Dies irae ~Von der großen sehnsucht~ 作:tatuno
よろしくお願いします。
────相当の数を打ち合う。
疾風の如く槍を突き、疾風の如く拳を突く。
攻撃、回避、反撃の繰り返し。
何度も何度も立ち回っているものの、一度も攻撃は当たらない。
「ぬううッ!」
「ぐううッ!」
まさに力は拮抗していた。
一歩も譲らない。
もし片方が少しでも油断すれば、一瞬で決着が着いてしまうだろう。
忠勝は、いや俺は全神経をこの死闘に注ぐ。
今の俺は勿論自分ではない。
だが、それでも自分自身なのだ。
俺と忠勝は言わば魂が同調している状態だ。
つまり俺が考えたことは忠勝の考えでもあり、忠勝が考えたことは俺の考えでもある。
現在は忠勝が身体の、姿の主導権を握っているのも確かなのだが、無論の如く、俺自身が戦っているに過ぎない。
「ッ!!」
マキナは鉄の拳を振り下ろした。
それを忠勝は見事な足捌きで避けるが、地面のコンクリートにその拳が当たり、一気にそこが陥没する。
いや、消し飛んだの表現が正しい。
衝撃で周辺の砕けたコンクリート片が体中に飛んでくる。
忠勝の姿になっても、魂がシンクロしているせいか、エイヴィヒカイトが適用されているようだった。
忠勝自身も、只の生身ではなく、黒い甲冑を身に纏っていた。
どこからどうやってこの甲冑が出てきているかは知らないが、それを言えばそもそも聖遺物自体が出てくる原理が分からないため割愛する。
もしくはこの甲冑も蜻蛉切と同じ聖遺物かもしれないが……。
コンクリート片が飛んできても、正直大したことはない。
だが、これが顔に向かってきたことにより、一瞬の間視界が奪われる。
これをマキナは見逃さなかった。
間合いを詰め、再び鉄拳を振りかざす。
これに関しては、俺自身であったならば食らっていただろう。
忠勝はそうはいかなかった。
終わりそのものを模したような腕を触れないように、槍の柄の部分を使って、体を回転させ受け流す。
マキナは後方へと体が前のめりとなるが、足で踏ん張り体勢を立て直す。
「地面がここまで抉れるとは…。」
「…これが俺の創造。
俺の一撃は、当たった瞬間あらゆるものの幕を引く。
すなわち……。」
「一撃か……。」
「そうだ。
俺の拳は、どんなものでも一撃で破壊する。」
祥二はこのことを言っていたのか。
奴の拳に触れるなと。
触れれば命も人生も終わってしまうから。
「規格外の能力だ。」
忠勝は言う。
「だが、分かったところで避け続けるしかないだろう。」
確かにその通りだ。
触れた瞬間に終焉を招くものであるなら、容易に攻撃するわけにもいかないだろう。
壊そうとすれば、こちらが壊される。
「……なお向かってくるか。」
「…武士として背を向けるわけにはいかん。」
───それに今さら引けない。
「貴様、名を名乗れ。」
「…名だと?」
「そう。名だ。」
「……本当の名は覚えていない。
が、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン……とでも名乗っておこう。」
「そうか…。
信の名を、見つけられるといいな。」
────彼も名乗る。
時は戦国時代、敵をも味方をも圧倒したその名を叫ぶ。
「我は徳川家が家臣。本多平八郎忠勝。───いざ、参る!」
───再び死闘が再開する。
先ほどの比ではないほど、十、百、千と攻撃を繰り出す。
今や万をもその手数は超えようとしていた。
それでも二人は止めようとしない。
無論、俺も止める気はない。
そもそも止めるという思考がなかったのだ。
この闘いを勝とうという信念がそこにはあった。
手を止めれば負ける。
あまり顔に感情を出していないマキナだが、こいつも何かの信念を胸に戦っている。
その人生に幕引きを。
しかし、何故だろう。
この闘いの勝敗は生か死かを意味するはずだ。
なのに決着を着けるのは俺ではないような気がして、こいつを倒すのは俺ではないような気がしてならない。
マキナの本当の名前を知っているやつが倒す。
倒すのは俺の役割ではない。
ただの思い込みならいい。
だが違う。
これは間違いなく。
───既知感。
「オオオオオオオォォォォッ!!」
「オオオオオオオォォォォッ!!」
槍と拳が真正面にぶつかろうとしている。
正に決着が今着こうとしていた。
蜻蛉切の切断能力で、拳がそれこそ蜻蛉のように二つに裂けるのだろうか。
それともあの機械仕掛けの神に俺の槍は砕け、俺諸共に
ここで─────
「────もう良い。下がれマキナ。
シュライバー、ザミエルもだ。」
「ヤヴォール。」
急にどこからともなく聞こえた声にマキナは反応し、瞬時に上空の城へと下がる。
同時に遠くから二人の人影が下がるのも見えた。
目標が消えた槍は空を切り裂き、同時に創造位階が解除され、元の自分の姿に戻った。
「──?」
何が起こったか分からなかった。
城へと戻るマキナを目で追う。
すると、城から一人の男が現れたのが見えた。
「シュライバー達相手に、よくやるものだ。」
それはなんとも輝くしく、まさしく黄金の男だった。