果でも受け入れる。」
「──……安心しろ。
お前は決して誰も殺してはいない。
お前の親友も救われたんだ。
大事な人をお前が護ったんだ。
そしてお前はまた、誰かを救おうとしている。
お前が大切にしてくれたから、俺という存在が今お前の目の前にいるんだよ。
だから……俺を、龍野祐という存在を、大切に想ってくれてありがとう。
好きでいてくれてありがとう。
…そろそろお別れだ。
俺はもう耐えきれそうにないみたいだ。
『
救ったという事実を胸にして、元気で暮らしてくれ。
羽矢の大事な人たちが願った憧れる世界で…──。」
──私はそれから待ち続けていた。
大切な人が望んだこの世界で、ずっとずっと…。
もしかしたら帰ってくるかもと、どうしようもない期待を想い続けて…。
第五天下の世界。
求道神としての力はもう殆ど残っていない。
普通の人間として、諏訪原市の月乃澤学園で、外国から来た留学生として暮らしている。
流石にこの姿のままで日本人としてやっていくのには無理があるので、そういう底で、ということである。
ちなみに前の「大隅羽矢」の身体を使ってた時は、元の姿と結構違っていた。
私の親友に似せて造った偽物の身体だった。
でも彼にだけは、何故か私の本当の姿が見えていたようだった。
黒髪か銀髪かの違いはあったみたいだが…。
最初は驚いた。
姿が見えるからなんだと思うだろうが、私にとってはとても重要なこと。
私の過去や、心が見抜かれているようで、最初は不快で仕方なかった。
なんて。
そんなこと、気づけば考えなくなっていた。
私は彼を心底気に入ってしまった。
細かい理由なんてものはない。
私の心の中にはいつの間にか、彼のことばかりになっていた。
その彼と接していた毎日は、それはそれはとても暖かく、淡いものだった…。
そんな思い出諸々を守りたい一心で私は、過去にメルクリウスから力を貰った武人である本多忠勝を利用して、彼に生き残る力を与えた。
彼やその周りの人たちが戦うようならば、聖槍十三騎士団に気付かれないように彼や祥二君たちの気配や殺気を消した。
それても接近してきたルサルカ・シュヴェーゲリンも利用して、彼の成長の礎とした。
でも結局、この
その結果、彼や彼の大切な者たちを守ることができなかった。
以前、私は大切な人を守るために、ただ純粋に強くなりたいと思っていたことがある。
この次元に降り立つ前の話だ。
けれど、その渇望した力によって私は大切な友人を、自分の想う力が心象風景が具現化した槍で刺し殺した。
勿論、他意があるわけではなかった。
私の親友であった人もまた、彼と同類だった。
アカシックレコードの情報量を受け止めることは、普通の人間には不可能。
それだけ人の歴史は膨大であるし、人が様々いるように、記憶というもの様々な人の視点が存在している。
つまり、一つの出来事でも、それに関する記憶は無数にある。
私の親友も、島谷君も、彼だって、いくらどこかが壊れていようと、普通の人間であることに変わりはなかったのだ。
勝手な運命に翻弄されてしまった罪なき人でしかない。
私は私が許せない。
誰も守ることのできない私の力が憎い。
こんな力なんていらない。
どれだけ力が強大でも、守れないのなら持っていても意味がないのだから。
でも、彼が言ったように私のそれが救った、もしくは護ったという行為ならば…。
私は彼を望む。
彼がもう一度、私の元へと現れてくれるならば、私は私を許すことができる。
今でも想い続ける彼を護ったんだと、ようやく思うことができるから……。
──この学校に来て数ヶ月が過ぎた。
「ふぁ~…。」
いつもと同じ朝。
こうして普通の人間のように暮らしているが、朝はなかなか慣れない。
苦手だ。
身体が重く感じる。
「…眠い……。」
ゆっくりとベッドから起き上がり、学校に行く支度をする。
それから黙々と朝ご飯を作って食べ、それから学校へと向かう。
ここから月乃澤学園までは徒歩10分ぐらい。
まだ目が覚めず、ボーッとしながらその通学路を歩く。
「まだ眠い……。」
本当に朝は嫌だ。
ウトウトして、殆ど目が開いてない状態なので、壁や電柱にぶつかりながら歩行しているので身体中が痛い。
それでも睡魔が勝ってしまう。
「この睡魔…私の能力で消えないのかな…。」
…残念ながら消えないらしい。
というよりもう求道の力は無くなっているので、どうしようもないことに変わりはないのだが…。
なんてことを考えている時だった。
「──っ!」
前の物体に気付かず、正面から思い切りぶつかってしまい、尻餅を着いてしまった。
「痛い…。」
お尻が痛い。
まあ、幸いなのは眠気が飛んだことだろうか。
「だ、大丈夫ですか?って、外国人?
あー…こういう時って、なんて言えばいいんだっけ……。」
と、前の物体が語りかけてきた。
どうやら物ではなく、人らしい。
「大丈夫です……。
日本語も喋れます…。」
とりあえず、流暢な日本語で答え、なんでもなかったかのように立ち上がる。
「あー…えーっと、ごめんなさい……気付かなかったもので、避けられませんでした…。」
「いえいえ、私の方がぶつかってしまったので……。」
まあ、実際そうなのでこの人は何も悪くはない。
悪いのはウトウトしていた私だ。
「…その制服は…月乃澤学園の生徒の…?」
「…?
はい…一応そこの留学生ですけど…。」
「留学生いるんですね…。
俺、今日から編入してくる予定なんですよ。月乃澤学園に。
ちなみに二年生です。」
「私も二年生ですよ?
良かったら一緒に行きます?
どうせ方向は同じだし…。」
彼は暫く、困ったような表情をしていたが、渋々承諾してくれた。
まあ、こういう外国人な姿なので、どつしても目立ってしまう。
そういう目から耐えなければならないので気持ちは分かる。
そんな登校の中、いろいろ話をしながら学校まで歩く。
どこから来たのかとか、一人暮らしかとか、好きなもの嫌いなものなどなど、いろいろと聞いた。
そういえば、もう一人転入生がいるらしい。
普段ならこんなに相手の事に押し入ったりはしないが、まあちょっとした縁というか、興味のある人だったというか。
単純になんとなくだ。
「話し相手をしてくれてありがとね。」
「いいや、別に良いよ。
俺も話してて楽しかったし。」
「……そう。」
完全に困った様子だったのは黙っておこう。
「それじゃあ俺、これから職員室行くから。
隣のクラスみたいだし、これからもよろしくってことで。」
「うんよろしく。
じゃあね──藤井蓮君。」
彼、藤井蓮は軽く手を振りながら職員室へと向かっていった。
「彼女たちにはもう会ったのかな、ツァラトゥストラは……いや、この名前はもう使わない方が良いのか。」
彼もまた、運命に翻弄されてしまった内の一人。
メルクリウスの代替として長く戦い抜いたからこそ、今のこの平穏な暮らしを彼は手に入れた。
そして、私たちの願う希望の世界が創られた立役者。
彼には感謝しなければと思う。
勿論、彼とまた再会する、もしくは再会したであろう彼女たちにも…。
──教室に入り、クラスメイトに挨拶をし、自分の席へと着く。
私の席は窓側の一番後ろの席。
ギリギリの到着だったようで、すぐ後に先生が入ってきた。
「ほら皆、席に座れー。」
先生の声に反応し、皆が即座に席に座る。
それから先生が話し始めるのだが、何かいつもと様子が違う。
「皆もう分かっていると思うが、今日二人、隣のクラスとこのクラスに転入生が来る。」
先生の言葉で気付いたのだが、私の席の横に見たことのない机がある。
隣のクラスに転入生してくるのは間違いなく藤井蓮君だろう。
そういえば、彼ももう一人転入生がいると言ってたのを思い出す。
「ソフィアの横の机、やっぱり転入生のだったか。」
前の席の男の子──松本祥二が話す。
ちなみにソフィアは今の私の名前。
「ぽいみたいだな。」
それに答える斜め前の男の子──元い島谷翔。
彼等は実は私のクラスメイトで、今も仲良くやっている。
「……まあでも、良かったよ。」
「…?」
島谷君がふと言った言葉に疑問を感じていた時、先生がその転入生を呼ぶ。
ドアを開ける音が聞こえ、クラス全員の生徒が教室へと入ってきたその転入生である男子生徒へと注目が集まる。
「────」
私はその男子生徒の姿を見た刹那、様々な感情が溢れかえった。
島谷君の言葉を忘れ、また言葉を発することをも忘れていた。
いつも見つめていた姿。
いつも想っていた姿。
見間違えるはずがない。
「ははは…どうも。」
恥ずかしそうにする彼の顔。
それは初めて見る顔だったけれど、そんな照れ笑いする彼の顔を見ると胸がときめく。
それは偽りのものではなく、紛れもなく本物の感情を、彼は有しているように見えた。
彼もまた、自分の願う普通の人間にようやく成ることができたのだ。
私はここでようやく、大切な人を護ったのだと信じることができた。
自分がいる世界が希望に満ちた世界なのだと実感した。
私の渇望は無駄ではなかったんだと思うことができた。
「──本当に良かった…祐君。」
黄昏の世界とともに、
物語はこれで終了になります。
拙い文ながら、最後までお付き合いして下さった方はありがとうございました。
後日、この物語で書ききれなかったキャラクターごとの設定資料を出そうと思っているのでよろしくお願いします。