千雨は凡人(ただ)の女子中学生です   作:おーり

6 / 20
連続投稿ですが……、
前話は遊びすぎましたので、読まなくっても多分平気です


幼女千雨、公式バグと邂逅する

 

 

「――と、蘭子ちゃんの出身である熊本へと里帰りも兼ねて夏休みの小旅行と洒落込んでいたお二人と別れた後は、種ヶ島へ赴いてロケットにて火星まで出発ですよ。コメットブラスターというお人らにはお世話になりました……」

「………………もう、おなか一杯なんですけど……!?」

 

 

 遠い目をしながらこれまでの経緯を語られたのはいいが、あまりにもアクロバティックな行程に思わず瞳を伏せて絶句してしまう。

 ……6号にもうちょっと優しくしてやれよ烏丸ぁ!

 

 原作通り、と書けば聞こえは良いように見えるから不思議なのだが、お尋ね者扱いをされてしまうこととなったアタシら麻帆良一行は身の振りを選択せざるを得なくなった。

 とはいうものの、元より目的地でもあったアリアドネーに用がある者もいることなので、そちらはそちらでまた後ほどばらける予定でもある。

 暇となってしまった残る薬味教師・黄昏の姫御子・半デコ微百合剣士・恋愛スナイパー・麻帆良のピーピングトム・ニート予備軍のアタシらは日本へ帰るための情報収集係として活動開始だ。はっきり言って目立つこと間違いなしなのだろうがそこはそれ、原作の通りに年齢詐称薬と認識阻害の合わせ技でちょちょいのちょい、と。

 今ここに、魔法幼女ちうたんが爆誕した……!

 ――そこ、変なの生まれたとか言わない。

 

 アリアドネーは聞いた話だと、学ぶ意欲があるものならば犯罪者も受け入れる、とか言っていた気がするので匿ってもらえば一番安全な方針なのかもしれないが、学ぶ意思自体がありそうなのは綾瀬程度なので事案は却下。アタシらは其処まで魔法界に沈着する気は無いのである。

 そして薬味教師もまた年齢詐称をやって身を隠す、のかと思いきや。……どうやら以前に魔法界に来た時に本名を大人Verの姿で名乗ってしまっていたらしく、そちらはそちらで却下となっていた。

 いったいどんな姿になるつもりなのだろうかー。

 

 

「見てください長谷川さん! これなら僕だってばれませんよね!」

 

「ああ、そうだな。それじゃあアタシらと十メートルくらい離れて移動してくれるか」

 

「何でですか!?」

 

 

 なんでも何もないわ。

 出てきた姿が、正直目立ちすぎてどう仕様もない。

 ピンクのモヒカン、ぼろぼろのメタルジャケットでガッツリ開いた胸元、極めつけはとんがったサングラス。

 幼い少女の傍に居れば、即座に警備兵へと通報が行きそうな格好で。

 薬味教師は大人Verとなって路地裏より現れたのだった。帰れ。むしろ土へ還れ。

 

 

「綾瀬はどういうチョイスをしたんだよ……!?」

 

 

 コーディネイト担当のデコ娘に物申したい。

 お前の仮契約相手だろうに、この有様はどういう了見なんだよ!?と……っ!

 

 

「ネギ先生の大人Ver、正直無駄にカッコいいのですよ。あんなイケメンでは認識阻害も働きかねますので、いっそのこと絶対的に声をかけられない姿を目指してみたらこうなりました」

「別の意味で声かけられるぞ。日本なら特に」

 

 

 警察とのエンカウント率が無意味に高そうな装備を、これでもかとチョイスしやがる。表に出て数歩で職質待ったナシ!なのは確実だ。

 ちなみに、アタシ以外の情報収集係は真っ先に狙われているこの薬味教師との同行をさり気に拒否していた。

 ねぎーん……(´・ω・`)という表情をしていたアイツを哀れに思って同行することを承諾した、数分前のアタシを全力で食い止めたい。そんな後悔で歩き出す一時間。

 

 ……とはいうものの、そう簡単に情報が集まるとは思えねーんだよなぁ……。

 もうしばらくはグラニクスに滞在する覚悟を決めておいた方がいいのかもしれない……。

 

 

「あ。それはそうと、6号、お前も烏丸も宇宙飛行士訓練なんて積んでなかったよな? 時間的にも無理があるだろうし」

「ああ、はい。そうですねぇ……」

「……それでよくガチの宇宙空間を突破してこれたな……」

「あ、そこですか。そっちは件の柊さんからの餞別品に『理不尽の祝福≪メダル・オブ・ジャスティス≫』というものがあったらしくてですね、装備中は本人が認識できない害的影響を全て遮断してくれていたみたいで」

「なんだ、そのチートアイテム……?」

 

 

 まあ大気圏突入の際に自壊したんですけどね、と付け加えられたが、そんなものを引き寄せられる時点で可笑しいのは確実だ。

 やはり最大の原作破壊者は烏丸なのではなかろうか、と改めて思った。

 オノレデ●ケイドぉ……(棒)。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 まあ、こうなったのは当然かもしれない。

 町に根付いて一週間が経過した。

 その間に得られた情報は少なくはないが、やはり真新しいものがないというのもどうしようもない。

 

 1、世界各地の11のゲートは全て不通状態。完全復旧までに2・3年かかるので、そちらを期待していては夏休み中の帰宅は不可能。

 2、唯一破壊されていないであろうゲートは廃都市オスティアに残されたものくらいだが、オスティアは街自体が無人のために普段は進入禁止。其処へ赴くためには一ヶ月後の終戦記念祭に足並みを揃える必要性がある。

 3、但し、遊んでいたのでは所持金は減る一方。旅費と生活費を得るためには、足がつく恐れのある旧世界通貨との換金を選択できないので、働かなくてはならない。

 

 以上の3つが纏められた情報なのだが……。

 見た目幼女のアタシらをそう簡単に雇うような店はそうそうないし、むしろあった方が警戒心は掻き立てられる。何の怪しい店なのか、とか。こう、18禁な不穏な警戒を。

 年齢詐称薬自体は高い代物だが、6号のご厚意に肖っている状態なのでそっちに関しては心配はしていない。だがそれ以外も世話になるわけにいかないのは、真っ当な心意気を持つ学生としては心苦しいにも程があるのだろう。いや、アタシは原因此奴だから、気にしないけど。

 ともあれ、3についてはとっくに解決はしていた。

 

 

『――強いっ! 強すぎるぞニューフェイスっ! 奇抜な見た目とは裏腹に、本日も快勝を決めたのはハルハラ・ヤクミ選手! 1対2というハンデもものともせず! 新人拳闘士これで余裕の15連勝だーーーっ!』

 

 

 原作の通りに、薬味教師は拳闘士となって旅費&生活費を稼いでいた。

 但し、ピンクのモヒカンスタイルのままに。

 ……これだけは原作通りとは言い難いかなぁー……。

 

 

『ヒーローインタビューです! ハルハラ選手、何か一言お願いします!』

『相手が弱すぎるザーンス! もっと強い相手との対戦を臨むでザーンスよー!』

『はいありがとうございましたー!』

 

 

 うん。見て分かったと思うけど、調子に乗ってるんだ、あの餓鬼。

 いや、キャラクターを作らなくっちゃいけないのはわかるけれどもさ、もうちょっと灰汁の薄いキャラにしてほしかったなぁ、って。

 

 まあ、何はともかく。

 『原作』みたいに莫大な金額が必要なわけでも、急を要する強さが必要なわけでもない。

 筆頭戦闘要員がピンクのモヒカン一人なのは心許無いように見えるが、表立って戦う必要性があるのがアイツだけってだけでそれ以外の戦力もしっかりといるのだし。

 剣士とスナイパーという護衛が2人もいれば、そうそう危機的な状況に身を落とすこともないだろう。

 

 そう、楽観していたわけだけど、

 

 

「ほほぅ……、なかなか面白そうな奴が現れたじゃねーか……」

 

 

 ……アタシの隣の観客席に、フードを被った大柄な男性がいるんだけど……、『コレ』ジャック=ラカンじゃね?

 如何にも怪しい風体で、不穏な台詞を吐いてしまっていたので、幼女なアタシが思わず見上げるように眺めてしまったのだけれど。

 幼女なお蔭で筋肉達磨ご本人からは唯の子供だと思われていそうだ。

 多分だけど、モブキャラ化したアタシをスルー状態。

 それは気にはしないけど、見上げた時にフードの下の顔をバッチリ見てしまったので99%確定の特定情報なわけだが……あれ?

 

 ……考えてみればアタシって相手にかかっている認識阻害を無効化する体質だったのだから、別の誰かがアタシらのように認識阻害アイテムを使っていても見破れるっている特性持ちなんだよな……。

 ――しくった! グラニクスからアタシこそ撤退しておくべきだった……!

 お尋ね者が普通に闊歩できる街だって、現在進行形で追われているアタシらが一番身に染みてるんじゃねーか! こんな他人の秘匿個人情報を一発で見破れる女が街をうろうろしている、なんてことがばれた日には狙われる要因が更に増えるだけじゃねーかよっ!

 なんで今それに気づいちまったかなぁぁぁっ!?

 

 

「――アン? どうしたお嬢ちゃん、両手で顔を覆って仰け反って……賭けにでも負けたか?」

「っ、いえいえそんなお気になさらず。ちょっと録画予約忘れていただけですから」

「そ、そうか?」

 

 

 あれ、咄嗟に取り繕ったけど、この世界にビデオとかDVDとかって常備されてるのか?

 筋肉達磨に、少しだけ引かれたような反応が返されたのが若干不満だ。

 あと幼女が賭け事に手を出すかとか、そんな思考回路ができる駄目な大人が生理的に嫌だ。

 

 そんな不満はひた隠しに、改めて闘技場へと視線を落とすと、――薬味教師と目が合った。

 

 

『ちう殿~! 今日も勝ったザンスよ~!』

 

 

 ちょ、アンタバカぁっ!?

 よりによって今声をかけるんじゃねーよ!?

 

 全力でもってアタシの本能が警鐘を鳴らし、駆け巡る嫌な予感にすぐ横の筋肉を見上げると……、

 

 

「……ほぉう、お嬢ちゃんあのピンクモヒカンと知り合いかぁ。……なあ、ちょいと頼まれちゃくんねーか?」

 

 

 ほらー、嫌な人に目をつけられちゃったじゃねーかよー……。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「いよぉーう、待ってたぜハルハラ・ヤクミ。お前がネギだったとはなぁ」

「………………えっ」

 

 

 夕方、路地裏の安宿へと帰ってきた子供の姿の薬味教師は、同室にて茶を啜る筋肉達磨の姿に絶句していた。

 まあ、無理もねーよな。

 

 最初に頼まれたのは、戦闘からして本気でやっているように見えなかったピンクのモヒカンが、不完全燃焼っぽいと見越しての本人の野生の勘に則ったらしい口利きだった。のだが、恐らくは溜め込んだ賞金を巻き上げるために、鍛えてやるとかそんな名目で近づいてきたんじゃないか、と神楽坂に速攻で見破られていた。

 あまりにもうざかった帰りの道中についてきた筋肉達磨を、もうボカロガールのパラダイスソングで吹っ飛ばそうかと思っていたところでの劇的な2人の再会であったのだけれども、初見でその腹積もりだと思われるくらいの信用度とかって正直どうなんだラカンのおっさん。

 その上で、龍宮の「この人が私たちを売り飛ばさないと、本当に信用できるのか?」という問いに対しては、問題ないだろう、という程度の信用性。

 ……魔法界の英雄らの思考回路は、ちょっと理解出来んわ。

 というか、神楽坂の記憶が戻っていることに関しては普通に驚いていた。あと同行している6号の存在にも。

 

 更に極めつけは、6号が連れてきてパージした魔法世界の危機を誘発するであろう核兵器級の危険人物。

 そう、烏丸が『完全なる世界』と手を組んでいる可能性である。

 仲間内では何処まで語っていいものか判別が付き辛いので、今はまだアタシと神楽坂の内に留めている情報なのだけど、やはり判断を下すには他の意見も要るだろう、と考えておっさんにも伝えてみた。

 6号を捕まえて人質交換、などという意見が出されたが、そもそも人質としての価値が組織間でどんな風に天秤が傾くのかが不明なので、アタシと神楽坂より却下される。

 

 あとついでにアタシらの賞金首をどうにか取り下げるお友達とかがメガロにいないものか、とも尋ねてみる。

 要求と相談の多さに、ついにキレられた。

 いや、キレたというよりは放棄に近いけど。

 

 

「目標は一ヶ月後にオスティアで開催されるナギ・スプリングフィールド杯だ! 俺のパートナーとして出るからには無様な戦い方は晒しちゃなんねー! 出場権獲得するまで勝ちまくれ! そんでその合間に鍛えてやるからもっと強くなりやがれ!」

「えっ、ちょっ、初耳なんですけどっ!?」

 

 

 難しいことはわかんねーっ!!!とさじを投げたおっさんであったけど、己が脳筋であることは自覚しているらしく6号についても烏丸についても一旦放置とすることと決めたらしい。

 その上で、より良い判断のできそうな奴らに声をかけてやる、とも案件自体は請け負った様子も見せるのだから、腐っても英雄といったところか。

 正直「魔法世界の危機?そんなの関係ねーな!」ってバックれられるかとも思ったけど、其処で完全に見捨てられるほどのクズではなかったらしい。

 見捨てたら見捨てたで、年相応の女子中学生を見知らぬ世界で切り捨てられるクズ野郎、とレッテル貼ってマホネットにて情報拡散攻撃仕掛けてやろうとしていたので、そんな手に出る必要性がなくなって一安心である。

 

 そして溜め込んだ1銭の得にもならなそうな案件のストレス解消を、薬味教師の修業で晴らそう、という腹積もりかもしれない。

 がんばれネギ先生。

 負けるなネギ先生。

 苦しみの果てに約束された明日があるさ。

 

 




~コメットブラスター
 地球に衝突する可能性のある隕石を撃墜する、美少女たちで構成されているロケット乗り

~ねぎーん(´・ω・`)
 ねぎーんやくみさん、とかいう電波が突如俺の脳内を席巻した
 『あのまま』の絵コンテでそのままの会話をする明日菜とデフォルメネギが違和感なくて草不可避
 とりあえず俺は主題歌唄うわメードーメードーメードノミヤゲーレキシーヌリカエタラソーシューヘンッえ?なんか違う?マジでか

~ピンクのモヒカン
 お前何処かで見たことあるぞwww

~理不尽の祝福≪メダル・オブ・ジャスティス≫
 コインの形のお守り。所持しているだけで本人が認識しない害的ダメージを無効化する。RPG的に言えば持ってるだけでトラマナ系が働く『やくそう』的な消耗品



幼女ちう来た!ラカン来た!
これで勝てる!
誰に?烏丸だよ!
多分重要度の割合はちうが8割切ってるけれども

あと前回さらりと造物主ぶっころ宣言している烏丸のことまでは6号たん語っていません。行程と経緯のみで要約したお話をしたので、魔女云々はともかく烏丸のやろうとしていることについては未だオフレコのままです
この齟齬が後々生きる。そんな二次を私は書きたい
ではまた次回

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。