IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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長くなったの三分割。しかし今回、IS要素がほぼ皆無…;

・追記・
最後の削除されたマニュアル、内容は変えるつもり無いですけど、取り合えず一度下げました……マジでなんで今回の話に載せちゃったんだろう…;


ナノマシン 中編

 改めてミステリアス・レイディのナノマシンって、万能過ぎだろとつくづく思う。ナノマシンを混入させた液体を、まるで生き物の如く自由自在に操り、液体の大きさや形を変えられる上に、色まで変えて本物の人間そっくりな分身さえ作れる。しかも液体の流動を完全に制御することによって、驚異的な攻撃力と防御力さえも生み出すことだって可能だ。我ながら、こんなのと何度も向き合ってよく生きてられるな… 

 

 俺の身体を構成するナノマシンには、擬似的なISの量子化システムが搭載されている。流石に、武器を収納したりISの待機状態みたいに身体を変形させることは出来ないが、食事を摂取したことにより生成された血液やエネルギー、それらを同年代の平均的な体格よりやや大きい程度のこの身体に、その4倍近い量を収納及び貯蔵し、更にはクソ重たい展開時と、片手で玩べる程度に軽い待機状態時で重さが変わるISの如く、自身の体重を人一人分に自動で調整することだって可能だ。

 とは言え、自分の意思で全てを完全に操れる訳では無かった。治癒能力による肉体の再構築、体内に取り込んだ物質の解析と耐性作り、質量保存の法則を無視した体重の調整など、それらは全てナノマシンに元から備わっている機能であり、全てナノマシンが自動で行っているもの。要は俺にとって、人間の心臓が常に動き続けていることや、食べ物を放り込まれた胃袋が胃液を分泌するのと同じようなものなのだ。俺が出来るのは精々、ナノマシンの働きを気休め程度に鈍らせるか、逆に活性化させるか、それぐらいだった。

 

 だがそれらは全て、ミステリアス・レイディのナノマシンを元に作られた新型、それを投与したことによって変わった。俺は今まで以上に体内のナノマシンを、それこそ細胞レベルで自身の意のままに操る事が可能になった。そして全身をナノマシンで構成された俺にとってそれは、骨から血の一滴まで、自身の肉体に備わる全てを制御下に置いた事と同義。これまでに無い位に感覚は研ぎ澄まされ、今まで意識することさえ出来なかったナノマシンの機能を手足の如く制御できる実感に、一種の快感さえ覚えた。

 あの時の戦闘で、水牢に閉じ込められた際に少しナノマシン入りの水を飲み込み、計らずもそれを取り込んでいたことが功を制した訳だが、本当に何がどう転ぶか分からないものだなぁ、世の中って奴は。

 

 今だってホラ、奴の技を模倣した俺の血が、面白い位に目の前の敵を蹴散らしていく。自分が潰される側に回る日が来るなんて夢にも思っていなかった連中が、顔に絶望の色を張り付けて倒れていく。まるで怪物のように暴れ狂う俺の血潮に、俺達を傷つけようとした奴らはゴミみたいに吹き飛ばされ、舞い散る血飛沫が雨のように降り注ぐ。あぁ、嗚呼、愉快だ、爽快だ、痛快だ…

 

 

 本当に、楽しい 

 

 

 きひっ

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ロシアの『MGB』、中国の『影剣』、イギリスの『MI6』極東派遣チーム、中東の過激派宗教団体『砂の夜明け』、いずれも壊滅した模様です」

「マジかよ、冗談キツイぜ全く…」

 

 街外れにポツンと佇む、京都の街に似つかわしくない古びた一軒の倉庫。外見とは裏腹に、内部は最新の電子機器や特殊装備が集められ、明らかに一般人では無い数人の男達が、今も人知れず京都の街で繰り広げられる世界各国の諜報機関と、亡国機業の激闘をモニター越しに観測していた。

 彼らはドイツ軍特殊部隊『黒兔隊』の支援組織、『黒犬隊』である。本来は黒兔隊が派遣される可能性のある場所、もしくは対立する可能性のある組織の元へと先行して情報収集や武力偵察を行い、そこで黒兔隊の任務に役立ちそうなデータを持ち帰るのが彼らの仕事だ。

 

「確認するが、相手はIS使ってる訳じゃないんだな?」

「はい、コアの反応はありませんでした」

「それはそれで戸惑うんだけどよ…」

 

 京都に亡国機業のエージェント、スコール・ミューゼルのアジトがあると言う情報が出回り、その情報を入手した各国は動かせる戦力を即座に向かわせた。ここ最近、世界中で猛威を振るう亡国機業は、一応は世界各国共通の敵として認識されている。しかし、それはあくまで表向きの話。純粋にテロ組織撲滅に貢献して社会的地位を上げたい国もあれば、かの組織と裏で繋がっている国もあるし、上手く利用して競争相手に大打撃を与えようと画策している国もある。少なくとも、アメリカが亡国機業の被害に遭った時は、本気で同情する国よりも、ほくそ笑んで喜ぶ国の方が多かった。今回も例に漏れず、『国際テロリストの殲滅』なんて尤もらしい建前を掲げながら、殆どの国が全く別の思惑と事情の元に動いていることだろう。その証拠に現在も、共通の敵を相手に連携のれの字もとれて無い上に、そもそも各国のこれらの活動は入国の件も含め、全て日本政府に無断で行われていることだ。最早、条約も法もあって無いようなものと化している。

 

「上のお偉いさん達も、まさかこんな事になるとは思ってなかったろうな…」

 

 しかし、その代償は高くついた。まず最初に、先走ってスコールがアジトにしているホテルに向かったロシアの特殊部隊が、たった一人の男…いや、少年に返り討ちにされてしまった。ホテルの中から出てきたそいつは、自分の血液を自ら大量に垂れ流したかと思うと、それをまるで生物の如く自在に操り、ロシア国家代表の専用機を彷彿とされる暴れっぷりで、ものの数分で生え抜きの精鋭である彼らを撃退してしまった。

 

「まぁ良い、ISが相手じゃなけりゃどうにかなる。あの化物は少し想定外だが、やる事は同じだ。アレを起動させろ」

「了解」

 

 生身で自国の国家代表と戦うようなものだと、ロシアの連中が理解するのが早かった分、撤退を決断するのも早かったと言う面もあるが、それでも亡国機業の一員と思われる少年の戦闘力は驚異的だった。実際その後も、逃げ去るロシア特殊部隊の連中を見送った彼は、餓えた獣が獲物を求めるかの如く、自ら各国特殊部隊の潜伏先へと向かい、次々に襲撃していった。その尽くが壊滅、もしくは撤退へと追いやられ、もうこの近辺に残っている勢力は自分達を含めたとしても、僅かしか残っていないだろう。

 

「で、例の怪物君は?」

「現在、この倉庫を目指して真っ直ぐに向かってきています。動きに迷いが無い辺り、こちらの居場所は把握しているかと」

「推定される到着時間は?」

「5分程です」

「アレの準備は?」

「あと40秒もあれば」

「よろしい」

 

 だが、それがどうした。我々は、我々の役目を全うするだけ。それに今回は本来の任務である、向こうが保有している戦力の調査に加え、軍が開発した新兵器の試験運用も兼ねている。相手はISどころか人間なのかすらも疑わしい存在だが、本番前のリハーサルには丁度良い。それに何より…

 

「では、生意気な亡霊のクソガキを歓迎してやろうじゃないか、俺達の流儀でな」

 

 これ以上テロリスト風情にデカイ面をさせるのは、彼らの矜持が許さなかった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「黒犬ちゃああぁん、あーそびーましょー!!」

 

 姉御に渡されたリストを元に、標的共の潜伏先を訪問すること四件目、自分より大きい倉庫の扉を蹴破って中に入る。話によれば、ここにはドイツの黒犬隊が居るらしい。黒兔隊と違って諜報部よりの組織だが、そこは腐っても軍部直轄、ついさっき潰した中東のアマチュア連中と一緒にしない方が良いだろう。

 そして案の定、広い倉庫の中央に何か居る。全身鋼鉄の鎧で身を固め、背中には銃弾を満載にしたバックパック、右腕に大振りの戦斧、左腕はガトリング砲を融合させたような形で武装した、人型の何かが佇んでこっちを静かに見つめていた。あの銃の大きさと設置部分、そして生気を感じられないことを考えるに、中に人は入ってない。ドイツ軍が開発した、最新式人型ドローンと言ったところか。 

 

『目標を確認、戦闘モードに移行、敵を殲滅します』

 

 そう機械的な音声で呟くと同時に、左腕のガトリング砲を俺に向け、躊躇なく撃ってきた。ISが相手なら火力不足かもしれないが、IS以外が相手なら充分に恐ろしい威力だ。少なくとも、生身の人間ならひとたまりも無いだろう。

 

 

「きひっ」

 

 

―――ナノマシン起動、貯蔵血液全力展開、シールド形成

 

 カスタードクリームみたいにドロドロしたものは、並の防弾チョッキよりも防弾性能が高いと聞く。ならナノマシンで操作して、少しばかり凝固させたものを盾に使えば、ほら、銃弾程度なんとも無い。痛みも、衝撃も、何も感じない。鼻歌を口ずさみながら、無駄と分かってるのかいないのか、虚しいくらいに銃撃を続けるドローンにゆっくりと近付いていく。

 

『敵、銃撃の効果が見られず、近接兵装に切り替え…』 

 

―――障壁解除、一部を右腕に再形成、ブレード展開

 

 互いの距離が2mを切った辺りで血の盾を一度解除。形を崩した血液を右腕に纏わせ、長い手刀を作る。そして手刀の刃にあたる部分をチェーンソーのように高速回転させ、切れ味と殺傷力を上げた状態のそれで、目の前のブリキ人形を切り刻む。

 振り上げた戦斧を切り飛ばされ、ドローンは慌てたようにガトリングを向けようとするが、それも切り飛ばす。そして反動でよろけたところを串刺しにして、破損部分から火花を散らして痙攣するソイツの頭を、左腕に展開した二つ目の手刀で切り飛ばした。それっきり、ドローンは喋らなくなり、二度と動かなくなった。吹っ飛んだパーツが床に落ちて生まれた金属音だけが、倉庫に響く。

 

「まさか、コレで終わりとか言わないよなぁ?」

 

 邪魔になドローンの残骸を投げ捨てると、鉄の塊特有のガシャンと言う音が鳴った。ただ、音の数は一つだけじゃなかった。辺りを見回すと、さっき殺したドローンの同型が複数現れ、俺の事を取り囲んでいた。その数、およそ30体。あの人型サイズが持っちゃいけないバカみたいな火力を持った奴と、それも30体と一斉に戦えとか、普通なら尻尾巻いて逃げるの即決するくらいにヤバい状況だよコレ。けど、きひひっ…

 

「良いねぇ、そうこなくっちゃ面白くない。まだだ、まだ暴れたりないんだ、もっと、もっとだ、もっと寄越せ…」

 

 お前らは生贄だ、一匹残らず俺の糧にしてやる。やっと、やっと手に入れたんだ。これだけの力があれば、もっとアイツを支えることが出来る、ずっとアイツの隣に居ることが出来る。アイツを、俺の居場所を傷つけようとする奴を、この手で皆殺しに出来る。そうすれば、アイツもずっと楽しく笑ってられる。アイツが笑ってられるのなら、俺も楽しく笑ってられる。だから…

 

 

「アイツの邪魔する奴は殺してやる、殺すの邪魔する奴も殺してやる、皆みんな殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねテメェら全員みんな死きひっ、きひひ、きひはは、きひゃ、ひゃはははははははははははははははははははははははははぁ!!」

 

 

 

---獣の宴は、未だ終わらず

 

 

 

 




○黒犬隊のドローン…ISあると倒すの楽勝だけど、IS無いとキツイレベルの性能。姉御が保有するIS以外の戦力を調査する為、噛ませ犬的な目的で配備された。

○特殊戦闘用ナノマシン『ブラッディ・シックス』
・ミステリアス・レイディの能力を再現
・セイスは生命維持に最低でも人間一人分の血液とエネルギーが必要ですが、実は五人分くらいは身体の中に蓄えられます。
・故に、人間標本されて身体を引き千切り、血を大量に流しても生きてられました。
・因みに、普段はナノマシンでISの量子化の真似事して重量を調整してます。
・更に言うと、彼は体内に取り込んだ物質をナノマシンに、ナノマシンから更に別の物質(人体に存在するもの限定)に変換することが可能。
・今回のナノマシン(略してB6)は、そんな彼の体質を利用したセイス専用兵器。
・体内に貯蔵した血液をナノマシンで操作、ミステリアス・レイディのように攻撃に用いることができます。
・しかし、操作出来る血液の量は最大で人間四人分
・しかも身体から出した分、それだけ回復に使える血液とエネルギーも減ってるので、治癒能力も劣化する
・おまけに本家と違って気化するとナノマシンが死んで制御できない
・つまり姉御との相性は最悪
・そして、完全に手を離れて制御出来る距離は半径2メートルまで
・ただし、操作可能範囲内から伸ばし続ける分はその限りでない
・つまり、手に纏った状態なら10メートルくらいは伸ばせる
・絶対防御でも当て続けたら蒸発するが、それを差し引いても純粋な攻撃力が拳の時よりも遥かに上がっているので、セイスは今後IS戦に使う気満々です。
・尚、細胞一個分レベルでのナノマシン操作という非常に精密で複雑な行為は、ただでさえ脳に大きな負担を与えるので、休息無しで多用すると危険
・なのだが、何故か彼の読んだマニュアルには…

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