Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第十九章です。
よろしくお願いします。


第十九章

───焦燥感に駆られて羽矢を探す。

永篠が創造位階を使い、より一層不気味になったこの病院。

走り回っているのだが、奴は何もしてこない。

それどころか羽矢も見つけられない。

変わったことと言えば、この病院の周りになかったはずの有刺鉄線に囲まれていた。

ついでにエイヴィヒカイトの力でパワーアップしている電流付き。

 

永篠を倒さなければどうやら出れないらしい。

だが、二人とも一体どこに……。

 

行き止まりだったので、元来た道を方向転換して引き返そうとする。

 

「いてっ!」

 

何かにぶつかってしまった。

頭をさすりながら目の前を見る。

 

「壁…?」

 

レンガ作りの壁がそこにはあった。

 

「何で壁が…。」

 

言って気付く。

周りを見るとレンガが積み重なってできている壁に囲まれ、天井には通気坑みたいなものがあった。

 

「くそっ!」

 

蜻蛉切を形成し、即座に壁を壊そうとする。

が、壁に弾かれ傷一つ付かず。

 

「ハハハハッ!

気分の方はどうだ?」

 

再び永篠の声が響いてくる。

 

「お前がこれからどうなるか……分かるよな?」

 

楽しそうに言っているが、どこがそんなに楽しいのか分からない。

 

「ああ…。

お前の創造の名前からして、毒ガスでも撒こうって思ってんだろ?」

 

「ハハハ、その通り!

よく分かってるじゃねえか!」

 

どんな渇望なんだよ…。

こんなの冗談じゃないぞ。

 

だが、あいつの聖遺物。

あれは医療用のメスだったのか。

あんな物が聖遺物とは、なんとも陰気なものだ。

 

「じゃあ死んでくれ。」

 

永篠の言葉を期に、通気坑から何かが流れ出したのを感じた。

 

「くっ…!」

 

この毒ガスをどう切り抜ければ……。

このままではここで死ぬ。

でも、逃げ場なんかない。

壁も壊すことは不可能だった。

 

どうすればいい。

何か打開策はないのか………。

 

 

 

いや、ある。

創造位階。

相手が創造位階であるならば、俺もそこに達すれば勝機があるかもしれない。

俺の創造がどんなものかは分からないが、何かが変わるはずだ。

 

だがそれこそどうすればいいんだろうか。

どうやったらその位階へと到達できるんだ。

 

 

 

 

────少年。

 

「……忠勝さん。」

 

────貴様はここで諦めたいのか?

 

「でも……。」

 

でも、本当にどうすれば……。

 

────前に言ったであろう。自らの弱さを認めろと。すでに貴様は見つけているはずだ。

 

「弱さ…。」

 

自分の弱さ。弱み。

十一年前からの落ち度。

 

そうだ。

 

俺はずっと悩んできた。

自身の心が無いことに。

 

それが俺の弱さ。

いや、正確にはそれに悩み続け、全てを偽ってきたのが俺の弱さだ。

 

────それが貴様の弱み。そしてその弱さを抱えて想ってきたものは何だ。

 

想ってきたもの。

それは──

 

「──みんなのような、理想の感情(こころ)を、姿になりたい。」

 

────御身の感情は白だ。まさに無の色。それはつまり何色にもなれるということだ。

 

何色にもなれる。

俺はみんなの良さを自分自身に描こう。

 

それだけじゃなく、忠勝さんからも学んだことも全て。

 

────フン。ならば渇望してみせよ。拙者も共に行こうではないか。再び刮目させる時だ。

 

今こそ──創造位階(憧れ)に達する時だ。

 

 

 

 

 

 

Zwey Seelen wohnen, ach. in meiner Brust,(我が心に想いが二つある)

 

Die eine will sich von der andern trennen;(一つが一つを携え、離れようとはしないのだ)

 

Die eine halt, in derber Liebeslust,(一方の想いは精悍な激情の支配に身を任し)

 

Sich an die Welt, mit klammernden Organen;(現実の世にすがり離散せず)

 

Die andre hebt gewaltsam sich vom Dust,(一方の想いは否応にも塵の現実を駆け抜け)

 

Zu den Gefilden hoher Ahnen.(至高な先人の在る境界へ渇望する)

 

 

 

創造──

 

 

隔世之感・憧憬(Zwei Faust・ Sehnsucht )

 

 

 

 

「うおおおおおおォォォォォォォ!!」

「──────おォォォォォォォ!!」

 

 

拙者()は蜻蛉切へと一撃を込め、思い切り壁へとぶち当てる。

囲んでいた壁は粉々に四散し、その先にある壁も破壊していった。

 

そして、空いた数々の穴の向こう側。

 

「なッ、バカな…。」

 

奴がいた。

 

「さて、拙者の槍を受けてみるがいい。」

 

今不思議と自分の体にないように思える。

 

「お前は……。そうか。

お前があの時の槍に宿っていた魂か。」

 

「……いかにも。」

 

そう。

今の拙者は俺ではない。

 

まさしく俺の身体は本多忠勝、その人へと成り代わっていた。




補足として、主人公の創造の名前が蓮の創造の名前と少し被っていますが、全く関係はありません。

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