Dies irae ~Von der großen sehnsucht~ 作:tatuno
よろしくお願いします。
───「ぐ…おぉ…。」
そこにいるべきではない人間がそこに立っていた。
血反吐を吐き、無惨に膝から崩れ落ちる。
甲冑の擦れる音が、さらに残酷に響き渡る。
「何、やって…?」
頭が真っ白になった状態ながらも、ぴくりとも動かず倒れている忠勝に駆け寄る。
「ごぼぉッ…無事か…少年。
して、やられた、な…。」
今の彼には心臓の部分がない。
消されたのだ。
甲冑ごと、覆う肉、骨ごと。
にも関わらず、生きているのも奇跡という状態であるも、忠勝は俺に語り掛ける。
そもそも生きているという表現が合っているのかは分からないが……。
「すまんが、勝手にさせて貰った……。まあ、形成したという…ことだ……。」
「何で、庇ったんだよ…。」
「フン…。拙者が庇わなければ…共倒れだった。
それよりは、最良の選択だ……。」
「最良の選択って…ふざんけんな……!
そんなことしたらあんたが…。」
「構わんだろう……。どうせ、既に死んでいる身だ。
………聞け少年。最後の忠言だ。
拙者はもう消える。
それにあ奴も待ってはくれん…。」
島谷は再び、俺たちを消そうと静かに歩み寄ろうとしていた。
「やめろ!島谷!」
「いいから聞けいッ!少年!」
もう息をするのもままならない筈なのに、忠勝は叫ぶ。
「決して貴様は情念が無なわけではない…。
今や貴様の想いは昔のままではないのだ。
ただ…負の情念にだけは、二度と呑まれるな。」
「忠勝さん…。」
「 想いは紡ぐものだ。
闘志と同じで湧き上がるもの。
それをしかと心に弁えろ!」
段々彼の存在が消えていっているのが、目に見えている。
「──大丈夫だ、少年。
我が主君と共に、お前を見守ろう。」
そして、眼前から薄くなり、完全に消え去る。
その間際、彼の声がどこからともなく聞こえた気がした。
「…それを心得るまでは、標を頼んだぞ。
いつまで…傍観しているつもりだ…───。」
愛槍の蜻蛉切を残し、彼とのリンクがぷつりと途切れた気がした。
「………。」
想いは紡ぐもの…か。
俺に果たして、できるのだろうか。
友達を止めるという覚悟はもう決まっている。
その上で、さらに改めて、自らの根本を変えなければならないのか。
「…もういいだろう。
お前も後を追わせてやる。」
島谷が手の平を向ける。
行動も然り、忠勝さんのこともだ…。
俺は怒りを憶えている
だが、負の情念に任せては駄目だと彼は言った。
どうすればいい、忠勝さん。
負の感情に呑まれそうだ。
どう島谷と向き合えばいいんだ…。
「死ね、龍野…。」
くそ、やられる。
忠勝さんが命を繋いでくれたのに。
俺は……───
───まだ、諦めちゃダメ。
……何だ今の。
とても、聞き覚えがある──女の声───。
───まだあなたは、死ぬべきじゃない。
瞬間。
「───なッッ!?」
上空から、というより殆ど無空間から、島谷目掛けて飛ぶ、一筋の雷光───。
「ちぃッッ!!」
島谷は間一髪それを避け、ある程度距離を空け、飛び退く。
元居た場所の雷の爆心地には、神々しく輝く黄金の槍が垂直に突き刺さっていた。
槍の柄の先、石突に、人間の重さを感じさせず、軽々と佇む一人の女性。
「大丈夫?」
くるりと振り向き、柄の先からふわりと降り立つ。
「は、はぁ…まあ…。」
その女性は髪は白銀に輝き、足まで伸びる長髪で、眼は宝石のサファイアのような鮮やかな青眼。
服装はまるで古代ギリシャの女性が着ているもののようだった。
さらに、顔も目鼻立ちが整い、美しく可憐なのだが……どこかで見たことあるような……。
「どう?カッコいい登場の仕方。
好きでしょ?祐君。」
「……は?」
今の呼び方って……。
「お前…は、羽矢…?」
「うん、そうだけど。」
…え?え?
どういうことだ。
だって、羽矢は黒髪で黒眼で…。
「大隅だと…?大隅は死んだはず…。」
島谷すらも存在に驚いていた。
羽矢はそんな様子の島谷を見据える。
そして
「祐君を殺すなら、まず先に、私が島谷君殺すから。」
と言い放った。