Dies irae ~Von der großen sehnsucht~ 作:tatuno
よろしくお願いします。
────「ああああ!」
俺はデーニッツに向けて槍を凪払う。
刃先は首もとに向けて楕円を描く。
が────
「きかん。
そんな攻撃で通りはしない。」
「くッ!」
確実に頸動脈へと刃が当たっているはずだが、傷一つ付けれていなかった。
「ふむ。蜻蛉切だったか。
その刃に触れれば忽ち真っ二つ。
まるでギロチンのようだ。」
デーニッツは槍の刃の部分を握り、後方に俺ごと投げ飛ばした。
「だが私を切ることはできんか。」
なんとか着地し態勢を立て直す。
続いて攻撃を加えようと思ったが、デーニッツの周りには多数の鎖が巻きついていた。
「……マレウス。
お前は黙って消えていればいいんだぞ?」
どうやらルサルカの形成したもののようだ。
あれがルサルカの聖遺物。
鎖と同時に大きな車輪がデーニッツに向かっている。
その全てはまるで拷問器具。
車輪はデーニッツへと激突した。
だがデーニッツはその場から全く動いていない。
当たる直前のままだ。
「なッ!?」
「舐めるな魔女。
これなら先ほどの龍野の一撃の方がまだ良かった。」
そしてルサルカの聖遺物が砕け散った。
「ぐッあ!」
彼女は苦しんでいる。
聖遺物を壊されると命そのものも壊れるというわけか。
「
日記に記されている拷問器具を召喚する。
お前にぴったりの聖遺物だ。
薄気味悪く、小汚い。」
くるりとデーニッツは俺の方へと振り向く。
「さて。
それじゃあ話をしよう。
君のことについてだ。」
まずい。
何か嫌な予感がする。
こいつに喋らせては駄目だ。
俺はデーニッツへと特攻し、何度も槍を振りかざす。
「効かんと言っているだろう。」
全く切れず、突いても穴が空かない。
全ての攻撃を棒立ちの状態で受けている。
「このッ!」
「……だから。」
今この男は二本の指で挟んでいるだけ。
なのに槍が全く動かない。
「効かぬと言っている。
何度言えば分かる。」
デーニッツは溜め息気味に言う。
「それで話の続きだが……。」
こいつは確実に今から俺にとって悪いことを言う。
言わせては……
「やめ──」
「君は、過去に両親を亡くしているらしいな?」
「───!」
やはりそうだ。
俺にとって最も罰が悪い。
「ただの車での交通事故。
だが原因、起因を作ったのは君なのだろう?」
「……。」
「まあ重要なのはそこではない。
その死んだもの達に投げかけた言葉が重要だ。
君はその時にどんな言葉を放った?」
「……。」
「私に教えてくれるか?」
「……いやだ。」
「いやだ?何故だ?
そんなに言えないことを言ったのか?」
「やめろ……。」
「さあ……言ってみろ。
知りたくてしょうがないのだ。」
「………。」
「さあ………さあ………。早く。」
「耳を貸しちゃダメよ。」
今まで黙っていたルサルカが口を開いた。
「デーニッツは前からそうなのよ。
人の過去をほじくり返して弄ぶのが…。」
「悪い冗談はよせ。
私はただ質問しているだけだ。
お前たち外道には分からないか。
なんせ親や友、恩人すらも殺すのが当たり前の集団。
元々心というものが薄れている。
だが、マレウス。
お前は頭が少なからず切れるやつだ。
気付いているだろう?
この龍野祐の異常に。」
「……。」
それを聞きルサルカは黙る。
「やはりか。
だからお前は龍野に興味を持った。」
ルサルカが喋ってからデーニッツは彼女を一回も見ていなかった。
俺から目を離さず、そしてにやりと笑う。
「仕方ない。
そんなに言いたくないのなら、私が変わりに言ってあげよう。」
教えて欲しいと言った口で。
「自分は人間なのか────
君はそんなことを喋ったのだよ。」
「──あ。」
思わず声が漏れる。
「葬儀の時に君は親族にそれを聞いたらしいな。
それはどういった意味だ?
どういった心意で?
両親の死体を見てその言葉か?
涙も流さず、悲しみにも暮れていなかったそうだな?
事故に遭った時も黙って立ち尽くしていたと。
目の前で傷付いて倒れている両親がいるのに。
お前が事故の死因なのに。
庇った両親を見て何も思わなかったのか?」
「…やめてくれ。」
「フハハハハハハハ!!
全くもって………
自分が人間かだと?
人間だよ。君は。
但し───普通ではない。
正しくはそれが聞きたかったのだろう?
龍野祐。
君は生まれた時から普通ではないのだよ。
感情が少し欠けていると言えばいいかな?
感情が薄い。
特に死に関しては希薄───。
それに気付いてしまった。
両親が死んだ時に。
楽しい、悲しい、辛いなど。
君にはそれがあると勘違いしていた。
思い込んでいた。
周りの人間と同じように。」
「…これ以上聞きたくない。」
「悩み、そして努力してきたのだろう。
自分がおかしいのだと。
周りとずれているから。
なるべく普通の人間を演じるように。
その過去を払拭するように───。
今もそうだ。
もしかして「普通の人間なら」こうする、ああするとか考えたり、言ったことはないか?
死に関しての話題の時にすぐ別の話題へと移っていないか?
その時点でお前はいくら努力しても、普通にはなれていない。
なんせそれに対し何も感じたりしていないのだからな。
楽しくもない。
悲しくもない。
怒りもわからない。
全て建前だ。
偽物だ。」
デーニッツはゆっくりと槍を指から離す。
「お前は狂っているのだ。龍野祐。」─────