Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第二十章です。
よろしくお願いします。


第二十章

────俺達はゆっくりと永篠に近づく。

 

「貴様名乗れ。」

 

「何?」

 

「戦の作法だ。名乗れ。」

 

「……お前なんぞに教えるかよ。

と言うより、俺の名前はもう知ってるだろう。」

 

「そうか…。

我が名は、本多平八郎忠勝。

覚えておくがいい。」

 

「本多…忠勝……。

ああ。知ってるぜ。

戦国武将だったっけな。

お目にかかれて光栄だなあ。」

 

永篠は壁を壊された時はさすがに焦っていたようだが、今はへらへらとした態度だった。

 

「……何故、罪もない女を殺す?」

 

「あ?

どいうことだそれは?」

 

「霊安室の女達だ。

あれは貴様がやったのではないのか?」

 

「あー……あいつらね。

あいつらは単なる遊び道具だから大丈夫だよ。」

 

「……遊び道具…だと?」

 

瞬間、自分の中で何かが切れる音がした。

 

「外道が…。」

 

正確には彼がキレたのだろう。

武士道、まさに義を重んじる彼にとっては、正に悪党とも言うべきやつの言うことに同意するとは思えない。

 

「貴様のような外道は我が時代にもいた。

が、元々から貴様らのような下郎のことは好いていない。

その中でも貴様は上の方だ!」

 

彼を中心に威圧的な風が吹いた。

永篠はそれを受け、少し吹き飛ばれそうになっている。

 

「ッ……お前だって数多くを殺してきた人殺しだろ?

てめえも本質的なもんじゃあ同じじゃねえか!」

 

俺達の周りに再びレンガでできた壁が出現する。

しかも今度は二重、三重に積み重なる。

だが、しかし──

 

蜻蛉切を振り回し、轟音と共に壁を粉々に砕きに砕く。

 

「くそッ!

まるで鬼神じゃないか……。」

 

「貴様にはもう生きる資格はない。」

「────もう生きる資格はない。」

 

忠勝との想いが同調(シンクロ)する。

思考が、行動が、気持ちが全て。

 

少年の女(羽矢)を、返して貰うぞ!」

 

すぐにでもこいつを殺し、羽矢を連れて帰る。

 

そう思った時、永篠肩がぶるぶると震え出す。

 

「フフフフ、クックック……ハァハハハハッ!」

 

ふつふつと笑ったかと思えば、大声で笑い出した。

 

「そういえばそうだったな!

思い出したよ。あの女ね。

そんなに返して欲しかったら、お望み通り返してやるよぉ!」

 

永篠の声と同時に右側にあったレンガの壁が音を立て崩れだす。

 

「ほら、彼女との感動の再開をさせてやる。

喜べや…。」

 

何かを堪えてるように見えたが無視した。

何故なら崩れた壁の奥に現れたのは、手術台の上に乗せられている見知った少女だった。

 

「は……や…?」

 

それは紛れもなく、俺の知っている羽矢本人だった。

 

「は、羽矢ッ!」

 

気付かない内に、創造位階が解けて、自身の姿で彼女の元へ駆け寄っていた。 

 

「大丈夫か!?羽──。」

 

彼女の姿を間近に見た時、自分の思考が停止するようだった。

 

「────」

 

言葉を失う。

信じたくない。信じたくなかった。

 

ベッドの上にいた彼女

 

───の変わり果てた姿を。

 

裸で寝かせられている。

口から血を流している。

腹が裂かれて腸が飛び出している。

腕がない。

足がない。

 

見覚えのない彼女の姿。

開いた口が塞がらない。

 

彼女を抱きかかえる。

 

「───。」

 

駄目だ。

言葉が出てこない。

 

しかし、信じられないことが起こり、思考が動き始める。

生きているのもおかしいはずなのに、彼女が薄らと目を開ける。

 

「ゆ…うくん……。」

 

聞き逃しそうな声で彼女は俺の名前を呼んだ。

 

「お…おい、羽矢!」

 

「ご…めん……。

わたし…しょじょ…じゃ…なくなっ…ちゃった……。

よごされ…ちゃ…った。」

 

常にか細い声。

それどころかどんどん弱まってきているようにも見えた。

 

「…ははは…何言ってんだよ…。

そんなことはどうでもいいだろう…。」

 

「どうでも…よくない…よ……。」

 

すでに焦点も合っていない。

まるで上の空をみているようだった。

 

「例え羽矢が処女じゃなくても、俺はお前を嫌いにはならない。

俺はお前のこと本当に好きだからさ。」

 

「………。

やっと……すき…って……いって…くれたね……。

どんな…いみ…でいった…の…か…わかんない…けど…。」

 

切断されていた手足は縫具で縫われていたが、切開された腹は縫われておらず、血が常に流れ出ていた。

 

「そんな……こと……いわ…れるんだっ……た…ら…」

 

目の輝きが今に、命の灯火が今に消えようとしている。

 

「し…に……た…くな…かっ……た…なぁ…………。」

 

彼女を抱えていた腕に重く体重がのしかかるような気がした。

 

「おい。おい羽矢…。

起きろって…。」

 

羽矢の目の輝きは完全に失われていた。

ピクリとも動かず、人形のようだった。

 

彼女は一言も返さない。

 

「なあ…。

頼むから……起きてくれよ。」

 

これじゃあまるで────

 

 

死んでるみたいじゃないか。

 

 

 

「うあ……ああ……。」

 

羽矢の死を受け入れた途端、体の震えが止まらなっていた。

 

「あっ…あああ。」

 

彼女の生前の笑顔がフラッシュバックする。

自分の中に何か……込み上げるものを感じた─────

 

 

「──────────ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ハャァァァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ハッハッハッハッハッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

気付かぬ間に上げていた自分の叫び声と同時に、今まで堪えていたような爆発のような笑い声が聞こえた。

 

「いいねぇぇ!

その悲痛な叫び声!その悲痛な顔!

そんなお前の顔が見たかったんだよぉ!

最高だあ!」

 

再び笑い声。

こちらを見て腹を抱えて笑っている。

 

……このために羽矢を殺したのか?

そんなふざけた動機で?

 

「……許さねえ…。」

 

「んん?

なんだって?」

 

───待て少年!このままでは呑まれる!自我を保て!

 

誰かの声が聞こえる。

いや、それよりも

 

よくも羽矢を…。

許さない。

 

 

許さない。

許さない許さない許さない。

殺す。

殺す。

殺す殺す。

殺す殺す殺す。

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス────────

 

 

 

「──コロス。」

 

 

 

 

創造(Briah――)

 

 

 

■■■■・■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────「龍野!」

 

誰か呼んだ気がする。

 

「お前……龍野なのか?

その姿は……。」

 

祥二…?

いや……誰だ?

 

分からない。知らない。

聞いたことがない。

 

「状況は……なんとなく分かったよ。

それはお前の創造位階でいいんだよな?」

 

ああ…。

誰か分からないけど、今手が止まらないんだよ。

殺したくて、奪いたくてしょうがないんだ。

 

「元に戻れつっても、どうやらそう簡単に戻らないっぽいな…。」

 

「ぅ……ぅ……………。」

 

「?」

 

「…ぅ……ぅ…ぁ…ころ…す…。」

 

「……相当狂ってるみたいだな。」

 

目の前にいる誰かが手に日本刀を出現させる。

 

「しょうがない……。

お前を元に戻してやる。

そのままじゃ大隅も報われないだろうし。

俺の渇望、創造位階でな。」

 

何か言っている。

聞きたくない。

何も考えたくない。

 

「グ…ガ、アアアアアアアアアアアアアア!!」

 

俺はその友達だったような気がする男に槍を突き立てた。─────


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