Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第二十七章です。
よろしくお願いします。


第二十七章

────「ここか?」

 

「ああ。恐らく…。」

 

祥二と街外の海岸線に来ていた。

海岸線沿いには少し海に突き出ている半島がある。

 

 

実はあの後島谷から電話があった。

ただ一言、その海岸に来いとの言葉。

一方的に電話は切られ、そこに向かうしかなかった。

 

この小さい半島は、普段は美しく、海の眺めも絶景と言える場所だ。

今となってはこの街全体が薄暗く、気分が悪い場所なのでとてもそうは言えないが……。

 

「罠…じゃないよな?」

 

「分からない。

けど、スピーカーにしてたから祥二も聞こえただろ?

あれは島谷の声だ。」

 

「確かにそうだが……。」

 

勿論、罠だという線は拭い去れない。

しかし、これは言うなれば島谷の唯一の手掛かり。

放っておくことはできない。

 

半島の部分に入る。

ここには少々木々が生い茂っていて、奥の方にそれなりに高い岸壁。

 

祥二と一切の会話も無く進む。

 

木々を抜け、岸壁にたどり着くと、そこには二人の男が立っていた。

 

 

「よう……。」

 

島谷とデーニッツ。

彼らがそこには待っていた。

 

「島谷お前何して……」

「見て分からないか?」

 

俺の言葉に被せるように島谷は答える。

 

「…いつから騙していた。」

 

「いつから、か……自覚したのはあの城が出現してからだ。

それまでは、普通の人間だったよ。」

 

自覚とはどういうことなのだろう。

突然自分が何者かを理解したような物言いだ。

 

「もっとも。

祥二は俺に違和感を抱いていたようだがな。

だから、お前俺のことが嫌いだったんだろう?祥二?」

 

「ああ…。そうだ。

だが、違和感の理由を確認できたのは今だけどな。」

 

違和感とは何のことだろう。

島谷の、祥二の言っていることがよく理解できていない。

 

だけどもし、その違和感が今島谷から感じているものだとしたら。

 

その違和感というのは、敵として対峙している彼が、彼自身ではないような気がしてならない。

全くの別人と話している気分だということ。

 

「そうだ、この鍵は返してやる。

大隅の持ってたものだ。」

 

島谷は俺に向かって鍵を投げ渡す。

手に受け取った鍵を見ると、とても綺麗で、神々しいと思える鍵だった。

これが羽矢が持っていた鍵なのか。

でも何でこんなものを羽矢が持っているんだ。

これって……

 

「聖遺物……」

「聖遺物……と呼んでいい代物かは分からない。」

 

俺の言葉と同時に島谷は話し始める。

 

「いや、聖遺物なのは聖遺物なんだがな。

それは他の聖遺物とは格上、別物だ。

そして、それはそもそもこの世界のものじゃあない。

別の次元のものだ。」

 

「どういうことだ…。

何で異次元のものが……。」

 

「さあ?

俺だって、何で大隅が何故こんなものを持ってたのかは分からない。

そもそも大隅はヘルメスの祝福は受けていないはずだ。

持っていても意味は無いだろうに。」

 

「ヘルメス?」

 

「メルクリウスのことだ。

……雑談はこの辺にして。

お前たちを呼んだのは御礼を直接言いたくてな。」

 

「御礼だと…?

何か感謝されることでもしたか?」

 

祥二が島谷に言う。

 

「この器というべき身体を、大事にしてくれたことだ。

お陰ですんなりと器に収まることができた。」

 

「器?」

 

「この器は作られた存在。

また、お前たちと接していた島谷は仮初めの意思だ。

今の俺が本当の島谷。

今までのは偽物、ということだ。」

 

「作られたって、そんな……

まさかメルクリウスが…。」

 

「俺を作ったのは奴ではない。

もっと…偉大なものだ。」

 

メルクリウスより偉大なもの。

神というべき者より、偉大なものなんてあるか?

 

「ヘルメスが私欲で回帰させた那由多の事象も総てそこには記憶されている。

それは存在しないもの、だが虚空として存在している。

多次元宇宙(マルチバース)の、泡宇宙の狭間にな。」

 

「ちょっと待て…一体何を言っている。」

 

「フッ、理解できないか。

まあいい、解らなくともいい、どうせこの世界を消すつもりだからな。」

 

「なッ…!」

 

「総てを修正する。」

 

消すって……そんなことが……?

今でもこいつが何を言っているのか分からない。

だが、一つだけ分かること。

こいつが世界を終わらせると言っていること。

いや、終わりより虚しいこと、空にするとこいつは言っている。

 

「でも残念ながら、まだそのためには力が足りない。

まだまだ溜まってないんだよ。

修正力というものがね。」

 

…こいつを放っておくわけにはいかない。

 

「そんなこと……させるわけが…」

 

「邪魔をするのか?

ヘルメスが作っているこの世界を消してやろうとしているのに、止めろと?」

 

「だとしても、消した後はどうなる…。」

 

「無論、何も残らない。空の空間があるだけ……。

 

…さて、俺は地下へと戻る。

お前らは黙って見ていればいい。」

 

島谷は俺たちに背を向け、そのまま奥の岸壁へと歩き始める。

 

「ま、待て!」

「おっと、ここを通すわけにはいかない。」

 

後を追いかけようとするが、デーニッツが行く手を阻む。

 

「くッ、どけ!」

 

「そうはいかない。

言わば私はその偉大なものの予言者(アクセサー)

彼の意思は私の意思でもあるのでね。」

 

その時、俺の後ろから一人の影がデーニッツに刀で切りかかる。

 

「先に行け。龍野。

お前に任せる。」

 

「祥二…。」

 

デーニッツは祥二の斬撃を避け、後ろに数歩下がった。

 

「……また貴様か…。」

 

「…それはこっちの台詞だ。」

 

「いいだろう。お前のことは前から気にくわなかった。

相手をしてやろう。」

 

「それも俺の台詞だ。

……行け、龍野。」

 

刀の切っ先で俺に行くように示唆する。

 

「ああ…。分かった。

必ず追いついて来いよ。」

 

「分かってる。

こんな雑魚、すぐに片付ける。」

 

そして、この場を後にし、俺は島谷を追った─────。


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