IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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お待たせしました。学園襲撃編、ひとまず終結です。
予定ではもうちょい進めるつもりだったのですが、キリが良いのでここで区切ります。



誓いの下に 後編

「あー、やっぱ駄目だな、こりゃあ…」

 

 

 ティナのEOSに殴り飛ばされ、もう何度目になるか分からない地面へのバウンド。普通ならとっくに瀕死の重傷で動けない筈の衝撃を受けながらも、セイスはなんでもないかのように立ち上がり、面倒くさそうに呟いた。そして、そんなセイスと向かい合うティナの方も、事も無げに身体の土埃を払いながらピンピンしている彼の姿を見て半ばうんざりし始めていた。

 

 

「その言葉、そっくりそのまま返すわよ。こっちは殺しても死なないアンタを、生け捕りにしてこいって言われてるんだから…」

 

「そいつはお気の毒様。だが俺もいつまでもテメェに付き合ってられないし、一割の諸事情と九割の私情により安全第一で戦わなきゃなんねぇ」

 

 

 万が一ティナとの戦いに敗れた場合、自分はアメリカに身柄を引き渡され、確実に碌な扱いを受けないだろう。下手をすれば再び研究施設に送りつけられ、ナノマシン人間の実験体として嬲り者にされる日々を送る羽目になる可能性が高い。セイスでなくとも、誰が好き好んでその様な未来を望むだろうか。

 そして何より、マドカと約束したのだ。彼女が目的を果たすその日まで決して死なず、最後まで添い遂げ続けると。彼女が『織斑マドカ』と成るその瞬間に立ち会い、その笑顔を目にするまで、自分は生き続けると約束したのだ。

 

 

「つー訳で、今日からちょっとイメチェンだ。初チャレンジの相手にしちゃあ、ちと難易度が高い気もするが…」

 

 

 土埃を払落し、調子を整える様に身体の節々をパキパキと鳴らした後、正面に立ち塞がるティナを見据える目をスッと細めた。そして…

 

 

「テメェで試させて貰うぜ、ティナ・ハミルトン…」

 

 

 言うや否や視線はそのままに、セイスは脱力したかのように上半身を前のめりにした。その姿はまるで、緩んだ糸で吊り下げられた操り人形のような不気味さと、目の前の獲物を吟味する獣のような獰猛さを同時に感じさせる。視線を正面のティナに固定したままなこと以外に大した動きは無いのだが、それによって生まれた沈黙が異様な空気を作り、彼女は言葉にし難い不安とプレッシャーに襲われた。

 

 

(何かされる前に、一気にケリを付ける…!!)

 

 

 セイスの雰囲気の変わり様を目の当たりにし、ティナは即座に動いた。EOSを一気に加速させ、瞬時に彼との間合いを詰めてその鉄腕を躊躇なく振るった。セイスは反応しきれなかったのか、ティナが動き始めた瞬間も、そしてEOSの腕を振りかぶった瞬間も微動だにしなかった。相手を跳ね飛ばすつもりが如くの勢いで迫り、人間では決して捉え切れない速度と、確実に耐えきれない威力をもって放たれた鋼鉄のラリアットは、轟音と共に再びセイスを宙高く吹き飛ばすかに思われた。

 

 

「な!?」

 

 

 しかし実際にアリーナに響いたのは、鉄腕が空を切る音と、ティナの戸惑う声だけだった。攻撃が外れたことに慌てた彼女は数十メートル程離れたところで急停止し、同時に背後を振り向くようにしてEOSを旋回させた。すると視線の先には、さっきとまるで同じ状態で立っているセイスの姿があった。当然ながら攻撃が当たった様子は一切見受けられず、かすり傷はおろか汚れさえついてなかった。

 

 

(……今のは…?)

 

 

 攻撃を避けられた…それだけならば、別に大して驚くことは無い。実際、何度かEOSの剛腕を直撃させることに成功しているが、逆に避けられた回数はそれを少しばかり上回っている。セイスの異常な身体能力に関しては、初めて邂逅した時こそは度肝を抜かれたが、流石に三度目の相対ともなればいい加減に慣れるというものだ。

 そんなティナだからこそ、今の瞬間には違和感を覚えざるを得なかった。先程の攻撃は、例え直撃しなかったとしても、牽制ぐらいにはなるだろうと思っていた。しかし当の本人は動揺するどころか微動だにせず、まるで何事も無かったかのように佇んでいるだけであった。今更になって手心を加える理由は無いし、EOSの操縦も完全に慣れてきた。つまるところ、ティナ自身には攻撃を外す理由も無ければ要因も無い。となれば、セイスが無事に立っていられた理由は、一つしか考えられない。

 

―――彼はEOSを駆るティナの攻撃を、完全に見切ったということだ…

 

 そう結論付けたティナは戦慄すると同時に、纏わり付く焦燥感を誤魔化すように再度突撃を仕掛けた。その場で出せる最大のスピードでギリギリまで近づき、セイスの動きを予測しての時間差でEOSの拳を振るう。

 

 

「ッ、また…!?」

 

 

 だが、セイス回避能力を証明するかのように、ティナのEOSが彼を捉えることは出来なかった。すれ違いざまに振り向けば先程と同じように、彼は何事も無かったかのように佇んでいるだけだ。

 

 

(なに!? なんなの!?)

 

 

 その後も彼女は幾度も攻撃を仕掛けた。自分の身に着けた操縦技術と経験を総動員してセイスの動きを先読みし、EOSの性能を最大限に引き出しながら、何度もセイスを殴り飛ばそうと試みた。しかし、彼はその悉くを避けきり、不気味なまでに平静を保ち続けていた。セイスのその態度がまた、ティナに物言わぬプレッシャーを与え、段々と彼女を精神的に追い詰めていく。

 

 

「なんで当たらないの!?」

 

 

 戸惑いと恐怖に駆られ、それを振り払うようにセイスへと接近戦を仕掛けるティナ。突撃やラリアットを中心とした一撃離脱戦法では埒が明かないと判断し、至近距離での殴り合いで強引に勝負を決めようと試みたのだ。そして彼女は回り込むように彼の背後へと回り込み、EOSの腕を大きく振りかぶる。

 ティナに背を向ける形になっていたセイスは、アリーナに響くEOSの駆動音に反応したかのように、ゆっくりとした動きで振り向いた。依然として脱力したかの様な奇妙な体勢だったが、顔だけはしっかりと相手の方に向けており、必然と二人の視線は交差する形になった。

 そして、彼の表情を目にしたティナは、背筋が凍りついた。優秀であるが故に、見えてしまったのだ。殺意を持った巨大な鉄の塊が、超高速で迫りつつあるにも関わらず、それと相対する彼が…

 

 

 

―――笑っていたのだ…

 

 

「ッ!?」

 

 

 そこで漸くティナは、自分が選択を誤ったことを悟った。幾ら攻撃が避けられるとは言え、決定打を持たないのは向こうも同じ。むしろ、純粋なパワーやスピードを考慮すると、EOSを操縦するティナの方が断然有利である。にも関わらず彼女は、セイスが唯一EOSに勝る部分…小回りが利くという点をフルに生かせる至近距離、彼の間合いでもあるクロスレンジ戦へと自分から足を踏み入れてしまったのだ。

 しかし今更、間合いを取る事は出来ないし、目の前のセイスが絶好の射程内に居るのもまた事実。焦る自分を叱咤するかのように、ティナはEOSの拳を振り下ろした。罪人を処刑するギロチンを思わせた一撃は、アリーナに盛大な炸裂音を響かせながら、着弾地点に小さなクレーターを作る事に成功する。

 

 

「そんなもんか…?」

 

「このッ!?」 

 

 

 至って冷静な声音は、振り下ろされた拳のすぐ隣から聞こえた。モクモクと立ち上る砂埃が晴れ、視界が開けたその場には、避けたEOSの拳を踏みつけ、凶悪な笑みを浮かべるセイスが居た。

 セイスの身体能力に関しては知っての通りだが、それに比例して彼は反射神経も良い。とは言え、所詮は治癒能力のオマケ。パワーとスピードはEOSにすら劣るし、反射神経もラウラの『越界の瞳』と比べたら紛い物も良いとこである。幾ら人外とは言え、その能力には限界がある。

 

 

「だが、それだけあれば充分だ…」

 

 

 しかし、彼にはそれを補うだけの知能がある、経験がある、才能がある。ティーガーとの特訓と、こなしてきた仕事で得た経験、加えて化物として生まれたが故に手に入れた獣並みの勘が、相手の動きを完全に予測することを可能にする。そこに持ち前の身体能力も加わるとなれば、彼は並の人間では決して追随出来ない領域に居ると言えるだろう。

 そんな彼が身体能力と知能、持てる全てを使い、本気で回避に専念した場合どうなるのか。その結果は、EOS程度が出せる最大スピードでは、絶対に彼を捉える事は出来ないということだ。

 

 

「このッ!?」

 

 

 慌てて反対側の腕でセイスを殴りつけようとするティナだったが、そのニ撃目もあっさりと回避されてしまう。それどころか逆に、セイスは避けると同時に軽く跳躍し、ティナの顔面目掛けて躊躇せず回し蹴りを放ってきた。当たればただでは済まない威力で迫るそれを、EOSを急速に後退させる事で避ける事には成功したが、その行動を予測済みだったセイスは動きを止めることなく、間合いを離されないように後退するティナとの距離を詰めた。それを見た彼女は不意を突くように急停止し、彼を迎撃するべくその場で構えた。しかし、彼女が何かするよりも早く、セイスは隠し持っていたそれを走りながら投げた。

 

 

「痛ッ!?」

 

 

 彼が投げたのは、戦いのどさくさに紛れて拾い集めていたアリーナの砂だった。精密機械のような正確さで投げられたそれは見事にティナの顔面へと直撃し、彼女の視界を一時的に奪う事に成功した。

 塞がれた視界の中、目の痛みに苦しみながらもセイスに接近されることだけは避けるべく、ティナは勘と僅かな気配を頼りにひたすらEOSの腕を振り回し続けた。しかし、半ば闇雲に振るわれる破壊の嵐は空を斬るような鋭い音と爆音を響かせ、アリーナをの地面を幾つか陥没させていったが、セイスを捉える事は出来ないでいた。そして、背後に気配を感じたティナが咄嗟に裏拳を放った瞬間、今日一番の大きな音を立てながらEOSが動かなくなった。

 

 

「嘘でしょ!?」

 

 

 その頃には彼女の視界も戻り始めており、そうでなくとも音とビクともしなくなった操縦桿で今の状況が嫌でも分かってしまった。最後にティナが放ったEOSの裏拳は視界が塞がっている間、知らぬ間に近づき過ぎていた外壁に突き刺さっていたのである。拳は深々とめり込んでしまっており、EOSの出力を最大に引き出しても簡単には抜けそうに無い。

 

 

「くッ!!」

 

 

 唐突に底冷えするような殺気を感じた彼女は、反射的にEOSの搭乗部から飛び退いた。それと同時に、先程まで彼女が居た場所が、派手な音を立てながらセイスに粉砕された。そこで彼女は漸く、自分がセイスにまんまと壁際へと誘導され、挙句の果てにはEOSを行動不能に追い込まれてしまったことを悟った。その事実に驚愕しながらも、なんとか愛銃を取り出してセイスに向けるが、気付いた時には既に彼は間合いをゼロになるまで詰めており、彼女が抵抗するよりも早く銃を持った腕を掴み、そしてもう片方の腕には拳を作って振り上げていた。それを見たティナが忌々しげに、そして吐き捨てる様に呟く。

 

 

「……ほんと、最悪…」

 

 

 自分に振り下ろされる拳を見つめ、3度目の敗北を味わいながら、彼女は意識を失った。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

『……正気か、貴様…?』

 

「落ち着けよウェイ、声が震えてるぜ?」

 

 

 通信機越から隠し部屋に響く二人の会話は、オランジュがアイゼンに影剣の始末を命じた時に空気が変わり、影剣が全滅した時には形勢も変わっていた。予想を超えた彼らの行動にウェイはただただ戦慄するしかなく、逆にオランジュはそんな相手の様子を嘲笑った。

 その態度に神経を逆なでされたのか、残ったプライドで己を奮い立たせ、ウェイは声を荒げる。

 

 

『貴様は自分が何をしたのか、本当に理解しているのか!? 貴様の行いは我々トウ派に対する宣戦布告に等しい行為だぞ!?』

 

「そう言う脅し文句は、相手を選んで使えタコ」

 

 

 しかし彼の決死の咆哮は、返ってきた冷たい返答により一瞬にして勢いを削がれてしまった。

 

 

『なんだと…?』

 

「逆に尋ねるが、テメェらは本気で俺達と事を構えるつもりがあるのか? 先に言っとくが、俺はトウ派と戦争する羽目になっても一向に構わないぜ?」

 

 

 今回の目論見は、送り込んだ影剣達にオランジュが手を出せない事が前提だった。影剣を手引きした事を指摘されようが直接的な証拠は残さず、しらばっくれてしまえばどうにでもなる。学生に死人が出た時は影剣として、妨害された時はトウ派の人間として扱えば、どんな形であれフォレスト派を糾弾する口実を幾らでも作ることが出来る。しかも、トウ派と全面戦争になる可能性を考えれば、オランジュ達もそう手荒な真似は出来ないだろうと、ウェイは踏んでいたのであった。

 しかし実際は、妨害どころか影剣達を皆殺しにされてしまい、計画の全てを台無しにされてしまった。影剣に属する者達の死体という、ある意味完全な証拠を確保されてしまい、トウ派の人員と言う誤魔化しは効かないだろう。それでなくとも、貸した人員をみすみす殺されてしまったとあれば、影剣本来の飼い主でもある中国が黙っている訳がない。

 早い話、今のウェイの状況は八方ふさがりも良いとこだ。その現実を余程受け入れたくないのか、彼は尚もオランジュに食い下がろうとする。

 

 

『世迷い言を。民間人の命の為に…意味の分からん掟如きの為に、貴様らは我々と戦うと言うのか!?』

 

「無論」

 

 

 即座に返ってきた返事を耳にしたウェイは、鈍器で頭を殴られたかのような衝撃に襲われた。聴こえてきたオランジュの声音と、そして僅かな躊躇いも感じさせないこの即答により、嫌でも悟る事が出来てしまったのである。

 

―――奴らは本気だ。この意味の分からない矜持の為に、本気で自分達と戦争をするつもりだ…

 

 それが理解出来た途端、ウェイの呼吸は荒くなり、冷や汗が滝のように流れ始めた。今更になって事の重大さに気づき、同時に様々な感情が湧きあがる。それは恐怖か、驚愕か、焦燥か、あるいはその全てか。本来なら抗争の火種を盾にゆすり、オランジュにこの感情を味わせるつもりだったのに現実はどうだ?こちらが虚勢で脅しを掛けようとした結果、とっくに覚悟も準備も出来ていた相手に呑まれ始めているではないか。

 

 

『どうして、貴様らはそこまで…?』

 

「俺達にとって掟を守り続けるという行為は、旦那と交わした契約の証明に等しい。旦那が俺らを守り、導き続けてくれる限り俺達もまた、旦那の意志とも言うべきこの掟に忠実であり続ける。今回はその過程でトウ派を潰すことになりそうだが、逆に言えばそれだけの話だ」

 

 

 この掟は、彼らの道標でもある。導き手の真意を確認する暇もなく、迅速に決断をしなければいけない時に、彼らが忠誠を誓うフォレストの意思を代弁する唯一の存在だ。だからこそ彼らは迷わない、躊躇わない、戸惑わない。その過程で何を敵に回そうが、誰が傷つこうが、立ち止まることはしない。例え目の前に居なくとも、掟と言う形に姿を変え、フォレストは常に自分達と共にあるのだから。

 

 

『そうだとしても何故だ? 何故そうも自分達を縛る? 所詮は弱肉強食の世の中で、それ程の力を持っているにも関わらず、どうして貴様らは…』

 

 

 正義も悪も無く、力だけがモノを言うこの世界。武力、権力、財力、知力、どの様な形でも構わない。どんな不条理も理不尽も、力さえあればなんでも通すことが出来る。力こそが権利、力こそが特権。その現実を、この世界に身を置いてウェイはすぐに実感した。世界に名立たる亡国機業トウ派に所属してからも、その考えは一層強くなっていった。だからこそ、ウェイはフォレスト派に苛立ちを覚える。誰が見ても恐れるその力を持て余し、無意味な掟に従い続け、ぬるい日常を送るフォレスト派の連中が気にいらなかった。だから自分のボスである『頭(トウ)』にこの命令を言い渡された時、この苛々を晴らす絶好の機会だと考えたのである。実際は彼らの実力があらゆる面で予想を超えており、手も足も出なかったが…

 

 

「法に見捨てられ、人間扱いされなかった俺達の望みは、昔からただ一つ。その為にも俺達は、例え薄汚れたロクデナシになろうとも、ヒトデナシにまで堕ちぶれる訳にはいかねぇんだよ」

 

『な、に…?』

 

「なんにせよ、テメェみたいな温室育ちには一生理解出来ないことだ。まぁ良い、大分脱線したが話を戻すぞ」

 

 

 再び雰囲気が変わり、有無も言わせぬ口調で放たれた言葉に、ウェイは二の句が継げなくなる。緊張に包まれ、いつの間にか反論する気すら湧かなくなっており、ただオランジュの言葉の続きを待つ形になっていた。そして…

 

 

「これを機にテメェらトウ派を潰したいのは山々だが、今はIS学園に関する対応を優先することこそが亡国機業全体の総意だ。だから、チャンスをくれてやる。御望み通りフォレスト派とトウ派で戦争を始めるか、今回のことは互いに無かったことにして、これまでの関係を続けるか…」

 

 

 計画を持ちかけた手前、今回の出来事を無かったことにした場合、中国は確実に黙っていないだろう。しかし、もしもこのまま意地を張り、自分だけの一存で開戦を承諾してしまった場合、ボスは何と言うだろうか?そもそも、心の底では恐れているフォレスト派と、正面から争うようなことになったら…

 

 

「五秒以内に決断しろ、クソ野郎」

 

 

 ウェイに選択肢は、無いも同然だった…

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「おい、そこのガキ」

 

 

 主である篠ノ之束の指示に従い、学園襲撃を敢行したクロエ・クロエニクルは織斑千冬と邂逅した後、帰路についていた。そんな彼女に対して投げかけられた、粗雑で乱暴な女性の声。振り返れば、声の持ち主らしい目つきの悪いスーツ姿の女性が立っていた。

 

 

「……なんでしょうか…?」

 

「クロエ・クロエニクルだな? 悪いが、ちょっと来て貰うぜ」

 

 

 その言葉を聴いたクロエは無表情のまま、ゆっくりとした動きで相手と向き合った。餓えた狼のように、目の前の女性は殺気を隠そうともしていないが、その様子に反してクロエは殆ど動じていなかった。

 

 

「申し訳ありませんが、それに応じる事は出来ません」

 

「ハッ、逆らうってか……まぁ良い、だったら力ずくだ!! このオータム様に歯向かったこと、後悔しやがれ糞ガキ…!!」

 

 

 そう言って目の前の女性…亡国機業所属のオータムは、右腕に装着したブレスレッド状の何かを見せびらかすように構えた。それが待機状態のISであると理解したクロエは、咄嗟に自身の瞳の力を開放し、同時にISを呼び出そうとする。

 

 

「って、おいおいテメェ、そりゃ幾らなんでも卑怯だろ!?」

 

「生憎、無抵抗を貫く趣味はありません」

 

「違ぇよ。テメェじゃなくて、後ろの野郎だ…」

 

「は?」

 

 

 その瞬間、クロエの背筋に悪寒が走った。目の前で憤慨するオータムなんか目に入らなくなるくらいに、圧倒的で身に覚えのあるプレッシャー。ちょっぴり涙目になりそうな感覚に襲われながらも、ブリキ人形のようなギコチナイ動きで、彼女はゆっくりと背後を振り返った。

 

 

「先日ぶりだな、クロニクル」

 

 

 背後に狼が居る時は、前に虎が居るものなんですね…と、日本に古くから伝わる諺を思い出しながら、半ば現実逃避を開始するクロエだった。

 




○互いの上司にクロエの捕縛を支持された秋と虎
○実力行使で行こうとした秋さん、それを囮にして接近に成功した虎さん
○次回、尻尾(ウェイ)の意味が判明
○そして、ついに旦那達と天災が…

IS最新巻…場合によっては、相川さんや鷹月さんを筆頭とした、モブキャラ祭りになるかもしれませんね。それはそれで楽しいことになりそうですが……
何はともあれ、次回をお楽しみに~

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