Dies irae ~Von der großen sehnsucht~ 作:tatuno
よろしくお願いします。
───初撃、二撃目、三撃目と、攻撃を繰り出すが、全く当たらない。全て避けられる。
今や槍を振り回した数は三桁へと達そうとしていた。
「龍野。いい加減諦めろ。
お前諸共、既にこの世界は消去されることが決まっている。」
「うるさい…!お前こそこんなこと止めろ!」
槍を島谷の腹に向け突きを加える。
が、それに手応えは無し。
どころか目の前の島谷の姿が消え去る。
「────がッッ!」
不意に背中に蹴りを食らう。
前にいたはずの島谷は、後ろに移動していた。
まるで瞬間移動をしたかのような移動だ。
「くッ………!」
蹴りで飛ばされたところで立ち尽くす。
原理が不明だ。
最初の目に見えない攻撃、それに今の瞬間移動。
一体どうなってる。
まるで記憶が、目に見えていることが書き換えられているような……。
「いや、まさか…。」
「そのまさかだよ。」
島谷は再び俺へと手をかざす。
横へと回避するためにその場から飛び退くが、突然のことで反応が遅れてしまった。
脹ら脛の一部が消え去る。
「ぐ、ああああぁ!?」
まるで最初からなかったように。
そこだけえぐり取られたような感覚、痛みが襲う。
傷口からは止め処なく血が溢れ出ていた。
奴は記憶から部分的に削除している。
記憶の改竄とも言うべきだろうか。
そもそも、そこに何も全く存在していなかったと記憶を消し飛ばしている。
それだけではない。
それは物質があろうが関係ない所業。
物質と記憶を未来も過去も関係なく、この場で修正しているのだ。
「今の俺の力は、座にも等しいと言ってもいい。
宇宙法則すらも無視した力が俺にはある。」
「ッ……。」
正直、到底適うと思えない。
そんな力と拮抗しようにも手が思いつかない。不可能だ。
けれど……。
それでも、俺は諦めたくない。
……仲間がこういうことをしてるのだ。
なんてずっと考えていたが、今となっては感謝している。
この時のため。
などとそんな旨い話はないかもしれないけど、島谷を止める運命のためだと、そんな気がする。
───その通りだ。少年。
拙者も貴様の友を止められるなら本望だ。
古今無双の武人が俺の背中を押す。
───拙者も今は、その運命に従おう。
さあ、行くぞ少年!
ああそうだ。
こうして本多忠勝という存在にも会えた。
憧れる存在へと昇化することもできた。
そしてまだ俺に付き合ってくれるというのなら、ありがたく甘えさせて貰う。
だから、力を貸してくれ。
「創造──
「──ん!?」
「オオオオオオオォォォォォ!!」
槍の本来の持ち主へと成り代わる。
今まで以上に想いを同律させて、俺は向かい合う友へと槍を持ち、踏み入る。
「ちぃッ!」
島谷は槍の切っ先を拳一つ分で避け、後方に距離を取る。
「なるほど?…本多平八郎忠勝、ねぇ。」
「一つだけ問おう。
貴様は本当に、これでいいんだな?」
「……当たり前だ。
ヘルメスが歪めたことは、この俺が総て清算する。」
「そうか。ならば、
「ハッ、せめてもの慈悲ってか?
冗談じゃない。例え、腕っ節に自信のある男が出てきたぐらいで、倒せると思っているのか?」
「…やってみせよう。」
忠勝は構え直し、島谷へと再び槍の攻撃。
それをまた島谷は後方へと避ける。
それから、忠勝は槍を縦横無尽に何度も何度も、切り裂き、凪払う。
島谷は物質を無視した記憶消去。さらにあの瞬間移動による回避。
恐らく、あの瞬間移動も記憶に作用している技だろう。
「ウオオオオォォォオ!!!」
ぶん、と風を切り裂く音を発て、首もとに突き刺さんと槍を伸ばす。
「──ッッッ!」
それを瞬間移動に似て非なる技で、槍が届かないところに島谷は移動する。
「……さすがに、古今無双の武人は動きが違うな。
龍野の動きとは段違いだ。」
経験則。
本多忠勝は未知の相手に対し、それを頼りに戦っていた。
戦場の勘というやつとも言える。
相手が次に、どんな手を使ってくるかを予測し、先に動作を開始する。
果たしてそれが今の島谷に通用するのか、などと頭を過ぎったが、確実に攻め切れている。
よって、島谷の瞬間移動の技にも十分対応できており、傷こそ付けていないものの、彼は確実に島谷を追いつめていたのだ。
「厄介だ。」
「フン。拙者の友も友だ。
故に、本気でぶつかっている。
友の過ちを正すために!」
「戯れ言ばかり抜かしやがって。
ましてや、自分の想いもつい最近まで解ってなかったやつにも、言われたくはない。」
「……さあ、終わらせるぞ。
本当に今のままで良いんだな?」
最後の確認を取ると同時に、手にもつ槍を鳴らし、攻撃の体勢をとる。
「………。」
その忠勝の状況を確認した上で、島谷は黙りこくっている。
「最後まで改めないというのなら、致し方ない。
覚悟しろッッ!!」
一歩、一歩、重い足取りを踏み込み、島谷の眼前へと迫る。
覚悟を決めるのは俺自身もだ。
友達の過ちに決着を付けるために、忠勝となった俺は───島谷へと、上へ持ち上げた槍を振りかざして───。
「……ククク。」
島谷の笑う意味が解らなかった、が───今起きている状況がもっと理解することができなかった。
「なん──でッッ!!?」
創造位階の能力が───消えた?
瞬時に島谷は俺の側方へと瞬間移動し、俺の脇腹を蹴り飛ばした。
「あぁぁッッ!!」
石のように地面を跳ねた上で、俺の元に戻った身体は終着した。
起き上がろうとするが体中に激痛が走る。
「実際は危なかった。
だが、良かったよ。ギリギリ、アカシックレコードへのアクセスがより接続の強化に成功した。
俺の力は第二段階へと達する。」
「なんだと……!」
「言ったろ?まだ溜まってないと。
そのものであろうとも、普遍的無意識の海というものは壮大でね。
アカシックレコードから力を持ち出すのは、また別であり、時間がかかるのさ。」
そうだ。
やつはまだ修正力が溜まってないと口にしていた。
つまり、今までは力はまだ十二分にも発揮されていない。
それが正に第二段階へと移行したという。
そして、その一端がこの状況……。
「願の修正、概念の操作によって、創造位階を無効にした…と言えばいいか?
まあ、そういうことだ。」
ゆっくりと俺へと距離を詰める。
「………ッ!」
まずい。このままでは──。
立場は逆転し、次は島谷が俺の眼前へと迫る。
「く…くそッ……!」
「それじゃ……邪魔だから先に、消えて貰うぞ。
じゃあな。」
真顔で手を翳し、俺を無へと返そうと能力が俺へと──。
ダメだ。終わりだ。
そう悟った───。
だが、目の前に起きたのは予期せぬ事態だった。
血の池ができていた。
俺に血が飛び散っていた。
立ちふさがって現れている、黒い甲冑を着けた大男の影。
本多忠勝が胸にぽっかりと大穴を空け、立ち尽くしていた。