Dies irae ~Von der großen sehnsucht~ 作:tatuno
────遡ること十一年前。
この街に引っ越したばかりで、家族と散策をしていた。
とても仲の良い家族だったと思う。
恐らく。多分。
その散策途中。
両親は死んだ。
後ろからトラックに轢かれた。
二人とも即死だった。
俺を庇って、突き飛ばして。
両親の血だらけどころじゃない惨状をそれから眺める。
だが、不思議と悲しみというものがなかった。
何故ないのか。
普通この時は泣くものじゃないのだろうか。
子供ならそうするべき。
でも涙すら出ていない。
何もかも、分からない。─────
───両親の葬儀。
ここでもやはり涙が出なかった。
前に住んでいた町で一度、友達の母親の葬式に参加したことがあった。
その時友達は泣いていた。
あれが普通のはず。
でも、悲しいという感情は芽生えなかった。
今までの両親との思い出を振り返る。
それでも悲しくない。
それどころか、楽しい思い出すらもあやふやだった。
全部が全部解らないわけではないのだが、心にくるものは、何一つなかった。
希薄。
全ての感情が薄い。
その時気付いてしまった。
自分はそもそも普通じゃない。
他の人間とは違う。
親戚の伯父になんとなく聞いた。
もしかしたら自分は人ではないのかもしれない。
「僕は人間なの?」と────
伯父は俺の言葉に薄気味悪くしていたが、当たり前だと言った。
じゃあ自分のこの薄っぺらい心は何なのか。
自分だけが違う。
自分だけ頭がおかしい。
だがその異変に気付いている。
なら僕は普通の人間にならなくちゃいけない。
周りと同じような人間に。
僕だけが異常なのだから。────
─────それから俺は努力した。
楽しくもない日常を楽しく生き。
悲しくも怒ってもいないのにその感情を真似たりした。
友達は最低限の人数にした。
あまり多数と付き合うと疲れるからだ。
そんな俺でも、何人か仲の良い友達ができた。
大隅羽矢。松本祥二。島谷翔。
後は学校のサボり仲間の林や深田。
こいつらがもっとも俺を普通に近づけてくれた。
別に完全に感情がないわけではないのだ。
飽くまでも薄くはある。
何故かこいつらと接する時だけ、いろいろな感情が湧いて出るのだ。
本当に感謝している。
俺を皆と同じようにさせてくれたことを。
特に羽矢。
こいつには一番特別なものを感じる気がする。
正直、それが何なのかは未だに分からないが。
それと最近知り合った彼だ。
こうやって身体的には人ではなくなってしまったけど、俺は彼の生き様に興味を持っていたから。
こうなって良かったと思う。
忠を重んじる心を俺は知りたい。
その心を見習いたい。
彼みたいになりたい。
俺もみんなに忠の心を込めて────
これに巻き込ませない。
俺がみんなを守ると
そう決めたんだ────。