――結局、私が出娑婆ったことは碌な意味も無く、端から端まで私という個人は傍観者でしか居られなかったらしい。
魔法世界が壊滅したあの日、それと同時にこの世界から【魔法】が消えた。
明確には、【魔法】と『呼ばれていた技術』だ。
現にあの日以来、捻れて二・三十周りくらい縮小した世界樹の番人としてやって来た【魔女】『イリシャ・リーバス』さんなんかは、未だに【魔女】としての実績を残したままだ。
麻帆良に元からいた魔法先生や魔法生徒なんかは、今迄使えていた『魔法』を扱う為の『魔力』が消失したことも相俟って、少し裏の事情を知ってしまっただけのちょっとだけ強めの一般人でしかなくなっている。
烏丸曰く、「要するに、この世界に蔓延っていた魔力素って奴が元々『造物主』の異能の派生なんだよ。それが大元になってるから、学術としての側面より親和性の方が『魔法使いとして』の性能に肖る」とかなんとか。
まあ、自分の能力の領域を世界中にまで蔓延らせた、って言われてその壮大な説には驚愕したが、考えて見れば『始まりの魔法使い』とかって呼ばれている時点で怪しい点はあったしな。
始祖としての立ち位置が在るのは兎も角、それが単機で成立する時点で才能云々以前になんらかの裏を想定しちまうのは仕方がないだろうし。
ちなみにそんな世界的飽和現象を引き起こした烏丸自身はその例に則らないらしいが。
なんでも、自分自身の中で元からあった『魔力』に似た『何らか』を魔法の大元として使用していたらしく、性能の疑似性故に違うモノだと今まで気づかなかったらしい。
まあ、古菲とか桜咲なんかの元から【気】を扱っていた人らなんかは性能が落ちたわけでも無かったらしいし、それと似たモノなんだろう。
世界樹の『捻れ』は魔法世界を集束する為のエネルギーの収集、明確には存在性と呼ばれるモノの収納に近いとか説明を受けた。
それに伴って『世界』そのものが十数平米くらい狭くなっているとかなんとか……まあ、実際に誰かが観測したわけでもなさそうだし、聞かなかったことにしておこう。うん。
ともかく、元からあったと烏丸とイリシャさんが云う、世界樹の下にある異界への通用口、正しくは【産道】とか言っていたが、それをぐいっと引き伸ばして距離を稼ぐためにも、造物主という影響力が有り余った擬似神性存在の欠片を犠牲として使い潰すことで儀式の擁立を促した、……らしい。
私にもよくわからん。言っていた説明をそのまま云っただけだから、詳しくはそっちに聞いてくれ。
そうして引き伸ばした産道、今では【行路】と烏丸が呼ぶ、『断続性多重層型連結世界』?とかいうモノをぶち込んで、其処に魔法世界の面子を転送させていた。
件の【産道】に直接魔法界ぶち込むわけにいかなかったのか?と、妙に手間のかかる遠回りな仕込みに疑問をぶつけてみたが、それだと『その先』にある次元位相と宇宙法則の完全に異なる【世界】の影響に引っ張られて人間が人間としての形を保てなくなる、という非常に顔の引き攣る説明を充てられてしまう。何それ怖い。
結局それ何なのか、とみんなが問う処、「あー、アレだよ、アレ、ダンジョンの達人」「「「「「何度だって遊べるドン?」」」」」「そう、それのモード鬼」と、烏丸・神楽坂・綾瀬・桜咲・マクダウェル・ネギ坊主以外にはわけのわからない答えが。……ゲーセンのリズムゲームか?
ダンジョンと訊いて胡乱な目を向けられていた烏丸だったが、正確にはその『モード鬼』とかいう奴が件の断続性なんちゃらだったらしく「掻い摘んで説明すると人間が存在できるレベルの法則性を伴った多元宇宙の各星系の地球と似たそれぞれの世界を、またその世界間に存在する【行路】がダンジョンの形で繋がって維持している世界間突破型なんだよ。全体像が膨大だから流石に俺でも一挙には攻略しきれてない。今でもアバターを放り投げて攻略の途中だ」とか。
そんなところに魔法世界人放り込むんじゃねぇ。全然掻い摘んでねぇしな。
序でに言うと、その【世界】もまたこっちでの『魔法』が使えない仕様らしく、益々放り込まれた奴らが危ういことに学園長その他の顔が青くなる。
そっちはそっちで法則性の違う魔法が主流らしいが、尚更いきなり放り込まれた奴らの生存確率が惜しまれる。
魔術は如何なく効果を発揮したらしいが、……あれ、烏丸そんなの使えたっけ。
私のその疑問に応えは無く、代わりに「その世界間のみで輪廻は完結しているらしくてな、一応転送先を定めておいたから基本的には現地住民との齟齬は起こらない。ただ、それも転送される奴らの【魂の位階】が左右する。正確に言うと、業の深い奴らは下層へと落ち込む」。
……地獄とか、そんな感じ?
そんな感想が出たのも仕方のないことだと思う。
事実、現地住民らはある一定の世界で交流や戦争を執り行っているらしく、より上層を探索するほどに住民の数は減少傾向にあるのだとか。
烏丸はその頂点地域に転送先を定めて置いたらしいが、転送される奴らの人間性にまでは口出しできず、世界の法則に則って『人間性的にアレ』な奴らは中層どころかもっと下層の方へと一直線らしい。
元老院とか、その辺の奴らかなー……。
ちなみに最下層は人よりも人を喰う怪物らの方がずっと活き活きとしている世界らしく、それこそ古典系ファンタジーの王道を飾るゴブリンやオーガやオークやマンティコアやキマイラやバピルサグなんかが蔓延っているとか。ドラゴンなんかもいるらしい。魔法世界の龍樹とかいうのよりも、ずっとデカくて硬くて速くて凶暴で食欲旺盛な奴がゴロゴロと。絶対に逝きたくない世界だな。
というか、そんな世界をそもそも烏丸が造ったのか、という点が一番の衝撃な気がするのは私だけか。
青い狸の銀河創生セットでも備えているのかしら、と後日個人的に訊いてみたが、明確には『自分のダンジョン』を造る際に下方位階開拓という極少領域発掘作業中に見つけてしまった『既にあった世界』であったとか。
そうだよな。そんなぽんぽん異世界造れていたら、烏丸が造物主と同レベルの超人になっちまう。魔法使いの始祖的扱いに達するのも、誰としても本意では無いはずだ。
と、飽く迄軽い意見で頷いてみた処、「むしろ造物主がの●太」という容赦のない意見で切り返される。烏丸の中では造物主に対するイメージが非常に悪い気がする。
転送された奴らもまた、大体が虐殺によってリライトされた人たちだった。
それらが集められてよく暴動が起きなかったなと思ったが、そういう奴らは『死んだ状態』のまま、情報だけを圧縮して件の頂点世界へと送り込まれていたらしい。
だからこそ世界法則には抗えないが、それ故に人間性の解析は楽に執り行われた。お蔭で龍宮や高音さんもすぐに回収できたけどよ。
そして、烏丸はその魔法世界人らを全部ひっくるめて、私らの世界とは断絶させるつもりでこの計画を立てていたらしい。
が、此処で私らという問題が起こる。
既に知り合っているエミリィさんなんかのアリアドネー御一行と、果たして二度と会わない事が出来るのか、という問題だ。
答えは否。
文化の交流が既に起こってしまった以上それを見過ごすには烏丸にも憚られたらしく、そういった点をキチンと見据えて『これから』に調整を入れようと手を加える以上、やはりアイツが魔法世界を滅ぼしたそもそもの理由にはどうしたって『人情的な理屈』が関わっているのだと覗えていた。
其処を問い質したところ、案外あっさりと、
『いや、だってこのままじゃ明日菜が人柱になって魔法世界を維持するために封印されるのは目に見えてるし。というか、それを易々見送れるほど俺はこの世界の有様に納得できてないんだよ。女子ひとりと引き換えにようやく生き残れる世界なんてのは滅んでも良いだろ』
と、妙に具体的過ぎる未来予測をばらしてくれた。
……なんでお前、そこまで明確に【正史】を語れたのかな。そもそも根拠は在るの?
続け様に問い質すと、
『まあ、読んだしなぁ。といっても、思い出したのは中等部に上がってからだけどさ』
やっぱりかよ……! つーか案外あっさりバラすね。気が抜けたか?
『いや、俺がそういう『前世の記憶』を持ってることくらい、一部は把握してるだろ。エヴァだって、俺が幼いながらに相応の自意識を持っていたことの説明を受けているし』
なんでそう明け透け過ぎるよオイ。
そう、やっぱりアイツは転生者だった。
この世界の大元となる『魔法先生ネギま』の原作をある程度把握していた、といういわゆる【上位存在】らしいのだが、……ぶっちゃけていいか? それにしては色々と迂闊過ぎないか?
私も並行世界を垣間見た体験を実感したから口出しできる身だが、先を知る漫画の世界へ降り立ったにしては私が『向こう』で接触した『転生者』とは何か異なってくる。
世の先とキャラの心情を把握できていると錯覚して足元を掬われた『オリ主』は割とよく見ていたし、逆に慎重に物語の主流を離れさせないようにストーリーを沿う『影響』を避けようという保身に走る奴だって居た。
烏丸の場合は、変に『ちぐはぐ』だ。
『先を知る』にしては現地を探り、『自己保身』の割には相応に働かせられる能が在るのに好き勝手に動く。
『強い奴』に初めからなっていたわけでも無いし、『物語』の陰に犠牲となって潰されたものの、それなり真っ当に生きている。
そして、
烏丸が魔法世界を滅ぼした理由は、第一に『神楽坂の為』だと見て間違いはない。
序でに言うと、【魔法使い】を無力化した理由には『マクダウェルの為』というモノも働いている。
大体の説明を終えて、魔法界のその先を集まった関係者各位に伝えた際、何でもない事のように説明したのだ。
「造物主の能力効果がアレの魔力素が主立った理由だとすると、エヴァもその内普通の女の子に戻れるよ」。
封印という箍から外れて自由になる『闇の福音』をどうするのか、と元魔法先生らに問い詰められた際の答えだ。
烏丸曰く、世界的に『魔力素』と呼ばれていた素粒子が正しい循環によって入れ替わることで、維持されていた『魔法』に連なる現象の性質が減少傾向に当る筈。計測結果はこの先正しく出せるはずだが、そもそも魔法を使えなくなっている魔法使いらがいるのだから、自分自身で似たモノを精製している烏丸以外は例外になる道理が無い。
……それを聞いて感極まったマクダウェルが烏丸に抱き着いたのはお約束だ。
結局、アイツは魔法世界に一番『被害』に遭っている自分の周りの『キャラクター』を、影響に左右されない左右しない『普通の女子中学生』へと変えたかったのだろう。
勿論、其の為にかかる手間はかなりあった筈だ。
いくら自分がこの世界で生きて逝かねばならないからと言って、特殊技能が使えども只の人間であるままの彼が、其の為に数多くの代償を支払ってまで片づけなくてはならない問題だ、というわけでもない。
今後烏丸は色んなモノに目を付けられるはずだ。
魔法界に関わっていながら、魔法を扱わずに世界の裏を跳梁跋扈していた魑魅魍魎なんてのが無駄にいる世界だ。
この先安全で平穏な人生が続くかどうかと問われれば、真っ先に困難を味わうのは烏丸が筆頭になってゆく。
それを、予測できていなかったはずは無い。
世界樹の縮小と図書館島の崩落、そしてそれに伴った世界樹を中心とした麻帆良学園の敷地の一部収縮。
そんなトンデモ現象を結果として顕わにし、夏休み中の生徒の目が少ない中での突貫工事で街並みを作り直し、認識阻害に頼らない『違和感の解消』を全て取っ払った麻帆良学園。
そんな街中にて、最後に烏丸と交わした言葉を思い起こす。
『――この先お前はどうするんだ? 一応は此れで全部問題解決だろ、原作終了、ってことで世界でも渡るのか?』
『次元突破は俺の領分じゃねーなー。下層に行くだけならなんとかなるけど、むしろ超リンの領分じゃね? というか、ようやく大まかなことが片付いたんだ。此処でハイさよなら、と行くこと程勿体無いことは無い』
『むしろ問題が浮上してきてる、って感じだけどな、お前の場合……』
異世界開拓した奴が云う話では無いと思われる。
結局、魔法世界の建築物や財産なんかは一掃されてしまったが、【命】は揃ってまるっと無事。下層へ落ち込んだ奴らも頂点領域に残っていた魂魄も纏めて実体化させて、それなりに交流が可能な上層域に領地を制定し
というか、烏丸本人の望みは其処に掛かっているのだろうか。
いくら転生者だからと言って、もしかしたら抱いていた筈の大元の『先行きをどうにかしたい』という願望を片付けた『その後』が無くては、達成以前まで抱いていた『やる気』も失われる可能性が高い。
人生のエンドロールを迎えるまで捨て身で生きる羽目になるのでは、といくら何でもニートは無いだろう、と自分の最終話その後が酷かった身としては若干の懸念が脳を過ぎる。
それとも、彼には何らかの人生設計でも備わっていたのだろうか。
『とりあえず進学。それで最終的に平和な家庭を作りたいから、癖のあるヒロインキャラに襲われない人脈を作る。これだけお膳立てしたんだし、明日菜もエヴァも、もう『普通の
『……。ハァ!? お、おっま、アレだけアイツらの為になる様な事やってのけた癖に、え、ハァァ!?』
なんかさらっと原作ヒロインディスられてんですけど!?
『いや、だって、俺アレだけキャラ強い娘たち相手だとさ、負けてばっかりじゃん……?』
『あ、それ自覚できてたんだな……』
『だからさ、平穏な日々を送る為にも、後顧の憂いは片づけておきたかったというか』
『お前それサバンナでも同じこと言えるの?』
烏丸の身体を狙う雌ライオンの群れを前にして、果たして彼は生きて逝けるのだろうか。
というか、その割にはマクダウェルの事とか、受け入れてるよな烏丸って。
神様特典っぽい
それであいつらを遠ざけることが、本当に出来ると思ってるのか……?
× × × × ×
そして休み明け。
いつもの元気な面子が集まった……にしては、妙に大人し気な空気が教室に漂う。
認識阻害の削れた影響下なのか、普段の能天気さが割と鳴りを潜めて、それなりに『年齢通りの女子学生たち』といった雰囲気がそこかしこで見受けられる。
唯一いつも通りに見えたのは、元から大人し目な一部の年齢詐称組(上位置換)くらいか。
龍宮とか、長瀬とか、那波さんとか。
「ん~、随分と小波に成りましたなぁ~。斬り甲斐センサーが働きまへんわぁ」
と、学中第一に物騒な月読が(普段比では)静かな教室内で、これまた物騒な科白を口遊む。
働かせんで良い、そんな物騒センサー。
「ちゅーかアレやな、麻帆良全体に活気が足りん。事故の所為か?」
読み手も忘れていたと思われるロリ巨乳代表・犬上小太郎が、公にした麻帆良の一部収縮に当る理由を諳んじる。
実のところ全てを発表するわけにもいかず、裏の世界に置いて色々と評価の下がった麻帆良がこれ以上馬鹿をやって本気で攻め滅ぼされるわけにもいかなかったことも相俟って、元魔法先生方はようやく『大人しくなる』という選択肢を執ることが出来るようになったらしい。
実際、麻帆良防衛、っていう理由の上で『生徒に』反撃用の技術提供をしたことに付いては、麻帆良を『襲撃に来なかった』者たちが普通に白い目で見ていたそうな。
其処で世界樹の事態をどのように解決するか、が今後の麻帆良の先行きを図る『物差し』として思案されており、学園長は『事故』と発表。その際提案された理屈が、『世界樹が元は学園内機関で制作した新しいエネルギー生成機構の人工物であり、稼働の失敗に伴って機能と実験の縮小をこの夏の間に実行。年単位で引き起こされていた断続的な発光はその副次作用であり、人体に影響こそないが事実を公表する以上今後は自粛する心積もりであるので、過剰な情報公開の提示要求などは学生の生活に配慮して互いに気を付けてゆきたい所存である』という【嘘】だ。
世間の納得を本当に得られるかというと不安が残るが、魔法界『以外』の『裏』も全部の事情を暴かれることも面倒だと理解しているらしいので、そちらがそれなりの情報規制に働きかけてくれるだろう。というのが記者会見までした学園長の内心だそうだ(by烏丸。
PTAなんかの一部も保護者として微妙に騒ぎ立てるような勢いを見せかけたが、雪広財閥なんかの大手から寄せられた「それでも麻帆良の生徒たちが伸び伸びと真っ当に育っている点は認めなくてはならない。麻帆良以外では言葉にするのも憚られるような生徒が存在することもまた事実であるし、そういう『保護者にとっての好ましくない事例』を生徒に顕わとしなかった以上認めるべきではないのか」という言葉のお蔭で、麻帆良の存続はなんとか許可が下りたとか。
ちなみに、件に挙げられた世界樹に関する嘘については、『尚、実験の成果は未だ完成とは云い難く、未熟なモノを公表することの危うさをご理解の上、各位追及は穏便に』と続けられている。
もうひとつちなみに烏丸曰く、「世界樹って循環器としては最上のモノなんだよね」。お前そんな理由で世界樹いっこ犠牲にしたの?
「事故、事故って言っていいのですか、アレ……」
「諦めなよ史伽、麻帆良だからしょーがないって」
現場に居合わせたらしい鳴滝妹が青い顔で声音も弱い。
対して姉の方は能天気なままだが、其処の差は何だろうな。
「いやー、凄かったよ! 竜巻みたいにぎゅんぎゅん吸い込んで世界樹がすっごい捻れてくの!」
「ぶ、物理法則仕事してたのソレ……!?」
同じく目の当たりにしていた、元魔法先生方の行動阻害をやっていた明石の説明に、驚愕を隠し得ないのは釘宮だ。
一緒に聞いている椎名は目をキラキラとさせているが、柿崎の方は半信半疑の様子。
明け透けな物言いに、共立って活躍していたと聞く大河内・和泉は控え目な微笑で否定とも肯定とも取れない反応をみせるだけで、佐々木は先ほどから廊下の方が気になって仕方がないらしい。
この差というのも、佐々木は例の【現象】の際、使い終わったアーティファクトを仕舞うときに世界樹へと一緒に呑み込まれてしまったらしい。
終わってから顕現させようとしても現れることは無く、逆に烏丸と仮契約していた三人娘のアーティファクトは事が全て終わっても健在。
その差は、烏丸の魔力(に似たモノ)が関わったか否か、という点らしい。
【仮契約】というシステムは消えても、カードとアーティファクトは烏丸との契約だけが残っている点から見ても、やはりそれが一番の理由だろう。
尚、神楽坂は自身のアーティファクトである『造物主の掟』は危険視される筆頭なのできっちり烏丸へ受け渡し、……てないらしい。いや、片付けさせてやれよ。アレか、目に見えて判る繋がりを失くしたくないか。乙女な理由だよねぇ神楽坂。やっぱりガン堕ちしてんじゃねーか。
「どうしようかこのか、そらとのハネムーン」
「あははーアスナー、気が早いえー。それにせっちゃんもまだ残っとるからなー、せっちゃんはまだ変身をみっつ残しとるんやで?」
「残してません。お願いですから烏丸さんに嫁がせるような計略だけは止めてくださいお嬢様……!」
桜咲が必死で涙目で懇願してるが、なんだろう、この先アイツの貞操が近衛の策で失われる未来が見える。
……幻覚だな、きっと。
そして思った通りに、魔法世界ひとつ壊滅させるほどの策略の総てが自身の為に、しかも見返りを求めてなかったことで神楽坂の中の烏丸の株が逝き付く処を知らねぇ。
2年時には冗談で言い合っていた婚約ネタが、この時になって伏線回収となっている不憫……! ……まあ、自業自得だな。安らかに眠れ、烏丸。
「うぉぉ……! 雌クセェ……! ラブ臭が芳醇過ぎてアタシのセンサーが焼き切れる……! 何があったのよ夏休み! アタシも原稿が遅れなければァァァァ!!!」
「いえ、碌でもない結果でしたよ? ネタ風に云うなら、嫌な事件だったね……、としか言い様がありません」
「ゆ、ゆえ~、私のカードがいつの間にか消えていたんだけど……」
「……ああ、大丈夫ですのどか。私ももう持ってません。ええ、魔法に関わるのはもう辞めましょう」
「どうしちゃったのゆえ……!?」
酷煩ぇ早乙女を切って捨てる綾瀬に、立ち位置が完全に反転してる綾瀬の言い分に驚愕を隠し得ない宮崎。
しかし、そんな綾瀬に待ったをかけるのは、
「いいえユエさん、貴女には才能があるのです! いつかあの世界の向こうにあるセブンシープ家を再興させるためにも、踏破すべき666の迷宮を突破するべくわたくしに力を……!」
「私からもお願いしますユエさん。お嬢様のご家族を探すためにも、是非」
「力を貸してよユエっ!」
「お黙んなさい、ナイトメア通り越してルナティックな案件に進もうとするほど酔狂にはなれないのです。所詮私は本の虫、こんな私は朽ちた図書館島の片隅でひっそりと生きて逝くのがお似合いです」
「「卑屈になり過ぎだよユエ!?」」
コレットさんと宮崎の科白が見事にはもった。
というか綾瀬、ホント卑屈になり過ぎだし、図書館島は閉鎖されて侵入も不可能だそうだぜ?
尚、魔法世界人であるはずのエミリィさんやコレットさん、そしてベアトリクスさんが一緒に居る理由は『転校生』として先駆けての入室だったりする。
ベアトリクスさんはともかく、他のふたりはこっちじゃ存在し得ないのでは、という意見に関しては『大体烏丸が色々やった』で割と片が付く。
しかし、元魔法世界人である三人がこの場に居る理由としては、やはり『向こうの世界』に辿り着けなかった所為、としか言い様が無かった。
色々と見た目に関しての問題もあったが、『ちょっと人と違う中二病を患ってる娘』で片が付くくらい、この世界は何気に
……まあ、人型ロボットが意外に其処らに居座ってる世界でもあるしな。
「お久しぶりです、千雨さん」
「……絡繰?」
話題に出したわけでも無いのに、人型ロボット麻帆良筆頭・絡繰茶々丸が静かに挨拶を。
……あれ、コイツなんで此処にいるの?
「お前なんで居るの」
「酷いですね。イジメ良くないですよ、ちうさん」
「ちう云うな。そーじゃなくて、お前とマクダウェルは男子部に出向中じゃなかったっけ? あと、魔力が無いのにどうやって動いてんだお前」
聞きたいのはむしろ後半だったりするのだが。
「その点に関してはワタシがするネ」
「超」
そしてコイツこそ普通に動いていていいのか。
何気に見て来た未来軸では、件の世界中の裏組織に狙われていた程度の苦労人だった筈なのだが。
今回も、てっきり私らの知らないところで何某かの苦労を背負ってきたのでは、と思ってた。
「ナニね。妙に優しい目をされてるヨ……!?」
「まあ、気にするな。で、コイツどうやって動いてるんだ?」
「ムウ、まあイイか。そもそも烏丸サンが循環を促しタ魔力素というモノは――」
長くなったので要約。
超が語るに、魔力素そのものは消失傾向にあるが、それが星の進化に連れ立って来た所為で生存と存在の為に生物に必要不可欠な要素の一つとしての側面も担っていた。実際、【原作史】じゃあ最終巻辺りで『実は重要なモノ』ってネギ先生が説明していたしな。しかし、明確に取り扱える者たち、つまりは魔法使いがその活用技術を独占していたお蔭で、素粒子としての魔力を解析することは不可能であった。
結局依り明白に元素の有り様を解析することは不可能に終わったが、消失した元素一つで生物の生き死にを楽に左右されるようではこの世の【存在】が余りにも脆弱としか見られないことになる。
だからこそ、逆説的に生物が未だに存在し続けられている理由には、魔力素に代わる『同質の何某か』が魔法使いに扱えない形で世界を循環する形へと変貌を果たしたのではないか。というのが超の意見だった。
事実、烏丸は『似た何か』を自ら精製するし、それを扱って【魔法】に『似たこと』を執り行えている。
実にしっくりくる説明だが……、烏丸、此れ予想以上に先行きが不安になるんじゃねーのか……?
実験動物だけにはされないように、祈っててやるよ……。
「烏丸さんノ、正確にはイリシャさんノ解析結果ダと、造物主を筆頭としテ魔法使いが遺しタ世界中の【魔法】の痕跡は事実減少傾向にあるらしいネ。『魔法で齎された結果』が『どの辺りにまで』行き届いてイタのかを魔法使いが把握しテいない所為で結果の観測が遅れてオルのだが、恐らくは世界樹のアレが引き起こされタ日には一括して大気中魔力素の回収は修了してイルと見て間違いないネ」
「元来、魔法使いは大気中の魔力を自身に循環させて使用する、と把握していました。それと対比するように、【気】は自身の中から生み出されるエネルギーだ、とも。実際の処、その両方が人に予め備えられている力ならば、反発し合うことも無く混じるのが正解です。咸卦法はその『反発』を使ったリニアモーターのような使用法だ、と此れは烏丸さんからの補足ですが」
「相変わらず一言余計な説明を付け加えてくるな、しかも遠隔的に」
「マ、実際麻帆良武道会では烏丸さんガ正規とは違う方法で咸卦法を成功させていたシ、その説に異論は無いネ。そして魔力素に似た何かを【循環】させテ、未だ魔法効果の残るモノを回帰させてイルのが今の世界樹の真相ヨ。本当に無駄なく使い潰すつもりミタイネ……」
「生存と存在の話どこ行った」
「大丈夫でしょう。マスターも、あの通り【普通の女子】としてご健在ですし」
ま、大丈夫か。
実際、アクロバティック魔法世界制圧を果たしたキャラだし、私が心配するだけ無駄だな。
神楽坂の会話にもマクダウェルが加わっているみたいだし、対岸の火事として観戦に臨ませてもらうぜ。
「ハッハッハ! 神楽坂、貴様程度が今更本気になったところで私とそらの絆に勝てると思ってるのか!? 片腹痛いな!」
「……だ、だって、あんな全部私の将来の為に動いていた、なんてこと知っちゃったら、惚れないわけないじゃない……」
「……おい其処はもうちょっと気を張れよ。私がこうして煽ってるんだからツンデレっぽい空気出してくれよ」
真っ赤になって俯く神楽坂に、困惑するマクダウェルの姿が其処に。
やっぱり神楽坂がメインヒロイン。はっきりわかんだね。
つうか、事が終わってようやく神楽坂は烏丸に対する自分の未練を自覚できた、というのが正解のようだ。
その結果で神楽坂だけでなくマクダウェル、その他諸々も問題を片付ける方向へと収束していった手腕に関してはもう言葉も無いが……。
ま、本当に『世界を救う』とか豪語するんなら、細かい処をキチンと片付けることは前提過ぎる話だよな。
『世界』って言葉にはざっと意味合いを思案するだけでも、漠然とした全てを大雑把に見て把握した気になってる奴と、それぞれひとりひとりの人生を世界としてきっちり見做す奴、ちょっと挙げただけでも最低でも二通り私の目でも見て判るんだし。
「……で、男子部に行ってたはずのお前らが、なんで此処に?」
「はい。まあ学園長の指示ですが」
思考が逸れたし、別に誰の事を云うつもりも無いのでその程度で適当にカット。
あちらの事情を睥睨しつつ、何でもない事のように茶々丸と語る。
うん、やっぱコイツを呼ぶのは『絡繰』って苗字よりも名前呼びの方がしっくりくるわ。
「認識阻害を使えなくなりましたので、情報操作も難しくなりました。また麻帆良の情報公開も外より提示されていますので、『闇の福音』を公に晒すことになる扱いは控えるように、と。要するに、『共学に向けてのテストケース』という形でも、顕わとしておくわけにいかなくなりました。もっと言うなら、魔法先生方もマスターの我が侭に付き合っていられる余裕がなくなって来たので、今学期より女子部へと出戻らせられたという次第です」
「……それで云うならウチの方がずっとヤバくね?」
情報公開提示されてんのかよ。
うちのクラス、『子供先生』だぞ?
副担任だが。
「その点については御心配なさらず」
『あ、マスター』
と、私らの会話に紛れ込んでくる、少々幼さが残りはするが童顔という言い訳が通用しそうな、普通に見て女子高生くらいのスーツ姿の少女が。
スマホから消えない小娘が口遊むことで面影も判るが……6号?
「ネギ先生という麻帆良最大のスキャンダルのカモフラージュとして、私が新担任に着任しました。この形ならば『容姿が』『子供っぽい』『先生』として名を通せるはずです」
「え。その形はどうした。なんか成長してね?」
「そらさんがひとばんでやってくれました」
つうか、お前は御兄弟と一緒に『あっちの世界』へ行ったと思っていたのだけど。
……最後に組織裏切った形だから、居づらいとかそんな理由かね……?
「そして新学期早々、高畑先生は出張です。もっと明確には、世界中をアイサツ廻る学園長のお守り役です」
ああ……。
学園長も魔法使えなくなったから、護衛が必要ってことか。
ひとり納得していると、6号はそのまま
「このたび新副担任として着任することとなったイレヴン・アーウェルンクスです。解任されたネギ先生の替わり以上を務める所存ですので、どうぞ皆さん宜しく」
クール系キャラが増えたら茶々丸の陰も薄くなる懸念は兎も角、ちょっと見過ごせない事口にしなかったかコイツ……?
「あ、あの、ネギ先生が懐妊、と聴こえましたけど、冗談ですわよね……?」
一番に気が動転している雪広が挙手。
気の所為か、『かいにん』という言葉が若干ニュアンス違う気がする。気の所為か。
「冗談では無くマジです。ネギ・スプリングフィールド先生は夏休みの間に探していた家族とようやく再会し、ウェールズへと帰郷しそのまま教師の仕事も辞めるそうです」
「なん、ですって……!?」
そか。
まあ止める道理も無い、イイハナシダナー。
其処に至る理由の諸々には、そもそも子供が中学生のしかも受験生の担任やってるとか、っていう物語の根幹を揺るがす問題点をこれから麻帆良が提示しなくてはならない以上、判り易いネックを晒すわけにいかなくなった学園側の意見でもあるのだろう。
それ以外にも、この夏に極限まで下降したガキに対する好感度とか期待値とか友好度とか、そういった部分の解消が不可避になっているから逃げたかったとか、そんな理由がありそうだが気の所為かもしれんし。
実際愕然としてるのが雪広・佐々木・宮崎くらいで、他の生徒は比較的『仕方ない事』と割り切られる節がある。
仮契約をしている綾瀬も後者側だという点については、……うん。
実際、イレヴンが言葉にした通りの事情も相俟っているのだから良い話なのだ。
それとも、親子三人が出国したのを学園長も追って突然の出張に繋がっているのかねぇ。
どちらにしろ云えることは一つだ。魔法先生ネギま、完ッ!
「それでは早速ですが、このクラス他クラスと比べて内容が大幅に遅れているので授業を始めましょう。といっても休み惚けが抜けきれない方の為に触りだけ。『ワイバーン退治のコツと竜が齎す経済効果について』――」
「先生、のっけから内容が学生の本分を超過してます」
やや思考回路がショート寸前な我がクラスメイトの反応が大人し目だったので、思わずツッコミの手を入れる。
かっ、勘違いすんなよっ、物事に流されたままじゃ結局碌でもない処にしか逝きつかない、ってことをこの夏で学んだから口出しするんだからなっ。
今日だけなんだからなっ!
~イリシャ・リーバス(偽名)
【
容姿は黒髪の映える丸眼鏡をかけたスタイルの良い美人。しかし彼女が【魔女】になった経緯は、二世紀半ほど昔に彼女の師匠に当る人物の
~666層ダンジョン
世界の壁(物理)。古城・樹海・砂漠・火山・氷河そして農場エリアを突破してようやく入れるダンジョンの入り口、其処に烏丸が制作した『ダンジョンの達人』の
~6と6を重ねて11
一体何ヘキサクス会長なんだ…?
~ワイバーン退治のコツと竜が齎す経済効果
最近お気にの『竜と配達人』より抜粋
何気に嫌いじゃないのだわ、ミスター味っ子・幕末篇
~烏丸ゲス野郎説の片鱗が此処に
まあ、ネギマジ読んでみたら自分のいる状況受け入れる度量にもよるけど逃げにも走るよね、っていう烏丸の心情
ちなみに彼の転生特典は未だ不明な上、前世の記憶も備わってない烏丸なのでちうたんの予測は所々外れてズレています。悪しからず
此処から半年かけて某Rスレッドへ移行するわけですね…(ステマ
前作から拡げ切っていた大風呂敷をようやく畳んだ気分
完結では無いのじゃ。まだもうちょびっとだけ続くんじゃよ(丸亀