IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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思ったより長くなりそう、このくだり……ていうか、キャラ完全崩壊な上に糖分が…;


微睡みの中で心の内を… 中編

 

 

「……遅かったか…」

 

 

 階段を一気に駆け上り、息も絶え絶えに部屋の前へと着いたは良いが、その直後に絶望して床に崩れ落ちた。ちょっと人より優れた俺の鼻が、なんとも香しいアルコール臭を感じたのである。あわよくば未開封の状態でマドカから取り上げ、そのまま返品したかったのだが、最早その希望は叶わないようだ…

 

 

「畜生ッ、開けゴマぁ!!」

 

 

 半ばヤケクソになり、ガバッと起き上がるや否や扉を蹴り開け、廊下に轟音を響かせる。他の部屋の客達には少々迷惑かもしれないが、それに構わず怒声を上げながら部屋へと突入した。だって、請求書に書いてあった金額、五反田食堂で食い逃げされた時より洒落にならないんだもん…

 

 

「オラ、マドカあああぁぁぁ!! この期に及んで何をしてやがッ…」

 

 

 案の定、事の元凶であるマドカは部屋に居た。居たのだが、部屋に入るなり俺の声は段々と尻すぼみになってしまった。何故かというと…

 

 

「むにゃ…」

 

「……コイツはよぉ…」

 

 

 彼女は空っぽになった件のワインボトルを抱き枕にして、涎を垂らしながら穏かな寝息を立てつつ、ベッドの上で寝転がっていた。床に使用した後のグラスが転がっている事から考えるに、飲んでいる内に睡魔に襲われて眠っちまったようだ。

 つーか、マドカが抱えてるボトルのサイズがドンペリ並にデカく見えるのは気のせいだろうか。書かれていた値段に納得してしまう傍ら、一人で飲み切れる量に見えないのだが…

 

 

「取り合えず、強請りのネタとして寝顔を写メでパシャッとな…」

 

「……むぅ~…?」

 

 

 携帯カメラからピロン♪と軽快なシャッター音が流れたのとほぼ同時に、目の前の被写体が呻き声と寝言の中間みたいな声を出した。間抜け面した彼女の寝顔を撮影した携帯を俺は慌てて隠し、それに一瞬遅れる様にしてマドカはむくりと起き上った。

 

 

「ふあぁッ……むにぃ…」

 

 

 彼女は眠そうに眼を擦りながら大きな欠伸を一つし、まだ眠いのかイマイチ開ききってない目で辺りをゆっくりと見回す。その際も抱えたボトルはしっかりと抱きしめ、顔は半分ボケた面構えのままだ。

 そして、そのボケ面は暫く周囲を窺っている内に俺を視界に捉え、その動きを止めた。

 

 

「……あ、セヴァス…」

 

「起きやがったかこの野郎…いつまでも寝ぼけてないで、さっさと……」

 

 

 お前が飲んだソレの代金を寄こせ…そう言おうとしたのだが、その言葉もまた最後まで言えなかった。何せマドカの奴は俺に気付いた途端、眠そうな瞳をクワッと開眼させ、まるで獲物を見つけた獣さながらのニヤッとした笑みを浮かべたのである。

 その豹変っぷりに一瞬だけ怯み…ていうか、普通に身の危険を感じて後ずさったのだが、何かが背中にぶつかって殆ど進めなかった。後ろを見ると、さっき蹴り開けたドアがしっかりと閉じられており、俺の逃げ道を塞いでいた。

 思わず焦る俺だったが、それと同時に前方から凄まじいプレッシャーを感じたので、意識を背後からマドカの居る方へと向けた。すると…

 

 

 

「おかえり~~~~~~~~~ッ!!」

 

「ふもっふ!?」

 

 

 

―――マドカにもの凄い勢いで、飛び掛かる様に抱き着かれた…

 

 

 

「ちょ、おまッ!?急にどうした!?」

 

「んふふふふふ~♪」

 

 

 彼女の突然の奇行に混乱する俺だったが、当の本人はそんな事に構わずギューッと思いっきり抱きしめてくる。バッグは二つあるので両手は塞がっており、なまじ体力があるせいで中々引っぺがす事が出来ず、しかもそれに比例して『有る』か『無い』かで訊かれた確実に『有る』方の彼女のアレが俺の身体に押し付けられてくる。一夏じゃないが、どうすりゃ良いんだこの状況…

 それにしても基本的に恥じらいが皆無に近いマドカだが、ここまで露骨になるような事は滅多に無い。ていうか良く見りゃ彼女の顔は微妙に赤くなっていて、声音も幾分柔らかい上に目もどことなくトロンとしていた。そして今気付いたのだが、さっき感じたアルコール臭は部屋や、マドカが俺に飛び掛かる際に投げ捨てたボトルでは無く、彼女自身から出ているみたいだ。

 

 

「……もしかして、酔ったのか…?」

 

 

 俺やマドカは体質上、常人より遥かにアルコールに対する耐性が強い。俺に至っては、一般人にとって致死量に値する量を飲んで漸く酔っ払うことが出来る位だ。マドカも俺程では無いが、ワインボトル一本程度で酔うような事は殆ど無いに等しい。

 しかし、臭いで何となく感じているのだが、マドカが飲んだであろう酒は良質な上に、アルコール度数が高い物だったようだ。そして傍目から見ても分かる位に蓄積された疲労に、ここ最近の寝不足も重なって身体が弱っていた所に、そんな代物を飲んだもんだから限界を迎えてしまったのだろう…

 

 

「ねぇねぇ、その鞄はなぁに? お土産?」

 

「あ、オイ…!!」

 

 

 等と考えている此方を余所にマドカの奴は唐突に俺から離れ、間髪入れずに俺が荷物を纏める為に持ってきた二つのバッグの内の片方をひったくり、止める暇も無くパカッと開いて中を覗き込んだ。しかし、中身が何も入ってないと分かるや否や、露骨にガッカリ感丸出しの表情を浮かべた。

 

 

「……なぁんだ、空っぽか…」

 

「ちょっと面倒な事になりそうだから、帰国が予定より早まったんだよ…」

 

 

 そういや、いつまでもこんな風に油を売っている暇は無いんだった。オータムが五月蠅くなるのは勿論の事、シャドウに迷惑が掛かる上に、アメリカ政府がいつ踏み込んでくるのか分かったもんじゃ無い。

 

 

「え、セヴァス帰っちゃうの…!?」

 

「……は…?」

 

「ヤダヤダ!! セヴァス帰っちゃヤダぁーッ!! 置いてかないでーー!!」

 

 

 反射的に間抜けな声が出てしまったが、聞き間違えでは無かったようだ。意味の分からないことを言い出したマドカは、それだけに留まらず挙句の果てには子供みたいに泣き出した。もう何が何だか理解が追い付かなくて、コッチが泣きそうだ…

 

 

「ちょ、なんで泣く!? つーか、お前も一緒に帰るに決まってんだろ、なんで俺だけ帰るみたいな言い方してやがんだ!!」 

 

「え、本当…?」

 

 

 そう言った途端、急に泣き止んで大人しくなるマドカ。しかし、微妙に『それ本当?』とでも言いたげな表情をしているので、また泣きだされる前に首を縦に振った。それを見て彼女は安堵の溜め息を吐き、最初に見せた笑顔に戻った。一貫して物調面ないつもの彼女とは対照的に、アルコールが入った彼女は感情が比べ物にならない程に豊かで、コロコロと表情が変わる。

 俺も酒で酔うと暴走して、隠しておきたい物事や心の内を躊躇せずに晒したりするが、もしかするとそれと同じで、今のこの状態こそが彼女の素だったりするのかもしれない。心なしか、年齢相応を通り越して幼児化している気もするが、時たま見せる子供っぽいところを考えると、あまり否定できないのも事実だったりする。

 まぁ、百歩譲ってそうだったとしても、目の前の彼女の様子を見てしまうと本気で心配になるのは変わらないが…

 

 

「一緒…セヴァスと一緒かぁ、良かったぁ……」

 

 

 色々な意味で困ってる俺を無視するようにして、マドカはそう言うや否や、笑顔のままベッドに背中からダイブした。そして、寝転がった体勢のままコッチに手を振り…

 

 

「じゃ、荷造り頑張ってね♪」

 

 

―――マダオ属性は彼女の根本であることを証明した…

 

 

「いやいや、半分はお前の荷物なんだから手伝えよ!!」

 

「えええぇぇ…面倒くさい……」

 

 

 日頃のダメっぷりだけでなく、ガキっぽさまで加わった様だ。ジト目で睨み付けたら、マドカは近くにあった枕を抱きしめながら、ふくれっ面で抗議の視線を送りつけてきた。不覚にもちょっと可愛いく感じてしまったが、ここで目を離したら負けな気がしたので視線は外さない。

 そんな不毛な争いは、何かを思いついたかのような表情を浮かべたマドカが唐突にベッドから起き上がった事により、終わりを告げた。

 

 

「嘘だよ~手伝うよ~~」

 

「……なぬ…?」

 

 

 徐に立ち上がったマドカは、自分の分のバッグを手に取って驚く俺を余所に、ゴソゴソと荷物を纏め始めた。挙句の果てには御機嫌よろしく鼻歌を口ずさみ、俺を更に困惑させた。いったい、何がどうしたというのだろうか…

 

 

「ふんふふん、ふ~ん♪」

 

「……それとも、俺は夢でも見てるのか…?」

 

 

 もしかしたら現実の俺は階段で転び、そのまま頭を打って気絶でもしたのか。そして、この到底現実とは思えない、マドカにとっては黒歴史入り確定な彼女のコレに直面しているのだろうか。いや、階段から転げ落ちた程度で俺は気絶したりはしないので、やはり目の前のコレは現実なんだろう…

 

 

「はい、出来ました~!!」

 

「嘘ぉ!?」

 

 

 片づけを開始して一分も経たない内に、マドカがそんな事を言い出した。当の本人はドヤ顔を浮かべ、俺に自分の荷物を詰め込んだバッグを見せつけている。部屋の片付けも碌に出来ない癖にそんな事を言うもんだから、何だか腹が立つよりも先に驚いてしまった…

 

 

「本当だも~ん。そして残りは全部セヴァスの荷物だから、荷造り頑張ってね?」

 

「チッ、なんだか釈然としなッ……ん…?」

 

 

 何だか納得出来ない俺だったが、時間が無いので仕方なく作業を開始するした…のだが、すぐに手を止める羽目になった。作業を再開した矢先、手を伸ばした先にあった物を見つけた途端、俺はゆっくりと立ち上がり、余裕綽々なマドカをまたもやジト目で睨み……

 

 

「……おいマドカ、ちょっとテメェのバッグ見せてみろ…」

 

「え…」

 

 

 俺の言葉にマドカは反射的にビクリと身体を震わせ、バッグを抱きしめながら、分かりやすい位に俺から目を背けた。その態度でほぼ確信したが、念のために確かめておこう…

 

 

「せ、セヴァスのエッチ…」

 

「俺(残り)の荷物と称した物に、そこに転がってるお前の下着を含めといて何を言ってやがる…」

 

「おぅふ…」

 

「良いから見せてみろや、この酔っ払い…!!」

 

「ちょ!?」

 

 

 顔を青くしたマドカからバッグを強奪し、やけに軽いそれの中身を確認した。すると案の定…

 

 

「やっぱり空っぽじゃねぇかコラああああぁぁぁ!!」

 

「うきゃあぁ!?」

 

 

 思わず脳天にチョップをくらわせ、それを受けた彼女は短い悲鳴を上げて頭を抑えながら、ベッドの上でゴロゴロと転がりながら悶えていた。

 それにしてもこの野郎…面倒くさいからって、荷物纏めたフリして俺に全部やらせる気だったらしい。普通に考えてこれだけの量があれば、俺じゃなくてもすぐに気付けたろうが、どうやら今の彼女はそんな簡単なことにさえ頭が回らないようだ。しかも俺の御仕置チョップを避けようとするどころか、防御すらしなかった辺り、性格だけじゃなくて全部の面で劣化しているっぽい。

 そう思うと何とも言えない気分になり、ついつい溜め息が口から零れてしまう。それに何より、いい加減マジで時間がヤバい…

 

 

「……あぁもう、アホらし。カバン寄越せ、お前の分もやってやるよ…」

 

「え、本当…?」

 

「……おう…」

 

 

 そう言ってやった瞬間、マドカは動きを止めて表情をパァっと明るいものへと変えた。本当にコロコロと表情が変わる…妄想している時のシャルロット以上かもしれない……

 

 

「わ~い、ラッキー♪ それじゃ、よろしく~!!」

 

「……本当にしょうがない奴だな…」

 

 

 そう言ってマドカは再びベッドへと身を預けた。とにかく横になりたいらしい、この酔っ払い…

 ま…この状態はともかく、こういうやり取りは今日に始まった事では無いので、そこまで気にしない。少なくとも、彼女の分の片付けを始めた今の俺の顔に、しかめっ面ではなく、苦笑が自然と浮かんでくる程度には日常的なもんだ。我ながら、本当にマドカには甘いと思う…

 

 

「……ねぇ、セヴァス…」

 

「ん?」

 

 

 取り敢えず手当たり次第にバッグへと荷物をぶち込み始めたその矢先、マドカが俺に声を掛けてきた。ただその声音は、さっきまでの明るいものでは無く、かと言っていつもの冷淡なものでも無かった。チラリと彼女の方を見ると、マドカはベッドで横になったまま天井を見上げていた。その為、どんな表情をしているのかは良く見えなかったが、それに構わず彼女は言葉を続ける。取り敢えず視線を手元に戻して作業を再開しながら、彼女の言葉に耳を貸し続けた。

 

 

「私ね、『自分自身』を手に入れたいの…」

 

「……知ってるよ…」

 

 

 『私が私である為に』…それこそが、マドカの織斑千冬に対する復讐心を一層駆り立てる一番のモノであり、彼女が今を生き続ける為の糧にしているモノである。

 それを手に入れなければ、『織斑マドカ』という一人の人間として生きる事は出来ない…否、『織斑マドカ』としての人生を始める事すら出来ない。自分が『織斑マドカ』に成る為には、どうしても織斑千冬を殺さねばならない……かつて彼女は自分の復讐について、俺にそう語ってくれた。そんな大事な話を俺が忘れる訳ないというのに、いったい今更どうしたと言うのだろうか…

 

 

「だけどね、その後の事は…『織斑マドカ』に成れた後の事は、何も考えてないんだ……」

 

 

 思わず手が止まり、自然と顔がマドカの方へと向けられた。彼女は依然として何も無い天井を見上げたまま、言葉を紡ぎ続けた。

 

 

「私が私に成れた時、何をしたいと思うようになるのか分からない。もしかしたら、死ぬまで何も思い付かないかもしれない…」

 

 

 かつての俺は俺を傷つけ、弄んだアイツらが憎くて憎くて仕方が無く、アイツらを自分の手で殺してやるまでは、この世の全てに対して永遠に満足出来ないだろうと思っていた。マドカもそれは同じで、復讐を終わらせるまでは、心の底から人生を楽しめないと思っている。

 そんなマドカだからこそ、俺は今の彼女の言葉が信じられなかった。俺以上に大きな復讐心と憎悪を抱いている筈の彼女が、同時にその様な迷いを抱いているとは思わなかったのである。

 

 

 

「……でも、そんな私だけど…」

 

 

 

 

―――だが次に出てきた彼女の言葉は…

 

 

 

 

「…セヴァスと一緒に居る時の気持ちは、きっと変わらないと思う……」

 

 

 

 

―――俺を愕然とさせるには、充分過ぎた…

 

 

 

 

「だから、私は…私なんかの為に、セヴァスに死んで欲しくない。私もずっと、セヴァスとの繋がりを失いたくないから……」

 

 




こんな雰囲気出しといてなんですが、まだまだ恋愛関係には発展しません、させません……ちょっぴり進展はしますが…

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