IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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唐突に思いついたので、先にこっちを投稿。ちょっと遊びが過ぎたかもしれませんが、後悔はしていない。


ナノマシン 前編

「セイス、ちょっと良いかしら?」

 

 バカやったせいで夕飯が懐石料理からカップ麺にランクダウンした翌朝、与えられた部屋で装備の点検をしている時だった。何やら小さなケースを手にした姉御が部屋に入ってきて、そう声を掛けてきた。

 

「何です?」

「持ち物にコレを加えておきなさい」

 

 差し出してきたのは、その小さなケース。取り敢えず受け取って中身を確認してみると、入っていたのは怪しげな薬品の入った二本の注射器。普通なら、この薬品は何なのかなんて分かる筈が無い。流石の俺も、ただの薬品なら見ただけで正体を判別をするなんて無理だ。けれども、コイツだけは例外だ。器に入っていようが、ケースに入れられていようが、コイツだけは”気配”で分かる。薬品の分際で、俺に同族意識なんて感じさせる代物なんざ、アレしかない。

 

「ナノマシンですか」

「えぇ、技術開発部の新作よ」

 

 俺が亡国機業に身を置いてからと言うもの、組織のナノマシン技術は飛躍的に発展したと聴く。今では、本家のドイツを遥かに凌いでいるとか。しかし性能を追求すればするほど、人体に投与した際に拒絶反応を起こしやすく、最悪の場合は死ぬ。なので、ナノマシンが人の形を取って意識を持ったような存在であるが故に常人よりも、下手するとティーガーの兄貴以上にナノマシンに対する適合力と耐性の強い俺に、試験運用とデータ取りを兼ねて新型ナノマシンが優先して回されてくる。

 

(それにしても、コレは…)

 

 ただ今回手渡された新型は、何やら妙な感じがする。これまで渡されたものを投与した際は、純粋な身体能力や回復能力などが向上し、今のような力を手に入れた。その俺が断言する、このナノマシンは、今までのものとは訳が違う。コレを見てると、どうにも心がざわつくのだ。

 

「マニュアルは?」

「ケースの中にあるわ」

 

 言われて中を覗くと、小さなチップが同封されていた。手に取って自分の通信端末につなぐと、中にデータが送られてくる。それに目を通した結果、俺は目を見開き、口元を引き攣らせる羽目になった。胸中に抱いた感想は、大きく分けて二つ。

 

 マジか

 

 バカか

 

「またとんでも無い物を寄こしてきたもんですね、技術部の連中は…」

「私も詳しくは知らされてないのだけど、そんなになの?」

「これまでの中で最もアイツらの正気を疑いました」

 

 同じくらい凄ぇとも思ったが。まさか、あの時のアレがこんな形になるとは想像だにしてなかった…

 

「取り敢えず、試しに一本やってみたら?」

「そんな栄養ドリンクみたいに言わんで下さいよ。だけど、マニュアルにも書いてありましたし…」

 

 マニュアルによれば、本当は二本で一人分の量らしいが、まだ試験段階の上に制御が難しいので、まずは一本だけ投与して身体を慣らせとのこと。組織一のナノマシン適応力を持つ俺でさえ制御に梃子摺ると想定している辺り、本当にとんでもない奴なんだろうなぁコレ…

 

「まぁ、やってみますか」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「む、セヴァス」

「よぉマドカ、やっと起きたか」

 

 ホテルの通路で出くわした二人。昨夜は随分と寂しい夕食となり、殆どふて寝に近い状態で眠りについていたマドカだったが、日頃のマダオっぷりがここでも発揮されたのか、今さっき起きたばかりのようだ。目は開き切っておらず髪もボサボサ、寝間着のジャージも皺だらけである。だが、セイスにとって彼女のこの状態は割と見慣れた姿であり、むしろ今回はマシな方。酷い時は完全に寝惚け、タンクトップと下着だけの状態で彷徨っていた時があったぐたらいだ。

 

「今から朝飯か?」

「そうだ、昨日食い損ねた分も食ってくる。お前はもう済ませたのか、まだなら一緒にどうだ?」

「悪いが姉御に仕事を渡されちまった、もう行かなきゃならねぇ」  

 

 何も無かったらこのフロアにあるホテルのレストランで朝食バイキングでもと思っていたが、生憎と彼にその暇は無い。そろそろIS学園一行が京都に着く頃だ、今頃はアリーシャが一夏に接触を、更にオータムが彼の元に向かっていることだろう。しかもスコールが言うには、彼女の子飼いが既に準備を整え誰よりも先に動き始めているとか。その為セイスは、彼女らが余計な邪魔をされないよう、この近辺に潜伏する多勢力の拠点に殴り込みをかける、要は露払いの役目を与えられたのであった。

 

「ところで、姉御の子飼いって誰だ。姉御が言うには一応、俺と面識があるって言ってたんだけど…」

「知らん、アイツの身内なんて欠片も興味無いし」

 

 そして黒騎士を与えられたマドカだが、彼女は作戦の要でもあるので、その時が来るまで待機だ。故に、こんな時間にノロノロと起きてきても許されている訳だが彼女の場合、そこまで考えて起床時間を選んだ訳では無いと思われる。寝る直前まで目覚ましの設定を悩み、最終的にスイッチそのものを切って寝たのがその証拠だろう。

 

「それよりもセヴァス、ちょっとくらいは遅れても大丈夫だよな?」

「ん、まぁ数分程度なら」

「3分待て」

 

 そう言ってマドカはセイスを置いて走り去り、通路の曲がり角に消えていった。何だろうとは思ったが、待てと言われたので、取り敢えず言葉に従って立ち尽くすこと約二分半。

 

「餞別だ、持って行け」

 

 さっきの曲がり角からひょっこり現れたと思ったら、何かをセイスへと放り投げたマドカ。難なく受け取ったそれは、切れ込みを入れたパンに幾つかの肉と野菜、それに卵を挟んだ、即席サンドイッチだった。どうやら、ホテルのレストランまでひとっ走りして、朝食バイキングのメニューで作ってきてくれたらしい。

 

「ありがとよ。そんじゃ、行ってくる」

「ん、行ってこい」

 

 マドカに見送られたセイスの足取りは、本人も気付かない内に、とても軽やかなものに変わっていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「うん、風?」

 

 セイスを見送り、改めてレストランに向かおうとしたマドカだったが、途中である異変に気付いた。

 

「しかもこの臭いは、血…?」

 

 今の自分が立っている場所は、ホテルの通路。にも関わらず、施設の換気システムとも、どこかの部屋の窓が開いているのとも明らかに違う強さの風が、この通路を流れている。それこそこの風は、ホテルの壁に穴でも開いてなければ有り得ない量だ。おまけに、僅かだが血の臭いも混ざっている。

 何かあったかと気を引き締め、警戒しながら風の出所を探す。通路を流れる風に逆らいながら、歩くこと数分、マドカはそこに辿り着いた。このホテルに数多く存在する部屋の一つ、その中から割り振られた、セイスの部屋だった。いや、正確に言うならば、”部屋だった場所”だろうか。

 

「なん、だ、コレは…」

 

 まず、ドアが消えていた。その事にギョッとしたのも束の間、ドアが無いせいで次に目に飛び込んできた光景に、再び息を呑む。

 

 部屋の壁が、バルコニーごと消滅していた…

 

 しかも周囲に目を配れば、何かの余波に巻き込まれたのか、部屋の備品の無残な成れの果てが至る場所に散らばっていた。粉々に砕かれたものもあれば、何か鋭利な刃物で切り裂かれたかのようなもの、更に何かに貫かれて綺麗な風穴が空いてるものもあった。大型液晶テレビに至っては、マンガみたいに見事に真っ二つにされている。

 大抵のことでは動じないマドカでさえ、この光景には絶句するしかなかった。

 

「あらエム、やっと起きたの?」

「スコール…」

 

 あまりの事に呆然としていたせいで、マドカは部屋にスコールが立って居たことにやっと気付いた。セイスの部屋がこんな状況であるにも関わらず、自分と違って彼女は不思議なくらいに平然としている。故に、この惨状について何か知っているのではと思ったら、顔に出たのか訊く前に向こうから語り出した。

 

「あぁコレ? 彼よ、セイスがやったの」

「セヴァスが?」

 

 そう言われたものの、マドカはすぐには信じられなかった。確かに、ISとも渡り合える彼の戦闘能力は凄まじいものだ。しかし、それはどちらかと言うと技術とかセンスなどの方面の話であって、彼自身が直接的な打撃力を持っている訳では無い。高い身体能力と生命力を持っていても、こんなIS装備でも持ってなければ生み出せない光景を、彼が生み出せる筈が無いのだ。それに、この部屋に残っている血の臭があの時を…セイスがスコールに殺されに行った時のことを、嫌でも思い出させる。まさか今回もセイスが何か仕出かして、スコールが彼に罰を与えたのではないか。そんな想像をした為か、マドカはスコールに対し、殺意丸出しで剣呑な視線を向けた。そんな相変わらずな彼女の態度に、スコールは呆れたと言わんばかりに深い溜め息を吐いた。

 

「ちょっと勘違いしないでちょうだい、私が手を上げた訳じゃないわ。て言うか、さっき彼とすれ違うなりなんなりしたでしょう?」

 

 言われて思い出すのは、先程のセイスの姿。確かにさっき会った時は、特に変わった様子は見受けられなかった。傷を負った訳でも無さそうだったし、この部屋のように血の臭いがした訳でも無かった。いや、ちょっと待て…

 

「それにしても、フフッ。まさかこれ程とは流石にビックリね、やっぱり彼は今後の為にも…」

 

 スコールが何か言っているが、どうでも良い。それよりも、この部屋に漂う血の臭いは何なんだ。セイスのように高い治癒力を持っていないスコールが明らかに無傷と言うことを考えれば、消去法でセイスのものという事になるが、それだと色々とおかしい。セイス自身に傷と血の臭いがあまりしなかったのは、彼の治癒能力とこの部屋から吹いてくる風のせいという事で納得しよう。だが、この部屋から確かに血の臭いがするのにも関わらず、血痕らしい血痕が全く見当たらないのはどういうことだ。そもそも、どうしてさっきの彼は、こんなことがあった直後にも関わらず…

 

(セヴァス、お前いったい…)

 

 あんなにも、楽しそうに笑っていたのだ…

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「あ、美味いわコレ、流石はマドカ」

 

 具のチョイスは当然のこと、マヨネーズとマスタードの即席ソースも絶品だ。日頃から美味い物を食っていると、やっぱり美味いものの作り方も分かるのかね。少しだけ、財布の中身減らされまくってる甲斐があったかもしれないと、初めて思えた。

 

「止まれ!!」

「それ以上近寄ると撃つ!!」

 

 嗚呼、ホテルを出た早々、五月蠅いのと出くわした。このサンドイッチ貰わなかったら、近くのコンビニで済ませようと思っていたから、もしかしなくても朝食は食い損ねてたな。改めて感謝だ、マドカ。

 流石に俺でも、装甲車二台で乗り付けてきた特殊部隊が相手じゃ時間が掛かる。

 

「警告はしたぞ、全員撃て…!!」

 

 アメリカか、ドイツか、中国か、それともカラシニコフ系の最新型を持ってるから、ロシアかな。まぁ、どうでも良いか。どうせ、これから全部潰しに行くんだ。それに、手に入れた新しい力に慣れる良い機会だ。さっきは加減を失敗して、姉御に頭を下げる羽目になったし…

 

「な、何!?」

「何だ、それは!?」

「腕から赤い水? いや自分の血なのか、それは!?」

 

 今度は、ちゃんと加減をしないと…

 

「バカな、銃弾がッ!?」

「シールドだとでも言うのか!?」

「何だ、何なんだソレは!?」

 

 ちゃんと、加減を…

 

 

「そんな、こんなのまるで…」

 

 

 加減を…

 

 

 

 

 

 

 

「まるで我がロシアの、国家代表の…」

 

 

 

 

 

 

 きひっ

 

 

 

 きひひ、ぃひひひひひひひひ…

 

 

 

 きひゃ、ひゃははっ…!!

 

 

 きひ、きひひ、あひゃはははははははははははははははははッ!! 

 

 

 加減なんて、そんなの、いらないよなあああああぁぁぁぁ!?

 

 

 あっひゃはははははははっ、テメェら全員…!!

 

 

 

「ミストルテインの槍、発動」

 

 

 

 皆殺しだ

 

 




○早い話がレイディの劣化版
○色々と制限とか弱点がいっぱいありますが、詳細は次回
○因みに、直前まで特殊スーツの発展型でセイスを強化する予定だった

○お察しかと思いますが、ちょっと壊されてます

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