Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第十八章です。
よろしくお願いします。


第十八章

その日の夜。

 

羽矢がいるかもしれない二カ所の場所は全くの反対方向で、二手に別れることになった。

俺が廃墟の病院で、祥二は小学校。

ちなみに島谷は家で待機させておいた。

 

そして今向かっているのだが、廃墟の病院ってのはちょっときつい。

夜だし……。

幽霊とかいそうだし……。

 

何より一方的に出てきて、こちらは反撃ができないってのがどうかと思う。

苦手だ。

まあ、こうも言ってられないか…。

 

あれこれ考えてるうちに、病院の前までたどり着いた。

……禍々しい気配がする。

どうやら当たりか?

まだ判断が付けにくいレベルだが…。

 

病院の中に入ると、言葉通りの有り様。

物は当時のものが乱雑している。

埃も凄く、そこら中に蜘蛛の巣。

 

とりあえず奥に進む。

周りは薄暗く、辛うじて窓から差し込む月の光で見える程度。

どこら辺に居そうとか分からないものの、吸い込まれるようにあるところにたどり着いていた。

 

「霊安室…。」

 

なかなか広いこの病院で、一番不気味なところに来てしまった。

冗談きついな…。

 

でも、羽矢はここにいるんだろうか。

あいつらと同じところにいるのは確かなはずだ。

とにかく入ってみるか。

 

と思った瞬間。

霊安室のドアが開いた。

 

「ん?

これはこれは、龍野祐。」

 

そこに現れたのはデーニッツだった。

 

「何か用かな?」

 

笑顔で彼は言う。

 

「ふざけんな……分かってんだろ。

羽矢を返せ。」

 

「フン。

自分の感情も分からないやつが、何を言っている。

怒りでも表現しているのか?」

 

「…てめえ。」

 

デーニッツは俺を見下したようにあざ笑っている。

 

「まあいい。

もう鍵は手に入れた。

私はもう彼女に用はない。」

 

言って、デーニッツは霊安室を指差す。

 

「行ってみるといい。

ただ永篠は少々えげつない。

注意はしておくことだ。」

 

「…どういう意味だ。

それに鍵を手に入れたって…。」

 

靴の音を響かせ、横を通り過ぎた彼は、振り返った時にはもういなかった。

 

「くそ…。」

 

この鍵って言われてるやつを手に入れたってことは、もう羽矢の身に何かあったってことじゃないか。

 

急いで霊安室の中に入る。

中では蝋燭が灯されていて、周りが照らされていた。

 

「おい……なんだよ、これ。」

 

霊安室の惨状を見て、つい口から言葉が零れる。

 

並べてあった二つのベッドには知らない二人の裸の女性の遺体。

その姿は片方が腹を切り裂かれ、中身が無いように見えた。

そして、肘から先の腕が無い。

 

もう一方の女性の遺体の足にその腕が存在していた。

膝から先に縫い付けられている。

無くなっている膝から先はその女性の横に無惨に置かれていた。

 

なんとなく自分の心臓の音が早くなるのを感じた気がした。

この時思ったことは一つ。

 

羽矢が危ない────。

 

霊安室の中にはこの遺体だけで、羽矢の姿も永篠の姿もない。

急ぎこの部屋から出ようとする。

 

「焦ってるなあ…。龍野祐。」

 

ドアに手を掛けた瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

「ッ…永篠。」

 

どこから聞こえてきているかは分からない。

聞こえてくる永篠の声はどこか楽しそうに聞こえる。

 

「羽矢ちゃん、だっけ?

彼女を探しているんだろう?」

 

彼の声に俺は少し苛立ちを覚えた気がした。

 

「どこにいる…。」

 

「知りたいか?

知りたいよなあ。

お前の女は確実にこの病院内にはいるよ。」

 

何か周りからの気配に悪寒を感じた。

 

「でも、その前に……。

俺の渇望の牢獄から抜け出されるなら、なぁ?」

 

何かを感じる。

病院内の禍々しさが増幅しているような感じだ。

 

「な、何だ?」

 

「はははは、ハハハハハハハハハハァ!!

捕らえられれば最後!終わりだア!」

 

 

 

 

 

Verstossen sei auf ewig,(勘当されるのだ永遠に)

 

Verlassen sei auf ewig,(永遠に捨てられ)

 

Zertrümmert sei'n auf ewig(永遠に忘れ去られる)

 

Alle Bande der Natur.(血肉を分けたすべての絆が)

 

Wenn nicht durch dich Sarastro wird erblassen!(もしもザラストロが蒼白にならないなら!)

 

Hört, Rachegötter, hört der Mutter Schwur!(聞け、復讐の神々よ、母の呪いを聞け!)

 

 

 

創造(Briah――)

 

 

強制収容所の死天使(Auschwitz-Birkenau Todesengel)

 

 

 

 

「さあ、果たしてお前は死の第十ブロックまでたどり着けるかなあ?ハアァハッハッハ!!」

 

 

俺は軽く舌打ちをする。

まだ見た目的には何が起きたか分からない。

だからこそ何か嫌な予感がする。

このアウシュビッツ─収容所の中で、不吉なことが起きそうに思えてならなかった。


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