Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第十六章です。
よろしくお願いします。


第十六章

あの後俺は疲労からか立てなくなり、祥二に家に連れ帰って貰った。

 

 

 

─────「ほら。大丈夫か?

家まで肩貸すよ。」

 

「…あいつらを追わないと羽矢が……。」

 

「まあ、一旦落ち着け。

そんな立てない状態で何ができる。」

 

「……。」

 

悔しいが確かにそうだ。

こんなんで言ってもまずあいつらには勝てない。

羽矢を取り戻すことだって難しい。

 

「それに居場所が分からないんじゃ追いようがない。

まずそこから始めないと……。」

 

祥二は俺の腕を肩に担ぐ。

 

「ルサルカ。

お前結構いいやつだったんだな。

知らなかったよ。」

 

先ほどから立ち尽くしているルサルカ。

 

「…あなたは何を知っているの?」

 

「おいおい。

あんまり勘ぐりを入れるなよ。

秘密の一つや二つ持っててもいいだろう?」

 

ルサルカが疑うのも無理はない気がするが……。

そもそもその秘密にしている部分を俺は教えて欲しい。

 

「一つだけ言えるのは、デーニッツと永篠は知らなかった。

あいつらが大隅を使って何を企んでいるのかも未だに分からない。」

 

「鍵とか言ってたわね…。

何かを開けるつもりなのかしら。」

 

不明な点はまだある。

羽矢を使って何をしようとしてるのかは分からないが、そもそも羽矢は何でその鍵と言われるものを持っている。

あいつはそんなことを匂わせる行動は一度もしていない。

隠してたのだろうか。

その鍵を。

 

「そういえばユウくん。

戦う前に言ってたことなんだけど……

あの娘よ。

あの娘と前に会ったの。」

 

「……そうか。」

 

正直なんとなくは分かってたのだ。

ルサルカに、そして忠勝に会っていたという女の正体。

俺を心配する女なんて、思い至ってもあいつしかいない。

 

「どうやらなんとなくは分かってたみたいだな。

龍野と俺はこのまま返らせて貰うが、お前は?」

 

祥二がルサルカに聞く。

 

「私もちょっと用があるからこの辺で…。

良かったらあの娘取り戻すのにも協力するわよ。」

 

「気持ちは嬉しいが…。

お前ら黒円卓はもう本腰のはずだ。

別に無理をしなくていい。」

 

「あら。

私たちの動向も知ってるのね。」

 

「だからそうやって探るなって。

ただどうしてもって時は何か頼らせて貰う。」

 

祥二は俺の肩を担いだまま歩き出す。

 

「それじゃあな。」

 

「うん。

バイバイ。」

 

「……ちょっと待ってくれ。」

 

こいつらが本腰を入れるということは人が大量に死ぬ。

元々デーニッツとの戦闘に入る前はそれでルサルカと闘うはずだった。

 

「お前らはまた……関係のない人々を殺すのか…。」

 

「……。」

 

「スワスチカを開くために人殺しを?

そんなの間違ってる……。

絶対におかしい。」

 

「……。」

 

「おい…。

黙ってないでなんとか言えよ。」

 

「……あなただって人を殺そうとしたじゃない。」

 

「何?」

 

「あの娘が連れて行かれそうになった時に、あなたは奴を殺そうとしてた。

殺意が槍に乗ってたもの。」

 

「でも、結果的に殺したわけじゃ……」

 

「同じことよ。

殺意を実行に移してる時点でね。

それにもしもあの娘を取り戻したいと思うなら、デーニッツたちは殺さないと不可能に近いわ。

そんな甘い考えじゃ無理よ。」

 

「…なんだと。」

 

「そんな心持ちなら救えない。

覚悟を持ちなさい。

彼女を取り戻したいならね。

それじゃあ私は行くわ。

黒円卓のことはしょうがないの。

やらなくちゃいけないことだから……。」

 

そう言ってルサルカは去っていった。─────

 

 

 

 

───そして今は俺の家。

 

祥二から明日とりあえず作戦を立てるから、とりあえず大人しくしておけと言われた。

だが果たしてそんな時間があるのだろうか。

一刻も早く助けないと何をされるか分からない。

今すぐにでも羽矢を探しに行きたいが、力を使い果たしてしまったのか足が動かない。

 

悔しい。

何もできないのがもどかしい。

それにルサルカの言う通りだ。

デーニッツたちを殺さなければ恐らく羽矢を助けることは難しい。

俺にそんな覚悟はあるのだろうか。

ただでさえ身体は人間のものではない。

なのに人を殺せばそれこそ人間の最後になる気がする。

本当にそんなことで俺はいいのか……。

 

 

 

────「少年。」

 

声に気付いて周りを見渡せば、そこは一言坂だった。

そして目の前には本多忠勝。

 

「何を悩んでいる。」

 

「忠勝さん…。」

 

「彼女を救いたいのだろう?

なら答えは一つだ。

やつらを倒すのみ。」

 

「で、でも…。」

 

「…貴様はわがままだな。」

 

「え?」

 

「同時に複数を望むとは欲が過ぎるぞ。

貴様の女が死ぬか敵が死ぬかの二択なら答えは決まっていよう。

あやつらに慈悲などいらん。

どうせ自らの罪も反省できないようなやつらだ。」

 

「俺は……。」

 

「確かに人の命を奪うことが正しいかは分からん。

拙者も主君を守るために大勢の人間を殺した。

しかし、それが間違っていたとは思わん。

拙者は守りたいもののためなら鬼になる。

彼女を守りたいなら覚悟を決めよ。」

 

「鬼に…。

羽矢を守るためなら……。」

 

「敵に情けは無用だ。

己が信念はそれだけでは砕けぬ。

貴様は立派な人間。

例え希薄でも。

それでも守るべきは仲間には変わりない。」

 

そうだ。

俺はみんなを、羽矢を守ると決めたはずだ。

それならばやつらを倒してでも俺は───

 

「──守りたい。

羽矢を。みんなを。」

 

「……決心したようだな。

人間を捨てろとは言わん。

自らの素を受け入れ、世の理も受け入れろ。

必ずや次の段階へと進めるはずだ。

道も。渇望も。」─────

 

普通になりたかった。

でも初めからこの出来事に首を突っ込んだ以上、俺は示さなければならない。

敵の死なんか俺には関係ない。

 

羽矢を守るためなら俺の想いは

鬼へと変わる─────。


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