Dies irae ~Von der großen sehnsucht~   作:tatuno

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第九章です。
よろしくお願いします。


第九章

俺の手に握られている槍。

これが俺の聖遺物。武装具現型。

 

少し重いが手にとてもしっくりときている。

そして何より分かる。

これは強い。

 

これなら…。

 

「お前のさっきの殺気…。」

 

男は睨みつけている。

それは今までの舐めきった態度ではなく、敵を見つけ、臨戦態勢に入ったようだった。

 

「お前じゃない別のやつの気配がした。

特にお前の聖遺物。

前まで感じ取れなかった密度の濃い魂がそれにある。」

 

「……。」

 

「なんなんだよ。どうなっている。」

 

なんだろうかこの気持ちは。

 

「本多平八郎忠勝。」

 

「あ?」

 

勝てる。

 

「見たところお前日本人だし知ってるだろ。戦国時代。

その時代に活躍した武将の名だ。

戦で全く傷を負わず、主君に死ぬまで忠を誓った鬼の如き男。

 

この武器はその彼が持っていたもの。

そして彼の闘志が、魂が宿っている。

この武器を持つ以上俺は負けられない。」

 

負ける気がしない。

 

「だからお前には──俺を傷つけられない。」

 

「なんだと?ふざけるなよ。」

 

男は俺の言葉を聞き怒りを露わにしている。

ふつふつと。

 

「時代遅れの亡霊ごときが……なめるなあッ!」

 

男は真っ直ぐと突っ込んでくる。

とんでもなく早い速さで。

だが、見える。

敵の攻撃がこんなにも

 

───避けるのが簡単なんて。

 

男の突きをすり抜け、後ろから槍の刃先を肩に置いた。

 

 

──スパッ

と綺麗に切れる音がした。

 

「がああッ?!」

 

男は膝を地面に着き、肩を押さえ苦しんでいる。

 

「この刃に触れれば即切れるぞ。

例え俺に切る気がなくてもな。」

 

「てめえ……。」

 

「お前も形成したらどうだ?

じゃないと俺が弱い者いじめしてるみたいじゃないか。」

 

「……。」

 

ピキッ

と完全にキレてたようだった。

 

「さっきまで負けてたやつが…調子乗ってんじゃねえ。」

 

ゆっくりと立ち上げり、ゆっくりと振り向く。

 

「いいだろう。やってやるよ。」

 

男はゆっくりと手を前に上げる。

 

「後悔するなよ?」

 

 

 

 

 

 

形成(Yetzirah―)

 

 

Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen(地獄の復讐がわが心に煮え繰りかえる)

 

 

 

Tod und Verzweiflung flammet um mich her!(死と絶望がわが身を焼き尽くす!)

 

 

 

 

「……それがお前の聖遺物か。」

 

男の手に現れたのは両手に透明な手袋のようなものがはめられており、右手にナイフ状のようなものを持っていた。

 

「大したことないな。」

 

「…いつまでも……。」

 

男は低姿勢で身構える。

 

「調子に乗るんじゃねえぞッ!!」

 

 

ああ。

それでもまだ。

 

「つまらないな。」

 

男の胴に向かって横に槍を切った。

 

「ぐがッ!」

 

切られた衝撃で男はそのまま後ろへと倒れ込んだ。

 

「そもそも分かるだろう。

ナイフと槍じゃ攻撃範囲が違い過ぎる。

その手袋が何なのかは知らんが、まず普通に考えれば俺に攻撃が届くはずもない。」

 

どうやら多少、体の耐久力はあがってるみたいだが。

 

「拍子抜けだ。」

 

そのまま俺は歩を倒れている男のそばに進めた。

 

「じゃあ、もう終わりにしよう。」

 

そして男へと槍を突き立て、心臓に刺した。

 

 

ように思えた─── 

 

 

 

 

 

「おっと。そこまでだ。」

 

「なッ?!」

 

後ろから不意に腕を掴まれ振り向くと、そこには見た目からして外国人の髭を生やした男が立っていた。

 

 

全く気配を感じることができなかった。

少なくとも今の俺は直感的なものが、今まで以上に鋭くなっている。

それなのに何故。

 

「それ以上私の仲間をあまりいじめないで貰おうか。」

 

掴まれている腕がびくともしない。

何なんだこの馬鹿力…。

 

「その槍を引けば離してやろう。

それまでは無理だ。」

 

警戒すべきではあるが、恐らくこいつは今は何もしない気がする。

なら、今はこの男の言うことを聞くのが懸命だ。

 

「…分かった。」

 

俺の戦意が無くなったのに応じてか、槍はその場から消え去った。

 

「応じてくれて感謝する。」

 

と男は腕から手を離した。

俺はそこから無言で距離をとる。

 

「戦う気はないのだから、そんなことをする必要はないぞ?」

 

「念のためだ。」

 

「そうかそうか。その残心というのも戦いにおいては大事な一つだ。

大切にするといい。」

 

「…お前は何を考えている。

そして何者だ。」

 

「これは失礼。私はカール・デーニッツ。

デーニッツと呼んでくれればありがたい。」

 

デーニッツという男は倒れて悶え苦しんでいる男の方を向いた。

 

「彼は永篠高士。どうせろくに自己紹介もしてなかっただろう。」

 

カール・デーニッツに永篠高士。

直感で言うならこいつらは確実に

 

「敵だ。」

 

俺の言葉を聞いたデーニッツは細く微笑んだ。

 

「我々の邪魔をしなければな?」

 

邪魔だと?

こいつらはそもそも何を企んでいるのだろうか。

 

「ふむ。今日は少し騒がしい。

私たちは奴らに気づかれないうちに失礼させて貰おう。」

 

すると永篠をひょいと抱え、公園の外へと歩き出した。

 

「おい。ちょっと待て!」

 

「本気を出していない。」

 

デーニッツは立ち止まって言った。

 

「永篠はまだ本気を出してはいない。慢心の結果、こうやって大怪我を負ったがね。」

 

「何?」

 

「次に会う時は本気で殺し合うことになる。

その時にまた会おう。」

 

再び歩き出し、やがてデーニッツは見えなくなった。

 

追うこともできたが、カール・デーニッツ。

あいつの力量が全く計り知れない。

 

恐らく

 

「奴は強い……。」───


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