Dies irae ~Von der großen sehnsucht~ 作:tatuno
よろしくお願いします。
─────「……?」
ゆっくりと意識が戻る。
頭がボーッとする。
ここは…自分の家?
ベッドの上にいるのを見たところ寝てたのだろうか。
ていうか今まで何を……。
「目が覚めたか。」
声がした方向を見ると、祥二が窓際のところに座っていた。
「俺は……何で寝てるんだ?」
「俺が連れて帰ってきた。
ちなみにあの夜から丸一日経っている。」
「あの夜…。」
「一日前のこと、全部話せるか?」
「廃病院に行って、そこで永篠と戦って、羽矢が……。」
「分かってる。
それは言わなくていい。
その後の事は憶えているか?」
その後、羽矢が死んだ後。
……分からない。
綺麗に記憶から抜けている。
思い出そうとしてもさっぱりだった。
「…思い出せない。」
「やっぱりか……。」
「?
何かしたのか俺は?」
「いや、……ええと。
あれだ。
創造位階を使って力を使い果たして倒れたんだ。
それで記憶が飛んでるんだ。」
「そうだったのか…。
永篠は倒したのか?」
「ああ。
憶えてないかもしれないが、俺が駆けつけた時にはもう。」
「そっか。
…あいつだけは倒せて良かったよ。」
「…そうだな。」
羽矢の仇を取ったということでいいのだろう。
あいつだけは生かしておけないと、記憶が途切れる前に思っていた。
だが、何をしようが羽矢はもう戻ってこない。
大事なものを俺は失ってしまった。
今まで以上に心にぽっかりと穴が空いた気がした。
「あんまり思い詰めるな。
羽矢を失ったのは辛いが、ラインハルトの奴もついに現界してきたし…。」
「現界?」
祥二は窓のカーテンを開け、外を見るよう促す。
「あれは…。」
外を見れば、上空に巨大な骸骨が浮いていた。
「ヴェヴェルスブルグ城。
ラインハルトが創造位階で出した城だ。
あれにスワスチカなんかで散った魂が取り込まれる。
あの城はまだこの世界とズレた状態ではあるが、スワスチカもほとんど開いて、この街一帯の住人はもう関係なしに魂があの城に吸われた。
無論、俺達は普通の人達と違うから、城に吸収されることはない。」
「それって……じゃあこの街はもう誰もいないのか?」
「ほぼ無人だ。
俺達に、藤井達、黒円卓の連中、後はデーニッツを覗けばだがな。」
「ちょっと待て。
島谷は?
あいつもまさか…。」
「ああ。
多分あの中だ。」
そんな…。
羽矢に続いて島谷まで…。
放ってはおけない。
このまま見過ごす訳にはいかない。
「おい。
どこに行くつもりだ。」
俺は体が外に向かおうとしていたのに気付く。
「決まってんだろ。
島谷を取り戻しに行く。
もうこれ以上、仲間を失いたくない。」
そうだ。
俺はもう何も失いたくないんだ。
「やめろ。絶対に行くな。
あいつらに関わっては駄目だ。」
「……何でだ。
友達を失って辛いのはお前も同じはずだろ?」
「それはそうだが……。」
祥二は何故か黙る。
「林と深田は?
あいつらもあの城に魂を?」
「…あいつらは無事だ。
運良く隣町までカラオケに行ってたらしくてな。
暫く戻って来るなとは電話しておいた。」
「そうか…良かった。」
俺は玄関戸に手を掛ける。
「俺は行く。
もうごめんなんだ…。
誰かを失うのは。」
「ま、待て!龍野!」
祥二の制止の声を無視して、俺は外に出た。