IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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恥ずかしながら、戻って参りました…;


アイカワラズ~新幹線にて~

「俺、新幹線に乗るの初めてだったわ。ちょっとワクワクしてる…」

「そんなに良いものじゃないぞ。確かに乗り心地に関しては他の高速列車と比べて快適だが、普通の列車よりも速いせいで景色を楽しむ余裕無いし」

「いつも新幹線の十倍は速い代物を乗りこなしてるのに?」

「ハイパーセンサーと五感を総動員しなければならないIS搭乗時と、完全なオフモードな今の私を一緒にするな、今の私じゃあプロ野球選手の投球を見切るのが限界だ。セヴァス並の反射神経でも持ってれば、話は別なんだろうがな…」

「じゃあハイパーセンサー使えば良いじゃん」

「天才かお前」

 

 謎の空母襲来から暫く、学園に専用機持ちだけを集めた特別クラスが増設されたことを除き、殆ど平時と変らない日常が続いていたのだが、ある日を境に事態は急変する。いつものように学園で情報収集していたら、IS学園が亡国機業に対して自ら討って出ようとしていることが明らかになったのだ。その情報を掴んだ俺は即座にオランジュ、そして奴を通して姉御に報告。その結果、以前から計画していたIS学園の修学旅行襲撃作戦を前倒しする形で、逆にIS学園を迎撃する計画に変更する事となった。

 IS学園の戦力だけでも厄介だが、これを機に静観を決め込んでいた他の勢力も動き出す可能性があり、そうなると非常に面倒くさい。姉御は自身が動かせる手駒を殆ど費やすつもりなのか、日本近辺に居るスコール一派を片っ端から招集しているようだが、それでも邪魔者全てを始末するには些か足りないだろう。だから今回も、俺はフォレスト一派の貸出組としてIS学園の奴らよりも一足先に、姉御の日本での活動拠点にしている京都へと向かっている。因みにオランジュとバンビーノ、そしてアイゼンは学園に残り、引き続き学園の監視に当たるので居残りだ。ただし、アイゼンは京都に向かう学園の連中に合わせ、彼ら彼女らを尾行しながら数日後に京都入りする手筈となっているので、暫くしたら合流する予定である。

 

「見える、見えるぞ。私にも景色が見える!! あ、セヴァス、お茶くれ」

「はいよー」

 

 しかし現在、見ての通り俺もマドカも、すっかり旅行気分に浸っていた。だって初めて行くんだもの、何だかんだ言って、マドカと旅行計画立てる時も楽しかったんだもの。そもそも、ただでさえ仕事の都合上、外出自体が稀で散歩すら満足に出来やしないんだ。こういう時ぐらい羽を伸ばしたって、バチは当たらないだろう。尤も、夏祭りとか体育祭の時とか、休憩時間にいつも、テメェ日頃から充分に遊んでるじゃねぇかと言われたら、何も言い返せないんだけどな。まぁ、それはさておき…

 

「向こうに着いたら、どうする?」

「流石に一回くらいはスコールのとこに顔を出しとく。京都旅行は、その後だな」

「京都旅行って単語、間違っても姉御の前で出すなよ? 俺達が行くのはあくまで、計画の下見だからな?」

「言われなくても分かってる、あとサンドイッチ」

「ほれ、ツナサンド」

「うむ」

 

 マドカに対して半ば諦めている節がある上に、俺達が下見を建前に遊ぶ気満々なのは姉御も察しているとは思う。だからと言って、目の前で堂々とサボタージュ宣言しようものなら確実にブチ切れる。そもそも、今回の仕事はそれなりに厄介な点が多いので、最低限の下見は本当にやっておかないと苦戦するのは確実。遊ぶ為にも、計画の為にも、姉御の怒りを買わない為にも、やっぱりやるべき事はやっておかねぇと駄目だろう。

 しかし、この監視任務を命じられてから随分と立つが、支部や臨時の隠れ家に足を運んだことはあれど、スコール一派の本丸に足を運ぶのは何気にこれが初めてになる。マドカ手伝って心臓ぶち抜かれた時や、アメリカ行った時に世話になったホテルも異様なくらいにセレブリティだったが、姉御が日本で活動する際の本拠地と言うだけあって、きっと色々な意味で凄いんだろう。て言うか、こういう時に毎度思うんだけど、姉御って悪の組織よりもホテル女王目指した方が成功出来たんじゃねぇだろうか。

 

「そう言えば姉御のホテルの周辺って、観光出来る場所あるのか?」

「あるにはあるが、スコールみたいな成金向けの施設ばかりで、京都らしさの欠片も無いぞ。個人的には勧められん、て言うか私が嫌だ」

「じゃあ良いや、電車とバス乗りついで最初の予定通りに巡るか。それと、俺にもお茶くれ」

「ん」

 

 窓に顔を向けたまま、短い返事と共に差し出してきた、さっき渡してやったペットボトル茶。渡した瞬間にグビグビと飲んでたが、この短時間で半分に減っていた。

 

「さんきゅ」

 

 まぁ、一口で充分だから別に構わねぇんだけど…

 

「すいませーん、ブラックコーヒーあるだけ下さイッ…」

 

 ふとそんな声が聴こえ、横を見る。車内販売のカートが居なくなると同時に目に入ったのは、通路を挟んで反対側に座る若い女性。目を引く赤い髪に、隻眼と隻腕、いつもなら人を食ったような微笑を常に浮かべているその顔は今、どういう訳かすっかり沈んでいる。まるで、何かに対して心底うんざりしたかのような表情を浮かべ、その人は買い込んだ大量の缶コーヒーを一気飲みしていた。

 

「そんなに飲んだら寝たい時に寝れなくなりませんか、アリーシャ・ジョセスターフ?」

「京都に着くまでこんなもん見せられ続けると思ったら誰だってやってられないってノ…」

 

 ヤケ酒の如く缶コーヒーを煽る彼女こそ、世界にその名を轟かす二代目ブリュンヒルデ、アリーシャ・ジョセスターフその人である。

 

「日本の風景はお気に召しませんでしたか?」

「そうじゃねーヨ」

 

 アラクネを失ったオータムの為、旦那がイタリアのテンペスタを調達してくると言う話は以前からあったが、まさか最新型を、それも最強のパイロット付きで持ってくるとは思わなかった。それは姉御も同じで、旦那にアリーシャにこちらと協力関係を結ばせたと聞かされた時は心底驚いたようで、旦那と電話中に動揺して携帯を落としそうになり、慌てて拾おうとしたらその場ですっ転び、顔面を強打していたとマドカが言っていた。

 で、その二代目ブリュンヒルデなんだが、現在の彼女は表向きIS学園の協力者、つまりはまだ立場上は敵同士という事になっている。京都に向かうのも、亡国機業討伐作戦の先遣隊として、本隊であるIS学園の専用機持ち達より先に現地入りすると言う名目だ。そんなアリーシャと同じ列車に乗ったら、彼女が裏で此方側と繋がっていることを早々に疑われるのでは、と思われるかもしれないが、姉御の指示で敢えてそうしている。姉御曰く、二重スパイをする気が無いという裏付けは取れたらしいので、唯一懸念するべきなのは途中で心変わりされること。それを防ぐ為にも、亡国機業と接触していた形跡を残し、いざと言う時に脅迫材料として使うらしい。要は変なタイミングで手を切られないよう、先に帰る場所を無くしてやろうと言う魂胆だ。まぁ正直な話、当の本人は織斑千冬と戦えさえすれば他はどうでも良い口だから、そう言う心配はいらないんじゃないかと俺は思っているんだけどな。

 

「て言うか何サ、やっぱり君達って恋人同士なのかイ?」

「「いや、別に」」

「……あ、そう…」

 

 ふとそんなことを言われ、俺とマドカが即答すると、何故か更に目が濁ったアリーシャ。なんだか最近、俺とマドカが一緒に居ると、どいつもこいつも同じような反応をしてくる気がする。あのオータムでさえ、アメリカから帰ってきて以来、俺にもマドカにも相変わらず突っ掛かって来るが、俺とマドカが一緒に居る時はダッシュで逃げるようになった。『この鈍ちん共がッ!!』とか、『まだるぉこっしぃんだよぉ!!』とか良く分からないことを言ってたが、いったいどういう意味なんだろうか。

 

「ぐふぅ…」

 

 てなこと考えてたら、今度は隣から変な声が聴こえてきたので振り向くと、マドカが口元を抑えて呻き声を上げていた。

 

「どうした?」

「いや、ハイパーセンサーを使って景色を堪能出来るのは良いんだが、外の光景以外を見ると世界が時を止めたかのような状態になってな……うっぷ…」

 

 高機動戦に用いられるハイパーセンサーは早い話、使用者の反射神経を底上げするような代物。その効果は例えマッハで移動中であろうとも、一瞬で流れる景色をハッキリと認識できるほどだと聞く。だから使ってみればと言った訳だけども…

 

「だから片目だけハイパーセンサー起動、もう片方は停止したら、酔った、気持ち、悪い…」

「バカだろお前」

 

 そんな使い方したら、そうなるに決まってるだろうが。どうしてこう戦闘中はとことん有能なのに、オフモードになるとここまでアホになるんだろうか、コイツ…

 

「すまん、ちょっと寝る」

「はいはい」

 

 そう言うや否や、顔色を悪くしたマドカは座席の手すりをどかし、横になった……俺の膝を枕にして…

 

「付き合ってないとか絶対に嘘だろお前らラぁッ!!」

 

 いや、だから付き合ってないってば…

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

(あぁもうやってられないヨ…)

 

 隣のマドカとセイスを横目に、アリーシャは再び深い溜め息を吐く。

 実はこの二人、合流した時からあんな調子だった。御覧の通り人前でも平気で膝枕するし、飲み物食べ物越しの間接キスなんて微塵も動じないなんてまだ序の口。人混みの多い場所では互いに躊躇なく手を繋ぎ、さっきは一冊の旅行雑誌を二人で身を寄せ合って読んでいた。サンドイッチ手渡す時だってノールックで、どれが食べたいのか何も言わずに察して選んでいた。しかもコイツら、普通なら赤面ものなこれらの行為を、顔色一つ変えずに平然とやってのける。そこに初々しさなど欠片も存在せず、むしろ長年連れ添った熟年夫婦みたいな雰囲気さえ漂っていた気さえした。

 行き遅れカウントダウン…もとい初代ブリュンヒルデの織斑千冬ほどでは無いが、自分にだって危機感はあるにはあるのだ。そんな自分に対し、まるで嫌がらせのように見せつけやがってからに。

 

(こういう時は、ふて寝に限るネ…)

 

 ともかく、今は忘れよう。この精神的な苦痛も、京都に到着さえすれば全て報われる。まだ亡国機業そのものを信用した訳では無いが、フォレストとのやり取りもあって、それなりに期待はしている。互いに利用し、利用される関係だが、それで充分だ。全ては、幻と消えた、織斑千冬との決着の為に。

 

(ふて寝……ふて、寝…)

 

 尤も、流石に京都に着いてすぐにとはいかない。まだ自分は、表向きはIS学園側の協力者だ、抜け出すタイミングやその他諸々の打ち合わせも兼ねて、スコールと対談しなければならない。あの食わせ者と顔を合わせるとなれば、それなりに気を引き締めるべきだろう。それに備える為にも、こんな事で精神と体力を消耗したくは無いのだが…

 

 

(コーヒーがぶ飲みしたせいで眠れないッ!?)

 

 

 結局、京都に到着するまでの間、アリーシャの精神はガリガリと削られ続ける羽目になった…

 

 




という訳で皆様、お久しぶりで御座います。暫く向こうで書いては消して、書いては消してを繰り返している内に、アイ潜のネタが次々と思い浮かんでしまったので、また戻ってきました。

本編の続きとか、アナザートライアングル2とか、アイ潜でゴールデンカムイとか、相変わらず亀更新になるとは思いますが、可能な限り更新していきたいと思います。

年明けからかなり時間が経ってしまいましたが改めまして、これからもよろしくお願いします。

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