千雨は凡人(ただ)の女子中学生です   作:おーり

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プロローグみたいな話を終えたのでそろそろ本編開始
色々判明する第4話


女子中学生ちう、ツッコミを放棄する

 

『超々超音波振動子≪パラダイス・ソング≫!!!』

 

 

 10mくらいの虎とドラゴンを掛け合わせたような猛獣が、実体化した電子精霊のジャイアンボイスで吹っ飛ばされる。

 それを命じたアタシとしては、己の身を守るためだけとはいえ過剰すぎる防衛力を発揮するたびに、ポケモントレーナーかモンスターマスターにでもなったかのような錯覚すら覚える始末だ。

 というか、もう熱帯雨林を歩き出して三日くらいは経っているはずなのに、スマホの電源が未だに切れない。

 実体化するとか言う離れ業も披露しているのに元気過ぎるこのボーカロイドもどきは、一向に大人しくなる様子を見せやしなかった。

 

 

『はーっはっはーっ! 拙い! 脆い! 相手にならない! こんなもんか魔法生物! 脆弱すぎるっすよ魔法世界! 我が輩の兵装は世界一ィッ!』

 

 

 勝利の舞を踊りキメ台詞と決めポーズと挑発と、と特盛りすぎて胃凭れしそうなくらいにキャラ崩壊し調子に乗るプログラムっ娘をスマホへと仕舞う。煩ぇ。

 つーか、お前どういう武装を積んでやがる。

 電子プログラムの癖して、ファンタジー世界のサバイバルを人間様より役立つとかって。

 もっと人を立てろよ。三原則にこれも入れろよ。もう少し朝倉の気持ちも酌んでやれよ。

 

 

「そこで私に向けられる哀れみの視線はなんなのかなぁ!?」

「いや、別にたいした意味はねーさ。うん」

 

 

 物陰にて避難していた非戦闘員数名の中から、パイナップル頭が抜き出ていた。

 うんうん、なんでもねーよ役立たずめ。

 

 現実世界はイスタンブールのゲートを通り、メガロメセンブリアに全く寄り付かないままにケルベラス大樹林を踏破中のアタシたち。

 さっきも思い返したとおり、もう三日もキャンプ中であるのには、現在お尋ね者真っ最中というあんまり表沙汰にしたくない理由(わけ)がある。

 しかし、その理由自体は薬味教師の個人的な裁量しかないわけだからそのまま表に出ても問題はなさそうなのであるけど、最初の時点で一緒に逃走してしまったのは痛かった。

 正直、魔法具の圧縮封印が解けて密航がばれたネギ先生を見捨て警備兵に突き出して、アタシ達は一足早くにアリアドネーで釈放待ちをしておけば良かった。と思わなくもない。

 

 イスタンブールのゲートはゼフィーリアという原作では名称しか出ない国に繋がっていたわけだが、逃走の果てにアリアドネーとは逆方向へと追い立てられ、追い詰められた先は海岸沿い。

 荒波が押し寄せる崖へと追い立てられたときは、何処の二時間ドラマの推理シーンかと悪態もつきたくなった。別に突き落とされたわけではないけれど。

 漁船に密航して海へと逃げ、逃走経路を追跡されないようにエリジウム大陸傍まで来たところから海へと脱出し、ケルベラス大樹林から浮上して陸路へ。テロに巻き込まれたわけでもないはずなのに、原作のようにグラニクスを目指している、というのがこの三日の経緯であったりする。

 これが修正力かと思うと泣きたくなるので、考えないようにはしているけれど。

 

 

「……どうしたよ?」

「いえ、なんだか長谷川さんが遠い目をしていたので気になりまして」

「別に……、ちょっと思い返していただけだ……」

 

 

 綾瀬のもの言いたげな視線に、少々やさぐれ気味に返事をする。

 ちなみに戦闘面での対応は大体がアタシか龍宮が主力を担っており、猛獣に襲われたときはいちいち詠唱というか始動キーが必要な魔法使いの面々より前に、狙撃とかで対処できる基本1ターンキル。

 先制攻撃を任せられっぱなしのお陰で、薬味教師の「守ります」発言が実行されたことは終ぞ無いのが現状だ。

 仕事してくれよ、薬味先生……。

 

 

「ところで、そろそろ聞いてみてもかまいませんか?」

「あ? 何だ?」

「長谷川さんです。正直、魔法世界にわざわざ己の脚で参上するにしては、長谷川さんにこそ理由が無いように思えたので……」

「それはさっきも見たろ、あのスマホガールの詳細を問い詰めるためだよ。一言製造元に文句言ってやらなきゃ気がすまねぇからな」

「それは聞きましたけど……、やはり長谷川さんが此処まで移動する理由にしては少し弱すぎる気がするのです。……何か隠してませんか?」

「隠してねーっての」

 

 

 平気な顔で嘘を吐く。

 一応、神楽坂に無理言って連れてこられた体もあるにはあるけれど、それ以外の理由もキチンとある。

 でも荒唐無稽な原作知識を基に推移した本音の部分だし、普通に他人には話せない内容なんだよなぁ……。

 

 原作を知るアタシからすれば、下手にテロに巻き込まれる恐れのある旅行に付いてゆかず、麻帆良でのほほんと夏休みを謳歌するのも選択肢にはあった。

 だが、よく考えてみると、それは果たして本当に安全な選択肢なのか?という疑問が浮かんだ。

 まかり間違って『原作の通り』に“物語”が進んだとしよう。

 その場合、『アタシ』という『ネギ先生』に相応の助言とサポートを施せるキャラクターは、果たして誰になるのだろうか?

 もしも(IF)そんなキャラクターが、アタシ以外に互換し得なかったら。

 そうなれば『ネギ先生』の旅は“お仕舞い”だ。

 クラスメイトの大半は麻帆良へ帰ってくることは出来ず、『裏側を知っている』アタシは後の人生に大きな後悔をずっと引き摺る羽目になる。

 

 また、アタシの『替わり』がその旅に存在し得たとしよう。

 喩えるならば二次創作にあった『ネギの妹』みたいな立場の、原作知識を知り、物事の認識がしっかり出来、力にならなくとも正しい助言を『ネギ』へと与えられる立場の人間だ。

 多分、烏丸がこの世界線では『それ』に一番近い。アイツが『原作』を知っているのかどうか、それ以前に『本物の転生者』じゃねーとは思うけれども、準拠した正史の流れってやつが『原作側』にあるんならアイツこそが最大のイレギュラーだ。

 まあ、実際に漫画にあったみたいな『流れ』になったらしき部分はそうそうないだろうから、「この世界が漫画だ」なんてバカなことを言うつもりはないけど。安心院さんとは呼ぶんじゃねーぞ?

 話が反れたけど、要するにそういう立場の『お助けキャラ』が旅に付いていったとすれば、アタシが付いて行く意味も当然無い。

 が、現状は件のお助けキャラが敵側(憶測)に寝返って魔法世界は大ピンチ。それを知るのはアタシらだけなのだろうけど、やはり何某かの対処を取っておかないと寝覚めがすこぶる悪すぎる……!

 つまりはそんな理由だ。

 平凡なただの女子中学生に何が出来るかというわけではなかろうけれども、手を出す相手が男子中学生ならばなんとかなるかもしれない。とか、そんなそこはかとない若干の下心もあるにはある。究極的に突き詰めてしまえば『それ』でしかないのだ。

 

 ……まあ、夏休み最終日に『原作』みたいに『悪魔』が襲撃噛ましてきて、巻き込まれる恐れがあるかもしれないから退避しておいた。っていう理由もあるにはあるけど……。

 いや、だって麻帆良祭時には簡易魔法アイテムも配布してなかったし、学祭の焼き直しみたいに麻帆良の生徒連中が立ち上がって対処に周る、っていうルートが少しばかり薄弱だし。

 それ以前に脱げビームとか相手したくないのは、健全な女子中学生ならば当然の忌避だと思われるのだけれど如何なものか。

 あと『人間を襲わない』って言う設定を悪魔が守れども、ずんどこ破壊されていた家屋なんかは対象外らしいから、その倒壊に巻き込まれてお陀仏な可能性からも逃げ出したって言うのも本音。

 避難訓練ならまだしも、リアル災害遭遇は簡便な!

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 そんな益体も無い本音で思考が反れていたのが五日前。

 アタシらは、ようやくグラニクスへと到着していた。

 

 獣人とか妖精とか亜人とか、ファンタジーな見た目とは裏腹にきちんと生きてるご連中の、はっきりとした現実的(リアル)な世界。

 生きるものは日々の糧を得なくてはならず、物事の道理を循環させるには相応の物資や、秩序の規定も必要になってくる。

 しかして、人間はパンのみで生きられるわけではない。娯楽も当然必要である。

 まあ、要するに――、

 

 

「「「「肉だーーーっ!!!」」」」

 

 

 雑草食にいい加減飽き飽きしていたアタシらは、誰が叫んだのか定かではないが真っ先に近隣の定食屋へと突貫して行った。

 すげーよベジタリアン。

 尊敬するよベジタリアン。

 野菜だけで生きていられるって豪語できるあいつらは多分修行僧。

 アタシらには当然ながら無理だったね。欲望に忠実な女子中学生ですからー。

 

 

『そんなことよりお嬢、付近にマスターの反応があるっすよ?』

「――は?」

 

 

 一週間を超過した久方振りすぎる肉の味を噛み締めていると、スマホガールが突然そんなことを呟いた。

 ちなみに名前はまだ無い。つけろつけろと煩いが、そもそもアタシに命名センスは無いんだよ。

 それでも必要っていうなら、と選択肢に挙げたのが「綾崎ハーマイオニー」か「初音みく」か「昆布」。当然どれもNo thank you されたが。

 

 そんなことよりもこいつ今なんて言った?

 烏丸がいるのか? この町に?

 ……なんでグラニクスにいるんだ、あいつ。

 

 

「とりあえず、遠いのか?」

『んにゃ、近づいてきてるっすねー。私たちがいること知ってるんじゃないっすかね?』

「……有り得るな」

 

 

 他人のパソコンにスパム宜しくこんな玩具を放り込む神経の奴ならば、居場所の把握程度なら不可能じゃない気がしてきた。

 ちなみにアタシの荷物にパコソンは無い。ネットも繋がらない別世界には、当然ながら要らないもの筆頭だ、と自室へ置き去りにされている。

 

 

「……とりあえず飯を食おう。あいつの対処はそれからでも遅くない」

「それでいいのですか」

「いいんだよ。腹が減っては戦はできぬ、ってな」

「ああ、サムライの格言でしたね。あとはハラキリとセップクが。京都では終ぞ見せてもらえませんでしたが」

「誰に頼んだんだよ……」

「当然サムライマスターですよ。寄る年波には勝てないということなのでしょうね」

「いや、そういう話じゃないと、」

 

 

 応えながら、会話をしていた隣の席の『誰か』に目を向けて、

 アタシは間違いなく、固まった。

 

 

「どうも。お久しぶりです皆さん」

 

「――6号!?」

 

「「「「――ええっ!?」」」」

 

 

 驚き叫んでしまったアタシに、皆が遅れて反応し、

 

 

『――あ、マスター♪』

「「「えええええええっ!?」」」

 

 

 スマホガールの一言で、場は更に混乱した。

 ――っつーかお前の“マスター”って烏丸のことじゃ無かったのかよッ!?

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――いえ、別にもうお帰りいただいても結構なんですよ」

「おい」

 

 

 別に『完全なる世界』のことは神楽坂とアタシ以外には教えてはいない。が、麻帆良からは若干危険視されている烏丸を魔法界へと引っ張った張本人であるわけだから、大概の魔法生徒一行である高音さんとかからは6号自体が少しだけ警戒に値する認識であるらしい。

 そんなわけでわずかながらも警戒も露な対応をされた6号だったのであるが、その前に食事をどうぞと促される。そんな席での会話である。

 

 

「そらさんに手助けをお願いしたのは確かなのですが、“黄昏の姫御子”が居なくても術式の構成が出来上がってしまいましたので。念のためにこちらへ来るように、と用意していた『彼女』だったのですが」

「なんだその迷惑すぎる伏線……」

「そらさんのスペックを正直舐めてました。無駄手間でしたね、お互いに」

 

 

 ――本当にな。

 要するに、スマホガールを仕込んだのは6号で、狙いはアタシではなく神楽坂を魔法世界へと引き込むためのもの。

 落とすために本人ではなくてその周囲を狙う辺りは実に周到なのだが、それに見事に引っかかったアタシが馬鹿を見たみたいで実に憤慨する。

 しかし、その必要も無いってことは、烏丸が完全なる世界に必要すぎる人材であったということが如実に雄弁に語られているわけで。

 

 ……これ、間違いなくこの世界詰んでるよな……。

 ちなみに此処までの件(くだり)は魔法世界的にもとっぷしぃくれっとに属するわけだから、元より烏丸本人に用事が無かった面々であるアタシと神楽坂以外には聞かせられていない。聞かせられるかこんなハナシ。

 え?薬味教師?

 ――論外だろ。

 

 

「……あー、じゃあ、アタシらはとっとと帰るか。なんかもう付き合っていられんわ」

「やさぐれないでよ千雨ちゃん……」

 

 

 やさぐれたくもなるわ。

 なんなんだよ烏丸は。黄昏の姫御子って血筋とか体質とか、そんな換えようのない希少特性じゃなかったのかよ。換わりになるような“何か”を簡単に用意できるんじゃ、確かに神楽坂も要らんわな。

 でもその説明なしに6号の暗躍を萌芽させた時点で超ギルティ。帰ってきたら覚えてやがれよ、と食事をしながら帰宅の決意を顕にしたアタシである。

 

 

「もう魔法世界がどうなろうと無視しようぜ。アタシ等は知らなかった。それでいいじゃねーか」

「いやさすがにそれは……。っていうか、このままリライトが発動したら色々な人たちが火星に投げ出されるんじゃ……」

「それをどうにかするだけの仕込みくらい烏丸ならしてるんじゃねーの? 心配するだけ無駄な気がしてきたよ、アタシは」

 

 

 もうな。なんつーか安定すぎる。

 安心できない安定感って、ほんとなんなんだろうな。

 

 

「とりあえず、あいつらにも話して来ようぜ。魔法世界の危機だから早いとこ逃げておこうって」

「え、もうそれで決定なの?」

 

 

 うろたえる神楽坂だが、アタシの決意はそれなりに固い。

 こんなところにいられるか、アタシはもう帰るんだ。

 

 決意を揺すられぬ内に席を立ち、少しだけ離れた席で食事をしている彼女らの元へと足を運ぶ。

 すると、

 

 

「おーい、これからのことなんだけど――」

 

「あっ、長谷川さん大変です!」

 

 

 薬味教師が興奮した様子で、真っ先に立ち上がった。

 お、おう?どうした?

 

 

「と、とりあえずテレビ! あれ見てください!」

 

 

 促されるままに、食事所に備え付けのテレビのようなスクリーンのような、そんな代物へと目線を向ける。

 あれ、なんか嫌な予感が――、

 

 

『――繰り返します。先日世界各所で起こったゲートポート魔力暴走事件において、事件の実行犯との容疑がかけられている少年の容姿が発表されました。メセンブリア当局は見た目10歳ほどとされるこちらの人間の少年に懸賞金をかけ、国際指名手配として追跡すると――』

 

 

 聞き覚えのない事件が発表されて、件の犯人候補筆頭としてテレビに映し出されたのは、間違いなく我らが薬味教師その人で……。

 

 

「「「「「「「「………………」」」」」」」」

「………………ネギ先生、いつの間にテロリストになったんですか……?」

「………………いや違いますよ!? 僕身に覚えなんて欠片も無いですよ!?」

 

 

 誰もが黙して押し黙ったテーブルに思わず、小粋なジョークで小技を掛ければ即座に飛び出す薬味のツッコミ。

 打てば轟く軽快な打音もテンポが悪く、その分軽く現実逃避していたのだろうなぁということは容易に想像できる。

 まあそれも仕方のないことと思われるけれど。

 

 ……つーかちょっと待て?

 ゲートポート魔力暴走事件って、要するに『原作』でもあった旧世界とのゲートでのテロ事件のことだよな……?

 アタシらは遭遇しなかったけれど、アレが今起こっているということは……。

 

 そんな推理が確信に変わりかけた頃、背後からぽんと肩を軽く叩かれ、

 振り向けば6号が、心なしか残念そうな表情で、

 

 

「――どうやら、帰宅もままならない状況になってしまったみたいですね……」

 

 

 ……そんな、医者が余命を宣告するような沈痛な面持ちで、

 

 

「残念ですけれど、この先皆さんの旅は非情に容赦のないものと相成るかと思われます」

 

 

 ものの見事にご臨終宣言を下してくれた。

 ……余計なお世話だよ馬鹿野郎……!

 

 




~超々超音波振動子≪パラダイス・ソング≫
 某天使的人造人間ロリっ娘枠の必殺兵装
 表記した通り、破壊力はボエーなガキ大将に匹敵するらしい

~ガールズ・アグレッシブ・フロンタリス
 判明したスマホガールの実態にて、実は6号のスタンド。ちなみにフロンタリスはラテン語で、前頭葉を意味する。そんなことよりマカロン食べたい
 対象に取り憑いて延々と“死に向かわせる”性質を持ち、取り付いている限りは死ぬことが決して訪れない生命力持続型の完全独立自立機動型スタンド。スマホの死を電力的な意味合いで捕らえたのか、お陰で生き延びていた電池が未だ活動中なのはコレが原因
 取り憑いた対象からデータを引き出して己の技とする能力もあるらしい。パラソンのデータはちうのパソコンに入っていたアニメが元

~だからネギになんの恨みがry
 理由はあります。後々に判明予定

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