IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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乙女修行? 前編

 

 

「大変だセイス!!」

 

 

「どした?」

 

 

 

 朝っぱらから何事だろうか?血相抱えたオランジュが俺の両肩掴みながら迫ってきた……正直言って、こいつの顔面どアップなんざ、こんな早い時間から見たくなんて無いんだが…。

 

 

 

「まずはコレを見ろ!!」

 

 

「ん?……テレビ視聴記録…?」

 

 

 

 IS学園の寮にテレビは基本的に無い。が、携帯のテレビ機能を使ったり自分で家から持って来たりする生徒も少なくない。

 

 はっきり言って誰が何の番組を見ようがどうでもいいので気にしてなかったのだが、この阿呆はいつのまにか部屋のコンピューターをイジってそれらを閲覧できるように改造したのだ…。

 

 

 

「で、それがどうした……って、時代劇ばっかだなコレ…」

 

 

 

 そこに記載されていたのは『水○黄門』や『必殺仕○人』、『暴れ○坊将軍』、さらには『鬼○犯科帳』なんてのもあった。ここって、確か女子校の筈だよな…?

 

 

 

「……あ、コレって篠ノ之箒のだな…?」

 

 

「正解」

 

 

 

 成程…あの武士娘なら納得だ。彼女がそれ以外に見そうな番組なんて、逆に思いつかないしな…。

 

 

 

「ところがどっこい、これは先月の記録なんだ。そして、これが今月最初の一週間の記録だ…」

 

 

「それがどうし……ん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――『冬のソ○タ』

 

 

―――『世界○中心で愛を叫ぶ』

 

 

―――『最後から二番○の恋』

 

 

―――『101回目のプロポーズ』

 

 

―――『青○鳥』etc.

 

 

 

 

 

 

「……緊急事態だな…」

 

 

「最初に『大変』って言ったの俺だけど、それ酷くね?」

 

 

 

 いや、あの篠ノ之箒だぞ?男より漢らしい瞬間を垣間見せる彼女が、恋愛ドラマにのめり込むなんてあるのか?オランジュが教育テレビをガン見するようなもんだ…。

 

 

 

「まるで箒が恋愛ごとに興味無い女みたいに言うなよ…彼女、一応恋する乙女だぞ?」

 

 

「それは嫌と言うほど分かってる。けどな、彼女はああいう“普通の愛情表現”は苦手だろ…」

 

 

 

 殆ど嫉妬やヤキモチによる肉体言語しかみたことないぞ、俺は。たま~に弁当や御飯作って一夏に渡してるところは見るが、やっぱりアプローチの仕方が少々物騒なものばかりな気がする…。

 

 しかも、いざベタな恋愛シチュエーションに遭遇したら、嬉しさより羞恥が勝っていつもの天邪鬼精神が二割増しになる始末だ。

 

 

 

「しかしよう…聴いた話によると、臨海実習の時に一夏と何かあったらしいぜ…?」

 

 

「一夏が死に掛けたって奴以外で?」

 

 

「互いにキスしそうになったらしい」

 

 

「マ・ジ・で・か!?」

 

 

「マ・ジ・だ」

 

 

 

 

 あの唐変木がキスされそうになったのでなく、互いにしそうになっただと!?今日はミサイルでも降ってくるんじゃないのか!?

 

 

 

「つまり、最近の彼女は以前より乙女らしさを求めても不思議ではないということだ!!」

 

 

「ナ、ナンダッテー!?」

 

 

「ネタで返事すんな」

 

 

 

 これは予想外だ。一夏と彼女らのやり取りが妬ましいのは確かだが、同時にこいつらの恋の行方が気になっているのも本音だったりする。そんで本人には悪いが、箒は多分幼馴染より先に進展できはしないだろうとか思っていたんだがな…。

 

 …あ、何か悪寒がしてきた……超凶悪な兎に睨まれたような…

 

 

 

「……あれ…?」

 

 

「どうした、セイス?」

 

 

「お前は箒のソレに納得してるみたいだけど、何で『大変』とか言ったんだ…?」

 

 

「あぁ、それはな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――彼女が一夏を自分の部屋に引きずり込んだからだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらねぇもん見せてないで先にそれを言えこの馬鹿!!」

 

 

「ばいあらんッ!?」

 

 

 

 俺はオランジュの脳天に一撃喰らわせ、即座にコンピューターをセッティングし直して箒の部屋の盗聴器を起動させるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『いったい、どうしたんだよ箒。朝から部屋に呼び出して…』

 

 

『う、うむ…少し、頼みごとがあってな……』

 

 

 

 現在、時計は10時を過ぎた頃。大抵の人間が暇になるような時間帯であり、寮内も全体的に静かである。彼女の同居人である鷹月さんは実家に帰っているらしい。

 

 つまり、実質この辺り一帯は一夏と箒の二人きりの空間と言っても差支えがない…。  

 

 

 

「ふぅむ、てっきり襲う気なのかと思ったけど違うのか…」

 

 

「いやいや流石にそれは無いって…!!」

 

 

 

 分からんぞ?一夏の周りに居るのは全員可愛い顔した超肉食系少女ばかりなのだから。一夏の理性よりも、彼女らの我慢が臨界点突破する方が確実に先だとおもうがね…。

 

 

 

「ていうか、何でそんなに真剣なんだよ?実際、二人がヤったところで何か問題でもあるのか?……個人的に一夏を殺したくなる要因が増えるがよ…」

 

 

「いやいやいやいや滅茶苦茶問題あるからな?」

 

 

 

 “世界唯一の存在”というものは、望む望まざるに関係なく世界の中心になる。どんな些細なことでさえ、そんな存在がとった行動は自然と世界を巻き込みかねない規模になるものだ。

 

 現に世界最強という唯一無二の存在の唯一の肉親だからこそ、織斑一夏という人間はうちの組織や諸国の暗部に目を着けられる羽目になったのだから。

 

 

 

「世界最強の弟と天災の妹がくっついたとして、世界中のあらゆる組織がお前みたいに『へぇ、そうなんんだ~』で済ませると思うか?下手をすれば『織斑』と『篠ノ之』、どちらか一方に関わろうとすれば十中八九もう一方と関わらなければならなくなるんだぞ?」

 

 

「…それは、嫌だな」

 

 

 

 『織斑』との繋がりだけを持った者達は『篠ノ之』との繋がりを、『篠ノ之』との繋がりだけを持った者達は『織斑』との繋がりを新たに手に入れる。そうやって関わる人間を増やしながら、世界を巻き込む渦はその規模を大きくしていくのだ。

 

 もっとも、これは篠ノ之に限った話では無いけどな…。

 

 

 

「ま、今の彼女の口調からしてそういうのは無いみたいだから、特に気にするようなことは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一夏、付き合ってくれ!!』

 

 

「「『…はい?』」」

 

 

 

 

 はっはっは…またフラグだったか今のセリフこん畜生おおおぉぉぉ!!もう、呪いレベルだろ俺の死亡フラグ!!いっそ喋るのやめてやろうか!?

 

 

 

 

 

『付き合えって…何処に出掛けるんだ……?』

 

 

 

 

 

 

 この後に及んでそれだけは無いだろう、一夏よ……お前の事を好いている人間が、二人きりの部屋で『付き合え』って言ったらそれの意味することは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、私の修行に付き合え!!』

 

 

 

 

 

 

 そうそう、修行に決まって………おい、ちょっと待てや武士娘…

 

 

 

 


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