Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第二十九章です。
よろしくお願いします。


第二十九章

───初撃、二撃目、三撃目と、攻撃を繰り出すが、全く当たらない。全て避けられる。

今や槍を振り回した数は三桁へと達そうとしていた。

 

「龍野。いい加減諦めろ。

お前諸共、既にこの世界は消去されることが決まっている。」

 

「うるさい…!お前こそこんなこと止めろ!」

 

槍を島谷の腹に向け突きを加える。

が、それに手応えは無し。

 

どころか目の前の島谷の姿が消え去る。

 

「────がッッ!」

 

不意に背中に蹴りを食らう。

前にいたはずの島谷は、後ろに移動していた。

まるで瞬間移動をしたかのような移動だ。

 

「くッ………!」

 

蹴りで飛ばされたところで立ち尽くす。

 

原理が不明だ。

最初の目に見えない攻撃、それに今の瞬間移動。

一体どうなってる。

まるで記憶が、目に見えていることが書き換えられているような……。

 

「いや、まさか…。」

 

「そのまさかだよ。」

 

島谷は再び俺へと手をかざす。

 

横へと回避するためにその場から飛び退くが、突然のことで反応が遅れてしまった。

脹ら脛の一部が消え去る。

 

「ぐ、ああああぁ!?」

 

まるで最初からなかったように。

そこだけえぐり取られたような感覚、痛みが襲う。

傷口からは止め処なく血が溢れ出ていた。

 

奴は記憶から部分的に削除している。

記憶の改竄とも言うべきだろうか。

そもそも、そこに何も全く存在していなかったと記憶を消し飛ばしている。

それだけではない。

それは物質があろうが関係ない所業。

物質と記憶を未来も過去も関係なく、この場で修正しているのだ。

 

「今の俺の力は、座にも等しいと言ってもいい。

宇宙法則すらも無視した力が俺にはある。」

 

「ッ……。」

 

正直、到底適うと思えない。

そんな力と拮抗しようにも手が思いつかない。不可能だ。

けれど……。

 

それでも、俺は諦めたくない。

……仲間がこういうことをしてるのだ。

 

永劫破壊(エイヴィヒカイト)の力が何故俺にあるのか。

なんてずっと考えていたが、今となっては感謝している。

 

この時のため。

などとそんな旨い話はないかもしれないけど、島谷を止める運命のためだと、そんな気がする。

 

 

───その通りだ。少年。

拙者も貴様の友を止められるなら本望だ。

 

古今無双の武人が俺の背中を押す。

 

 

───拙者も今は、その運命に従おう。

さあ、行くぞ少年!

 

ああそうだ。

こうして本多忠勝という存在にも会えた。

憧れる存在へと昇化することもできた。

そしてまだ俺に付き合ってくれるというのなら、ありがたく甘えさせて貰う。

だから、力を貸してくれ。

 

 

「創造──

隔世之感・憧憬(Zwei Faust Sehnsucht)ォ!」

 

 

「──ん!?」

 

「オオオオオオオォォォォォ!!」

 

槍の本来の持ち主へと成り代わる。

今まで以上に想いを同律させて、俺は向かい合う友へと槍を持ち、踏み入る。

 

「ちぃッ!」

 

島谷は槍の切っ先を拳一つ分で避け、後方に距離を取る。

 

「なるほど?…本多平八郎忠勝、ねぇ。」

 

「一つだけ問おう。

貴様は本当に、これでいいんだな?」

 

「……当たり前だ。

ヘルメスが歪めたことは、この俺が総て清算する。」

 

「そうか。ならば、拙者(おれ)がお前を倒す。」

 

「ハッ、せめてもの慈悲ってか?

冗談じゃない。例え、腕っ節に自信のある男が出てきたぐらいで、倒せると思っているのか?」

 

「…やってみせよう。」

 

忠勝は構え直し、島谷へと再び槍の攻撃。

それをまた島谷は後方へと避ける。

それから、忠勝は槍を縦横無尽に何度も何度も、切り裂き、凪払う。

島谷は物質を無視した記憶消去。さらにあの瞬間移動による回避。

恐らく、あの瞬間移動も記憶に作用している技だろう。

 

「ウオオオオォォォオ!!!」

 

ぶん、と風を切り裂く音を発て、首もとに突き刺さんと槍を伸ばす。

 

「──ッッッ!」

 

それを瞬間移動に似て非なる技で、槍が届かないところに島谷は移動する。

 

「……さすがに、古今無双の武人は動きが違うな。

龍野の動きとは段違いだ。」

 

経験則。

本多忠勝は未知の相手に対し、それを頼りに戦っていた。

戦場の勘というやつとも言える。

相手が次に、どんな手を使ってくるかを予測し、先に動作を開始する。

果たしてそれが今の島谷に通用するのか、などと頭を過ぎったが、確実に攻め切れている。

よって、島谷の瞬間移動の技にも十分対応できており、傷こそ付けていないものの、彼は確実に島谷を追いつめていたのだ。

 

「厄介だ。」

 

「フン。拙者の友も友だ。

故に、本気でぶつかっている。

友の過ちを正すために!」

 

「戯れ言ばかり抜かしやがって。

ましてや、自分の想いもつい最近まで解ってなかったやつにも、言われたくはない。」

 

「……さあ、終わらせるぞ。

本当に今のままで良いんだな?」

 

最後の確認を取ると同時に、手にもつ槍を鳴らし、攻撃の体勢をとる。

 

「………。」

 

その忠勝の状況を確認した上で、島谷は黙りこくっている。

 

「最後まで改めないというのなら、致し方ない。

覚悟しろッッ!!」

 

一歩、一歩、重い足取りを踏み込み、島谷の眼前へと迫る。

覚悟を決めるのは俺自身もだ。

友達の過ちに決着を付けるために、忠勝となった俺は───島谷へと、上へ持ち上げた槍を振りかざして───。

 

「……ククク。」

 

島谷の笑う意味が解らなかった、が───今起きている状況がもっと理解することができなかった。

 

「なん──でッッ!!?」

 

創造位階の能力が───消えた?

 

瞬時に島谷は俺の側方へと瞬間移動し、俺の脇腹を蹴り飛ばした。

 

「あぁぁッッ!!」

 

石のように地面を跳ねた上で、俺の元に戻った身体は終着した。

起き上がろうとするが体中に激痛が走る。

 

「実際は危なかった。

だが、良かったよ。ギリギリ、アカシックレコードへのアクセスがより接続の強化に成功した。

俺の力は第二段階へと達する。」

 

「なんだと……!」

 

「言ったろ?まだ溜まってないと。

そのものであろうとも、普遍的無意識の海というものは壮大でね。

アカシックレコードから力を持ち出すのは、また別であり、時間がかかるのさ。」

 

そうだ。

やつはまだ修正力が溜まってないと口にしていた。

つまり、今までは力はまだ十二分にも発揮されていない。

それが正に第二段階へと移行したという。

そして、その一端がこの状況……。

 

「願の修正、概念の操作によって、創造位階を無効にした…と言えばいいか?

まあ、そういうことだ。」

 

ゆっくりと俺へと距離を詰める。

 

「………ッ!」

 

まずい。このままでは──。

 

立場は逆転し、次は島谷が俺の眼前へと迫る。

 

「く…くそッ……!」

 

「それじゃ……邪魔だから先に、消えて貰うぞ。

じゃあな。」

 

 

真顔で手を翳し、俺を無へと返そうと能力が俺へと──。

 

ダメだ。終わりだ。

そう悟った───。

 

 

だが、目の前に起きたのは予期せぬ事態だった。

 

血の池ができていた。

俺に血が飛び散っていた。

 

立ちふさがって現れている、黒い甲冑を着けた大男の影。

本多忠勝が胸にぽっかりと大穴を空け、立ち尽くしていた。


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