千雨は凡人(ただ)の女子中学生です   作:おーり

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キングクリムゾンがデフォルトだって言ってるじゃないですかー


ネギ少年、激突す

 

 

 「――ぅおおおおおおおおおおッッッ!!」

 

 

 雄叫びを上げつつ、少年はこちらへと接敵する。

 光と化したその状態は、本来の【現象としての】顕現であるならばまさに『光速』を体現し得るのであろうが、【魔法として】の光系統の術式は実は其処までの速度が出ない。

 使い手の指向性に則ってその機動性を維持している為に、使い手が【光速で思考する】ことが出来ない限りは、単純な捕縛術式程度の効能しか見出せないのである。

 それが光系統呪文の使用率が低いそもそもの理由であり、事実それと同化した彼もまた、自らの肉体が散逸することを防ぐ方向へしか術式の維持は傾けられておらず、再生力はあるが機動力は皆無な彼が駆けてくる姿からも、拳闘にて見遣った時点から成長していないことをも把握する。

 若い、そして実に未熟な彼を、こうまで奮い立たせるのは一体何なのだろうか。

 

 

 「確かに、キミのその完全光化呪文は『個人が生きるため』ならば脅威と呼べる。だが、何故だ? 何故キミは其処まで戦おうとする?」

 

 

 場所は墓守り人の祭壇前。

 敵対した彼ならば、きっと来るのだろうと思っていたが、予想よりずっと早くに侵入してきたことには暗い歓喜も覚えたほどだ。

 

 カラスマの協力により『完全なる世界』の目的達成は既に目前。

 稼働前に準備の全てを終えて置くという選択により、初動でオスティアに集まった戦力のほとんどを作戦開始【以前の段階】で削除完了するという快挙を成し遂げることに成功した。

 その総ての『上手く行った事態進行』に僅かに寂寥を覚えたのは、ボクがボクであるが故の、テルティウム(フェイト)として生きたが故の、造物主(ライフメイカー)が言う処の『謹製』成りに得た経験則からなる【感傷】なのかもしれない。

 即ち、このまま終わっても完全とは程遠い、という仕事の『粗』を削って往こうとする志向。計画の完遂を追い求め、尚も精練を極めんとする目標への高水準化だ。それは人形故に刷り込まれた本能に近しい。

 それを理解した時、ボクは確かに迫りくる小さな敵に歓喜したのだ。

 それが実にほの暗い感情であっても、ボクは彼へと期待した。

 ――この暇を潰させてくれるのか、と。

 

 

 「それでも、守りたい世界があるんだぁーーーーッ!!!」

 

 

 ネギ君は石化効果を伴う万象貫く黒杭の円環(キルクルス・ピーロールム・ニグロールム)をも物ともせず、自らを再生させながら前へと進む。

 なるほど、此れもまた幼い誇りを顕す意志か。

 代償が激しいと噂に名高い闇の魔法(マギア・エレベア)を惜しげも無く使ってまで突き進もうというその姿勢、実に面白い。

 

 

 「ならば、戦ってあげるよ。何、総てが終わるまでの僅かな暇つぶしさ」

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ネギ先生が盛大な囮として前面へ出てくれたのを見計らい、私たちは戦線を移動させた2人を尻目にこっそりと祭壇前まで顔を出す。

 フェイトが姿を消した其処を守る者は1人も居らず、造物主の掟(コード・オブ・ライフメイカー)と思しきデカい鍵状の杖を携えた烏丸が唯一、球状の星時計みたいな円環の中心に意識なく浮かんでいた。

 それ、原作神楽坂の役目じゃねーの?

 

 戦力も情報も不充分な私らは本来ならばいきなりこうしてラストダンジョンへと乗り込むような真似をするはずがない、と『完全なる世界(あちらさんら)』は想定している筈だ。

 でも目標を達成するためのキーカードとして、6号(セクストゥム)がこちら側へと寝返った。

 お蔭でその辺の細やかな調整や詰め直しや戦力の確保または実力を上げるための修行編なんかを挟むこともなく、見事なまでのショートカットは私らをこうして墓守り人の宮殿の最奥にまで至らせてくれたわけだ。

 件の6号は黒ローブ中ボスのデュナミスその他を足止めするための別行動中で、その隙をついて烏丸を解放する役割を私らが担ったというのが真相だ。

 

 ……が、そこで何故か待機していたフェイト(三郎)

 それに戦力を割くために、ネギ先生を突貫させたのは言うまでもない。

 誰だってそーする。私だってそーする。

 その時「ゲェッ、フェイト(サブロー)!?」と、関羽張りに銅鑼の音が鳴ったのは幻聴だと思いたい。

 可笑しいなぁ、6号の話じゃフェイト(三郎)からクゥィントゥム(五郎)のお兄ちゃんズは各地へのリライト作業に散り散りとなっていて3日は帰らないはずだ、って言っていたんだけど。

 原作(物語)の修正力が働いたか、それとも三郎だけがなんらかの予感でも抱いて其処を張っていたか……。

 此処でクゥァルトゥム(四郎)クゥィントゥム(五郎)までも待機していたら確実に6号の張った罠だったろうけど、ああしてサブローだけが居たってことはイレギュラーな事態と判断し、私らはあらかじめ決めていた予定を消化することとした。

 ネギ先生の役割は時間稼ぎで囮で、別に勝って貰わなくても問題は無いんだし。

 どうせこれも烏丸の所為なんだろ? はいはい、(大体)(烏丸の)(所為)(大体)(烏丸の)(所為)

 

 

 「……これ、私の役割だったような気がする」

 「ナニ言ってるんですか明日菜さん」

 

 

 想定が鋭い神楽坂の推理に、桜咲が胡乱な目でツッコミを入れた。

 ちなみに囮として前線へと赴いたネギ先生の心配は割と誰もしておらず、先生が自分が前へと出ることを進み出た時にも、ダチョウ倶●部張りにどーぞどーぞ、と押し遣っていた。

 というのも、初めにネギ先生が今回の魔法界救出を諦めた所為でもあるんだが。

 

 6号が選択肢を提示した其処へ、ネギ先生は麻帆良へ帰宅することを選択して大バッシングを受けた。

 私らみたいな女子中学生を牽引している教師という立場なのだから、私たちの安全を第一に考えることは間違っていない。

 しかしそれならば、もっと前の段階でそれを提示しておくべきであるし、彼の今回の旅行での要所へ張り巡らされた選択肢の数々をそもそも【間違えていた】のもネギ先生だ。

 此処で私たちの安全を第一に考えた、と口にしたとしても、そういう段階はとっくに過ぎている。

 神楽坂が被害に遭った仲間たちを助けられる手段を挙げているのに、それを危険だからと取って付けたような理由で今更封殺されたところで、納得できるほど私らは大人では無かった、ということだろう。

 ……まあそれ以外にも、あのネギ坊主が帰宅を選択したそもそもの前提の部分に、実力不足云々以上に【原作程の精神的成長】を見せていない為の『甘え』が透けて見えていた、っていう理由があるんだが。

 そう、漫画原作三巻ほどでエヴァンジェリン相手に逃亡した時点から「コイツ成長して無くね?」という感想が湧いてくる感じで。

 そんな子供としては当然だが、この場に来てまで逃げて済ませようという小賢しい前提が働いている時点で、その提案を受け入れるほどの【信用】が、ネギ坊主には足りていなかったってところだな。

 ……いや、私も頭では危険さを理解してるけどな。

 それでも、見過ごせないのだから仕方がない。

 やっぱ目の前で龍宮がリライトされたのは、普通に感情として許せなかったみたいだ。

 

 

 「――よし、起こすぞ。この寝坊助をなっ!」

 「「「「「「はいっ!!」」」」」」「「うんっ!!」」

 

 「………………なんでアタシまで一緒に連れてこられちゃってるのかなぁ……!? ココネー……へるぷー……」

 

 

 許せ春日。

 大事な逃走手段なんだよ、お前は。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 「……気は済んだかい、キミたち」

 

 

 原作宜しく円陣組んで周りから呼びかけたり、円環の中心で佇んでいる烏丸の手元に何故か神楽坂のアーティファクトらしき巨大な鍵があることを確認したり、神楽坂のアーティファクトをむしろそこへ差し込めないかと四苦八苦したりと30分ほど経過したところで、背後から声をかけられる。

 四肢を石化されて身動きできなくなったネギ先生を引き摺って、フェイト・アーウェルンクスが呆れたような表情をしていた(無表情。

 ……世の中はこんなはずじゃなかったことばかりだよっ!

 ……いや、冷静に考えたらホント全部が全部上手く行く、っていう話自体がそもそも少ないのだけどな。

 

 

 「カラスマを今起こされては計画が頓挫してしまうのでね。済まないが、術式を維持している彼を其処から解放するのはもう少し待ってもらいたい。総てが終われば、キチンと解放するよ」

 

 

 あれ? コイツ紳士じゃね?

 なんちゃって英国紳士坊主よりずっと真摯な対応をされて、というか、実力の時点で歯向かえそうにも無い相手に冷静に諭されて、臨戦態勢を取ろうとしていた魔法使い組(脳筋)(一部除く)も蹈鞴を踏む。

 唯一一部除かれた綾瀬が、前へ出てフェイトへと質問をした。

 

 

 「……私たちを拘束しないのですか?」

 

 

 うん、それだよそれ。

 私らと対峙したところで、フェイトは其処から手を出そうともしていない。

 私らが四苦八苦していた時点で、既に隙だらけだったろうに無事なのがその証拠だ。

 

 

 「攻撃するのなら迎撃するし、現実世界へ逃げるのならば追う気はない。彼だって、光化が解けた時点で待ったをかけるくらいだからね。本当に何処まで本気なのか、見通せなくなるところだったよ」

 

 

 おいこらネギ坊主。

 どうやらネギ先生が先立って命乞いしたお蔭で、私らは見逃されているらしい。

 というか、傍観されていた節もあるということは烏丸を回帰させる手段も出来やしないと高を括られていたか、いや、そもそもなんにも通用しないと初めから見通されていたような感じだ。

 ホント用意周到だぞこの『完全なる世界』。

 【悲報】敵組織がガチ【逃げ場無し】、ってテロップが先に立つな。

 

 

 「さて、コーヒーと紅茶、どっちにする?」

 「……えっ、本気?」

 

 

 オモテナシ精神を外国人に発揮された。

 いや、フェイトは何処の国籍を持っているのかよく知らんが。

 何に使うのかとずっと疑問だった円環外周部に備え付けられていたイスとテーブルの本来の役割を知って、困惑の声を上げる私である。

 

 

 「紅茶はレモンとミルクも用意しよう。コーヒーもキチンとシュガーが備えられている。お茶請けは何が良いかな」

 「……ではレモンティーをお願いするです」

 「ユエさん!?」

 

 

 驚愕の声を上げたのは第二の脱げ女と原作ではもっぱらの噂のエミリィさん。

 今更だが、この時点で生き残っている筈の無い彼女が一緒に同行してる、っていうのが何故か違和感が無かった。

 

 

 「今のこの状態から戦えるとは到底思えません、相手は英雄(ラカンさん)を一手で倒せる手段も持ってますし、『普通の魔法使い』でしかない私たちが逃げられるとも思えません。こういう時こそ余裕を持って、淑女ならば難しくは無いですよね、委員長?」

 「む……っ」

 

 

 綾瀬は見事に冷静に時世を読み切った。

 戦闘も逃走も、この時点では選択肢にすら無い。

 そもそも、例えばリライトをこの場で使われて一番困るのは命を晒されている私たちだし、魔法世界人であるエミリィさんやコレットさんなんかにも手加減をする必要はあっちには無いはずなのだ。

 むざむざと消されるよりかは、自身を律せる立場に自分を置きたい。

 そういう理性的な側面が働いた、とも云える。

 ……なんか、今から【遺言遺す】みたいな雰囲気なのが普通にヤだけどな。

 

 

 「無論ですわっ。それならば(ワタクシ)旧世界ニホン式のお茶を戴いてみたいところですわねっ! そう、ブブヅーケなるモノでもっ!」

 

 

 うん、エミリィさん。それなんか違う。

 

 場の空気が和んだ、とはとても言えないが、渋々と席へ着く私たちの最後に、神楽坂が躊躇していた。

 「日本茶……あったかな」と急須とごはんを取り出しているフェイトが、それに気づいて声を投げる。

 

 

 「どうしたのかなお姫様。キミのお仲間たちは、皆話を聞くつもりみたいだけど?」

 「……質問があるんだけど」

 

 

 烏丸の方を、敢えて視線に入れないような仕草で。

 神楽坂は視線が定まらないままに、疑問符を浮かべる。

 

 

 「そらは、どうやってあんたたちの『魔法世界強制書き換え術式(リライト)』を維持しているの? アタシの手元には、今も『造物主の掟(コード・オブ・ライフメイカー)』があるっていうのに……」

 

 

 ……神楽坂は、ひょっとして記憶を取り戻してんのか?

 なんか、妙に冷静な部分が生きていて、麻帆良に居た時の呑気なJCだった面影が薄いのだが。

 そんな私の疑問には気づきもせず、フェイトは歓談に応じるような雰囲気で返事を返す。

 

 

 「……【其れ】がお姫様の手元に“ある”という時点で普通に異常なのだけどね。彼に関しては、ボクらもよくは把握していないんだ。『リライトを再現できる』と云うから手を貸してもらったので、その原理は……確か、【換喩】がどうの、と言っていたような……」

 

 

 ――【換喩遣い(スタイル)】?

 あれ、この世界はいつからめだかボックスに……。

 

 麻帆良武闘会でも覚えた頭痛に頭を抱えたくなる衝動を堪えていると、意を決した神楽坂がフェイトをキッと見据えた。

 

 

 「そらがアンタたちに手を貸した理由はナニ?」

 

 

 ……それ聞いちゃうのかよ? 割とこの世界線(物語)の核心じゃねぇか?

 いいの? 最終回に突っ切っちまうけど、いいの?

 

 

 「……それをキミが訊くのかい?」

 「――え?」

 

 

 今度は正真正銘、フェイトが呆れた声を上げた。

 神楽坂もその返事は予想外の意図が汲まれていたことに気づいたらしく、頓狂な顔で音を返す。

 

 まあなあ、普通に考えたら、間違いなく烏丸が手を貸してる理由なんてのは――、

 

 

 

 

 

 「――アーニャ・フレイムバスターキイィィィーーーーーーーーッック!!!!」

 

 

 

 

 

 ――めしり、とフェイトの顔面に幼女の足蹴がめり込んで、錐揉み回転させつつ歓談の場を引っ繰り返して逝った。

 炎を纏った赤毛の幼女は、宙をくるくるくるくると反動で回転し頽れたテーブルの頭上へとスタッと着地していた(擬人化表現)。

 そしてびしぃっ、と蹴飛ばしたフェイトを指さすと、呆気に取られた私らの視線何ぞ気にもせず、堂々と言い放っていた。

 

 

 「私が来たからにはもーう好き勝手はさせないわよ! 悪党!」

 

 「「「「「「「「「――どなた!?」」」」」」」」」

 

 

 半死半生のネギ先生と私を除き、余りの展開に驚愕通り越した9人のJCが咄嗟に出したのはそんな言葉であったという。

 ……そーいやぁ、初対面だったよな、私らとこの幼女……。

 つーか、なんで居る。

 

 




キャーアーニャチャーン!クンカクンカ

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