Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第十五章です。
よろしくお願いします。


第十五章

───「さあ。

こいつは今や抜け殻だ。

マレウス。次はお前の番だ。

お前は邪魔だ。」

 

「くっ…。」

 

「創造でもしたらどうだ?

まあそれが果たして私に通用するかが問題だがね。」

 

「……やってみないと分からないじゃない。」

 

デーニッツとルサルカの会話が聞こえる。

 

体が思ったように動かない。

何故だ。

過去のことを少し弄られたぐらいで、どうってことないのに……。

そんなに喋られたのがショックだったのか。

 

分からない。

 

何にショックを受けたのかも。

こうして落ち込んでいるのかも。

 

「やっぱり俺は狂っているのか……。」

 

 

 

 

 

 

────「人に対してシビアなだけだよ。龍野は。」

 

気付けば俺の前にとても見知った仲間が立っていた。

 

「祥…二…。」

 

「すまない。遅くなった。

まさか今日中に接触してくるとは思わなかったんだ。」

 

俺に背を向け、デーニッツを見ながら祥二は言う。

 

「お前が、デーニッツ?」

 

「……そうだが?君は?」

 

「お前みたいなやつに自己紹介なんてするかよ。

こいつを追い込んだのはお前でいいのか?」

 

「……ああ。そうだ。

私がやった。」

 

「そうか………分かった。」

 

続いて祥二はルサルカの方を向く。

 

「ルサルカ。」

 

「…私の名前、知ってるのね。」

 

「お前の隣のクラスにいる松本祥二だ。

よろしく。」

 

「ユウくんの友達?」

 

「そう。ありがとな。

いろいろ龍野に教えてくれて。

お礼にこいつ、俺が倒すから。」

 

祥二の言葉を聞き、デーニッツは眉をぴくりと動かす。

 

「何?

今何と言った。」

 

とても不機嫌そうな顔だ。

 

「…聞こえなかったならもう一度言ってやる。

お前みたいな雑魚は早く死ねって言ってんだよ。」

 

最初は黙っていたデーニッツだったが、やがて顔に笑みが浮かぶ。

 

「……フハ、ハハハハ、フハハハハハハッ!

君は面白いな。

そんなハッタリが通用するとでも思っているのか?」

 

そんなデーニッツの言葉を聞き、祥二は溜め息をつく。

 

「…俺の言葉がハッタリに聞こえるならそれは────」

 

────スパン

とデーニッツから音が聞こえた。

 

「やっぱりお前は雑魚だってことだ。」

 

「ぐッ!がああああああ!」

 

一瞬何が起こったか分からなかった。

デーニッツを見ると肩の方がぱっくりと切れていた。

そこから止め処なく血が溢れ出ている。

只でさえも俺とルサルカじゃ全く傷が付かなかったのに。

ルサルカも唖然としている。

 

「まだ活動位階だが、力の差は分かったんじゃないか?」

 

「き…貴様…!」

 

「あ?」

 

「松本祥二とか言ったな……。

……いいだろう。少し本気をだそう。」

 

言ってデーニッツは祥二との間合いを一気に詰める。

それから攻撃して、受け流して、反撃するの肉弾戦。

何度も何度も祥二とデーニッツは立ち回りを演じる。

デーニッツは負傷しているものの、見た感じの実力は拮抗しているようだった。

 

「なかなかやるな。」

 

「先ほどのは油断しただけだ。

舐めないで貰いたい。」

 

「お前…もしかしたら黒円卓の大隊長達より強いんじゃないか?」

 

「何?

マキナ達と闘ったことが貴様はあるのか?」

 

「………さあな。」

 

手や足を二人は止めない。

 

「それよりもさ。

お前、龍野にどんなこと言ったんだよ。」

 

「フッ。なあに。

少々昔話をしたまでだ。

ああ。そうだ。

君も気を付けておいた方がいい。

彼は心がない。

つまり君が何をしようと一切彼は心配などしないのだ。

なんて友だ。

こんな冷徹な友が居ていいのだろうか。

可哀想に。

早く縁を切っておいた方が身のためだ。」

 

「……。」

 

軽快に話すデーニッツ。

一方、祥二の言葉には明らかな怒りが滲み出ていた。

 

「……お前に何が分かる。」

 

「ん?」

 

「言ったろ。

こいつは人に対してシビアなだけだ。

決して感情というものがないわけじゃない。

昨日会ったばかりのお前に、こいつの何が分かる?

こいつは希薄でもなんでもない。

ただ物事を深く考えすぎるやつなだけだ。」

 

そして肉弾戦を続けていた祥二とデーニッツは一旦距離を取る。

 

「どちらかと言えばデーニッツ。

お前の方が頭のネジが一本とれてると思わないか?」

 

「……。

な…なんだそれは?」

 

デーニッツが驚くのに無理はなかった。

 

祥二の手の辺りに邪気のようなものが集まっているのが目に見える。

普通はそんなものが目に見えるはずがないのに。

その邪気のようなものはまるで剣のような形。

 

祥二は静かに言う。

 

「これを剣を形成すればお前は確実に死ぬ。

……覚悟はいいな?」

 

「貴様は……一体何者だ?」

 

「………さあ本番だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────「そうはさせない。」

 

再びふと聞こえた声。

 

「永篠か。」

 

「デーニッツさん苦戦してるじゃないですか。

何やってるんです?」

 

「フン。

予想外の出来事に対応できてないだけだ。」

 

デーニッツの後ろにいつの間にか永篠高士がいた。

そしてそれだけではなかった。

 

「…おい。

お前の肩に担いでいるのは……。」

 

「龍野か。

お前のガールフレンドだ。」

 

永篠が肩に担いでいる人間。

それは紛れもなく羽矢だった。

 

「羽矢ッ!」

 

「安心しろ。

まだ命はある。

少し眠って貰っただけだ。」

 

「お前ら…。」

 

俺の言葉を聞き、デーニッツは馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

「まあ今は人質の役割だ。

……松本祥二。

貴様も下手に動かない方がいいぞ?」

 

「…ゲスが。」

 

「勿論、マレウス。

お前もだ。」

 

「本当に相変わらず……。」

 

デーニッツは後ろを向く。

 

「今夜はもう興醒めだ。

永篠。一旦退く。」

 

「……了解。」

 

お、おい。

何でそのまま……。

 

「待て!

羽矢を返せよ。」

 

「残念だがこの娘は返せない。」

 

「なッ、何故だ!」

 

「鍵だ。」

 

「か、鍵?」

 

「そう鍵だ。

この娘は私たちに必要な鍵を持っている可能性がある。」

 

何の鍵だろうか。

そもそも何故羽矢がそんなものを…。

 

「何故彼女が持っていたかは過去を覗いて分かったよ。

君みたいに。」

 

「………ッ。」

 

「さて。

それでは彼女は連れて返る。

 

───生きて会うことは二度とないかもしれんがな。」

 

 

……は?

……生きて帰れない?

 

「……それは…どういう意味だ。」

 

「そのままの意味だ。」

 

羽矢が死ぬ?

訳が分からない。

いや、それよりも。

 

ダメだ。

そのまま連れて行かせるわけには行かない。

巻き込ませないと、守ると決めたのに!──────

 

 

 

 

「───ふっざけるなああああ!!」

 

「──!」

 

俺は自分でも気づかないほどに、一陣の風となって、デーニッツの懐に潜り込んでいた。

 

「なッ、に!はや───」

 

デーニッツに何度も連続して槍を突き立てる。

 

「ぐうッ!」

 

自分の目で目視が難しいほど速く。

自分の腕が千切れそうなぐらい速く────。

 

「羽矢を連れて、──行かせるかあああああぁぁ!!」

 

「ぐッ、おおおおおおお!」

 

丈夫なデーニッツの体は逆に的になり、全ての攻撃がその場で当たり続ける。

 

 

「な、何だお前は…。

お前は───龍野なのか!?」

 

もう何回突いたか分からない。

五百ぐらいは超えただろうか。

 

「…ま、待て龍野!

お前の彼女がどうなってもいいのか!」

 

永篠の声にふと俺は我に返る。

俺の攻撃でデーニッツの着ていた服は穴だらけになっていた。

そして俺の今までの攻撃では全く歯が立たなかったのに、彼の体は傷だらけだった。

 

「くッ!

今の攻撃の際……。

一瞬だけだが…。

龍野の姿が鬼神のように見えた。」

 

確かに今の攻撃は記憶にはあるが実感というものが欠けていた。

…俺だったのか?

もしかしてさっきのは……。

 

「………覚えておけよ。」

 

デーニッツは俺を睨み付け言う。

 

「この小娘は貰っていく。

次に戦う時は……その時は終わりの時だと思え。」

 

デーニッツと永篠は素早く闇へと消えて行く。羽矢と一緒に。

 

「ま、待て!

羽矢………

 

羽矢ああああああああ!!」──────


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