Dies irae ~Von der großen sehnsucht~ 作:tatuno
よろしくお願いします。
あの後俺は疲労からか立てなくなり、祥二に家に連れ帰って貰った。
─────「ほら。大丈夫か?
家まで肩貸すよ。」
「…あいつらを追わないと羽矢が……。」
「まあ、一旦落ち着け。
そんな立てない状態で何ができる。」
「……。」
悔しいが確かにそうだ。
こんなんで言ってもまずあいつらには勝てない。
羽矢を取り戻すことだって難しい。
「それに居場所が分からないんじゃ追いようがない。
まずそこから始めないと……。」
祥二は俺の腕を肩に担ぐ。
「ルサルカ。
お前結構いいやつだったんだな。
知らなかったよ。」
先ほどから立ち尽くしているルサルカ。
「…あなたは何を知っているの?」
「おいおい。
あんまり勘ぐりを入れるなよ。
秘密の一つや二つ持っててもいいだろう?」
ルサルカが疑うのも無理はない気がするが……。
そもそもその秘密にしている部分を俺は教えて欲しい。
「一つだけ言えるのは、デーニッツと永篠は知らなかった。
あいつらが大隅を使って何を企んでいるのかも未だに分からない。」
「鍵とか言ってたわね…。
何かを開けるつもりなのかしら。」
不明な点はまだある。
羽矢を使って何をしようとしてるのかは分からないが、そもそも羽矢は何でその鍵と言われるものを持っている。
あいつはそんなことを匂わせる行動は一度もしていない。
隠してたのだろうか。
その鍵を。
「そういえばユウくん。
戦う前に言ってたことなんだけど……
あの娘よ。
あの娘と前に会ったの。」
「……そうか。」
正直なんとなくは分かってたのだ。
ルサルカに、そして忠勝に会っていたという女の正体。
俺を心配する女なんて、思い至ってもあいつしかいない。
「どうやらなんとなくは分かってたみたいだな。
龍野と俺はこのまま返らせて貰うが、お前は?」
祥二がルサルカに聞く。
「私もちょっと用があるからこの辺で…。
良かったらあの娘取り戻すのにも協力するわよ。」
「気持ちは嬉しいが…。
お前ら黒円卓はもう本腰のはずだ。
別に無理をしなくていい。」
「あら。
私たちの動向も知ってるのね。」
「だからそうやって探るなって。
ただどうしてもって時は何か頼らせて貰う。」
祥二は俺の肩を担いだまま歩き出す。
「それじゃあな。」
「うん。
バイバイ。」
「……ちょっと待ってくれ。」
こいつらが本腰を入れるということは人が大量に死ぬ。
元々デーニッツとの戦闘に入る前はそれでルサルカと闘うはずだった。
「お前らはまた……関係のない人々を殺すのか…。」
「……。」
「スワスチカを開くために人殺しを?
そんなの間違ってる……。
絶対におかしい。」
「……。」
「おい…。
黙ってないでなんとか言えよ。」
「……あなただって人を殺そうとしたじゃない。」
「何?」
「あの娘が連れて行かれそうになった時に、あなたは奴を殺そうとしてた。
殺意が槍に乗ってたもの。」
「でも、結果的に殺したわけじゃ……」
「同じことよ。
殺意を実行に移してる時点でね。
それにもしもあの娘を取り戻したいと思うなら、デーニッツたちは殺さないと不可能に近いわ。
そんな甘い考えじゃ無理よ。」
「…なんだと。」
「そんな心持ちなら救えない。
覚悟を持ちなさい。
彼女を取り戻したいならね。
それじゃあ私は行くわ。
黒円卓のことはしょうがないの。
やらなくちゃいけないことだから……。」
そう言ってルサルカは去っていった。─────
───そして今は俺の家。
祥二から明日とりあえず作戦を立てるから、とりあえず大人しくしておけと言われた。
だが果たしてそんな時間があるのだろうか。
一刻も早く助けないと何をされるか分からない。
今すぐにでも羽矢を探しに行きたいが、力を使い果たしてしまったのか足が動かない。
悔しい。
何もできないのがもどかしい。
それにルサルカの言う通りだ。
デーニッツたちを殺さなければ恐らく羽矢を助けることは難しい。
俺にそんな覚悟はあるのだろうか。
ただでさえ身体は人間のものではない。
なのに人を殺せばそれこそ人間の最後になる気がする。
本当にそんなことで俺はいいのか……。
────「少年。」
声に気付いて周りを見渡せば、そこは一言坂だった。
そして目の前には本多忠勝。
「何を悩んでいる。」
「忠勝さん…。」
「彼女を救いたいのだろう?
なら答えは一つだ。
やつらを倒すのみ。」
「で、でも…。」
「…貴様はわがままだな。」
「え?」
「同時に複数を望むとは欲が過ぎるぞ。
貴様の女が死ぬか敵が死ぬかの二択なら答えは決まっていよう。
あやつらに慈悲などいらん。
どうせ自らの罪も反省できないようなやつらだ。」
「俺は……。」
「確かに人の命を奪うことが正しいかは分からん。
拙者も主君を守るために大勢の人間を殺した。
しかし、それが間違っていたとは思わん。
拙者は守りたいもののためなら鬼になる。
彼女を守りたいなら覚悟を決めよ。」
「鬼に…。
羽矢を守るためなら……。」
「敵に情けは無用だ。
己が信念はそれだけでは砕けぬ。
貴様は立派な人間。
例え希薄でも。
それでも守るべきは仲間には変わりない。」
そうだ。
俺はみんなを、羽矢を守ると決めたはずだ。
それならばやつらを倒してでも俺は───
「──守りたい。
羽矢を。みんなを。」
「……決心したようだな。
人間を捨てろとは言わん。
自らの素を受け入れ、世の理も受け入れろ。
必ずや次の段階へと進めるはずだ。
道も。渇望も。」─────
普通になりたかった。
でも初めからこの出来事に首を突っ込んだ以上、俺は示さなければならない。
敵の死なんか俺には関係ない。
羽矢を守るためなら俺の想いは
鬼へと変わる─────。