Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第十四章です。
よろしくお願いします。


第十四章

────「ああああ!」

 

俺はデーニッツに向けて槍を凪払う。

刃先は首もとに向けて楕円を描く。

が────

 

「きかん。

そんな攻撃で通りはしない。」

 

「くッ!」

 

確実に頸動脈へと刃が当たっているはずだが、傷一つ付けれていなかった。

 

「ふむ。蜻蛉切だったか。

その刃に触れれば忽ち真っ二つ。

まるでギロチンのようだ。」

 

デーニッツは槍の刃の部分を握り、後方に俺ごと投げ飛ばした。

 

「だが私を切ることはできんか。」

 

なんとか着地し態勢を立て直す。

続いて攻撃を加えようと思ったが、デーニッツの周りには多数の鎖が巻きついていた。

 

「……マレウス。

お前は黙って消えていればいいんだぞ?」

 

どうやらルサルカの形成したもののようだ。

あれがルサルカの聖遺物。

鎖と同時に大きな車輪がデーニッツに向かっている。

その全てはまるで拷問器具。

 

車輪はデーニッツへと激突した。

だがデーニッツはその場から全く動いていない。

当たる直前のままだ。

 

「なッ!?」

 

「舐めるな魔女。

これなら先ほどの龍野の一撃の方がまだ良かった。」

 

そしてルサルカの聖遺物が砕け散った。

 

「ぐッあ!」

 

彼女は苦しんでいる。

聖遺物を壊されると命そのものも壊れるというわけか。

 

血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)

日記に記されている拷問器具を召喚する。

お前にぴったりの聖遺物だ。

薄気味悪く、小汚い。」

 

くるりとデーニッツは俺の方へと振り向く。

 

「さて。

それじゃあ話をしよう。

君のことについてだ。」

 

まずい。

何か嫌な予感がする。

こいつに喋らせては駄目だ。

 

俺はデーニッツへと特攻し、何度も槍を振りかざす。

 

「効かんと言っているだろう。」

 

全く切れず、突いても穴が空かない。

全ての攻撃を棒立ちの状態で受けている。

 

「このッ!」

 

「……だから。」

 

今この男は二本の指で挟んでいるだけ。

なのに槍が全く動かない。

 

「効かぬと言っている。

何度言えば分かる。」

 

デーニッツは溜め息気味に言う。

 

「それで話の続きだが……。」

 

こいつは確実に今から俺にとって悪いことを言う。

言わせては……

 

「やめ──」

 

「君は、過去に両親を亡くしているらしいな?」

 

「───!」

 

やはりそうだ。

俺にとって最も罰が悪い。

 

「ただの車での交通事故。

だが原因、起因を作ったのは君なのだろう?」

 

「……。」

 

「まあ重要なのはそこではない。

その死んだもの達に投げかけた言葉が重要だ。

君はその時にどんな言葉を放った?」

 

「……。」

 

「私に教えてくれるか?」

 

「……いやだ。」

 

「いやだ?何故だ?

そんなに言えないことを言ったのか?」

 

「やめろ……。」

 

「さあ……言ってみろ。

知りたくてしょうがないのだ。」

 

「………。」

 

「さあ………さあ………。早く。」

 

「耳を貸しちゃダメよ。」

 

今まで黙っていたルサルカが口を開いた。

 

「デーニッツは前からそうなのよ。

人の過去をほじくり返して弄ぶのが…。」

 

「悪い冗談はよせ。

私はただ質問しているだけだ。

お前たち外道には分からないか。

なんせ親や友、恩人すらも殺すのが当たり前の集団。

元々心というものが薄れている。

だが、マレウス。

お前は頭が少なからず切れるやつだ。

気付いているだろう?

この龍野祐の異常に。」

 

「……。」

 

それを聞きルサルカは黙る。

 

「やはりか。

だからお前は龍野に興味を持った。」

 

ルサルカが喋ってからデーニッツは彼女を一回も見ていなかった。

俺から目を離さず、そしてにやりと笑う。

 

「仕方ない。

そんなに言いたくないのなら、私が変わりに言ってあげよう。」

 

教えて欲しいと言った口で。

 

「自分は人間なのか────

君はそんなことを喋ったのだよ。」

 

「──あ。」

 

思わず声が漏れる。

 

「葬儀の時に君は親族にそれを聞いたらしいな。

それはどういった意味だ?

どういった心意で?

両親の死体を見てその言葉か?

涙も流さず、悲しみにも暮れていなかったそうだな?

事故に遭った時も黙って立ち尽くしていたと。

目の前で傷付いて倒れている両親がいるのに。

お前が事故の死因なのに。

庇った両親を見て何も思わなかったのか?」

 

「…やめてくれ。」

 

「フハハハハハハハ!!

全くもって………

自分が人間かだと?

人間だよ。君は。

但し───普通ではない。

正しくはそれが聞きたかったのだろう?

龍野祐。

君は生まれた時から普通ではないのだよ。

感情が少し欠けていると言えばいいかな?

感情が薄い。

特に死に関しては希薄───。

それに気付いてしまった。

両親が死んだ時に。

楽しい、悲しい、辛いなど。

君にはそれがあると勘違いしていた。

思い込んでいた。

周りの人間と同じように。」

 

「…これ以上聞きたくない。」

 

「悩み、そして努力してきたのだろう。

自分がおかしいのだと。

周りとずれているから。

なるべく普通の人間を演じるように。

その過去を払拭するように───。

今もそうだ。

もしかして「普通の人間なら」こうする、ああするとか考えたり、言ったことはないか?

死に関しての話題の時にすぐ別の話題へと移っていないか?

その時点でお前はいくら努力しても、普通にはなれていない。

なんせそれに対し何も感じたりしていないのだからな。

楽しくもない。

悲しくもない。

怒りもわからない。

 

全て建前だ。

偽物だ。」

 

デーニッツはゆっくりと槍を指から離す。

 

「お前は狂っているのだ。龍野祐。」─────


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