Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第三十章です。
よろしくお願いします。


第三十章

───「ぐ…おぉ…。」

 

そこにいるべきではない人間がそこに立っていた。

血反吐を吐き、無惨に膝から崩れ落ちる。

甲冑の擦れる音が、さらに残酷に響き渡る。

 

「何、やって…?」

 

頭が真っ白になった状態ながらも、ぴくりとも動かず倒れている忠勝に駆け寄る。

 

「ごぼぉッ…無事か…少年。

して、やられた、な…。」

 

今の彼には心臓の部分がない。

消されたのだ。

甲冑ごと、覆う肉、骨ごと。

にも関わらず、生きているのも奇跡という状態であるも、忠勝は俺に語り掛ける。

そもそも生きているという表現が合っているのかは分からないが……。

 

「すまんが、勝手にさせて貰った……。まあ、形成したという…ことだ……。」

 

「何で、庇ったんだよ…。」

 

「フン…。拙者が庇わなければ…共倒れだった。

それよりは、最良の選択だ……。」

 

「最良の選択って…ふざんけんな……!

そんなことしたらあんたが…。」

 

「構わんだろう……。どうせ、既に死んでいる身だ。

………聞け少年。最後の忠言だ。

拙者はもう消える。

それにあ奴も待ってはくれん…。」

 

島谷は再び、俺たちを消そうと静かに歩み寄ろうとしていた。

 

「やめろ!島谷!」

 

「いいから聞けいッ!少年!」

 

もう息をするのもままならない筈なのに、忠勝は叫ぶ。

 

「決して貴様は情念が無なわけではない…。

今や貴様の想いは昔のままではないのだ。

ただ…負の情念にだけは、二度と呑まれるな。」

 

「忠勝さん…。」

 

「 想いは紡ぐものだ。

闘志と同じで湧き上がるもの。

それをしかと心に弁えろ!」

 

段々彼の存在が消えていっているのが、目に見えている。

 

「──大丈夫だ、少年。

我が主君と共に、お前を見守ろう。」

 

そして、眼前から薄くなり、完全に消え去る。

その間際、彼の声がどこからともなく聞こえた気がした。

 

「…それを心得るまでは、標を頼んだぞ。

いつまで…傍観しているつもりだ…───。」

 

愛槍の蜻蛉切を残し、彼とのリンクがぷつりと途切れた気がした。

 

「………。」

 

想いは紡ぐもの…か。

俺に果たして、できるのだろうか。

友達を止めるという覚悟はもう決まっている。

その上で、さらに改めて、自らの根本を変えなければならないのか。

 

「…もういいだろう。

お前も後を追わせてやる。」

 

島谷が手の平を向ける。

行動も然り、忠勝さんのこともだ…。

俺は怒りを憶えている

だが、負の情念に任せては駄目だと彼は言った。

 

どうすればいい、忠勝さん。

負の感情に呑まれそうだ。

どう島谷と向き合えばいいんだ…。

 

「死ね、龍野…。」

 

くそ、やられる。

忠勝さんが命を繋いでくれたのに。

俺は……───

 

 

 

 

───まだ、諦めちゃダメ。

 

 

……何だ今の。

とても、聞き覚えがある──女の声───。

 

 

 

───まだあなたは、死ぬべきじゃない。

 

 

瞬間。

 

 

出でよ(βγείτε έξω)── 雷霆(κεραuνοs)

 

 

「───なッッ!?」

 

上空から、というより殆ど無空間から、島谷目掛けて飛ぶ、一筋の雷光───。

 

「ちぃッッ!!」

 

島谷は間一髪それを避け、ある程度距離を空け、飛び退く。

 

元居た場所の雷の爆心地には、神々しく輝く黄金の槍が垂直に突き刺さっていた。

槍の柄の先、石突に、人間の重さを感じさせず、軽々と佇む一人の女性。

 

「大丈夫?」

 

くるりと振り向き、柄の先からふわりと降り立つ。

 

「は、はぁ…まあ…。」

 

その女性は髪は白銀に輝き、足まで伸びる長髪で、眼は宝石のサファイアのような鮮やかな青眼。

服装はまるで古代ギリシャの女性が着ているもののようだった。

さらに、顔も目鼻立ちが整い、美しく可憐なのだが……どこかで見たことあるような……。

 

「どう?カッコいい登場の仕方。

好きでしょ?祐君。」

 

「……は?」

 

今の呼び方って……。

 

「お前…は、羽矢…?」

 

「うん、そうだけど。」

 

…え?え?

どういうことだ。

だって、羽矢は黒髪で黒眼で…。

 

「大隅だと…?大隅は死んだはず…。」

 

島谷すらも存在に驚いていた。

羽矢はそんな様子の島谷を見据える。

そして

 

「祐君を殺すなら、まず先に、私が島谷君殺すから。」

 

と言い放った。


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