Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第三十三章です。
よろしくお願いします。


第三十三章

「しょう…じ……」

 

 

───感情が希薄である。

皆と過ごすことなんてつまらない。

取る行動総てが建前だ。

そう想っていた。

ずっと……。

 

忠勝さんが死に、祥二がたった今死んだ。

一言で言えば、「悲しい」。

 

初めて自分の心が理解できたのだ。

もしかしたら、感情そのものはあったのかもしれない。

自分を理解してなかっただけかもしれない。

出来事を他人事のように感じていたのも事実だが、決して興味が無かったわけではないのだ。

 

心から悲しい気持ちが、壊れた蛇口のように溢れ出ている。

想いが止まらない。

永篠に羽矢が殺された時もこうだった。

あの時は悲しみより、怒りが溢れ出ていた。

 

そう。

これが本当の、自分自身の感情なのだということに気付いた。

いや、二人に気付かされたんだ。

死という最悪の結末でようやく…───

 

 

「う、うッ…!」

 

羽矢は負の情念に飲まれまいと、俺を守ろうと必死に耐えていた。

 

「羽矢…。」

 

彼女まで消されるかもしれない。

大事な仲間がまた一人…。

今のようにまた「悲しみ」や「怒り」というものが押し寄せてくるのか?

いや、さらにこの気持ちを抱かなければならないのか?

 

…そんなことは嫌だ。

二度とこんな気持ちを味わいたくはない。

させるものか。

これ以上大切な人を失わない。

 

俺は憧れる皆を守りたい。

だからこそ俺自身はもっと──もっともっともっと上に往かなければならない。

 

登り詰める。

敵を打ち倒す強さが欲しい。

皆のような理想の感情(こころ)に、姿になるためにも…。

 

違う。

それでは駄目だ。

それでは奴を倒すことは不可能だ。

 

俺は超えなければならない。

憧れる存在すらも凌駕する程に。

敵をも凌駕する程に。

俺でしか成れない者に成る。

 

皆の想いを受け継ぎ、紡ぐために。

俺自身の想いと共に、重ね重ねる──。

 

 

 

──先ほどからずっと胸が鳴っている。

俺の中で何かが繋がり始めている。

何だこれは。

分かるはずのない皆の記憶が、頭の中

を駆け巡っている。

 

 

 

 

 

「───Alter ipse amicus(友はもう一人の私である)

 

 

 

 

 

無意識に言葉を発する。

様々な記憶と共に想いが俺の中に入ってくる。

俺の想い。祥二の想い。

羽矢の想い。島谷の想い。

林の想い。深田の想い。

本多忠勝の想い。

そして、その他の人々の想い。

 

 

 

 

 

Vixi et quem dederat cursum fortuna peregi(私は生きた 運命の顛末は終章まで進んだ)

 

 

 

 

 

俺自身の想いの一部分が欠落しているのは間違いない。

紛れもなく、コンプレックスというやつだろう。

それを埋めたいがために、無いことではなく有ることを求めた。

他人の心に焦がれてしまった…。

 

 

 

 

 

 

Ne cede malis, sed contra audentior ito(不幸に屈するな 寧ろさらに勇敢に進め)

 

 

 

 

 

俺は俺なりに運命は切り開いてきたつもりだ。

前からずっと、ずっと…。

那由多の数も超えるほどに。

 

 

 

 

 

 

Solve metus(不安は取り去れ) feret haec aliquam tibi fama salutem(描かれる想いは様々な救いをもたらすだろう)

 

 

 

 

 

憧れる存在そのものになるなんて不可能だ。

本当はそんなこと分かってる。

でも、限りなく近づくことは、その存在を超えることは可能なはずだ。

心に秘める微かな想いを感じ、それを糧へと新たな想いを生む。

 

 

 

 

 

Initium sapientiae cognitio sui ipsius(自らを知ることが知恵の始まり)

 

 

 

 

 

自分自身だけではなく、皆の想いもまた理解したい。

皆の美しく輝かしい想いを、憧れる想いを、俺は伝えたいんだ。

 

 

 

 

 

Ab uno disce omnes(一つから総てを知れ)

 

 

 

 

 

流出(Atziluth)──

 

 

 

虚無の空にてこの希望を掴む(Vanitas vanitatum──Carpe diem)

 

 

 

 

 

──虚空が広がる。

それはまるで宇宙の果て。

絶対無ではなく、一つ一つ想いを秘めた泡が数々宙に浮いている。

その空間は瞬く間に世界に流れ出し、負の情念の世界を押し返していた。

 

 

さあ、『新世界』へと導かれる時だ。

渇望する夢を願い、夢見る空間を作り出すためにも。

虚空(アーカーシャ)の預言者としても…。───


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