Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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行間です。
ある男の視点で書かれています。


行間

──── 龍野を先に行かせた後、俺はデーニッツと対峙していた。

 

「……龍野も行ったことだし、そろそろ殺し合おうか?

 

「貴様に言われなくとも、直ぐにでもお前を殺してやろう。」

 

「ぬかせ雑魚…。」

 

「フッ…。」

 

デーニッツは鼻で嘲笑う。

 

「減らず口を叩けるのも今の内だぞ?

それに……」

 

その瞬間。

 

「殺し合いなら、既に始まっているがね。」

 

デーニッツの後ろの海がうねり、大きい水柱が上がったと思うと、そこから鉄の塊がこちらへ高速で向かってきた。

 

俺はそれを横へ転がりながら回避する。

すると、俺の後ろへその鉄の塊が飛んで行き、大きい爆発が起こった。

 

「さて、死ぬのは私かお前か、どちらかな?」

 

後ろから熱が籠もった爆風を感じる。

 

「……なるほどな。」

 

俺はある程度、こいつが何者かを解っていた。

カール・デーニッツ。

当時、潜水艦隊司令として灰色の狼と呼ばれる作戦を行い、英国から恐れられた存在。

後に海軍総司令官となった男。

そして、今の攻撃でやはりというか、確定したことがある。

 

「お前の聖遺物、Uボートだろ。」

 

「御名答。そう、潜水艦(Uボート)こそ私の聖遺物。」

 

再び、大きい水柱を立て、高速で飛んでくる鉄の塊。

しっかりと視認することはできないが、これは魚雷だ。

Uボートが見えないあたり、魚雷だけ形成しているのだろう。

 

俺がこの魚雷に対して、次にとった行動は、持っていた剣で魚雷を切り裂いた。

切り裂く際、衝撃は凄まじいものであったが、こんなものではまだ何ともない。

切り裂かれた魚雷は、後ろの二方向で爆散した。

 

「デーニッツ。

そろそろ本気を出したらどうだ。

いつまでそうふざけている。」

 

遊んでいる暇はないのだ。

一刻も早く龍野を追う必要がある

先に行かせたものの、不安が過ぎってしまう。

今の島谷は危険だ。

 

「……そうだな。

いいだろう。貴様如きに本気を出したことを光栄に思うがいい。」

 

デーニッツは不適な笑みを浮かべる。

自分の勝利しか考えてない目をこちらに向けながら。

 

「そして、悔いるのだな。」

 

呪いのような言葉を口にし、詠唱を開始する。

 

 

 

 

Auf seinem Bette weinend saß,(寝床に座って涙したことのない者は)

Der kennt euch nicht, ihr himmlischen Mächte.(あなた方を知らないのだ 天の力よ)

 

Ihr führt ins Leben uns hinein,(あなた方は私たちを人生へと導き)

 

Ihr laßt den Armen schuldig werden,(惨めなものに罪を負わせ)

 

Dann überlaßt ihr ihn der Pein;(苦しみを与えるのだ)

 

Denn alle Schuld rächt sich auf Erden.(総ての罪は地上において報いを受けるのだ)

 

 

 

創造(Briah──)

 

 

 

洪大世界・ 嫌厭の狼(Jötunheim Hati)

 

 

 

詠唱を終えた直後にそれは起こった。

向かいの海原から数々の大轟音が響き渡る。

 

「──なッ!!」

 

轟音と共に降り注ぐもの。

無数の鉄の塊。

黒い鉄の雨が目の前に広がる。

 

刀を振り、できる限り鉄の塊を切り裂き、受け流し、回避を試みる。

が───

 

「ぐぅッ!あ、ああぁッッ!!」

 

捌き切れず、集中砲火を浴びる。

周りで鉄の塊──大砲の弾が爆散し、爆風で身体が押し戻され、他方向へ吹き飛ぶことも許されない。

たった数秒の出来事であったが、体感時間としては数時間に感じた。

 

暫くすると、鉄の雨は止んだ。

俺はなんとか気を保ってはいたが、ボロボロで全身に大火傷を負っていた。

 

「くッ…そ…。」

 

目の前に広がる海原。

そこに複数の鉄の物体が漂っていた。

 

「……聖遺物の大量形成か。」

 

それは軍艦の数々だった。

あまり詳しいわけではないが、いろんな艦種が見受けられる。

恐らく、潜水艦も海中に複数。

全て合わせれば、百に近い数いるだろうか。

 

「正確に言えば、私の記憶にある軍艦という軍艦を引き出したのだよ。

そして、総てを聖遺物へと変えた……ということだ。」

 

「ハッ……何だそれ。」

 

聖遺物を記憶から創るなんて、聞いたことがない。

 

「これこそ正に私の統べる力。

エイヴィヒカイトの力もアカーシャクローニックの力をも行使した力。」

 

……統べる、か。

何にせよ、エイヴィヒカイトに加え、未知の力も加わっている。

とても厄介な事には違いはなかった。

 

「これで私は雑魚ではないということが理解できたかね?」

 

「……いや、お前は雑魚だ。」

 

「フッ…。」

 

気付けば、目の前にいたデーニッツは一番大きな軍艦の甲板へと移動していた。

 

「…そうか、死ね。」

 

数多くある軍艦の砲台が火を噴く。

俺は崖を飛び降り、初撃を躱す。

 

飛び降りた先は海面だった。

水に足が沈まないようにひたすら足を動かし、走る。

それを追いかけるように大砲の大玉が次々と豪雨のように降り注いだ。

 

「ぐッ!あッ!」

 

鉄の雨の中をすり抜けて動いているつもりだが、避けきれずに直撃する。

剣で受け止めるが、爆発の衝撃で海岸まで吹き飛ばされてしまった。

 

海岸に身体を叩きつけられ、全身に激痛が走った。

 

それでも鉄の雨は止まず、次々と落ちてくる。

 

「つッ──!」

 

ザミエルとは別の意味の必中だ。

一撃ではなく、多撃必中という感じだ。

数で押し切られ、必ず当たってしまう。

 

「さあ!どうする!

貴様も創造位階を使うべきなのではないのか!

それとも創造位階へとまだ達していないのかな?」

 

……奴の言うとおりだ。

このままでは負ける。

一太刀も相手に与えることができずに。

だが、俺の創造は……。

 

「───く、ぐああああッッ!!」

 

砲撃の手は未だ止まない。

さらに海中の方から魚雷も幾つか飛んできている。

重傷を負う一方だった。

 

「……使うべきなのか…。ここで……。」

 

 

───躊躇うことはない、使え。

 

「───!!」

 

不意に脳内に響いた声。

知っている声だ。

そして、何故か逆らうことができない。

この不吉とも言うべき声で俺は突き動かされた。

 

 

 

Wer sich der Einsamkeit ergibt(孤独へと身を委ねる者は)

 

Ach! der ist bald allein,(ああ まもなく独りへと)

 

Ein jeder lebt, ein jeder liebt(誰もが生き 誰もが人を愛すが)

 

Und läßt ihn seiner Pein.(孤独な者を苦しむままに)

 

Ja! laßt mich meiner Qual!(そうだ 私を苦痛の中に放っておいてくれ)

 

Und kann ich nur einmal(一度でも私が)

 

Recht einsam sein,(真に孤独になれたのなら)

 

Dann bin ich nicht allein.(私は独りではないのだ)

 

 

 

創造(Briah──)

 

 

黒精世界・闇の取引(Svartálfaheimr Tyrfing)

 

 

 

──持っている剣が変容する。

闇へと誘うように妖艶なまでに美しく、魂を必要としているような魔剣へと。

 

これが俺の創造。

俺はデーニッツの乗る軍艦へとゆらゆらと歩を進める。

 

「…何故だ……何故先程から砲弾が当たらない?!」

 

当たるわけがなかった。

俺の持つこの魔剣がある限り。

俺は願ったのだ。

破滅の願いを。

 

剣が震える。叫ぶ。

願いを叶えてやる。

そのために魂を寄越せ。寄越せ。

奴の魂が旨そうだ。

あれの魂をくれ。くれ。くれ。

 

───ああ。奴の魂なんてくれてやるとも。

なんせ願うものは

この剣で、俺の揺るぎない勝利で、

カール・デーニッツを殺すことなのだから─────。


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