IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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本当はここまで書くつもりでした。今日は執筆時間取れないと思い、時間が無かったので中途半端になっていましたが…;

早いとこ先生編を終わらせて、いつものコメディ調に戻したい……だからせめて、次回はちょっぴりドタバタさせよっと…




愚直な弾丸の行く末は… 前編

 

 消えろ消えろと、何度願い、何度念じたことか…

 

 

 けれどあの時の夢は、どれだけ時が経とうとも、消えてはくれない…

 

 

 地獄の様なあの場所、あの時の夢は、光を得た今もまだ見続けている…

 

 

 半ば消すことを諦め、一生付き合っていくことさえ覚悟したが、どうやらその必要は無いらしい…

 

 

 己の悪夢を呼び覚ます存在を一つでも消し去れば、あの時の夢も二度と見ないで済む…

 

 

 確証も根拠も無いが、奴らに授けられた人一倍鋭い己の勘が、そう確信している…

 

 

 なればこそ、自分は確実に消し去らなければならない…

 

 

 自分が最も憎しみを抱き、夢の中で最も自分を苛立たせる…

 

 

 

---シェリー・クラークが俺に向けた、最後の表情を…

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「あぁクソッ…思ったより高い建物だな、ここ」

 

 

 カツン、カツンと、無機質なリズムを刻みながら、薄暗い廃屋の階段を登っていく。時折窓から差してくる外の光が足元を照らすが、少し進めばすぐに真っ暗に元通り。先程からずっと、この繰り返し…

 

 

「しかし悪いな、付き合ってもらって…」

 

「私が行きたいんだ。お前は私のことを気にせず、さっさと済ませろ」

 

「……分かったよ…」

 

 

 初っ端からドタバタした昨日だが、それとは打って変わってやけに静かな朝を迎えた。オータムとクロウは任された仕事のため早々にホテルから居なくなり、煩い馬鹿兄弟も彼女らに同行したので殆ど顔を合わせることもなかった。しかし、クロウは去り際に良いものを渡してくれた。視線を自分の背負ったモノへと向けると、自然と凶悪な笑みが浮かぶ…

 

 

「……試作型対IS用狙撃銃、か…」

 

 

 シェリー・クラークを殺すための武器をどうするか悩んでいた時、シャドウが渡してきたのがこの背中に担いだバカでかいケースに収まってる巨大ライフルである。技術部の新作であり、その性能のチェックと運用テストを兼ねて貸してくれたようだ。クラークの居る病院は訳ありの人間ばかり送られており、そのせいで警備システムも少々厄介なものが多い。資料の通りならば窓ガラスも全て防弾使用で、並の銃では傷ひとつ付かない代物らしい。

 わざわざ武器を調達するのも面倒だったし、俺は即効で首を縦に振った。そして準備を終え、俺の復讐に付き合うと言ってくれたマドカを引き連れて、狙撃に打って付けな、例の病院の向かい側に佇む廃屋の屋上を目指している真っ最中だ。

 

 

 

「……なぁ…」

 

「ん?」

 

 

 徐に、隣で共に階段を登るマドカが話しかけてくる。昨日や一昨日と比べて大分マシにはなったが、その表情は未だにどこか冴えない。自分で解決したいと言っている手前、無闇に口を出さない方が良いのだが、彼女が織斑千冬以外の事でここまで長く悩むのは珍しい。もしかしたら、案外その織斑関係で悩んでいるのかもしれないが…

 

 

「その先生と言うのは、どんな女なんだ?」

 

「そうだなぁ……取りあえず、姉御に負けず劣らず美人だった…」

 

「……」

 

「何だその目は…?」

 

「……別に…」

 

 

 出会った当初は二十代半ばで若さ真っ盛りな時期だったが、それを差し引いても奴は美人に分類されたと今でも思う。実際これまで会った人物の中で、あの女より美人と素直に言えるのはスコールの姉御ぐらいだろう。因みにマドカは美人じゃなく、可愛いに分類される。

 

 

「俺が居た研究所の奴らは、どいつもこいつもクソッタレな野郎ばかりだった。研究目的がコレだったせいもあって、碌でもない扱いしか受けなかったし…」

 

 

 俺が造られた理由は、ナノマシンによって極限まで強化された『究極生命体の創造』にある。その基本は限界まで強化された治癒能力が主なもので、その性能を確かめる為に何度も傷つけられ、嬲られ、殺された。年単位でそんなことを続けていて、流石に奴らも真面目に実験するのに飽きてきたのか、途中から俺を半殺しにすることを楽しむようになっていったが…

 

 

「そんな中、担当した役目とは言え暴力以外の手段で接してきたのが、そのシェリー・クラークだったのさ…」

 

 

 下衆な嘲りと共に、終わりの無い苦痛を味わう毎日の中、『シェリー・クラーク』は突然俺の元へと現れた。生まれて初めて暴力と嘲笑以外のモノで接してきた彼女に対し、俺が興味を抱くのにはそんな大して時間は掛からなかった。

 後で知った話だが、俺の本名でもある型式番号の『AL-№6』からも分かる通り、俺が生まれる前に兄弟とも呼べる同類が5人ほど居たらしい。そのどれもが人間の形をしていなかったり、知能を持てずに生まれたりと欠陥だらけで、何よりナノマシンの適合率が俺の足元にも及ばず、皆一人残らず死んでしまったそうだ。そんな中、研究者のクソ共の理想とも言える形で生まれた俺は、『ナノマシンの適合』から『人間の知能を備えさせる』という次の実験段階へと移行した。その為の第一歩が俺の教師役として寄越されたシェリー・クラークだったのである。

 

 

「本音を言えば、あの時は楽しかったよ。クラーク以外の奴が寄越してくれたのは、罵り言葉と鉄の塊ばかりだったからな…」

 

 

 少しばかり脳みそも弄られていたらしく、俺は綿が水を吸うかの如く知識を吸収した。その結果、人語すら喋れなかった化け物は、ものの一年ちょっとで小学校高学年並の知能と知識を手に入れることが出来た。研究員の奴らに殺される以外に一日を過ごす術が無かった俺にとって、シェリー・クラークと共に過ごす時間は特別なものだった。そして嫌な奴しか居ないあの研究施設の連中の中で唯一、俺に色々なことを教えてくれた彼女は心を許せる数少ない人物だった。

 

 

 

---そんな彼女の手によって最後は、拒絶され孤独の2年間へと放逐されてしまったのだが…

 

 

 

「所詮、あの女も奴らと一緒だったのさ。あの女のせいで俺はアイツらを殺す機会を永遠に失い、アイツらの事を思い出す度に込み上げてくる苛立ちと長く付き合い続ける羽目になったという訳だ…」

 

「……そう、か…」

 

「っと、言ってる間に到着だ。やれやれ、随分と時間が掛かった…」

 

 

 気が付けば階段は終わり、目の前には屋上への扉が佇んでいた。その扉のドアノブに手をやり、ゆっくりと回して戸を開ける。すると開かれた扉から冷たい風と、薄暗い内部を一気に照らす外の光が入ってきた。それに思わず少しだけ足を止めたが、すぐに外へと歩みだす。やはりというか、この建物はかなりの高さがあったようで、この近辺も軽く一望できた。

 

---シェリー・クラークの居る病院さえも…

 

 

「ここで良いか…」

 

 

 病院から数キロほど離れているが、病院と真正面から向かい合う形になれる場所を見つけたので、そこに移動して荷物を降ろす。そしてそのままケースからライフルを取り出し、組み立てて準備を始める…

 

 

「何か手伝うか?」

 

「いや、大丈夫だ。すぐに終わらせる」

 

「……そうか…」

 

 

 本来、映画のように狙撃銃を現地で組み立てるのは3流のやる事である。しかし生憎、この得物は組み立てを完成させると、ラウラの身長よりデカイ。こんな代物を持って出歩いたら、先日の馬鹿兄弟の様に目立った挙句、おまわりさんとのお話は避けられないだろう…

 それに俺に戦い方を仕込んだのは、あのティーガーの兄貴だ。何せ兄貴は現場で組み立てた拳銃で、1キロ先の一流スナイパーを撃ち殺したという逸話(ていうか、多分実話)を持つ。そんな人に戦い方を教わった俺も、兄貴には及ばないにしろ、それなりの腕はあるつもりだ。流石に拳銃では無理だが、この大型ライフルを使うのなら充分に自信はある。渡された弾丸も一発だけだが、何とかなるだろう…

 

 

「本当に、やるのか…?」

 

「なんだいきなり…?」

 

 

 ライフルも組み立て終わり、スコープを覗こうとした矢先に背後から投げかけられた声。例によってマドカが顔に心配の色を浮かべて、こっちを見ていた。

 

 

「何か妙な胸騒ぎが……いや、やっぱり気にするな。ただの世迷い言だ…」

 

「あ、そう」

 

「……感想文、忘れるなよ…?」

 

「ははっ、そう言えば約束してたな。分かったよ、楽しみにしていろ…」

 

 

 薄っすら笑っているあたり、彼女なりに冗談という名で気遣ってくれたのだろう。お互いに復讐を肯定し、成し遂げようとする者同士であるが故に、通じ合うモノを見出した俺達…ここまで来れたのも、彼女の御蔭であると改めて実感する。それに報いるために俺はこれからも、この命は…

 

 

「ッ!!……来たか…」

 

 

 その時、スコープを通して数キロ先の病室を見ていた俺の目に、二人の人物が映りこんできた。一人は白衣で身を包んだ人物…あの病院の医者か看護師らしき人物だが、ぶっちゃけどうでも良い。肝心の人物であり、本命の人物はもう一人の方だ…

 

 

「……そのツラ拝むのは、いったい何年振りになんだろうな…?」

 

 

 病院の職員に肩を貸して貰いながら、ゆっくりと病室のベッドに身を降ろす金髪の女性。その姿を見ていると、自然と俺の中で何かが沸々と猛ってくるのが分かる。あれから十年近く経ったこともあってか皺と白髪が幾つか増えて老け込んでいたが、まだまだ美しさは損なっていないようだ。あの時に綺麗と思った長い髪も、青い瞳も、殆ど昔のまま……間違いない、彼女は…

 

 

「……なぁ、クラーク先生…」

 

 

 クロウから受け取った資料の通りに、定期検診を終わらせて自分の病室に帰ってきたのだろう。病名も病状もどうでも良いから忘れたが、もうそんなに長くは持たないらしく、今では見てのとおり自力で起き上がるのも難しいそうだ… 

 

 

「これでやっと…悪夢ともサヨナラだ……」

 

 

 放っておいても死ぬが、それでは意味が無いのだ。自分の手で奴を殺して初めて、俺はあの時の過去と本当の意味で決別することができ、悪夢に苛まれる事も無く毎日を過ごすことが出来るのである。

 その為にも、シェリー・クラークは今のうちに消すべきなのだ。死神に先を越され、俺の手が届かなくなってしまう前に。だから俺は、ゆっくりと引き金に掛けた指に力を入れ… 

 

 

「ッ!?」

 

 

---遠く離れたシェリー・クラークと目が合った…

 

 

 ここと彼女を挟んでいる距離はかなりのものであり、こちらに気付くことはまず有り得ない。彼女が視線を向けた先が偶然俺が居る場所と同じだったに決まっていると頭では分かっているが、突然の事に動揺して指から力が抜ける。だが、俺を襲った衝撃はそれだけでは無かった…

 

 

---見て、感じてしまったのだ…

 

 

「……違う…」

 

 

 あの病室に居て、こちらを向いているあの女は間違いなく『シェリー・クラーク』本人だ。それは疑いようの無い事実であり、自分でもそう確信している。だけど、だからこそ感じてしまう…

 

 

「セヴァス…?」

 

「違う…違う違う違うッ!! 俺が見たいのは…俺が消し去りたいのはそのカオじゃねぇッ!!」

 

 

 スコープの向こうに映る彼女の顔は、まるで魂が抜き取られたかのように無表情だ。本当に何も考えておらず、何も感じていないような完全なる『無』。クラークのその表情を見ても、俺は何も感じることが出来ない。世界で最も殺したかった筈の女の顔を見て、怒りも憎しみも、それどころか悲しみも感じることさえ出来ない。

 

 

---俺が最も消し去りたかったあの時の顔が、今のアイツには無かった… 

 

 

 その事がどうしても受け入れられず、これまでとはまた違う苛立ちが段々と込み上げ、マドカが戸惑うのもお構いなしに声を荒げ、喚き、吼え猛る…

 

 

「そうじゃねぇだろ!! 俺から奪い、俺を捨てた時のアンタのツラは!! あの時、アンタが……アンタが俺に見せたツラはッ…!!」

 

 

 今でも夢で見る、あの時の光景…その時に彼女が俺に見せた表情を思い出すたびに、否が応でも苛立ちと怒りを俺は覚え……同時に、胸が締め付けられる程に悲しくなった…

 

---その時のシェリー・クラークの顔を忘れるためだけに、俺はココに来たというのに…!!

 

 ごちゃ混ぜになった感情のせいで、思考も滅茶苦茶になってしまった。怒りなのか悲しみなのか判別できない感情に翻弄された俺の頭は考えることをやめ、全てを本能に投げ渡した。やがて、トリガーに掛けた指に再び力が入り…  

 

 

「セヴァス、上だ!!」

 

「え……ッ…!?」

 

 

 マドカの声によって我に返り、トリガーから瞬時に離れた。その途端に頭上から何かが凄まじい速度で飛来し、爆音と共にさっきまで俺の居た場所が吹き飛んだ。幸いすぐにライフルを抱えて飛びのいたので、俺も銃も無事である。 

 

 

「クソッ、こんな時に…」

 

「な、何だ…?」

 

 

 どうやら砲撃の類を打ち込まれたらしく、さっきの狙撃ポイントが数メートルに渡り抉られていた。そしてマドカは、砲撃が放たれてきたであろう空を忌々しそうに睨みつけていた。それにつられ、俺も視線を空へと向ける…

 

 

「そこの二人、直ちに武装を解いて投降しろ!!大人しくしない場合、容赦しねぇぞ!!」

 

 

 

---アメリカ第三世代機『ファング・クエイク』を身に纏った国家代表選手『イーリス・コーリング』が、俺達を空高くから見下ろしていた…

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「イーリス・コーリング……クソッ、昨日のは偶然じゃなかったのか…」

 

 

 自分の迂闊さを呪うかのように、隣で自分と同じように空を睨むセイスが呻いていた。今日ばかりは、自分も彼と同じような気分だ。こんな街のど真ん中で戦闘となれば、厄介な状況は避けられない。前回の戦闘で主兵装を一つ失ったままというのもあり、出来れば今回はなるべく戦闘は控えたい…

 

 

「……セヴァス、私が時間を稼ぐ…」

 

「マドカ…?」

 

 

 しかし生憎、今日は事情が違う。これは彼の念願でもあった復讐であり、同時にそれを成す為の最後のチャンスなのだ。自分に命を掛けてくれる彼の為にも、そんな彼に応えようとする自分の為にも…

 

 

「だから、お前は…」

 

 

---逃げるという選択肢は、有り得ない…

 

 

「お前の復讐を果たせ!!」

 

「あ、オイッ!?」

 

 

 言うや否やマドカはゼフィルスを展開し、バイザーを装着した状態で真っ直ぐにイーリス・コーリングの元へと飛んでいく。その彼女の姿を見た瞬間、イーリスの顔に驚きの色が浮かんだ。

 

 

「サイレント・ゼフィルス!? お前、あの時の奴か!?」

 

「また私の邪魔をするか、ファング・クエイク……いい加減に目障りだ、墜ちろ…!!」

 

「はん、抜かせッ!!」

 

 

 武装の一つであるナイフを呼び出してそれを振りかざすゼフィルスと、彼女を迎え撃つようにして拳を振るうクエイクが交差する。互いに直撃はしなかったが掠ったらしく、ほぼ同じ割合でシールドエネルギーが減少した…

 

 

「チッ、やっぱやるなお前…!!」

 

(やはり、一筋縄ではいかないか…)

 

 

 互いに相手を強敵と認識し、マドカはゼフィルスのビットを、イーリスはクエイクに搭載した複数の銃器を展開した。それに比例して両者の攻防は、一層激しいモノへと変貌する。

 

 

「墜ちろッ!!」

 

「貴様がな!!」

 

 

 時には斬りかかり、殴り、撃ち、貫き、蹴り、防ぎ、避ける…無数の打撃斬撃弾幕が飛び交う世界トップレベルのIS操縦者による戦いは、まるで一種の芸術のような美しさと、大規模な戦場を一箇所に凝縮したかのような恐ろしさを感じさせる。

 二人の戦いの余波により、近辺の建物が尋常ではない被害を被っているが、よく見ると周囲に人の気配が一切なくなっていた。どうやら、いつの間にかこの辺り一帯は既に封鎖されているようだ…

 

 

「そこだあぁッ!!」

 

(掛かった…!!)

 

 

 何度目かの射撃の応酬を行った両者だったが、イーリスはここぞとばかりにマドカへと突進していく。しかし、その動きを見切っていたマドカは紙一重で回避し、すれ違いざまに全てのビットの銃口をイーリスに向けた。

 

 

「しまッ…!?」

 

「終わりだ…」

 

 

 してやられた事に気付いたイーリスだったが、既に手遅れ。今回はそこまで余裕も無い為か余計な挑発も嘲りもせず、マドカは躊躇うことなくビットから無数のレーザーを放つ……しかし…

 

 

「なッ!?」

 

 

―――突如、何処からともなく飛来した光の矢が、ビットの弾幕を全て相殺した…

 

 

 

『イーリ、大丈夫?』

 

「あぁ、助かったぜナタル…」

 

 

 オープンチャンネルを通して聞こえてきたのは、割と記憶に新しい女の声…先日襲撃した基地で遭遇した、『ナターシャ・ファイルス』のものだった。センサーで辺りを見渡すと、肉眼では殆ど分からないような遠距離に『シルバリオ・ゴスペル』に似た形状を持つ新型のISを纏い、これまた見覚えのある弓状の装備を構えた彼女の姿を捉える事が出来た。どうやら、いざという時の為に身を潜めていたようだ…

 

 

『お久しぶりね、亡国機業さん…前回の借り、ここで纏めて返してあげるから、そのつもりでいなさいよ?』

 

「てなわけで、第二ラウンドといこうか!!」

 

「クッ!?」

 

 

 再度突貫してきたイーリスに心の中で盛大な舌打ちをしながらも、マドカは即座に対応する。しかし、いよいよ本格的に不味い事になってきた…

 

 

「この…」

 

『逃がさないわよ!!』

 

「ッ!!」

 

 

 イーリスの攻撃を避け、反撃をしようとすればナターシャが遠距離から光の矢を放ってくる。逆にナターシャの元へと向かおうとすれば、今度はイーリスがそれを見逃さず襲い掛かってくる。その結果、反撃の機会を奪われたマドカは段々と追い込まれていった…

 

 

「おらあああぁぁぁ!!」

 

(このままでは……流石に不味いか…!?)

 

 

 ただでさえ主力武器を一つ失った状態というのもあるが、やはり国家の称号を担う乗り手を二人同時に相手をするのは、複数の代表候補生と同時に戦った時とは比べものにならない程キツい。攻撃も避けきれないものが増え、シールドエネルギーも順調に減らされていく。ビットによる偏向射撃、瞬時加速をフル活用してどうにか対応しているが、このままではジリ貧状態である。

 

---最悪の場合、撤退も視野にいれなければならないが、そうなるとセヴァスが…

 

 

「今度は逃がさねえええぇぇ!!」

 

「しまッ……グッ…!?」

 

「……捉えたぜ、ファントム・タスク…!!」

 

 

 思考を戦闘から割き、一瞬だけセヴァスに意識を向けたのが不味かった。集中力を切らした僅かな隙を突いて一気に間合いを詰めたイーリスは左手でマドカの右腕を、もう片方の手で彼女の首をガッチリと掴まえた。マドカはなんとか拘束から逃れようともがくが、ファング・クエイクのパワーは思ったより強く、ビクともしない。ならばとゼフィルスのビットを全て呼び戻し、自分を掴んで離さないイーリスを包囲するようにして展開する。だが…

 

 

「やれ、ナタル…!!」

 

『任せて!!』

 

「ッ!?」

 

 

 背筋に悪寒が走り、センサーでナターシャの方を見てみると、彼女は今まさに光の矢を放とうとしているところだった。その矢が向けられた先は当然、イーリスに拘束された事によって動けない自分だ…

 先程までの攻防により、シールドエネルギーは既に底を尽きかけている。もしもあれが直撃した場合、実質トドメの一撃となるだろう。慌ててビットにシールドを展開させ、自分を守らせるべく呼び戻そうとする。しかしその行動は、到底間に合いそうにない。

 

 

---そして無常にもナターシャの光の矢は、身動きも防御も出来ないマドカ目掛けて放たれた…

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 マドカがイーリスに突撃し、そのまま開始された両者の激闘。その華やかで凄まじい光景を廃屋の屋上で、空を見上げるようにして眺めながら、セイスは一人呟いた…

 

 

「マドカ…」

 

 

 去り際に彼女は自分に向け、『お前はお前の復讐を果たせ』と言ってくれた。前回、一夏に主兵装であるIS用ライフルを破壊されてしまい、万全ではない状態にも関わらずだ。

 周囲がやけに静かであり、イーリス達が周囲への被害を一切考えず戦闘を行っているところを見るに、この近辺の封鎖は既に完了していると思って良さそうだ。これだけの規模となると、自分達の存在は昨日今日で発覚した訳では無さそうだ。恐らくティナが前回のことを報告し、それを元にこちらの行動を予測して網を張ったのだろう…

 

 

 

「……さてと…」

 

 

 

―――前を向けば、数年振りに姿を見せた、世界で最も殺したかった女が居る…

 

 

―――空を見上げれば、その女を殺したい俺の為、戦いに身を投じた女が居る…

 

 

―――俺の手にあるのは、一丁のライフルと一発の弾丸…

 

 

 この一発だけの弾丸を何に命中させようが外そうが、撃った瞬間に俺もこの戦場に身を投じる結果になるだろう。世界レベルの技量を持つIS乗りが3人も居る…自分のような半端な戦闘能力を持っただけの雑魚が迷い込んだら、あっという間に消し飛んでしまいそうな過酷な戦場に……

 

 

「……迷う理由なんて、無いじゃないか…」

 

 

 手に持ったライフルを改めて確認し、異常が無いかチェックする。幸いしっかりと抱きかかえて飛び退いた為か、クエイクの砲撃に巻き込まれかけたにも関わらず万全の状態のままだった。その事に安堵し、弾が装填されていることを確かめ、安全装置が外れている事も確認した。何の支障も無く撃てると分かり、立ったまま銃口を標的へと向け、スコープを覗く…

 

 

 

 

 

「アンタもそう思うだろ?……先生…」

 

 

 

 

---スコープを通して映るシェリー・クラークに向かって、彼は呟いた…

 

 

 

 

「アンタに拒絶されて、あの薄暗いコンテナにぶち込まれて以来、俺はその時の光景を何度も夢で見た。そのたびに俺は、アンタを殺したくて殺したくて仕方が無かった!! 俺が心を許しかけたアンタにそれをやられたからこそ、殺したくて仕方なかった!!」

 

 

 彼女の手によって処分されたことにより、自分に関わるあらゆる人間からの繋がりを断ち切られ、それまで自分を生かしてきた復讐心を無意味なものへと変えられてしまった。自分を何度も何度も殺して、それを楽しんでいた糞野郎を一人残らず殺し返すつもりだったのに、その機会を永遠に奪われてしまった。御蔭で新たに生きる理由を手に入れた今でも、その時の記憶を完全には忘れることが出来ないでいた…

 

 

 

「けど、それも今日で終わりだ。今後一切、アンタと会う事は無いだろうよ…」

 

 

 

 あの時の記憶は、今の自分にとって必要ないモノだ。どれだけ悪夢という形で自分に『構ってくれ』と訴えかけてこようが、鬱陶しい事この上ない。そしてその事を思い出させる、このシェリー・クラークも自分にとって、目障りな存在である事に変わりない。だから…

 

 

 

「アンタの顔、最後に一目見れて良かったよ……さようなら、先生……」

 

 

 

 遠く離れた病院の一室で、相変わらず無機質な表情を浮かべるクラークに向かって、彼は囁く様に別れの言葉を述べた。風に攫われる様にして、呟かれた言葉が消えたと同時に彼は動いた……そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その残り僅かな余生、精々楽しみやがれぇッ!!」

 

 

 

 

---ライフルを担いだ彼は病院の方へと勢いよく駆け出し、廃屋の屋上から跳び出した…

 

 

 

「とことん付き合ってやるよ。目障りな悪夢にも、鬱陶しい過去にも、“お前”にも……だから…!!」

 

 

 

 並外れた身体能力により、屋上から跳び出した彼は20メートル程の飛距離を稼いでいた。しかし、それもやがて重力に捕まり地面へと引き摺り下ろされてしまうだろう。だからその前に身体を強引に捻り、空を向く。そして廃屋の屋上から跳び出したことによって、自身の目論見通り“彼女達が真上に居たせいで無理だった”射線が、完璧なまでに取れていると分かって笑みを浮かべ、そして同時に自嘲気味な笑みを浮かべた。

 

 

 

---俺の復讐心なんて、所詮こんなもんだ…

 

 

---自分を生かし続ける為の、自己暗示に過ぎない…

 

 

---実際それに支えられ、今日まで生きてこれた面も強いさ…

 

 

―――だけど、今は違う…

 

 

―――今の俺を支え、生かしているのは…

 

 

 

 

 

「とっととマドカから手ぇ離せクソッタレがああああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 重力に引かれて落下しながら、彼は銃口を空に向けてトリガーを引いた。凄まじい銃声と共に、蒼白い電磁光を纏った弾丸が解き放たれた。弾丸は、まるで彼の意志が籠められたかの如く、愚直なまでに、狙い目掛けて一直線に突き進んでいく。何者にも邪魔されず、ひたすら真っ直ぐに飛んでいく己の弾丸の命中を、彼は確信した。そして…

 

 

 

―――天に向け放たれた弾丸は、マドカを拘束するファング・クエイクのスラスターを見事に粉砕した…

 

 




セイスの優先順位(↓)
マドカ>>(超えられない壁)>フォレスト一派・姉御>>復讐>その他


そもそも復讐を優先するタマなら、ティナの勧誘を断ってないってね…




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